201話目
いつもの三人組と知らない三人組。
「なんか、寝てる時に色々あった気がする……?」
主様の隣で寝ててそんな訳ないかと思い直した俺は、寝顔も完璧な主様を堪能してその腕から脱出する。
日に日に寒くなってるせいか朝の拘束が強まってる気がする。
この時期でこんな感じなら真冬は抜け出せないかもしれないなぁと、ふふと思わず溢れた笑い声を慌てて手の平で塞いでベッドから降りる。
いつも通り通りすがりのプリュイに埋まると、人肌よりほんのりとあたたかくなっていて……、
「ジル?」
思わず二度寝しそうになってしまい、プリュイに呼びかけられてハッとして目を覚ます。
優しい表情でこちらを見下ろしているプリュイにえへへと誤魔化すように笑った俺は、プリュイと手を繋いで洗面所へと向かう。
顔を洗ってからプリュイに包帯を取り替えてもらい、またプリュイと手を繋いでキッチンへと向かう。
「今日は昨日炊いたご飯冷蔵庫に入れてあるから、おじやにしようかなぁ」
「オじや」
「ご飯お粥みたいにして、しょっぱい系でしっかりと味をつけるんだ。最近寒いからお腹の中から温まろうかなって思ってさ」
俺の説明を聞いたプリュイは、無言で少しだけ首を傾けると、伸ばした触手を俺の腹部へ巻きつけてくれる。
布越しに感じる温度は人肌より少し温かい。温めのカイロみたいな感じだ。
「あ……えーと、ありがと」
お腹が冷えるという風に勘違いされたんだなとは思ったが、プリュイの優しさも嬉しいし、お腹の温かさも快適だったのでそのまま巻きついていてもらうことにした。
●
おじやの具はシンプルにねぎと卵にした。で、食べ始めたのは良かったのだが……。
「あふあふ……っ」
冷まし方が足りなかったのかそもそも熱いとは思わなかったのか、思った以上に熱かったおじやに、俺が口を開けてはふはふと熱を逃していると、俺の口に熱々のおじやを突っ込んだ犯人である主様は俺以上におろおろして慌てていた。
珍しい光景に俺は口内の熱さも忘れて、慌てる主様を見て笑ってしまう。
「……ん。もう大丈夫だよ。主様は口の中まで最強なんだな」
何とかちょい火傷ぐらいで済んだ俺は、口の中の物を飲み込んでから悪戯っぽく言って、赤くなってるであろう舌を出して見せる。
俺に食べさせる直前、主様もおじやを食べていたのだが、冷ますような動作はゼロで直に口内へほいほいおじやを入れていた。
なので俺も『魔法で冷ましたのか』なんて思って警戒せず、差し出された木の匙をパクリと口内へ招き入れてしまって、さっきのはふはふ状態に陥ったのだ。
心配そうな顔をしたプリュイが持ってきてくれた水を飲むと、ひりひりとした鈍い痛みが走る。
「ちょっと、ひりひりするな」
思わずポツリと口から出してしまうと、主様が「何ですと!?」と言わんばかりの表情でこちらを見て、伸びて来た手に顎を掴まれる。
確認するのかと思っていたら流れで口内を舐め回されそうになって、ぶんぶんと首を横に振って止める羽目になる。
「大丈夫だから。次はふーふーして冷ましてくれよ? 俺は主様ほど熱いの得意じゃないからさ」
未だに心配そうな主様へへらっと笑って告げたら、次はシャリシャリに凍りついたおじやを食べさせられた。
主様にはちょっとだけ加減を覚えて欲しい。
そんなこんなはあったが、無事に朝ご飯を終えた俺は、いつも通りとなった冒険者ギルドへ続く道のりを進んでいく。
怪我をしてるのだから、とやたら主様が止めてきたが、採集依頼しか受けないと説得して出て来た。
第一王子の病気のせいで延期になったグラ殿下とのお茶会は、未だに流行り病が収束しないので開催は未定のままだ。
グラ殿下からは『あの野郎、流行り物好きだからって病気までもらうとか馬鹿じゃね?』と丁寧な口調で書かれた、極めて返事に困る手紙が来て以降は、手紙すら来ていない。
もしかしたらグラ殿下も流行り病にかかってしまったのかもしれない。
お見舞いに行きたいところだけど、それこそ『下々の汚い者が〜』って追い払われる未来しか見えない。
グラ殿下とかフシロ団長一家が特別なだけで、この間料理屋さんで会ったあの男の人の反応の方が普通なんだろう。
