220話目
新年となりましたが、本年もよろしくお願いいたします。
まずはあたたかいお言葉ありがとうございます。
ご心配おかけしましたが、とりあえず祖父の葬儀と父の手術は無事に終了いたしました。
息抜きも兼ねている作品なので、またちまちまと更新していきたいと思います。
改めまして、本年もよろしくお願いいたします。
ローブ内からの俺の突っ込みに返ってきたのは無言──からのさっきまでは聞こえなかった第三者の声だ。
「その魔法は悪意を持つ人間にしか効かず、悪意の大きさで苦しみが変わるからな。悪戯好きや多少の犯罪を犯した程度なら、静電気ぐらいの痛みしかない。つまりは、捕まってるのが子供なら問題はないってことだ。まぁ、その子供がとんでもない性悪なら少々痛い目を見るかもしれないが、死ぬことはないから心配しなくていい」
俺の知りたかったことを説明してくれたのは、声質は少年のものなのに妙な深みと重さのある独特な声の持ち主で、その声は聞き覚えがあるものだった。
「そっか。相手を傷つけず無力化出来る魔法なんだな。子供を傷つけないようにしてくれてありがと、主様。アルマナさんも教えてくれてありがとうございます」
「いえ……緑のには効かなかったようで残念です」
「オズ兄は文句無しに優しくて良い人だからな、悪意なんか子供並みにしか無いだろ」
無事に魔法が効いて安堵してるのかお礼を伝えると主様から珍しい軽口が返ってきて、それに笑い声混じりで答えていると、布越しに誰かの手が俺の体を突いてきて、ビクッとしてしまう。
「……触るな」
「え? 今のアルマナさんだろ?」
「ん。……全く狭量な男だ。お前が妙なことをしてるから、ジルヴァラが本当にそこにいるのか確認しただけだろ」
ローブの中なので状況がわからないが、主様とアルマナさんのやり取りからすると、アルマナさんが俺の位置を確認しようと触れてきて、触られるのが嫌な主様が猫のシャーかと思うぐらいに嫌そうな声を出したんだろう。
「俺も触らない方が良い?」
我慢してただけで、ローブの中な分素肌に近いから実は主様ストレスMAXだったりしないよな? と今さらながらしがみついてた手を離したら、拘束する腕の力が強まる。
「──離れるな」
布越しと体越し、両方から聞こえる低め声にやんわりと叱られてしまい、俺はまたおずおずと主様の服を掴んでおく。
「本当に狭量で面倒な男だ。ジルヴァラ、ボクにしといた方が楽でいいぞ? 強さではそいつに負けるが、他の点では負けてない自信はあるな」
主様がどんな表情をしてるかわからないが、アルマナさんがどんな表情なのかは声のトーンから何となくわかってしまう。
からかうように悪戯っぽい笑い方をしながら、主様を下からちらちらと見ている様が簡単に想像出来てしまった。
長い付き合いのアルマナさんだから出来るのであって他の人がやったら……というかやる勇気がある人はいないだろう。
俺もしようとは思わない。
いや、するとしたら、無邪気な子供ムーブで許してもらえそうな今のうちか?
「ロコ……まさか……」
余計なことを考えていたら主様に話しかけられていたらしく、テーミアスが髪の毛を引っ張って教えてくれる。
「……ごめん、聞いてなかった」
誤魔化しても仕方ないので、素直に謝ったら深々とため息を吐かれてしまった。
怒らせちゃったかと不安になっていると、不意にひやりとした夜風が顔に当たり、ローブから顔だけ出る形になったと一拍遅れて気付く。
ローブの中で目が暗闇に慣れていたので夜の暗さでも問題なく周囲は確認出来て、すぐ見つけたのは近くで笑う金髪美少年の姿。その背後には夜の闇に沈む建物の屋根が並んでいる。
「こんばんは、アルマナさん」
「こんばんは、ジルヴァラ。で、それはどういうプレイだ? ──冗談だ、冗談。殺気を飛ばすな」
妙な体勢での挨拶となってしまったが、とりあえずへらっと笑って挨拶をすると、アルマナさんからは美少年顔に似合わないシモ方面な軽口が飛び出し、そういう冗談が許せないタイプだったらしい主様から絶対零度な視線を向けられたようだ。
「……主様、下ネタ苦手なんだ」
「ジルヴァラ、今の意味がわかってるのか」
新たに知る主様の一面が嬉しくて小声で呟いたのだが、アルマナさんにもばっちりと聞こえてしまったらしく驚いたような顔をして俺を見て、その後主様へジト目を向けている。
気付くとジト目を向けられているはずの主様は俺をガン見していて、流れとしては俺はアルマナさんを見るべきなのかとか絶対ズレたことを考えながら、穴が開きそうなぐらい見てきている主様へへらっと笑っておく。
「……ロコ?」
「なに?」
よくわかってないよ、俺六歳児だもん。という表情をして首を傾げて答えると、主様は一応納得してくれたようで俺は再びローブの中へと突っ込まれる。
「……まぁいいか。お、ちょうど捕まっていた子供が……って、何でよりによってあれがお前の溺愛してる子供だって勘違いされてるんだ?」
