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23話目

自ら死亡フラグを建てていくスタイルのオズ兄。強く生きて←


フシロ団長は年の功と付き合いの長さで、何とかぎりぎりを攻めていくスタイル←


そして、とくに何も考えてない主人公。基本的に、主様大好き! で動いてます。

「ロコ、ロコ? 話、終わりましたが……」



 ぽやぽやした主様から肩を揺すられるぐらい嫌な予感に気を取られていた俺は、ハッとしてフシロ団長の方を窺う。

「ごめん、ボーッとしてた」

 俺の謝罪にフシロ団長は優しく笑って、気にするなとばかりに大きな手で俺の頭をポンポンと軽く叩く。

「俺の方こそ疲れてるのに悪かった。時間も時間だ。明日にすべきだったな」

「俺達に伝えようと急いできてくれたんだろ? フシロ団長だって疲れてるのに。本当にありがとな」

「何処まで聞いてた?」

「少し変わった女の子が、特例として冒険者になった、まで?」

 シパシパと瞬きしながら首を傾げ、記憶を辿って答えると、ふむ、とフシロ団長は顎髭を触って重々しく頷く。

「そこまで聞いてたなら、ジルヴァラは理解出来そうだが、特例の少女は八歳。ジルヴァラは六歳だ。さすがに幼過ぎると突っ込まれるだろう」

「だよなー」

 上げてから落とすのは止めて欲しいが、フシロ団長の言う通りなので、俺は肩を落としながら力無く相槌を打つ。

「ここで、面倒な知らせと幻日の名前が生きてくる」

 ニヤリと笑ったフシロ団長の言葉の意味が分からず、無言で首を傾げていると、今度は主様から頭を撫でられる。

「私がロコを責任持って面倒見ます」

 唐突な主様の野良猫でも拾ったノリの宣言に、俺がきょとんとしていると、フシロ団長がプッと小さく吹き出す。

「説明省き過ぎだ。まず面倒な知らせのお茶会だが、開催する人物はかなりの大物で冒険者贔屓だ。しかも、かなりの幻日様好きと来てる」

「つまり、その女の子がしたみたいに主様が俺の責任持つって言ってくれれば、その主様好きの大物さんから、冒険者ギルドへ口をきいてもらえるかもってことか?」

「そういうことだ。だから、面倒なお茶会だろうが、出席して損はないんだがなー」

 正解だ、と俺を誉めてくれたフシロ団長は、喋りながらちらちらと主様を見やっている。

 そう言えば、さっき主様、即答で欠席宣言してたな。

「……わかりました」

 とてもとても不服そうに頷いた主様は、ソファから立ち上がったかと思うと、俺の前へしゃがみ込んで何の前置きもなく俺の上着を捲る。

「え?」

「おい」

 首を傾げる俺、低く唸るような声で突っ込むフシロ団長。

「面倒見る、と……」

「冒険者としての面倒だ。狩りの仕方を教えたり、モンスターとの戦い方を教えたり、そういうのだ。というか、ジルヴァラは、生活面に関してはお前よりしっかりしてるだろ!」

 今のは着替えさせてくれるつもりだったのかと思いつつ、俺はフシロ団長から突っ込まれてぽやぽやしてる主様を横目に捲られた上着を元へ戻す。

 そこで自らの服の見すぼらしさに気付き、はた、と動きを止める。

 いや、メイナさんから貰った物だし、そこまで見すぼらしいというかボロい訳ではなく、きちんと洗濯もしてて綺麗だけど、これはあくまでも平民の子供が普段着るような物だ。冒険者ギルドの制度へ口出しして聞いてもらえるような大物開催のお茶会に出たらどう見ても場違いだろう。

 でも、服を買うような金もないし、そもそも生まれてこの方、この世界の金を見たことがないことに気付く。

「どうした、ジルヴァラ。百面相して」

「いや、そんなお茶会に着ていく服が無いって思ってさ。ついでに、金って見たことない」

 フシロ団長に答えながら俺は、ゲーム内では単位なんだったかな、と記憶を辿る。確か、

「えn「ほらこれがこの国、フラメントで使われてる通貨だ。銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順で価値が上がる。さすがに白金貨は持ち歩いてないから見せてやれなくて悪いな」ありがと……」

 思い出せたゲーム内の『エン』というまんまな単位を口にしかけた俺の呟きは、フシロ団長に遮られ、テーブルの上に乗せられた三枚の硬貨を見つめて、ほぼ反射で感謝の言葉を返す。

