219話目
いつもありがとうございます。
「んー、主様に溺愛してる子供がいるって情報が流れてて、それが俺だと思われてて、でも俺じゃない誰かが間違えてさらわれたのか」
主様からだと埒が明かないので、トルメンタ様から一通り説明を受けた俺は、その内容を反芻しながら首を傾げる。
何かややこしいが、別に俺のせいじゃないよな、と言ってしまいたくなる辺り、俺は物語の主人公にはなれそうもない。
ヒロインちゃんなら、目をうるうるさせて可愛らしく「そんな……っ、私のせいで……っ」ってなって、攻略対象からの好感度爆上がりかつ優しく慰められるんだろうな。
俺もさっきは「違う」って言ってもらえたし、もう一度言ったら慰めてもらえるか? と脳裏を過った色々痛い考えを頭を振って追い払う。
「さっきも言ったが、ジルヴァラは何も悪くない。人をさらうような犯罪者が全面的に悪い」
「……え? ジルが──?」
先程痛い考えだと思ったが、すかさずトルメンタ様から慰める言葉が出て来たのは、さすがというかちょっと感動してしまった。
でも、トルメンタ様と被ったせいでナハト様が小声で何か言ったのがほとんど聞き取れなかった。
俺の名前も入ってたし、もう一度言ってもらおうか悩んでいると、無言のまま主様の腕の力が強まったので、訝しんで主様を見上げる。
「主様?」
「……ロコが気にするなら」
「へ?」
「助ければいいんですよね」
全く脈絡のない主様の発言に間の抜けた声しか出せず俺がきょとんとしていると、主様の顔が近づいて来てゼロ距離でも損なわれない美貌に見惚れてしまう。
そのままへらっと笑っていると、ため息を吐いた主様から頬をかぷりと甘噛みされる。
二・三度あむあむと頬を甘噛みしてから、やっと主様の顔が離れていき、そのまま主様が立ち上がったので俺の視線も高くなる。
なにするんだろうと思っていたら、主様はすたすたと窓の方へと歩いていく。
「……ぢゅっ!」
何か察したのか、野生を忘れて爆睡状態だったテーミアスが一声鳴いて跳ね起き、俺の肩の上へと飛んでくる。
置いてくんじゃねぇとプリプリしてるが、怒ってる姿も可愛らしくてほっこりしていると、余計にテーミアスを怒らせてしまった。
まぁ、それでも可愛いだけなんだけど。
ボッと膨らませた尻尾でバシバシと顔を叩かれるが、その間にも事態は進んでいき、俺の視界は主様の温もりと匂いのする布で覆われる。
ここ最近冷えてきたせいもあって、主様のローブの懐へ仕舞われるのにすっかり慣れて落ち着くようになってしまった。
条件反射で寝そうになっていたら、テーミアスが髪を引っ張って起こしてくれる。
俺を懐へ入れたからには、主様は外へと出て移動しているはずだけど、あまり揺れを感じないので、やっぱりまた眠くなってきてしまう。
で、今度は耳元で寝るなと一鳴きしてテーミアスが起こしてくれる。
「ありがと」
小声でテーミアスへお礼を言うと、油断するんじゃねぇと相変わらず主様へ警戒心バリバリな答えが返ってきて、ちょっと笑ってしまう。
「ロコ?」
俺の笑い声が聞こえてしまったのか、主様から訝しげな感じで呼ばれたので「なんでもないよ」「ぴゃっ!」と揃って答えておく。
しかし、たぶん屋根の上でも伝って移動してるんだろうけど、ほとんど揺れは無いし、ぺたりと耳を寄せている主様の胸からはドクンドクンと乱れることのない鼓動が聞こえている。
主様の鼓動を聞いてたら、かなり今さらだけど改めて主様がここに生きてる存在してると実感して嬉しくなり、ぎゅっとしがみついてみる。
「っ!?」
急にしがみついたせいで俺が落ちそうになったかと驚かせてしまったのか、全く乱れることのなかった主様の鼓動が少し跳ね、ドクドクと脈が速くなる。