俺達のやり取りを呆れきった相槌で流したアルマナさんだったが、タイミング良く保護された子供が視界に入ったらしい。
興味津々だった声音が段々低くなり、最後には不機嫌そうなものへと変わっていく。
アルマナさんにそこまでの声を出させるなんて、相当な悪ガキか何かなんだろうか。
それとも、実はショタじじいなアルマナさんのお仲間さんが子供と間違われて捕まってたとか? いや、それなら呆れや心配はしても不機嫌そうにはならないか。
そもそもエルフが物語通りの存在なら、魔法に長けているだろうし、そんな馬鹿な捕まり方はしてないだろうし。
「……アレをロコと間違えた、と?」
んー、と悩んでいたら、主様の独り言を聞き逃してしまったが、こちらも明らかに不機嫌そうだ。
それどころか、
「ぢゅっ!? ぢゅぢゅ! ぢゅー!」
という感じに、ローブの隙間から外に出て様子を見に行って帰って来たテーミアスまで激おこぷんぷん丸状態だ。
「え? 何? ここまで言われる『子供』って、逆に気になる!」
二人と一匹の態度から、別に怪我とかしてる訳じゃなさそうだし、俺が見ても大丈夫じゃないかと好奇心からローブを抜け出そうとしたが、主様が離してくれないし、テーミアスも体を張って顔面へ貼り付いて視界を塞いでくる。
「目が腐ります」
「ぢゅっ!」
「だな。止めておけ」
三者三様の言葉で止められてしまい、俺は捕まっていた子供に対する好奇心を引っ込める。
好奇心は猫を殺すっていう言葉があるぐらいだからな。
意味はよく知らないんだけど、猫が死ぬんだから過ぎた好奇心は良くないんだろう。
俺が大人しくなると、体が揺さぶられような動きを感じて、主様が移動を開始したのに気付く。
アルマナさんに挨拶……というか、何であんな所にいたのかとか聞きそびれてしまったが、アルマナさんも主様寄りな人だから、何となくとか主様の気配を感じたとかなのかもしれない。
それか冒険者ギルドのギルドマスターとして呼ばれて来ていた可能性もある。
なんて、小難しいことを考えていたせいもあってか、テーミアスの尽力も虚しく、気付くと俺は主様の腕の中で爆睡してしまっていたのだった。
●
[視点変更]
幻日様を誘い出すため子供が捕らわれているという情報が入ったので出動していたオレは、そこにいないはずの人物を見つけて思わず声を上げる。
「幻日様! 何故ここにいらしたのですか!?」
当初はジルがさらわれたのでは!? と騎士団内部が戦々恐々としたが、すぐにそれは誤報とわかり、しかしやはり子供は捕まっている、助け出さなければと気合は入っていた。
さらわれたのがジルではなかったため、幻日様が来ることはないだろうと、ある意味安心していたオレ達はジルがさらわれたのでは!? となっていた時並みに内心で戦々恐々状態に陥っていた。
せめてもの幸いなのは、どうやら幻日様はお一人らしく、いつもくっついてる小柄な姿は見当たらない。
他の騎士達もそれには安心したらしく、オレ達は視線を交わし合って目の前にいる誘拐犯達を油断なく見据える。
本当なら隙を突いて人質を救出する流れだったのだが、幻日様が姿を現してしまったため、そんな流れは何処かへ吹っ飛んでしまった。
見張りだけだったアジト前には、ぞろぞろと人が増えていき、オレ達の方は見向きもせず屋根の上の幻日様へ罵倒を繰り返している。
お前の溺愛してる子供をヤるぞ! という声と、建物の中からは子供らしい声が聞こえてくるので子供は無事なようで良かったが──なんだろう、子供の声を聞いた瞬間、嫌な感じがした。
その嫌な感じは、幻日様が何か魔法を使われて辺りが阿鼻叫喚に包まれたせいで吹き飛んでしまった。
見た所外傷も何も無いが、犯人達は顔面から涙や鼻水を垂れ流してもがき苦しみ、または何かに怯えて体を縮こませて震えている。
オレも範囲に巻き込まれていたのか少しだけ違和感を感じた気もしたが、本当にそれだけだったので犯人達の狂乱ぶりが不思議でならない。
思わず幻日様を振り仰ぐと、そこには幻日様だけでなく金髪の少年も増えている。
会話は聞こえないが、幻日様に恐れもせず話しかける様子から見ると、あの少年は見た目通りの少年ではないのだろう。
犯人達を捕縛しながらちらちらとそちらを見ていたオレは、不自然に膨らんで見えていた幻日様のローブから予想外の物が見えてしまい、思わず運んでいた犯人の一人を落としてしまった。
「ジル、なんでそんな所に……」
幻日様が入れたとしか考えられなかったが、思わずそう呟いてしまったの仕方ないだろう。
いつもありがとうございます(。>﹏<。)
皆様の反応に癒やされて、何とか怒涛の年末を乗り切れました。
これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m




