221話目
感想ありがとうございます(。>﹏<。)
モブ騎士視点からの、うとうとジルヴァラ。
[とある一般騎士視点]
僕が犯人を引きずる手を止めたのは、平民出である僕も先輩として敬ってくれるオズワルドという後輩騎士が驚いた様子で屋根の上を見つめて固まっていたからだ。
サボりなんてもっての外な真面目でオズワルドにはしては珍しい行動に、僕は首を傾げながらオズワルドの視線を追う。
そこには先ほどと変わらずあの幻日様がこちらを見下ろしていらっしゃるだけだが……。
ふとその懐から見覚えのある子供の顔が覗いていることに気付いて納得する。
オズワルドはあの子のことを気にしてたのか、と愛らしい顔見知りの子供を見て僕がほっこりしながら犯人を引きずっていると、建物の中から元気の良すぎる声が聞こえてくる。
「……ねぇ! もっと丁寧に扱いなさいよ! というか、幻日様は何処なのよ!? あたしを助けに来てくれてるでしょ!」
思わずまた足を止めて振り返ると、すんっと無表情になった同僚が自称人質の少女の腕を掴んで建物から連れ出すところだった。
「あの方がただの子供一人のために動く訳がないだろう」
何度も同じことを繰り返し伝えているのか、引っ張りながら答えている同僚の声も表情並みに平坦だ。息継ぎすらせず一息で言い切っている。
「だぁかぁら! あたしが、幻日様が溺愛する子供なのよ!? 助けに来ない訳がないでしょ!?」
僕の他にも少女の声が聞こえた数人が、僕と同じようにこっそりと横目で屋根の上の幻日様を窺って、顔色を悪くしていく。
うん。見たことを後悔するようなゾッとする表情で少女を見下ろしているね。
アレが溺愛している対象へ向ける表情でないことは、普段から鈍感だと言われ続けている僕ですらわかる。
何だったら道端のゴミ……いや、壁に出来たシミへ向ける視線以下の温度しか感じられない。
確かに今のあの少女は、見た目が可愛らしいのだけが取り柄なのに、その取り柄の見た目はボロボロで目も当てられない。
捕まっていたので服装が多少薄汚れているのは仕方ないが、一番目を惹くのは、涙と鼻水とよだれらしき液体でテラテラと濡れて汚れきっているその可愛らしい顔だろう。
美少女の鼻水なら一部の特殊嗜好を持つ人間なら…………僕はどれだけ美少女でも嫌だけど。
幻日様も口を開いたら、
『汚物が喋るな』
ぐらいは飛び出してきそうな、そんな表情になってるし。
しかし、その表情は懐へ入れられている子供が何か話しかけたのか、あっという間に蕩けてしまう。
何故あの子供が幻日様の懐へ入れられているのかは謎だが、たぶんあそこが一番安全な場所だからだろう。
同僚の騎士達も、ほっこりしながらちらちらと子供の様子を窺っているようだったが、あまりに見過ぎたせいか幻日様の手が子供を懐へと押し戻して隠してしまう。
少しばかり残念に思いながら、僕は幻日様の魔法のおかげでえぐえぐ言うだけで無抵抗な犯人を護送用の場所まで引きずって運んでいく。
「お願いしまーす」
やる気のないと評されることの多い声を少しは張り上げて犯人を馬車の方へと転がすと、苦笑いした同僚騎士が受け取って荷台へ転がしてくれる。
扱いはかなり悪いが、犯罪者なので我慢してもらおう。
問題なのは、未だに喚いている人質らしき少女だ。
一応貴族のご令嬢らしいが、幼いせいか品位の欠片もない。この年齢なら仕方ないか。
一瞬、先程幻日様の懐へ仕舞われた子供の人懐こい笑顔が頭を過ったのは忘れることにする。
「あの子は、もっと小さいのに不快ではなかったのに……っと、つい口から本音が出ちゃったなぁ〜」
前言撤回で本音を洩らしてあははと笑う僕に、件の少女から突き刺すような視線が向けられる。
「なによ!? あたしの何処が不快なのよ!?」
人質ってなんだったっけ、と訊きたくなる勢いで件の少女が突っかかってくる。
一応少女を保護していた同僚騎士が止めるのを振り切っている。なかなかの身体能力だ。
「んー、ぜ・ん・ぶ?」
僕は近寄って来た少女の目をじっと見つめ、ニコッと笑って答えてあげる。
これでも僕『顔だけはいい』って言われることもあるし? 笑顔は人質へのサービスで付けといてあげないと。
「はぁ……っ!?」
そんな僕の心を知らず、僕を苛立たしげに睨む姿は元気そのものなので、心の傷的な心配はしなくて大丈夫そうで何よりだ。
それどころか、僕をキッと睨んで食ってかかる元気まであったとは、さすが(?)貴族令嬢だ。
「まさか、騎士まであの偽物のことを信じてるの!? あたしが本物の幻日様の溺愛する子供なのよ!?」
