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209話目

くーるー、きっとくーるー。

「それでジルヴァラに聞きたいんだが……」

 テーミアスという闖入者と、アルマナさんの正体(?)でバタバタしたりもあったが、やっと本題に入りそうな空気に、俺はまたゴクリと唾を飲む。

 ついでに見つかってすっかり開き直ったテーミアスも肩の上で「ぢゅ」とシリアスな鳴き声を上げている。

「な、何でしょうか?」

「騎士団長の息子が操られた時にそこにいたそうだが、何か気付かなかったか?」

「え?」

 洩れた声は、何で知ってるんだという気持ちからでもあったが、アシュレーお姉さん達に聞かれても構わないのか、という驚きのせいだ。

 実際、

「……それは我々が聞いてよろしい話でしょうか」

という生真面目極まりない確認がエジリンさんの口からも出て来てるぐらいだし。

「あぁ、構わない。どうせ、お前の相棒はすでに巻き込まれているようものだ。最近、お貴族様から付与の付いたアクセサリーの大量注文があったろ? しかも同じ内容の付与のみで」

 エジリンさんに対して肩を竦めて見せたアルマナさんは、アシュレーお姉さんをちらりと見て、笑い声混じりの声で確認……というかほぼ断定で話しかける。

「えぇ、あったわ。あれってそういうことがあったから、対応策としての依頼だったのね。納得したわ」

 無意識なのか答えて考え込むアシュレーお姉さんは、俺の頭を猫の子でも撫でくり回すように撫でながら、一人で頷いている。

「エジリンは口が堅いのがわかっているからな。相棒が関わっているのなら尚更、だろ?」

 からかうようなアルマナさんの言葉に、エジリンさんは苦笑いをしつつも眼鏡をカチャリと上げて頷いて答える。

「ええ。……しかし、そうなるとさらに素材の在庫切れが痛いですね」

「何か足りないのか?」

 おやという表情になったアルマナさんは、テーブルの上の在庫帳を見てから、アシュレーお姉さんの方へと視線を向ける。

「ドラゴンの爪と鱗が全然足りないわ。依頼された付与の効果を出すにはドラゴンじゃないと無理なのよねぇ」

「ボクが獲りに行っても構わないけど……たぶん、それならジルヴァラがいれば解決するさ」

 意味ありげにこちらを見てくるアルマナさんに、考えを巡らせた俺が思いついた答えは、

「……もしかして、俺がドラゴン狩りに行く、とか?」

とか、だったのだが、即座に返された三人の反応は素晴らしく早くて息もぴったりだった。



「「「行かせ(ない)(ません)(ないわ)」」」



「……ですよねー」



 あまりに綺麗に揃った勢いのある切り返しに、俺は引き気味な笑顔で頷くしか無かった。

 それにしても、俺がいれば解決するって……と悩んでいると、肩の上でテーミアスも一緒になって悩んでいる。

 そういえばこいつの問題も残っていた。

 野生動物だから勝手に行動させとけば大丈夫だとは思うけど、希少な生き物らしいから街中に出て来て誰かに捕まったりしたら大変だ。

「んー」

 思わず声に出して唸っていると、扉が開く音がする。

 全くそちらを見てはいなかったが何の前触れもなかったので、エジリンさんかアルマナさんが部屋を出たのかと深く考えず悩み続けていた俺の耳に「あら」というアシュレーお姉さんの驚いたような声が聞こえてくる。

 どうかしたんだろうかと思ったのと、俺の体が持ち上げられるのは同時だった。

「ん?」

 しぱしぱと瞬きをして俺を抱き上げた腕を辿ると、そこには少し不機嫌そうぽやぽやとする主様の顔があった。

「あれ? 主様迎えに来てくれたのか? ありがと……って、ノックしないで入って来たの主様か。駄目だぞ、ちゃんとノックしないと……」

 主様が迎えに来てくれたのが嬉しくて顔がにやけてしまったが、ノックもせずに入って来たのが主様だと気付いてもしまったので、流れで注意の言葉を続けてしまう。

 それが気に食わなかったのか、かじりたい気分だったのかは不明だが、主様は無言のまま俺の頬をかぷりと甘噛みしてくる。

「ぢゅっぢゅっ!」

 俺はいつものことだから気にしなかったが、俺の肩の上にいたテーミアスには見過ごせなかったらしい。

「大丈夫だって、そんなに痛くはないから」

 もふーっと膨れて主様を威嚇しているテーミアスを指先で撫でてなだめていると、アルマナさんとエジリンさんが無言でアシュレーお姉さんを見やり、そのアシュレーお姉さんから代表するように力無い突っ込みが入る。

「お姉さん、そういう問題じゃないと思うのよ、ジルちゃん……」

「ぢゅ」

 テーミアスも我が意を得たりと鳴いてるが、主様は興味の欠片もない様子で一通り顔のあちこちを甘噛みしてから、俺をローブの懐へと仕舞おうとしてくる。

「ちょ、待てよ!」

 前世の国民的イケメンアイドルが脳裏を過る声を咄嗟に上げてしまったが、その効果はてきめんで、主様はきょとんとして俺を仕舞う手を止めてくれた。

 さすがキМ……いや関係ないか。あれはあのイケメンがやるから成立するのであって……。

「ロコ」

「おい、ジルヴァラが何か欲しい物があるらしいぞ?」

 主様の呼びかけに俺が答える前に、割って入って来たアルマナさんが何の脈絡もない台詞を口にする。

 アルマナさんの言ってる俺の欲しい物って、もしかしなくてもドラゴンの素材のことか?

