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197話目

感想ありがとうございますm(_ _)m


切る場所がなく、今回長めです。

「ぐ……っ」



 俺が少し冷静さを取り戻せたのは、氷の壁をぶち破って倒れているトルメンタ様が低く呻きながらゆっくりと体を起こしたからだ。

 とりあえずトルメンタ様生きてた! と未だに混乱しきりの脳内のまま、俺はあえて主様の方へと駆け寄る。

 トルメンタ様がまだ正気じゃない可能性もギリあるし、何より主様の様子がおかしくて心配だったから。

「主様!」

 遠慮なんてする余裕もなく、俺は勢いのまま主様の足へと飛びつくようにして腕を回してしがみつく。


「…………ロコ」


 ギューッと力入れてしがみつくと、トルメンタ様へ追撃をかける気満々でひたとそちらを見据えていた主様の視線がやっと俺の方を見る。

 そこではじめて俺に気付いたように名前を呼んでくれた主様だったが、その表情は感情が抜け落ちたようで初対面の時より硬質で冷ややかだ。

 美人の真顔は迫力があるものだけど、主様ぐらいの美貌になると威力も半端ない。

 俺が恐怖からではなく顔面の良さに見惚れて固まっていると、主様は俺を引き離そうと無言で足を振り払う仕草を見せる。

 なんとなく対抗して無言でしがみつく俺。


 それが良くなかった。


 俺の目に余る行動は主様の気に障ってしまったらしく、離れろとばかりに手でぐいっと押されてしまう。

 それでも手加減はしてくれたのか、押す力の強さはそこまでではなかったが、たまたま主様の手が当たったのは先ほどの騒ぎで俺が一番深い傷を負った場所だ。


「いったぁ……っ!」


 意識しないようにしていたが、傷を押されればさすがに痛みで声も出てしまう。

 しがみついていた手も離してしまったが、すぐ気付いて再度主様を止めなければと振り仰ぐと、予想に反して主様はその場に立ち尽くしていた。

 呆然と立ち尽くす主様の視線が見つめているのは自らの手だ。


 しかも俺を押した方の手。


 俺が痛みを堪えながら、訝しんで主様が見つめている手を見ると、その手の平にはべったりと赤色が付着していて。

 その原因にすぐ気付いた俺はハッとしてさっき治療してもらったばかりの腕へと目をやる。どうやら出血は止まっていなかったらしく、せっかく着替えさせてもらった服の袖は血色に染まり始めている。

 徐々にその範囲は広がっていて、俺は思わずため息を吐く。

「せっかく着替えたのになぁ……」

 ポツリと呟いてから、またハッとした俺は自分がしがみついていた主様の足の辺りに目をやるが、幸いにもそこに血の汚れはついていない。

 まだ汚れが広がる前だったのか、ちょうど当たらなかったんだろう。

 けれどこれでしがみついて主様を止められなくなったので、次はトルメンタ様にしがみつくしかないかと忘れかけていたトルメンタ様を見ると、いつの間か上体を起こしてしっかりとした眼差しでこちらを見ている。

 その目にはあの虚ろな感じはなく、今はただただ申し訳なさそうに今にも泣き出しそうな顔をして俺の方を見ている。


「……トルメンタ様?」


「あぁ。──すまない、ジルヴァラ」


 その答えと表情で、トルメンタ様は正気に戻ったこと。

 そして、操られていた間のことを覚えていることを悟り、俺は衝動のままトルメンタ様へ抱きつきに行こうとして──背後から伸びて来た腕に捕らえられたせいで動けなくなってしまった。

