200話目
ついに来ました、本編通算200話目。
でも、変わらない日常です(^^)
「飛びます」
「え?」
フシロ団長のお屋敷を出て数歩歩いたところで不意に主様がボソリと呟いたかと思うと、俺は顔だけ覗かせた状態でローブの懐へと仕舞われる。
俺が全く意味がわからず疑問の声を上げるのと、景色が一変したのは同時だった。
グッと下へ引っ張られるような感覚の後、普段見ることのない高さで見える景色が後ろへ一気に流れていく。
今日は馬車を呼ぶ間すら待てなかったのかなぁと思いながら、外を眺めて風に吹かれていたら主様に顔だけ出してることに気付かれたらしく、片腕でローブの中へと全身押し込まれる。
何なんだと言いたくなるような状態なのだが、全く抵抗がないというか逆に落ち着く。
まるでいつもこうやって運ばれているような、そんな安心感がある。
親猫に首の後ろを咥えられて運ばれている子猫もこんな気分なのかなぁと呑気に構えていると、到着したらしく短くない落下感の後、着地の音が聞こえる。
今さらだけど主様は身体能力もパないのか、それとも魔法なのかはわからないが何事もなく着地したようだ。
ゴソゴソと衣擦れの音がしてローブの中から出された俺だったが、抱き上げられたまま降ろしてはもらえなかったのでそのまま屋内へと運ばれていく。
「オ帰りナサイ、幻日サマ、ジル」
主様がショートカットし過ぎたせいで気配を察知してから迎えに出てくるのに出遅れたのか、家の奥からてちてちてちとプリュイが小走りでやって来て笑顔で迎えてくれる。
そのふるふるした笑顔は一瞬で凍りつき、ビュンッと高速で伸びて来た触手の先が包帯に覆われた俺の腕をちょいちょいと突く。
「──誰ガヤッたンデスか、ジル」
ぶち殺してやりますよ、と言い出しそうなイイ笑顔で言い放ったプリュイに、俺はぶんぶんと首を横に振る。
「ちょっとした手違いで怪我しちゃっただけだから! なぁ、主様……って、主様もなんでそんな顔してんだよ」
プリュイをなだめてもらおうと主様を振り仰ぐと、無言で不機嫌そうにぽやぽやとしてる上に今入ってきたばかりの玄関の方をちらちらと見ている。
「トルメンタ様は……無罪って訳にはいかないだろうけど、一番悪いのは、ほら、その、例えばだけどさ、俺が誰かが魔法とかで操った剣で刺されたとして……」
わたわたと手を動かしながらこういう場合の定番であろう『操られて武器となった人より操った人の方が悪くね?』という説得をしようとした俺だったが、刺されたと仮定するのも駄目だったらしく主様の抱き締める力が強くなり、プリュイの触手が忙しくてちてちてちと全身を触ってくる。
「刺されてないから。例え話だからな?」
とりあえず二人共飛び出して行かないので、トルメンタ様悪くない、というのは不承不承ながら納得してくれてるんだろう。
今は俺が不安を煽るような例え話をしたのが悪かった。
「もー、絶対一番罪があるのって、唆したヤツだよなぁ」
主様とプリュイにもみくちゃにされながら俺が思わず苛立ち混じりに洩らした小声の呟きは、どちらにも聞こえなかったらしく移動中も変わらずもみくちゃにされる。
そのまま連れて行かれたのは洗面所で、手洗いうがいを済ませて、またわちゃわちゃとしながら運ばれていく。
抵抗せず大人しく運ばれていく中、次の目的地はキッチンだと気付く。
時間的には夕ご飯の時間だ。
確か冷蔵庫に鳥肉あったし、ささっと親子丼にするか。
スープは……適当な野菜突っ込んでミルク煮にとかするか。
相性とかはまぁ気にしたら負けだ。
吸い物とか『タロサの料理帳』で覚えるかと思いながら脳内でメニューを考えていたら、いつの間にか主様からガン見されていた。
「さらわれ「ません」」