ごめんなさいの意味で胸元に額を寄せてすりすりとしていたら、おとなしくしてろと布越しのせいかいつもより低音の掠れ気味の声がして、俺を抱き上げている腕の力が強まる。
「おとなしくしてような?」
へらっと笑った俺は、テーミアスへ向けてコソッと囁くが返ってきたのは、
「ぢゅぅ」
お前がな、という至極真っ当な突っ込みだった。
●
テーミアスに起こしてもらいながら睡魔と戦うこと……たぶん十分ぐらい経った頃、主様が止まったのか微かな揺れすら感じなくなる。
で、布越しにまた主様の声が聞こえる。
「着きました」
主語のない言葉に、何処に? と訊ねようとした俺だったが、
「あの化け物、ノコノコと来やがったぜ!」
「幻日様! 何故ここにいらしたのですか!?」
というわかりやすい二種類の台詞と、ガハハハと聞こえてくる品のない多人数の笑い声から、ローブの外の状況を察してしまった。
最初の台詞は、何処かの子供をさらって主様を呼び出そうとしていた悪人で、後半は子供を助けるために動いていた兵士とか騎士なんだろうけど、声に聞き覚えがある。。
「……オズ兄の声だ。なら、大丈夫か」
オズ兄がいるなら、悪人をボコボコにして、きちんと子供を助けてくれるだろう。
主様は、俺が安心出来るように子供が助け出される場面を見せてくれようとしたんだな。
たぶん悪人の声もオズ兄の声も下の方から聞こえたから、主様は状況が見易いよう屋根の上か何処か高い所に立っているんだろう。
出来ればローブの中に俺を突っ込む前に少しは説明して欲しかったけど。
安心出来る状況だとわかってローブの内側で笑っていると、主様が「むっ」と小さく言葉を洩らす。
ムッとして「むっ」ていう主様可愛いなぁなんて思っていた俺は、何故主様がムッとしてるかというそもそもの疑問には気付かず、ローブの隙間から外を覗こうとして主様の腕に押さえられてしまった。
これは危ないから顔を出すなということだろう。
「私が制圧しますから」
おとなしく従って主様にぴったりとくっついていると、何か妙に力が入った『私が』宣言をした主様が、
〈怖れ狂え〉
まるで歌うような不思議な響きの声でそう言い放った瞬間、耳を塞ぎたくなるよう悲鳴が下の方から響き渡り、オズ兄や他の騎士さん達の慌てふためく声も聞こえてくる。
「おそれくるえ? 怖がって怯えてろ、みたいな感じ?」
「……やはり聞き取れるんですね」
「え、うん。主様の声は聞き逃さないようにしてるからな」
驚いたような主様の声を、ローブの中でよく聞こえたな、という意味だと解釈した俺は、鼻の下を擦りながらドヤ顔をして答えておく。
今の状態だと主様には見えないけど、何となく気分だ。
テーミアスからは呆れたように見られてしまったが。
「あ、でも、捕まってる子は大丈夫なのか? オズ兄とか騎士さんは避けて放ったとしても、捕まってる子の居場所はいくら主様でもここからじゃ何処にいるかわからないよな?」
さすがに誘拐した子を道の脇に放置とかしてないだろうし、建物の中で監禁とかされてれば、何処かの屋根上な主様からは見えてなかったはず、と心配して訊ねると予想外の答えが返ってくる。
「騎士の方は一応避けました。……緑の以外は」
「え? 子供ももちろんだけど、オズ兄も避けてやってくれよ……」
主様の呟きに思わず突っ込んだ俺は悪くないよな?
いつもありがとうございますm(_ _)m
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反応いただけると嬉しいです(*>_<*)ノ
それでですが、祖父が亡くなったり、父が入院したりしてバタバタしており、投稿しばらく止まります。申し訳ありませんm(_ _)m