 それがさっきの『俺がいれば解決する』云々に繋がるとしたら、もしかして?

 ほんのちょっと好奇心と、大きな期待から俺はじっとこちらを見てくる主様の宝石のような瞳を覗き込む。

「あのさ、主様」

「何ですか、ロコ」

 何でも買ってあげますよと言い出しそうな表情で主様が見つめてきている気がするのは、俺の願望が見せているもので、主様はただ俺を見ているだけ──「白金貨で買える物ですか? それともロコを傷つけた相手の首ですか? あぁ、違いますね。それを操っていた者の首の方ですか」──全然願望じゃなかった。喜ぶべきか?

「強いて言うなら操ってた卑怯者とそれを依頼したヤツがいるならそいつが…………じゃなくて、俺が今欲しいのは、付与の付いたアクセサリーを作ってもらうのに必要なドラゴンの素材なんだけど」

 主様の嬉しい冗談につられて、つい毒のある本音が洩れてしまい、俺は笑顔でそれを誤魔化しながら本来の『欲しかった物』を上げて主様の反応を窺い見る。

「ドラゴンの素材、ですか?」

 俺の言葉を反芻しながらこてんとあどけなさすら感じる仕草で首を傾げる主様を見て、獲りに行ってきます、って言うのかなぁと思って見守っていると、主様は俺を抱いてるのとは逆の手をテーブルの方へと向けて空間を撫でるような仕草をする。

「……まだいりますか? 心臓や血は、瓶に入れてるので嵩張るのですが」

「へ?」

 主様のぽやぽやしたドヤ顔をじっと見ていた俺は、その言葉に慌ててテーブルの方へ視線を移す。

「何処に置きますか?」

「いや、欲しいのは、爪と鱗だけなんだけど……」

 そこにあったのは今にもテーブルから崩れ落ちそうな──たぶんドラゴンは素材の山だ。何だったらテーブルに乗らなかった巨大な骨のせいで、ソファに並んで腰かけていたアシュレーお姉さんとエジリンさんは檻に入れられたみたいに目を見張っている。

「あら〜、さすが幻日様ね」

「これでドラゴン限定で、しかも全部ではないのですか」

「全部買い取ったら、うちが財政破綻するな。アシュレーが必要とする分を直接買い取る形で構わないか」

「アタシは全然構わないけど……幻日様、買い取らせてもらえるかしら?」

「しかし、ギルドにも在庫は少し欲しいですね。特に骨は珍しいですし、希少な薬にもなりますから」

「確かに。骨となると持って帰ってこれる人間は滅多にいないからな」

 それでもすぐに冷静になったようで、アルマナさんを含めた三人で相談を始めた後、何故か全員の視線が向いたのは主様ではなく俺のように感じるのは自意識過剰だろうか。

「ぢゅー?」

 あまりの注視に、俺の肩の上でテーミアスも怪訝そうに鳴いたので、どうやら自意識過剰ではないらしい。

 これは俺に主様へ聞けって意味か、と色々と察した俺は、出したんだから帰りましょう? と表情で語っている主様へと視線をやる。

 主様も俺を見ていたので、ばっちりと目が合う。

「あのさ、主様。このドラゴンの素材、ギルドへ買い取ってもらったり、アシュレーお姉さんになるべく格安で売ってあげたりは……「全て差し上げます」え?」

 俺の言葉を食い気味で遮って答えた主様は、その一言だけ残してそのまま応接室を去ろうとする。

 もちろん山盛り出した素材はそのままだ。

「おい。そういう訳にはいかないんだ。ジルヴァラのお願いに関係するアシュレーには、今回に限り底値ギリギリの値段で売ればいい。ギルドの方は適正価格で骨を買い取らせてもらう」

 俺が止める前に付き合いの長いアルマナさんが止めてくれたが、主様にしては珍しく舌打ちでもしそうな表情をしたのは見間違いだろうか。

 俺が見てることに気付くと、いつも通りぽやぽやしてるし。



「それと、ジルヴァラには話を聞いてる途中だからな?」



「ちっ」



「ぢゅ!?」



 今度は完全に舌打ちした主様に、俺の肩の上でテーミアスが驚いて尻尾をふくらませる。

 主様が足を止めたので、アシュレーお姉さんが近寄って来て話しかけ、自分の欲しい素材と値段を提示して、商談が始まる。

 テーブルの方ではアルマナさんとエジリンさんが、たぶん冒険者ギルドの懐具合と相談しているようなので、機密情報だろうそれを聞かないようにと意識を主様へと戻す。




 主様としては在庫を放出出来る良い機会だと思ったんだなぁと不機嫌そうなぽやぽや顔を見つめて訳知り顔をしていたら、アシュレーお姉さんと話していた主様が俺の方を向いて、鼻先を一噛みされた。




 何でだ?

いつもありがとうございますm(_ _)m


主様が出せ出せうるさいので(え)、久しぶりに連日投稿です(*>_<*)ノ


まだ首は獲っていなかったようで何よりです←


感想などなどいつもありがとうございます(^^)


反応いただけると嬉しいです(^^)誤字脱字報告も助かります(。>﹏<。)

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― 新着の感想 ―
[一言] ジルちゃん、食われそうだな まぁ、いつか食われるか、、 楽しんでます!
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