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218話目

うっかりナハト様。


ただのいい子です。ついジルヴァラを心配して言っちゃいました。

 俺が主様に見つかって自宅へ連れ帰られそうになったりもしたが、何とか説得して屋敷の中へと戻ってもらう途中、魔法使いっぽいローブを着た格好の人が複数倒れてて、それをメイドさんが介抱していて、ちょっとした野戦病院のようになっていて目を見張る。

「もしかして、さっきのガラスが割れたみたいな音って結界が壊れた音なのか?」

 驚いた俺が慌てて俺を抱いて移動している主様へ問いかけると、あからさまに視線を反らされる。

「……さらにもしかしてだけど、結界が壊れた原因って、主様が突っ込んできたせいだったり?」

 まさかねと思って口にしたのだが、倒れている魔法使い達から向けられる畏怖の眼差しと、いつまで経っても合わない主様の視線が正解を語ってくれているようだ。

 そのまま視線が合うことなく主様は進んで行ってしまうので、俺はくいくいと主様の服を引っ張る。

「主様……せっかく久しぶりに会えたのに顔見えないの寂しいなぁ」

 思いの外、素で甘えるような声が出てしまったが、主様の気を引くことには成功して、宝石色の瞳が俺を映す。

「私もロコの顔が見たかったです」

「へへ、そっか。一緒だな」

 うざがられなくて良かったと声に出して笑って安堵している間に目的地へ到着していたらしく、俺の体は主様から離されベッドへと着地させられてしまった。

 主様が離れていってしまうのではとぎゅっと主様の服を掴んで引き止めると、主様はぽやぽやと微笑んでベッドへ腰かけてくれる。


「何処にも行きません」


 柔らかく甘やかすようなとろりとした声を聞いた俺は、一気に安心してしまい、ちょうどいつも昼寝をする時間帯だったせいもあってか、すぐに瞼を開けていられなくなってしまう。

 それでも、まだ久しぶりに会った主様と話したくて睡魔へ抗おうとはしたが無駄な抵抗にしかならず、俺の意識は数秒も経たないうちに深い眠りへと落ちていった。

[視点変更]



「情報屋に探らせたが、確かに子供が一人囚われているようだ」

 親父殿の言葉に、おれは思わずジルヴァラのいるであろう部屋の方を振り返って首を傾げてしまう。

「……ナハト、ジルヴァラは間違いなく部屋で寝てるんだよな?」

「ん! ぽやぽやがくっついてるから、オレは近づけなかった!」

 母上と部屋へ様子を見に行ったナハトへ訊ねると、不機嫌さを隠さない表情で頷いて、たしたしと床を足で叩いている。

 ナハトとしては、楽しくかくれんぼをしていたところを掻っ攫われてしまったから仕方ないだろう。

 ナハトの怒りはともかく、ジルヴァラはこうしてきちんと我が家で保護されていて、今は世界で一番安全であろう腕の中ですやすやと眠っている、と。

「だとすると、犯人が人違いで子供をさらったってことか? ハッタリなら子供を用意する必要なんて何処にもないよな」

 確かに幻日サマはジルヴァラの影響なのか、子供にはほんの少しだけ対応が柔らかい気もしないでもないが、見ず知らずの子供をわざわざ助けに行く聖人では無い。

 ジルヴァラが誘拐の事実を知ってしまえば、ジルヴァラが気にするからと助けに行く可能性はゼロではないが、それを犯人達が知ってるはずはないだろう。

 やはり、そこら辺の子供を人違いで、という結論になってしまうが……。

「さすがにあいつ相手に脅迫状を出すぐらいの自信があるんだ。人違いだとしても、あいつと接触する機会のあった子供かもしれん」

 親父殿も同じ結論にたどり着いたようで、顎髭を撫でながら渋面でそこからそんな予想を口にする。

「確かにそうだな。幻日サマと接触していた子供……で、ジルヴァラ以外となると……」

 思わず弟であるナハトを振り返るが、相変わらず不機嫌そうだがちゃんとそこにいて、ジルヴァラの部屋の方を心配そうに時々見たりしている。

「……ニクスは?」

「ニクス兄上は部屋で勉強してる。もう少ししたら終わるから、三人でかくれんぼする予定だったのにさぁ」

 幻日サマにジルヴァラを取られてしまったのが相当ムカついてるらしいが、ナハトはきちんとニクスの現在位置を答えてくれた。

 ちらりと控えているヘイズを見ると無言で頷いたので、現在の安否の確認も済んでいるようだ。

「あと考えられるのは……そうだ、おれとオズワルドで助け出したお嬢さんは? あの子も幻日サマとは顔見知りだし、何よりジルヴァラと仲が良いよな」

 幻日サマと接点ある子供……で、おれは記憶に引っかかる存在を思い出し、それを親父殿へ告げる。

 あのお嬢さんは、幻日サマへも物怖じもせず話しかけていた。あれを見られていたとしたら、溺愛している相手と勘違いされる可能性もある。

「自宅へあいつが現れたこともあったか。可能性は高いな。──確認を頼む」

 おれの言葉に親父殿も重々しく頷き、ヘイズへ指示を出す。




 しかし、数分後に返ってきたのは『お尋ねの人物は無事です』という肩透かしの答えだ。

「……そもそも人違いじゃなく、無関係な子供を適当に捕まえて人質にしてるだけかもしれないな」

 真剣に考えてしまったが、幻日サマ相手にこんなふざけた脅迫状を送ってくる相手だ。そこまで深く考えてない可能性は高い。

「あいつをよく知らないならあり得るか。……子供を溺愛しているという噂がから、そういう趣味嗜好だと思われてる可能性もあるな」

 同意を示した親父殿は、ナハトを慮ってか若干声をひそめてため息を吐く。

「……何にしろ、騎士としては子供が捕まっているなら無視は出来ないか。幻日サマはジルヴァラが無事なら動かないだろうし」

「だろうな。あいつは落ち着いたら向こうの見張りへ戻るよう伝えておくさ」

「まぁ、そこにいてぽやぽやしてるだけで敵なら脅威だよな」

「そういうことだ」

 肩を竦めて笑う親父殿に、おれもにやりと笑って返し……たまでは良かったが、ジルヴァラからどうやって幻日サマを引き剥がすかと言う難問に直面してしまい、二人揃って頭をかかえることになった。