「主様?」

 俺を抱き締めた状態でトルメンタ様へ攻撃はしないよな、とか考えながらしゃがみ込んで俺を抱き締め、動かなくなった主様の顔を覗き込む。

 そこにあったのは主様には似つかわしく無い怯えきった表情だ。

「主様、大丈夫か? 何かあったのか?」

 精神的にショックを受けているであろうトルメンタ様のことも気にかかるが、今は主様の方が心配だ。

 トルメンタ様のことはフシロ団長に任せれば……。

 主様の背中をあやすようにトントンと叩きながら視線だけでフシロ団長を探すと、ちょうど生け垣の中から起き上がった姿が見える。

 あちこちに葉っぱとかをつけた姿はどう見ても自らの意思で突っ込んだ人のものではない。

「主様、もしかしなくても、フシロ団長もふっ飛ばしたのか? なんで?」

 犯人であろう主様へ訊ねるが、まだ無言のまま俺を抱き締めているというか、しゃがみ込んでいるので俺へと縋りついてるように見えるかもしれない。

「……ジルヴァラを害そうとしたことがそいつにバレない訳ないだろ? まぁ、しかしここまで速攻でバレるとは思わなかったが」

 おかげで先に謝罪も出来やしない、と渋面になったフシロ団長は、トルメンタ様の方へと歩み寄りながら、俺へ縋りついてるようにしか見えない主様をちらりと見る。

「ジルヴァラの血に驚いて、死ぬんじゃないかと思ってるんだろうな、それは」

 ついにフシロ団長から『それ』呼びされた主様だが、聞こえていないのかずっと至近距離から俺の顔をガン見している。

「え? ……あのさ、主様。いくら俺が弱いからって、このぐらいの傷じゃ死なないからな?」

 斬れ味ばっちりな剣で傷つけられたので出血は派手だが、傷自体はそこまで深くも大きくもない。

 そう思って話しかけたのだが、主様はまだ動かない。

 仕方ないので俺は頭突きをするようにコツンと主様の額へ自らの額をぶつける。

「主様、ほらちゃんと俺を見てくれ。死にそうか? というか、死にそうなほどの出血してるとしたら、こんなぎゅうぎゅう抱き締められたらそれこそ出血多量で死ぬ……っ絞まる絞まる、死なないから!」

 そんな例え話をした瞬間、拘束する腕が強まったおかげで本当に死ぬかと思ったが、何とか主様の宝石色の目はきちんと俺を見て、少し落ち着きを取り戻したようだ。

「……わかりました。では、あちらを先に始末します」

「おう、わかってくれて良かった……って、トルメンタ様は悪くないんだって!」

 すくっと立ち上がってさらっとトルメンタ様の方へと向かおうとする主様を、足へしがみついて全身使って引き止める俺。

 トルメンタ様はトルメンタ様で、諦観溢れる笑みを浮かべてじっとしてるのは止めて欲しい。

「トルメンタ様に何かしたら、もう主様のこと、き…………」

 嘘でも『嫌いになる』とは言えないし、そもそもそんなのじゃ主様が止まってくれない可能性高いし、たぶんその後自意識過剰で俺が恥ずか死ぬ。

 少し体を離して上目遣いに見上げると、律儀に止まってこちらを見てくれてる主様と目が合い、俺は恥ずか死にそうな内心と戦いながら主様が止まってくれそうな言葉を探す。


 最終的に俺の口から出たのは……。


「き、今日の夕ご飯、主様の分無いから!」


 という食いしん坊以外絶対止まらないだろうという一言だ。

 フシロ団長の「ええー」という困惑顔まで視界の端で捉えてしまい、一気に恥ずかしくなった俺は、勢いのまま逆ギレに近い気分で言葉を続ける。

「えぇと、その、明日の朝も昼のお弁当も、おやつも無し! それと夜の湯たんぽ役もしな……っ!?」

 これはもう「それが?」の一言しか返ってこないだろうと開き直っていた俺の口は、屈み込んできた主様とゼロ距離になって物理的に塞がれてしまい、発しようとしていた言葉は行き場を失う。

 手が血で汚れていたからかと冷静な俺が頭の隅で訳知り顔で呟いてるが、さすがにちょっとびっくりしてしまい、主様の顔が離れていっても言いかけていた言葉はもう口から出せなかった。


「もう黙って」


 こんな真面目な場でくだらないことを言って足を止めさせて完全に怒らせたと凹んだが、ひとまず主様のヤル気を削ぐことは出来たらしく低音の囁きで俺をゾクゾクさせた主様は、先ほどとは違って振り払わず俺を足にしがみつかせて足を止めている。

 よく考えればそもそも主様は魔法で相手を殺れる訳だし、俺が足にしがみついてようが関係ないことに思い至ったのだが、手に付いた血が気になった主様がそれを舐め取ろうとしてることに気付いて全て吹っ飛んでしまった。



