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212話目

感想ありがとうございますm(_ _)m


何回かど忘れした分も含めて感謝を(*>_<*)ノ

「ん……」



 カチッとスイッチの入ったような気持ちの良い目覚め方をした俺は、目を開けて…………しばらく固まった。

 目の前は何かに塞がれていて、顔面には柔らかいもふもふした毛並みを感じる。

 ゆっくりとベッドの上で上体を起こした後、何となく深呼吸してみた。もふもふからは郷愁を誘う陽だまりのような匂いがした。

 そのままの体勢で、顔面を覆うあたたかいそれが何かをしばらく考えて、ついでに色々と思い出してしまった俺は自己嫌悪に陥りながらも何故か俺の顔面に貼りついて眠っているテーミアスを剥ぎ取る。

「ぴゃぁ……」

 テーミアスは寝惚けた様子で力無く不服を訴えてくるが、顔面を覆われていたら俺も何も出来ない。

 そのままベッドへテーミアスを置こうとしたが、その前にしっかりと覚醒したテーミアスは俺の腕を駆け登って来て定位置の肩の上で落ち着く。

「お前、ここまでついてきちゃったのか」

「ぢゅ!」

 心配だったからな、と男前な返事をくれるもふもふな小さな友人ともいえる存在を指先で撫でながら、俺は改めて周囲を見渡す。

 目を開ける前からベッドの寝心地が違うなぁとは思っていたが、俺が寝かされていたのは見覚えのない部屋だ。

 窓がないため断言は出来ないが、たぶん主様の家ではないと思う。

 主様の家は元貴族の物で家財道具もほぼそのまま使ってるため、全体的に素人の俺から見ても高そうな雰囲気があるのだが、今俺のいる部屋はやたらとシンプルだ。

 シンプルと言っても別に質素な訳ではなく、清潔感のあるビジネスホテルや病室を思わせる……そこまで考えて、俺は自分の寝かされていたベッドの隣にもう一つ同じベッドが置かれていること今さらながら気付く。

 それこそ、まるで病室やホテルのように。

「なぁ、ここ何処かわかるか? 主様は?」

「ぢゅ?」

 部屋をじっくりと見渡してから、肩の上にいるテーミアスへ問いかけると、首を傾げてから身振り付きで説明してくれる。

 それによると、



『俺がなかなか目を覚まさないので、怖い変なのが俺を抱えてここへ運び込んだ。

 ここは街の真ん中にある高い塀の中にある建物。同じ塀の中には大きくて尖った感じの建物があった。

 ここに入ると、薬草の匂いがする人間が俺の様子をあちこち触って見て、ここへ寝かせた。

 怖い変なのは誰かに呼ばれて何処かへ行った。

 薬草の匂いがする人間は、何度も様子を見に来ている』



 だ、そうだ。


「怖い変なのはたぶん主様だし、主様が俺を連れてきたなら、薬草の匂いがする人間って、ドリドル先生だな。……じゃあ、ここって」



 街の真ん中にあって、高い塀に囲まれていて、近くには尖った感じの大きな建物があるということは……。

 導き出された答えを口に出す前に、部屋の扉が静かに開かれて、当たり前だけど扉を開けた人物が部屋へ入って来る。

「おや、やっとお目覚めですか。たくさん血を流したばかりだったんですから、あまり無茶はいけませんよ?」

 部屋へ入って来たドリドル先生は、目覚めている俺を確認して柔らかく微笑むと、ベッドまで歩み寄って来てそのままベッドの端へと腰を下ろす。

「……薬飲む?」

 やんわりとしたお叱りの言葉に、思わずビクッとしてドリドル先生の顔色を窺うと、くすくすと笑われて頬を軽く抓まれる。

「ただ疲れて眠っていただけですから薬はいりません。ジルヴァラがどうしても飲みたいと言うのなら……」

「いらない、いらない!」

 反射的に全力で拒否をすると、またドリドル先生がくすくすと声を上げて笑う。

 からかわれたと気付いてむっと唇を軽く尖らせていると、今度は頬をちょいちょいと突かれる。

「今のは冗談ですが、あまり無茶をしていると本当に薬を飲んでもらわないといけなくなりますよ? 傷も完全に塞がった訳では無いというのに、色々とやんちゃをしたようですね」