「という訳で、ジルヴァラ、そい……その方を持ち場へ戻るように説得してくれないか」

 主様を引き剥がせなくなったので、充てがわれていた部屋で夕食を食べることになった俺を訪ねてきたトルメンタ様は、開口一番そんなことを言い出した。

「ん……っ」

 今トルメンタ様さり気なく『そいつ』って言いかけてたとか、という訳でって前置き無かったなぁとか思いながらも、楽しそうにぽやぽやした主様が色々口へ突っ込んで来ていて、俺は答えることが出来ないので首を傾げておく。

 俺が答えられないと察したのか、トルメンタ様は「ゆっくり食べてくれ」と壁際へと移動したので、俺が食べ終わるまで待機する気らしい。

 トルメンタ様が見守る中、俺は主様の膝上であーん攻撃を止めるタイミングを見計らっていた。

「ぬし、さま……も、入らない……」

 今日は止めてくれる人がいないため、突っ込まれる合間にふるふると首を横に振って弱々しく訴えると、部屋の中は微妙な静寂に包まれる。

「……そうですか」

 主様と競い合うようにして口の周りを拭いてくれるプリュイはいないので、今日は主様が舐めた後に拭いてくれてた。

 舐める意味はあったんだろうかと思ったりもしたが、何より主様が楽しそうなので飲み込んでおく。

「それで、さっきの話なんだが、実はまだ主犯は立て籠もったままで、待機してる必要があってな」

「そうなのか? そっか、主様が勝手に帰って来ちゃったから、フシロ団長とトルメンタ様で連れ戻しに来たんだな」

 苦笑いしたトルメンタ様から『という訳で』の内容が説明され、俺は色々納得して主様を振り返ってみる。

 主様は俺を抱えながら、それがなにか? と言わんばかりの表情でぽやぽやしていた。

「主様、会いに来てくれたのは嬉しいけど、俺ならちゃんとおとなしくしてただろ? 戻って大丈夫だからさ」

 まずは定番であろう文言で説得をすると、主様は変わらずぽやぽやしているように見えるが、眉間の辺りにちょっと不機嫌そうな皺が出来る。

 納得してないな、と思ったら珍しく主様は口で反論する気らしく口を開く。

「嫌です。今回は、何処の誰かもわからない子供がさらわれただけで、次はロコかもしれません」

 その口から出て来たのは駄々っ子のような発言で、ふいっと顔を反らす動作までしてさらに駄々っ子みを増した主様にきょとんとしてしまったが、すぐにその発言内容に気付いて目を見張る。

「子供さらわれてるのか? 大変だ! って、あれ? トルメンタ様達は行かなくて良いのか? あぁ、二人がそっちへ行くから持ち場へ主様を戻したいんだな」

「話が早くて助かるが……」

 俺が一人で納得していると、トルメンタ様は苦笑いして小声で何事かブツブツと呟いている。

「主様……」

 もう一度呼びかけてみるが、またぷいっと顔を反らされる。

 俺を心配してくれてるからの行動だし、どうしたもんかなぁと悩んでいると何の前触れもなく部屋の扉が開いて小さな人影が飛び込んでくる。

「ジル! お風呂一緒に入ろうぜ!」

 部屋の中の空気なんて気にした様子もない元気なナハト様の声に、俺が堪えきれずふはっと息を吹き出して笑うと、主様の拘束が強まる。

「……あー、俺、さらわれた子供が気になるなぁ」

 こちらを窺っているナハト様を見てふと思いつき、効かないと思うが同情を誘う作戦に出てみる。

 主様はなんだかんだ言っても、意外と子供には甘いので少しは気持ちが動くかもしれないと思ったのだ。

 自然と上目遣いになりながら主様をじっと見上げると、主様もじっと俺を見ていてばっちりと目が合う。

「ロコには関係のない子供でも?」

「……知っちゃったからには気になるよ」

「ジルと間違われてさらわれたんだから、気になるのは仕方ないよな」

「ナハト!」

 俺と主様の会話を聞いていたナハト様が口を滑らせてしまったようで、止めようとしたトルメンタ様も間に合わない。



「……え? その子供がさらわれたのって、俺のせいなのか?」



「違います」「違うからな」



 聞き捨てならない内容におずおずと訊ねると、主様とトルメンタ様から同時に否定の言葉が返ってきて、主様からぎゅっと抱き締められる。

「ごめん、ジル! オレそんなつもりで言ったんじゃなくて……っ」

 主様の温もりに包まれたのもあるが、俺よりショックを受けて泣きそうな顔になってしまったナハト様を見て少し落ち着いた俺は、ふるふると首を横に振る。

「大丈夫だよ、わかってるから。……で、主様、トルメンタ様、きちんと説明してくれるかな?」

 それから、事情を知っていそうな大人組へにっこりと笑って小首を傾げておく。





 こんな騒ぎの中、お腹いっぱいになったテーミアスは、寝床にしている籠の中でお腹を上にして爆睡していたり。




 野生って……以下略。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなどありがとうございます(*>_<*)ノ


テーミアスも歓喜の謎踊りを披露しております←


反応いただけるとテーミアスのような謎踊りを披露して喜びます(え?)

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