言われることがわかったので、先回りして遮ってへらっと笑っておく。
主様が持ち上げて運んでくれたくせに、あまりにも無抵抗だから誘拐されるのではないかと心配になったんだろう。
というか、このやり取り何回もやるけど、俺ってそんなに拐われやすいと思われてるのか。
そんな内心が伝わったのか、目が合ったプリュイがイイ笑顔で頷いていた。
●
途中、卵片手で割れるのって格好いいよなと俺がポロッと言ってしまったために、主様が片手でコカトリスの卵を粉砕するというハプニングもあったが夕ご飯作りは問題なく終了した。
コカトリスの卵は余ったので、せっかくだからプリンに挑戦してみた。
ちょっと前に、俺がプリュイに抱きついて「プリンとかゼリーみたい」と呟いたのを覚えられていて、リクエストがあったのだ。
プリュイ本人から。
「おオォ……」
朧げな俺の記憶でも何とかふるふるに出来上がったプリンを前に、プリュイが驚きの声を上げて触手の先でプリンをちょいちょいと突いている。
少しすが入ってしまったかもしれないが、素人の朧げな記憶で作ったものなので許して欲しい。
いつも頼りにしている『タロサの料理』には残念ながらプリンの作り方は載ってなかったのだ。
似て非なるものな茶碗蒸しはあったので、今度は茶碗蒸しに挑戦してみたいと思う。
俺達の分の夕ご飯はすでにいつもの席に準備済みなので、プリンを前に感動しているプリュイを置いて、俺は主様が待つ暖炉前へと自分達の分のプリンを持って向かう。
蒸したてでほかほかのプリンだったが、プリュイが魔法で冷やしてくれたので出来立てでも美味しく食べられるだろう。
カラメルシロップは面倒だったので今回は無しにしてしまったが、主様もプリュイも気にしないだろう。
次回があれば後乗せでつけるのもありかなと考えながら、主様の向かい側のソファへ腰掛けようとしたがその前に捕獲されて主様の膝上に乗せられてしまった。
「……いただきます」
「いただきます」
色々諦めた俺と上機嫌にぽやぽやした主様。
俺も主様が嬉しそうなら嬉しいので、結局俺もへらっと笑ってしまい、和やかに夕ご飯は進んでいく。
主様は俺が『腕を怪我してるから一人で食べられない』と考えていたらしく、普通に親子丼を食べる姿を見てショックを受けてしまったので、途中から下手くそな腕痛い演技をして食べさせてもらうのは少し恥ずかしかったけど。
言うのも野暮だから言わなかったけど、怪我してるの利き腕じゃないし。
それ以外は特に問題なく夕ご飯は終了し、プリュイと共に片付けを終えた後は歯磨きをして、読み聞かせ付きの就寝時間となる。
プリン作成でちょっと興味が湧いたので今日はお菓子作りの本をリクエストしたら、森に住む魔女が作る子供や動物を捕らえる罠用お菓子の家の作り方の本だった。
さすがファンタジーな異世界だけあって、童話の世界は日常生活の一部らしい。
そんな身も蓋もない感想を抱きながら、うつらうつらしている俺が完全に眠りに落ちる寸前、また寒さに負けたらしい主様がベッドへ潜り込んでくる。
今からこんなに寒がって、真冬にはどうするんだろうとも思ったが、主様の気配が近くにある安心感に俺の意識はあっという間に眠りの淵へと転がり落ちていくのだった。
子供がすぅすぅという穏やかな寝息を立て始めたのを確認して、侵入者な青年は魔法人形の冷たい眼差しをものともせず子供の抱いていたぬいぐるみ奪って、子供の体を自らの方へ抱き寄せる。
ぬいぐるみを退かしたおかげでぴたりと寄り添う体勢になったが、子供はすんすんと微かに鼻を動かして相手を確認するような仕草を見せるだけで、先ほどまでぬいぐるみにしてたように青年へ抱きついてくる様子はない。
ほんの少し、控えめに青年の胸元へ額を擦り寄せるぐらいだ。