「……はぁい」

 力無く良い子の返事をすると、優しく微笑んだドリドル先生から頭を撫でられる。

「ぢゅ」

 俺の肩の上でテーミアスもドリドル先生に同意して、もふもふな尻尾で俺の後頭部を叩いてきている。

 このテーミアスは、俺を人間の幼体だと理解していて、自分の方が兄貴分だから俺を守ってくれてるつもりなのかもしれない。



「ぢゅぅ」



 ──俺があげたナッツを一心にかじっている姿を見て、深く考えすぎだなと思ってしまったのは内緒だ。




「ドリドル先生、主様は?」

 書類仕事をしているドリドル先生に見守られながら、ドリドル先生が持ってきてくれた朝昼兼用のご飯を食べ終えた俺は、一番気になっていたことを訊ねる。

「………………まぁ、そのうち迎えに来ますから」

 一瞬作業の手を止めたドリドル先生は、困ったように微笑んで俺を見ながらかなり間のある曖昧な答えだけを口にする。

「んー……わかった」

 迎えに来てくれるらしいのだから、ドリドル先生を困らせたくない俺はコクリと頷き、ナッツを食べ終えたテーミアスを膝の上に移動させて両手でもふもふと揉む。

 ノリノリなテーミアスは、あーれーという何処かの時代劇の生娘のような反応をわざとらしくして悶えながら、お腹を上にしてモフられている。

「お前、野性はどうしたんだ?」

 あまりにも無防備な姿のテーミアスに思わずそんな問いを笑い声混じりにした俺は、せっかくなのでテーミアスを持ち上げてお腹に顔を埋めて陽だまりの匂いを堪能させてもらう。

 そのままスーハーと深呼吸していると、ドリドル先生の呆れたような笑い声に混じって聞き覚えのある声がしてくる。



「何してるんだ、ジルヴァラ」



 くくっと笑いの混じった声の主は、ゆっくりと歩み寄って来ているようで声は段々と近づいてくる。

 俺がぺたりと座り込んでいるベッドが傾ぎ、声の主がそこに座ったであろうタイミングで、俺はテーミアスを顔から離して相手を確認する。

 俺がへらっと笑いかけると、声の主──トルメンタ様は少しだけ複雑そうな表情になったが、すぐにいつものような笑顔で俺の頭を撫でようと手を伸ばしてくる。

 だが何故か俺の頭へ触れる瞬間、トルメンタ様はためらうような仕草を見せて止まってしまったので、俺の方からぐいっと頭を手に押しつけに行く。

 俺は何にも気にしてないし、トルメンタ様を怖がってなんかいないとボディでランゲージしとかないとな。

 そんなルーな言語を脳内で再生しながら、俺はトルメンタ様を無言で見上げる。

 しばらくしてやっとおずおずと頭を撫で始めた手に、俺は目を細めて笑っておいた。

 思い浮かべていたイメージ映像は某童話のチェシャ猫だ。

 出来ていたかは不明だが、とりあえずトルメンタ様は笑顔になってくれたので良しとしよう。

 ひとしきり頭をよしよしと撫でられ、トルメンタ様の足に仰向けで頭を乗せた体勢ですっかり蕩けたような状態になった俺を、俺のお腹の上に乗ったテーミアスが呆れたように見てくる。

 さっきと逆になった立場に、くすくすと笑っていると、不意に真剣な顔をしたトルメンタ様が視界に入ってくる。

「ジルヴァラ、この間の話なんだけどな」

 前置きから何を話してくれるか察した俺は、警戒するように部屋のあちこちを見やってから起き上がろうとする。

「このままで聞いてくれ。あと、この部屋は鍵をかければ外に絶対話し声は洩れないし、ドリドル先生は全部知っていらっしゃるから心配しなくてもいい」

「そうなのか。ん、わかった」

 面と向かい合うと話しづらいのかもしれないなと思い至った俺は、ベッドへ座るトルメンタ様の足の上にまた頭を預けて、どう見てもだらけているような体勢へ戻る。

 俺のお腹の上にいたテーミアスも、どっこいしょと俺と同じように体勢を直している。

 足の上に戻った俺の頭を撫でながら、トルメンタ様は少しだけためらってから口を開く。

「おれが精神魔法の類に弱いって話は聞いたよな?」

 コクリと頷いてじっと見上げていたら、無言でぐりぐりと頭を撫でられる。

「それに関しては結構知られてる話で、おれは普段からそういう魔法を防ぐ付与のあるアクセサリーを二つ着けてたんだよ。まぁ、念の為にどれがそれかなんて知ってるのは家族とオズワルドぐらいだったんだが……」

