202話目
強がりたい年頃なんでしょう。
「あー、元気が有り余ってるようで何よりだが、まずは自己紹介をしよう。俺は、トレフォイルのリーダー、ソルドだ。使う武器は剣だ」
呆れ顔で笑ったソルドさんが、パンパンと手を打って三人組を黙らせて自己紹介を始めた。
俺はどうやらフライングしてしまったらしい。
えへへと誤魔化すように笑っていると、ソーサラさんに捕獲されて抱き締められてしまう。
「僕はアーチェです。主に使う武器は弓で魔法も少々使います」
俺を抱き締めるソーサラさんを横目でちらりと見ながら、苦笑したアーチェさんが自己紹介をして。
「あたしはソーサラ。見ての通りの魔法使いよ」
最後にソーサラさんがキリッした顔で自己紹介をしたが、しゃがみ込んで俺をぎゅうぎゅうと豊かな胸へ埋めるように抱いてるので見た目的に締まらないかもしれない。
向こうの三人組も何ともいえない顔で見てきてるし。
あ、もしかして羨ましいのか。
男としてソーサラさんみたいな美人のお姉さんは憧れるもんな。
そんな現実逃避をしていたら、ソルドさんが「お前らも自己紹介しろ」と促して、数年後には痛い思い出になりそうなイキり具合の三人組が順番に口を開く。
「俺はググルだ。世界一の剣豪になるぜ」
ふふんと鼻を鳴らして笑いながら名乗ったのは、俺様っぽい陽キャみたいな色味の茶髪をした少年。何か調べられそうだなとか思ったのは俺の前世の記憶のせいだろう。
「ぼくはピースです。魔法を少々たしなんでいます」
眼鏡をくいっと持ち上げて、いかにも頭良さそうな雰囲気で名乗ったのはさらりとした栗色の髪の落ち着いた少年。ソーサラさんに抱き締められてる俺を冷めた目で見ている。
「オレはパジだぜ! 力には自信があるぜ!」
やたらと語尾に力の入った自己紹介をしてきたのは、ひよこのような色のつんつんした金髪の少年だ。顔いっぱいで笑っている。
「俺はジルヴァラ。ジルでもジルヴァラでも好きに呼んでくれよ。武器は剣を使ってる」
俺も流れに乗ってもう一度自己紹介したら、ソーサラさんから頬擦りつきで誉められた。
ソーサラさんは俺を甘やかし過ぎだろう。三人組からの『こいつ何』って視線が痛いんだが。
そんな中、
「あ! オレは斧! 斧使ってる!」
俺の自己紹介を聞いて、自己紹介の時に言うのを忘れたと気付いたパジが、元気良くぶっ込んでくる。
あの勢いだと、俺なら隣にいたら鼓膜破壊されそうだ。
三人組は同年代パーティーらしく、三人共冒険者登録最低ラインの十歳ぐらいに見える。
だから余計に俺みたいなチビが新人冒険者研修なはずのこの場にいるが不思議で、俺を不審そうに見てくるんだろう。
「ググル、ピース、パジだな。あー、ソーサラが抱き締めてるジルヴァラは、俺達が後見をしている特例冒険者だ。今日はお前らと一緒に新人冒険者研修を受けさせてやってくれ」
「は? そんなチビが冒険者?」
「どう見ても幼児では?」
「だよなー。今もママの胸に抱っこされてるし」
おー、ここに来てテンプレみたいないじり方されてると、ソーサラさんに抱っこされながら感動していると、俺を抱っこしているソーサラさんが深々とため息を吐いた。
「いくらジルヴァラが可愛くても、あたしはまだ産んでないわ」
これから産んでくれる気なのかと突っ込み待ちなのかもしれないが、俺に突っ込む勇気は無いのでへらっと笑いながら無言でソーサラさんに撫でられておく。
俺がチビなのも幼児なのも紛うことなき事実だし。
「まぁ、ジルヴァラの実力は実際見ればわかるが…………いい加減ソーサラはジルヴァラを降ろせ」
