表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/399

216話目

ジルヴァラ、みーつけたー。

「──そして邪神は倒され、いくつかの欠片となって封印され、世界には平和が戻りました」




「これって……」

 家庭教師の先生の柔らかい声音が紡ぐ言葉へ耳を傾けていた俺は、先程書き取りに集中していて内容を理解していなかったこの世界の歴史に聞き覚えがあり、思わず洩れそうになった呟きを飲み込む。

 脳裏を流れていくのは、周回プレイをしたおかげで何回も見たあのゲームのオープニングのナレーションだ。



『おそろしい力を持つ邪神が倒され、欠片となりて封印されてから数百年。いつしか人々の間からその恐怖は忘れ去られ、人々は安穏と平和な日常を過ごしていた。しかし、その平和はひっそりと終わりの時を告げようとしていたのだった……』



「じゃしん……」



 重厚なナレーションの背後に流れていたのは、遺跡のような場所に描かれていた擦り切れた壁画。

 かろうじて人の形をした黒く巨大なナニカへ、三人の人らしき形が向かっていっているように見える、そんなRPGの昔語りでは定番な壁画だ。

 一応分類としては乙女ゲーム主体をうたい、そこへ加わった戦闘要素なのでそこまで凝らなくても良かったとは思うが、あのゲームは戦闘もそこそこ凝っていていて、ラスボスは選ぶ攻略相手とその選択肢によって乙女ゲームな部分のストーリーのラスボスにもなっていた。

 そのラスボスの肝となるのが『邪神』という存在だ。

 そこまでは思い出せたのだが、肝心要の誰にどう関わってくるのかが思い出せない。

 確か、誰かが邪神を利用しようとして……。

 もしかして、ヒロインちゃんが色々奇行みたいことをしてるのは、俺よりちゃんとゲームのことを覚えているから、それを邪魔しようと頑張ってるのかもしれない。

 主様を気にかけてるのは、主様がキーパーソンになるのかも。

 俺が思い出せた壁画の中に描かれていた三人の人らしき姿の中には、わかりにくいけど鮮やかな赤い髪をした人もいたし、これが主様本人か主様の関係者とか?

 主様はDLCからの登場だと思っていたが、もしかしたらあれは攻略出来るようになるという物だったのかもしれない。

 主様に聞けば答えてくれそうだけど、何て訊ねれば良いのか……。



「……ジル? 大丈夫ですか? 顔色があまり良くないようですが」

「ジルヴァラくんには、邪神の話は怖かったのかもしれませんね」

 気付いたらニクス様と先生にそんな感じで心配されていて反論する間もなく、呼ばれて即やって来たフュアさんに抱えられて退室となってしまった。

 よく聞いてなかったけど、邪神は結構極悪非道なことをしていたらしく、グロい系エロい系含めてR指定まっしぐらな内容だった気もする。




「怖いのでしたら、お側におりますが……」

 相当心配してくれてるのか、部屋へ戻ってからもぎゅっと手を握ってくれているフュアさんに、俺は肩の上でドヤ顔を決めているテーミアスを視線で示してへらっと笑ってみせる。

「心配してくれてありがと。でも、テーミアスがいるから大丈夫。……この手紙、お願いします」

 フュアさんに片手を握られたまま書き終えた手紙を差し出すと、やっとフュアさんの手が外れて、両手で手紙を受け取ってくれる。

「確かに承りました。では、早速送ります」

 キリッと微笑んだフュアさんがフッと手紙へ息を吹きかけると、瞬き一つの間に手紙はシマエナガみたいな白い小鳥へと姿を変え、軽い羽音させて飛び去ってしまった。

 窓ガラスは閉まっていたはずだが、それにぶつかるなんてこともなく無事に外へと飛んでいった小鳥を見送ってからフュアさんを振り返る。

 フュアさんの鳥を見て、素朴な疑問が浮かんだからだ。

「ありがと、フュアさん。フュアさんの鳥可愛いかったけど、執事さんのは強そうだったし、主様のはもっと大きかったけど、鳥の姿って決まりとかないのか?」

 手の動きでそれぞれの鳥の大きさを示しながら訊ねると、フュアさんはベッドメイキングの手を止めて俺を見てくれる。

「そうですね。変化した姿は、各自の魔力量と想像力による影響だと聞いております」

「だから、執事さんのは強そうで、フュアさんのは可愛らしくてふわふわしてたんだな」

 フュアさんのわかりやすい説明を受け、先程生み出されたシマエナガ似の可愛らしい小鳥の姿を思い出して微笑ましい気分に浸っていたら、テーミアスが肩から降りてくる。

 何をする気だと見守っていると、テーブルの上へと降り立ったテーミアスは、自分だってふわふわして可愛いだろと後ろ足で立ってポーズ付きでアピールしてくる。

「幻日様ほど魔力のある方でしたら、手紙すらちょっとしたゴーレム並みの能力を持つかもしれませんね」

「え?」

 テーミアスの謎ダンスを見ていた俺は、フュアさんの独り言めいた呟きを聞き逃してしまい、首を傾げてフュアさんの方を見やる。

「大丈夫ですよ。あの方は自分や大切なものを害する存在以外は気にもお留めになりませんから」

 首を傾げた俺の反応を、自分の発言に衝撃を受けたのだと勘違いしてるらしいフュアさんの答えに、実は聞いてませんでしたとは余計言い出しづらくなり、俺は日本人の得意技(?)の一つの愛想笑いで誤魔化しておいた。