 トルメンタ様はそこで言葉を切って、深々とため息を吐いて俺の頬をむにむにと軽く揉み始める。

 スクイーズみたいな扱いされてる気もするが、トルメンタ様の気が紛れるなら我慢しておこう。

 テーミアスがちょっと不満げにトルメンタ様を見てるが、空気を読んでくれたのか無言で尻尾をゆらゆらさせている。

「あの日、とある女の子を助けたら、そのアクセサリーをくれとねだられてな、仕方無く手放したんだ。予備としてもう一つ着けてたのもあって、まぁ、大丈夫かと思ったんだ。あげたのは、これと同じやつで、こうやって家に帰れば同じ物があるという油断もあった」

「まさか、そんな変なことがあった日に、たまたまそんな犯人と会うなんて思わないもんな。……あれ? もう一つ着けてたのは壊れてたのか?」

 間が悪いこともあるもんだなと納得しかけた俺は、トルメンタ様が付与の付いたアクセサリーを二つ着けていたと言っていたことを思い出して、首を傾げながらトルメンタ様の顔を見上げる。

「……気付いたら消えていた。落とすことはない、と思うんだが。朝の時点で身に着けていたのは確かだ」

 肩を竦め、苦笑いをして答えるトルメンタ様を見ながら、俺はトルメンタ様達もたどり着いたであろう仮説を思い浮かべる。

「誰か……というか、トルメンタ様を操って何かさせようとしていた相手が、その女の子雇って一芝居うたせたのかなぁ」

「かもな。まぁ、見た目は可愛らしい子だったから、絡まれてても違和感は無いが……何というかあまり関わりたくはない感じの子だったよ。そういえばたぶん同じ女の子がニクスにも妙なことを吹き込んできたらしい」

「じゃあ、もしかして、フシロ団長んちに恨みか何かがある人間が雇ってる女の子なのかな」

 ゲーム知識で黒幕はゲース副団長だと思っている俺は、どう考えても可愛らしい女の子とゲース副団長が結びつかず、んーと唸りながらブツブツと呟いていたが、トルメンタ様の顔を見上げていたらそれより気になることを思い出してしまう。

「そういえばさ、あの時、トルメンタ様、真っ直ぐ俺だけ狙ってなかったか? 確かにあの中じゃ俺が一番弱いだろうから狙われるのも仕方無いけど……」

「……普通は質問するか悩みそうなことをズバッと聞いてくるなぁ、ジルヴァラは」

 俺の問いに困ったような笑顔で答えを濁したトルメンタ様は、膝枕をしていた俺を縦抱きにしてぎゅっと抱き締めてくる。

 きちんと怪我している部分は避けてくれているし、苦しくもないし、もちろん嫌な訳もないのでおとなしく抱き締められていると、俺の首筋辺りに顔を埋めたトルメンタ様から深いため息が聞こえてくる。

「あのさ、答えにくいなら……」




「──あの時。庭にいるジルヴァラを見たら、やたらとぼんやりとしてた頭の中ではっきりと声が聞こえた気がしたんだ。子供を…………殺せ、と」




 絞り出すようなトルメンタ様の苦しげな声を聞きながら、俺はちょっとだけ『俺が一番小さいから狙われた?』という事実に凹んだりしてたが、俺以上に気に病んでいるトルメンタ様を前に言える訳もなく、俺は無言でトルメンタ様にぎゅっと抱きつくことしか出来なかった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


トルメンタ様の目にはジルヴァラしか映ってなかったんですよ、きっと←


感想などなどいつもありがとうございますm(_ _)m

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