「執事さん! なんか主様の手を拭く物くださーい!」



 俺はこちらの様子を窺っていた執事さんに慌てて声をかけるが、すでに主様は血を舐めてしまっていて手遅れ感満載だ。

「主様、今拭く物もらうから、血なんて舐めるなよ!」

 俺は健康体だから病気はないと思うが、やはり衛生的にはよろしくないだろう。

 そう思いながら主様の腕へと触れると、きょとんとした眼差しが俺を見下ろす。

「ロコの血ですから」

 答えになってない答えがドヤッとした微笑み付きで返ってきたが、それはいつものぽやぽやな主様だったので俺は安堵からひとまず胸を撫で下ろす。

「なぁ、トルメンタ様、今は正気なんだよな?」

 主様の足にしがみついたまま、フシロ団長の手を借りて立ち上がったトルメンタ様を振り返って訊ねると、暗い表情のまま頷かれる。

「あぁ。言い訳になるが、普段はきちんと対策してるんだが……」

 正気も確認出来たので暗い表情のトルメンタ様が心配で近寄ろうとしたのだが、ぽやぽやとしてる主様によって抱き上げられてしまったのでそれは叶わなかった。

 俺を抱き上げる手がすっかり綺麗になってるのは、きっと魔法を使ったんだろう、そう思っておこう。

「ま、警戒されるのは当然だよな。ジルヴァラの怪我はおれがやったんだからな」

 少しだけ普段のトルメンタ様の雰囲気が出て来て俺が安心しているのを他所に、主様は抱き上げた首筋へ顔を埋めて猫吸いでもするように匂いを嗅いでいる……気がする。

 たぶんだけど、無事を確かめてくれているんだろう。そういうことにしておく、俺の精神衛生的な問題で。

 猫(俺)吸いをしている主様の頭を見つめていた俺は、ふと良い考えを思いついて主様へ声をかける。

 決してやって来たナハト様の視線が痛くて、猫(俺)吸いを止めさせたくて話しかけた訳ではない。

「主様、鑑定って人も出来る? 出来るならトルメンタ様鑑定してあげられないか? ほら、もう大丈夫だ、とか誰に魔法かけられたとか……そんな都合よくないか」

 自分で言っていて、そんなラノベの主人公みたいな鑑定な訳ないか、とバツの悪さから尻すぼみになっていく言葉と共に、口元へ自嘲的な笑みを浮かべていると、ぱたと猫吸い……じゃなかった……俺吸いを止めた主様が顔を上げて俺の目を覗き込んでくる。

「あれ相手なら出来ますが」

 ちらりと目線だけでトルメンタ様を示した主様は、ふんっと少しだけ不服そうに眉を寄せながらコクリと頷いてみせる。

 さすがラノベのチート主人公みたいな主様だと内心で感嘆の声を上げながら、俺も目線でトルメンタ様を見ておねだりするように小首を傾げておく。

 俺のおねだりにどれだけ効果があったかは微妙だが、主様は一応やる気になってくれたらしく少し離れた場所にいるトルメンタ様の方をじっと見る。

「……健康体ですね。精神魔法の影響は、私が吹き飛ばしたのでもうありません」

 あー、あれってそういうことだったのか、とか、主様だと物理的に吹き飛ばしてどうにか出来るんだとか色々頭を過ぎったが、何より頭を占めたのはトルメンタ様がもう大丈夫だということだ。

 その気持ちはナハト様も一緒だったようで、近づかないようにと押さえていた執事さんの腕を振り解いてトルメンタ様の元へと駆け寄って行く。



「トルメンタ兄上!」



 なんて麗しい兄弟愛とか思っていたら、抱きつくかと思われたナハト様の容赦無い飛び蹴りがトルメンタ様を襲う。



「「え?」」



 思いがけず俺とトルメンタ様の上げた声が重なり、ナハト様を受け止めようと腕を広げていたトルメンタ様の顔面へナハト様の飛び蹴りが直撃して、裏庭は静寂に包まれる。



 そんな中、着地を決めたナハト様はドヤ顔して俺を振り返って親指を立てているし、役目を終えた主様は我関せずに血の染みが広がる俺の腕を見つめている。



「ジルの仇は取ったからな?」



「お、おう」



 派手さの割にトルメンタ様にはダメージ無さそうだし、これでナハト様の気が晴れたなら良いかと、俺は引きつった顔でナハト様へ向けて頷きながらそんなことを考えていた。

いつもありがとうございますm(_ _)m


垢バン怖いので、ガッツリな濡れ場を書くとしたらここには無理ですが、主様はギリギリを攻めそうですね、色々な意味で←


ハッピーエンド大好き人間が書いてますので、たぶん最後までこんな感じでぽやぽやとしてると思います(*´∀`*)


なのに主人公痛めつけるのは病気みたいなのものなので、すみません(*>_<*)


感想などなど反応いただけたら嬉しいです(^^)


もうすぐ本編も200話目……5話で終わらせるつもりだった私は、どう終わらせるつもりだったんでしょう。

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