ソルドさんが渋面でそう言うと、ソーサラさんはやっと渋々俺を降ろしてくれ、俺達は新人冒険者研修の場である近場の森へと出発したのだった。
●
抱っこからは解放されたが、人混みで迷子になるからとソーサラさんが可愛らしくごねたため、俺はソーサラさんと手を繋いで街中を歩き、森へと続く道へ入ってもそのままで、小走りへ移行した。
他の面々ももちろん一緒に小走りだ。当たり前だが、手は繋いでない。
森へ入ってしまったので、もう人混みで迷子になる心配もないと思うが、ソーサラさんの手は離れる気配はない。
ここら辺はそこまで危険な動物も、モンスターも滅多に出てこないので大丈夫だとは思うが、やはりいざという時のために両手は空けておきたい。
「な? ちゃんと、ソーサラさん達の目の届く所にいるからさ?」
一旦立ち止まった時にそう説得して、俺の両手は自由を取り戻した。決心が揺らぐので、寂しそうな表情をしているソーサラさんの顔はなるべく見ないようにする。
そんな俺達のやり取りを見て、あの三人組が絡んで来ないはずもなく……。
「はっ! 全く、こんな、チビを、連れてくるから、だ……」
「ほん、とに、そうですよ、ね……っ」
地面へしゃがみ込んだ体勢で、ゼェゼェと肩で息をしながらも絡んでくる根性は、ほんの少しだけ尊敬する。
「……とか言ってるけどさ、ググルとピースは息切れしてるけど、あのチビは全然息切れしてないな」
俺があえて脳内でも指摘しなかったことを、三人組で一番体力のあるパジが悪気の無さそうな笑顔で突っ込み、指摘された二人の顔色が一気に赤くなる。
休憩している意味がなくなるから、あんまり興奮させないで欲しい。
「べ、別に、俺は疲れてねぇ! そのチビに、合わせて、やってるんだよ!」
「ぼくは、肉体労働派では、ないんで……!」
興奮した二人は元気良く反論しているが、肩で息はしてるし、しゃがみ込んだまま立ち上がる気配はないので疲れてるのはバレバレだったが、俺はあえて気付かないふりをしておくことにする。
「えぇと、ありがと?」
俺に合わせてくれてるらしいググルには、何もわからない幼児ぶって笑顔でお礼を言っておいた。
「ふんっ!」
思い切り鼻で笑われたけど。
どうでもいいことだろうけど、ピースと同じく肉体労働派でないであろうソーサラさんは、俺と手を繋いだままという走りにくい体勢のまま走ってきたが、うっすら汗をかいているぐらいで息切れしている様子はない。
これも言わぬが花というやつだろう。
「あはは、何言ってんだよ、ピース! あっちのソーサラさんは魔法使いで肉体労働派じゃなさそうなのに、息切れしてないぜ?」
「っ!?」
俺が脳内ですら飲み込んだ言葉を、パジが悪気のなさそうな笑顔で言い放ってしまい、目に見えてピースの顔に動揺が走る。
「……体力は個人差あるし、別にこれからつけていけば良いだろ」
明らかに傷ついたような表情をするピースを見ていられず、いくらなんでもあけすけに言い過ぎだろうと思ったせいか、気付いた時にはずっと飲み込み続けていた言葉がするりと口から出てしまっていた。
「何だよ! 仲間内の事に他人が口を出すな!」
「パジと同じ意見なのは癪に触るが、全くもってその通りだな」
すぐに張本人であるパジと、だいぶ息が整ったらしいググルが反応して、敵意に満ちた眼差しと言葉が俺へと向けられる。
良くも悪くもわかりやすく真っ直ぐな少年達だ。
ただピースだけは、息が整ってないせいなのか、不思議そうに瞬きを繰り返して俺を見ているだけだった。
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