 ──こんな感じで俺がぬくぬくとフシロ団長のお宅で保護されている間、主様はフシロ団長を始め騎士や兵士と頑張ってるんだろうなぁと心苦しくなるが、今の俺に出来ることは足手まといにならないようにおとなしくしていることだ。

 主様とはしばらく直接会えてないし、かなり寂しいが何とか我慢している。

 大人な部分でも寂しく感じてるぐらいだから、六歳児な部分の俺はかなりぶすくれていれて、気をつけないと不機嫌な顔になりそうだ。

 そんな俺の内心は三児の母であるノーチェ様には丸わかりらしく、ここ数日はやたらと甘やかされてしまっていた。

 警備もまさにネズミ一匹すら通さぬと言わんばかりの厳重さなので、俺は真綿に包まれるようにぬくぬくと過ごしていたのだが……。




 やっぱり室内でじっとしているばかりは飽きるので、ノーチェ様の魔法講習を受けて……俺には魔法の才能がないことが確定したり。

 数学というか算数の授業で朧気な前世の算数知識を披露してしまい、家庭教師の先生から天才扱いされそうになって、ちょっと大変だったりはしたが平和そのものだった。



「よし、ジル。今日はかくれんぼするぞ!」


「おう!」



 こんな感じでナハト様と二人仲良くかくれんぼをしていられる程度には。




 ナハト様が鬼となったので、隠れないといけなくなった俺が選んだ隠れ場所は、綺麗に整えられた中庭だ。

 ちゃんと庭師さんから許可を得ているので問題無し。入っちゃいけない場所も、触れてほしくない場所も確認済みだ。

 ナハト様は庭師さんが少し苦手なようなので、探しに来るとしても後回しだろう。

 これが自宅という地の利があるナハト様にかくれんぼで勝つために俺が考えた秘策だ。




「なんて、そこまで奇抜な発想じゃないよな」

 本気で隠れるなら落ち葉の中か木の上だと語るテーミアスをお供に、俺は庭の生け垣に隠れるように身を潜めておく。

 あまりに本気で隠れ過ぎてナハト様を心配させるのもなんだからな、と内心で年上ぶっていた俺が、じっと隠れているのに飽きてきた時だった。



 ふわり、と。



 何の前触れもなく慣れ親しんだ感覚が肌を撫でて、その驚きから瞬きを繰り返す。



「今のって、主様の探知魔法だよな?」

 何となくテーミアスへ訊ねてみたが、もちろん知らないとすげなく答えられるだけ。

 主様の他にはアルマナさんの探知魔法しか知らないが、アルマナさんの時はゾワゾワする感覚があったから、多分主様のだと思う。

 主様の探知魔法だとして、何で俺を探してるのかがわからない。それとも何か別の物を探している探知魔法にたまたま俺が引っかかっただけなのか?

 いくら考えても答えは出ず、俺が念の為屋内へと移動しようと立ち上がった瞬間──薄いガラスが割れたような音が辺りへ響いて、咄嗟に生け垣の中へと飛び込む。

 いざとなれば生け垣の中に隠れる気だったので、俺ぐらいなら入っても大丈夫な生け垣を教えてもらっていたのは幸いだった。

 しかし、いくら待ってもそれ以上何かが起きることはなく、俺はテーミアスと一緒になって生け垣から頭を出して周囲を窺う。

 屋敷の内外でざわざわと人がざわめいてるが、何かが壊れたりしたとかではないらしい。

 何だろうと首を傾げていた俺は、背後から近づいて来る第三者に気付けない。



 先に気付いたのは肩の上にいたテーミアスで。




「ぢゅっ!!」




 その鋭い警告の声に俺が振り向くより早く、伸びて来た腕が俺を捕らえていて足が地面から離れる。

 バタバタと手足を動かして抵抗しかけた俺だったが、ふと何かに気付いて抵抗を止めると腕の持ち主へと抱き締められておく。



「えへへ……」



 そのままふにゃふにゃと笑っていると、抱き締めてくる力が強くなって、耳元で深いため息が聞こえてくる。



「……主様だってわかってるから抵抗止めただけだからな?」



 俺の言葉を聞いた、かくれんぼの鬼より早く俺を見つけて捕獲した犯人──主様は、本当ですか? と言わんばかりの表情で俺を見てくるが、俺は気にせず蕩けきってる自覚のある笑顔を主様へ向けて腕を広げてみる。



「おかえり、主様」



「……ただいま、ロコ」



 少しのためらいの後、ふわりと柔らかく微笑んで答えてくれた主様からぎゅっと抱き締められ、俺は数日ぶりに心から安心出来たのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


今回の被害者。

結界を張っていた魔法使いさん達。


感想などなど反応ありがとうございます(^o^)

反応いただけると嬉しいです(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] テミ 魅惑の踊り ふゎふゎふりふり
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