微かに「む」と言わんばかりの表情をした青年がしっかりと抱き締めて懐へと収めても、それは同じだ。
子供の眠りは深いのか、それとも青年の隣で安心してるからかは不明だが目覚める気配はなく、それを確認した青年は半身を起こしてしばし悩むような仕草を見せ、先ほど取り上げたぬいぐるみを子供の近くに置いてみる。
手がぬいぐるみに触れると、子供は条件反射のようにぬいぐるみへしっかりと抱きつく。
またムッとした青年は、ひょいっと子供の腕からぬいぐるみを取り上げると、今度は手近にいた魔法人形の体を鷲掴みして子供の方へと引き寄せる。
何をしてるんだ? と言わんばかりの呆れた表情をした魔法人形だったが、主人に逆らう気はないのか、子供の眠りを守ろうとしたのかは不明だが抵抗せず体の一部を引き寄せられるままに伸ばしていく。
伸ばされた魔法人形が置かれた先は相変わらずすやすやと眠る子供の側で。
魔法人形はいつものように適温になっていたのか、すぐに魔法人形へと体を寄せた子供はぬいぐるみを抱いていた時よりしっかりと魔法人形へ手足を絡みつかせる。
大好きな相手の慣れ親しんだ感触だったせいか子供の寝顔はふにゃりと蕩けて笑みを浮かべる。
魔法人形はオヤオヤと慈愛溢れる顔で子供の寝顔を見下ろしていたが、それが気に食わなかったらしい青年は視線だけで魔法人形に退くように圧をかける。
魔法人形は先ほどとは違う温度のオヤオヤという表情を見せ、子供の睡眠を邪魔しないようにそろそろと自らの体を子供から取り上げる。
この間、会話は一個もなく視線だけでやり取りをしていたあたり、この主従は意外と仲良しなのかもしれない。
抱きつく物が無くなってしまい、子供の寝顔が少しだけ歪んだのを見て、すかさず青年が抱き締め──るより早く、魔法人形が丸めた毛布を置いてやると子供はすぐにそれへ抱きついてすやすやと眠り始める。
ついに我慢しきれなくなった青年は、眠る子供から毛布を乱暴に取り上げ、代わりに自らが子供の隣へと横たわると、また子供をしっかりと懐へとしまい込む。
魔法人形に抱きついていた時より安心しきった表情になった子供だが、それでも青年へしがみつくことはなく軽く擦り寄った位置で穏やかな寝息を立てている。
それにかなり不満げな様子を見せていた青年だったが、子供の頬をちょいちょいと突くと「ぬしさま、だいすき……」という寝言が聞こえて来て軽く目を見張ってから、すぐふわりとした微笑みを浮かべる。
まさに花開くような主人の微笑みに、ひっそりと見守っていた魔法人形は安堵の息を吐いて静かに寝室を後にする。
どんな事からも主人と子供の眠りを守るため。
こうして今日の夜も穏やかに何事もなく更けていくのだ。
いつもありがとうございますm(_ _)m
読んでくださる皆様のおかげでここまで来れました。
いつも感想などなどありがとうございます(^^)
現金な人間なので、増えていく数字にもニマニマしております。
ここ最近更新が乱れていたのは、実はサービス開始からずっとプレイしているソシャゲがあるんですが、そこで身に覚えのない事でずっと私へ忠告というか犯罪紛いのことをしていると責めてくる方がいるんです。
元ギルドの仲間でしたが、そこのギルドを辞めて名前も変えて逃げてましたが、ここ最近また粘着されるようになりました。
それで精神的に病んでしまいまして。
知っての通り、私のメンタルおぼろ豆腐なんで(笑)
反論すると燃え上がるだろうと放置してるのですが、ついに他の方へ私の悪評を振り撒き始めたようです。
6年ほどしているゲームですが、そろそろ卒業しなければならないかもしれません。
記念すべき話なのに、気分かなりサゲサゲで申し訳ございません。