でも、さすがに……。
「君はー、まだ子供だし、被害者なんだから、ちょっと泣いたり叫んだりは気にしないよー? でもさぁ、さっきから喚いてるのはぜーんぜん、関係ないことでだよねぇ。怖くて混乱しててーって、なら僕でも優しくしてあげるよぉ? でもー、君のはただの……、
──我儘、だよねぇ?」
目に余るんだ。
「あ、ごめんねぇ。我儘じゃなかった」
「そう……っ!」
僕の発言に固まっていた少女は、僕がニコッと笑ってすぐ謝罪を口にすると即座に復活し……「ただの妄想と勘違いだったね。ごめん、ごめーん」……かけたのを笑顔で追撃して固まらせておく。
やっと大人しくなった少女に、少女を保護していた同僚からは少しばかりの感謝と……ため息混じりの苦笑いを向けられる。
別にいいじゃないか。
僕の腹黒を全く気にしないオズワルドと、そのオズワルドのお気に入りで、僕を怖がらない稀有な子供を少しばかり贔屓したって。
「どうして……っ……誰も信じてくれないのよ」
馬車へ乗せられ、迎えに来た青年の胸で悲劇の主人公のようにハラハラと泣き出した少女は、先ほどまでの絶叫ぶりが嘘のようだ。
だけど、その姿を横目で見ていた僕は見逃さなかった。
青年の胸元で汚れた顔を遠慮なく拭う少女の口元が、自らを心配する青年の声を受けてひっそりと笑みの形に変わったことを。
あーあ、幻日様の魔法で潰れ(狂え)ちゃえば楽だったのに、ね。
あの少女のためにも。
●
「ひとまず全て終わったぞ」
世界で一番安全であろう胸の中で微睡んでいた俺は、唐突に耳へ飛び込んで来た単語によって薄く目を開ける。
椅子か何かに腰かけた主様に抱かれる体勢で眠っていたらしいが、主様の抱き方が上手かったのか痛む所は特に無い。
薄目で周囲を窺うと、そこは俺のために用意されているフシロ団長宅の部屋のようだ。
あのまま自宅へ連行かと思ってたので、ちょっとびっくりした。
どうやら椅子に腰かけて、フシロ団長と話していたらしい。
「あいつは繋がっていた組織があんな形で壊滅したのを知って、投降してきた。素直に罪を認めれば命までとられないだろう、と算段した……といういか、執事が吹き込んだんだろう。だいぶ老齢だったが、食えないご老人だよ。幼い頃から可愛がっていた『坊っちゃん』を助けたいと思うなら、あそこまで愚行に走る前に止めてほしかったものだが……」
ほとんど内容は頭に入ってこないが、たぶんゲース副団長の話だろう。フシロ団長が何処か寂しそうな顔してる……気がする。
ぼんやりとした視界には、テーブルを挟んで座るフシロ団長と、間にあるテーブルの上に広げられた書類が見えている。
ついでに肩の上にいたテーミアスを探すが、ベッドにしている籠の中には見当たらない。けど、俺の胸元辺りの素肌にもふもふと温もりを感じるので、たぶんそこで寝ているのだろう。
俺に挨拶せず森へ帰る気はないらしい。律儀で男前な奴だ。
見た目はもふもふふわふわファンシーなのに。
「ぴゃ……ぁ……」
微かに聞こえる寝言を聞きながら、俺がまたうつらうつらしている間に、主様とフシロ団長の真面目なお話は進んでいく。
正確には喋ってるのはフシロ団長だけで、主様はたまに頷いたりするぐらいだけみたいだけど。
主様の視線が俺の方に向いてないのがちょっと寂しくて、愛らしいテーミアスを真似て甘えるように額を擦り寄せて、じっと主様を見上げてみる。
「ロコ、起きたんですか?」
主様はすぐに気付いてくれ、宝石色の瞳が俺の方を向いてとろりとした輝きを宿すのをぼーっと見惚れていると、伸びて来た手に猫の子でもあやすように顎を撫でられる。
「ふぁ……」
主様の優しい触れ方に、気の抜けた声を洩らすと主様がくすくすと笑うのが聞こえる。
「大丈夫。私がいますから、もう少し寝てなさい」
「ん」
まだ寝てなさいと頬へと伸びて来た主様の手にすりすりと頬擦りをして、俺は促されるままに目を閉じる。
寝る子は育つって言うし、ゲース副団長の行く末は俺が知らなくても良い話だ。
「……いや、そう思うなら離してベッドに寝かせてやれ」
そんな至極真っ当な突っ込みの声が聞こえた気もしたが。
いつもありがとうございますm(_ _)m
地震が落ち着いてきたと思ったら、今度は大雪です(*>_<*)
何て年始めでしょうねぇ。
ヒロインちゃん、サラッと主様の魔法の被害に遭ってました。つまりは──ねぇ。
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