そんなことを考えながら乗り合い馬車に揺られていたら、いつの間にか誰かの膝上に乗せられていて、周囲からは微笑ましげな眼差しを向けられていた。
首を反らせて見上げた先にあったのは見知った美女の蕩けるような笑顔だ。
「あれ? ソーサラさん?」
「ええ、あたしよ」
きょとんとしてその名前を呼ぶと、ソーサラさんは蕩けるような笑顔のまま答えて、楽しそうに俺の頬を両手でもちもちと揉み始める。
「あー、ちなみだが俺もいるぞ」
「当然ですが、僕もいますね」
顔は背後からソーサラさんに固定されてほぼ動かせないので視線だけで声のした両側を見ると、呆れ顔をしたソルドさんとアーチェさんがいた。
三人はパーティーメンバーなんだから、一緒にいるのは当然か。
ソーサラさんに揉まれながら当たり前なことを思っていたら、両側から何ともいえない視線を向けられる。
「ほんっとにジルヴァラと会えて良かったよな」
「ソーサラが悪の道へ入らず済んだので、ジルヴァラには感謝しかありませんね」
ソルドさんとアーチェさんがそんなことを話していたが、俺には理解不能だった。
まぁ、ソーサラさんが良い方へ行ったのなら、俺の頬がもちもちとされてるぐらい我慢しておこう。
例え朝火傷したところが微妙に痛かったとしても。
●
「三人も依頼受けに行くのか?」
ソーサラさんの豊かな胸を遠慮なく枕にする形で頭を預けながら訊ねると、三人は揃って頷いてくれた。
ソーサラさんは背後で見えないけど、手触りの良い紫の髪が視界の端でさらさらと流れたので頷いてくれたとわかる。
「ええ。冒険者ギルドからの依頼で、新人冒険者に付き添って森へ行くことになっています」
三人を代表してリーダーであるソルドさんが答えるかと思ったら、アーチェさんが答えてくれる。なんか、そうなるよな、と思ってしまった失礼な気分は飲み込んでおいた。
代わりに別の疑問を口にする。
「あれ? 俺はそういうのなかったけど……」
首を傾げる俺に、
「ジルヴァラは特例冒険者ですし、必要なら僕ら後見の誰かが付き添うと思われたのでは?」
「何だったら今日ついてくるか? 一人ぐらい増えても大丈夫だろ」
「悪ガキなら困るけど、ジルヴァラみたいないい子なら大丈夫よ」
と、三人がそれぞれ答えてくれて、俺はトレフォイルの三人が引率する新人冒険者引率ツアーに参加することになった。
もちろん勝手に参加した訳ではなく、冒険者ギルドへ到着した時にきちんとエジリンさんから参加許可はもらってある。
「あなたには今さら必要なさそうですが……」
という、苦笑い混じりの意味がわからない言葉つきだったのが印象的だった。
俺も十分新人冒険者だと思うんだけど。
エジリンさんの言葉の意味を理解したのは、本日トレフォイルの三人から引率される新人冒険者パーティーと合流した時だった。
「俺らにこんな子供向けみたいな新人指導なんていらねぇんだよ!」
「その通りです。僕らはそこら辺の新人とは違ってきちんと学んできて、一人前の冒険者として活動出来ますから」
「なぁなぁ、早く討伐依頼とか受けさせてくれよ! バンバン倒してきてやるからさ」
あー『新人冒険者引率』ってそういう意味のやつかぁ、と納得しつつ、俺はトレフォイルの三人の前で喚いてある意味自己紹介している三人組の横に立って元気良く挙手する。
「今日お世話になります、ソロでやってるジルヴァラです! トレフォイルの皆さん、お願いします!」
ついでなんで、自己紹介ってのはこうするんだよと隣をチラ見してドヤ顔しておいた。
大人げない?
俺は六歳児なんでわかりませーん。
「ジルヴァラ、可愛いわ!」
あと、なんかソーサラさんには別の効果があったらしい。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなどいただけると嬉しいです(^^)
前回ボヤいていた件は、とりあえずスルーして静観することになりました。
幸いにも新しく入ったギルドの方も、フレンドの方も私を信じてくれているのでもう少し卒業延期しました。