 素材が違うだけで、三枚はほとんど同じ大きさで、五百円玉より少し大きいぐらいだ。

「なんか、すぐ偽造されそう」

 日本で見慣れた硬貨とは違い、シンプル過ぎる見た目の硬貨は、誰でもすぐ真似出来そうだ。

「偽造なんてしても、魔法ですぐバレる上に、犯人はほぼ問答無用で死罪だ。やってもうま味がないから、やる奴はいないな」

「そうなんだ」

 そんな説明を聞きながら顔を近づけて並べられた硬貨を眺めていると、視界の端でモゾモゾしていた主様が俺の方へ拳を握って突き出してくる。

「な、なに?」

「ロコ、手を出してください」

 意味が分からないまま、俺は主様の方へ手相を見せるようにして右手を差し出す。

「白金貨です」

「へ?」

「は?」

 きょとんとする俺と同じタイミングで、フシロ団長も信じられない物を見たとばかりに目を見張って、俺の右手の上を見つめている。

 白金貨は、六歳児な俺の手にあるせいで大きく見えるが、サイズは他の硬貨より少し大きい程度だ。色はほとんど銀貨と変わらないが、なんか輝きが明らかに違う。

「しまっとけ」

 俺が固まっていると、やっと動き出したフシロ団長が俺の手から白金貨を取り上げ、主様へ押し付け返している。

 その後、自分の出したお金をしまったフシロ団長は、何も見てないと言わんばかりの表情してるので、俺もあれは見なかった事にしておく。

「ああそうだ、忘れてた。服のことなら心配しなくてもいい。うちの息子が着れなくなったお茶会用に作った服があるんだ。嫌じゃなければもらってくれるか?」

「いいのか? ありがと!」

 一気に心配事が片付きそうで、俺は安堵からへらっと笑って主様を見上げる。

「主様も、ありがとな」

 不思議そうに首を傾げてぽやぽやしてる主様を見てるとふわふわした気持ちが抑えられず、俺は勢いのまま主様の足へ抱きつく。

「嫌なのに、お茶会参加してくれるんだろ? ……だから、ありがと」

「いえ」

 少しだけ照れたようにぽやぽやする主様は新鮮で、俺は思わず見上げて見惚れてしまう。こっそり自意識過剰じゃなくて良かったと安心してたのは内緒だ。

 えへへと笑って主様を見上げてると、突然玄関の方から金属のベルのような音が鳴り響き、俺は主様の足からバッと離れて、警戒も露わに音の方へ顔を向ける。

 聞き慣れない音に警戒する俺に気付いたのか、豪快に笑ったフシロ団長がポンポンと俺の頭を撫でる。

「たぶん騎士の誰かだな。適当に夕飯を買ってこいと頼んでおいたんだ。ドリドルが、どうせあの方は用意してないでしょうから、と言って聞かなくてな」

 そう言って玄関の方へ消えたフシロ団長は、緊張した面持ちで両手に紙袋を抱えたオズ兄と戻って来た。

「こんばんは、ジル。……幻日様」

 オズ兄はかなり緊張してるのか、主様を呼ぶまでに妙な間があるし、表情も強張っている。

 本人も言ってたぐらいだから、主様は意外と怖がられてるのかもしれない。こんなぽやぽやしてる美人なのに不思議だ。

「こんばんは、オズ兄」

「…………どうも」

 どうやら相変わらず主様のオズ兄への警戒は解けてないらしい。

「どうした? これはうちの騎士見習いのオズワルドだ。怪しい奴じゃないぞ?」

 今度は主様があからさまに警戒している様子に、フシロ団長は驚きを隠さず主様の顔を見て、

「ドラゴン相手でもほとんど無警戒な奴をここまで警戒させるとは、オズワルドは大物になりそうだな」

と、冗談めかせて言うが、オズ兄は苦笑いして、主様はぽやぽやとスルーした。

「オズ兄、夕飯ありがと」

 どうしようもなくなった室内の空気を変えようと、俺は無邪気な幼児っぽく笑ってオズ兄へ駆け寄る。

「あ、あぁ、いや、オレはドリドル先生に頼まれただけだから」

「でも、買って届けてくれたのはオズ兄だろ? あ、もちろん、ドリドル先生にもありがとうって伝えてもらえるか?」

 へらっと笑ってオズ兄から大きな紙袋を一つ受け取ってテーブルへ置いてから、俺は思い切りオズ兄の足へ戯れて、オズ兄は安全アピールを全力でやっておく。

「ああ、わかったよ」

 もう一つの紙袋をテーブルに置いたオズ兄は、困ったような笑顔で頷いて、足で戯れていた俺をひょいと抱え上げてくれる。こういう事が自然に出来るオズ兄は、優しくていい人だと思うんだけど。

「軽いな、ジルは。たくさん食べて、早く大きくなれよ」

「……おう」

 ちょっとムッとなって、俺は幼児なんだから軽いのは当たり前だとか思ったのが返事に表れたのか、オズ兄からくく、と笑われる。

「ごめん、ジル。じゃ、オレは行くよ。……団長、幻日様、失礼します!」

 俺を降ろしたオズ兄は、ビシッと背筋を正してフシロ団長と主様へ挨拶して、颯爽と去っていった。

 その姿は見習いとは思えないほど凛々しく堂に入っていて、騎士に興味のない俺ですら、騎士って格好良いな、と思ってしまった。


「……オズワルド、わかっててやったんじゃないよな?」


 挨拶を受けたフシロ団長の方は、何故か顔を手で覆い、あちゃーと言わんばかりのリアクションで何事かブツブツ呟いて、主様の方を窺っている。

 窺われている主様本人は、いつも通りぽやぽやしてる。けれど、視線はオズ兄の去った方向から離れない。

「主様、フシロ団長、ご飯にしようぜ。俺、お腹空いた」

 これは待ってるといつまでも夕飯にありつけなさそうなので、俺はとりあえず無邪気な幼児のフリを続行して、お腹を擦りながらへらっと笑う。

「はい、ロコ」

 主様は俺へと視線を移すとコクリと頷き、すぐにソファへ移動してくれた。

「悪い悪い。……ちなみにだが、俺も一緒に食べてっていいよな?」

 おずおずと尋ねてくるフシロ団長に、俺はもちろん笑顔で大きく頷いたが、主様は何も言わずぽやぽや微笑んでいるだけだ。

「主様、いいよな?」

 主様の隣へ腰かけながら、微笑んでいる顔を下から見上げてお伺いをたてると、数秒の間の後、小さく頷いたのが見えた。




「かなり不服そうだな。少しは隠せ」




 どっこいしょ、とソファに腰かけ直したフシロ団長は何か呟いていたようだが、俺が聞き取れたのは、最初のどっこいしょだけだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m

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