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20話目

動ける筋肉、フシロ団長。


とりあえず体型のイメージは、プロレスラーさん。


その割に飛んだり跳ねたりアクティブです(ノ´∀`*)

「っ!」


 外から聞こえた緊急事態を報せる声に、思わず主様の足の上から飛び降りようとした俺を、主様の腕がガッチリとホールドしてくる。

「ロコ、ここにいなさい」

 確かに主様の側が一番安全だろうが、馬で並走しているはずの、顔見知りになった騎士さんやオズ兄の事が気になる俺は、何とか主様の腕から抜け出そうと身を捩る。

「主様! 外見るだけだから!」

 頑として主様の腕は外れず、俺は思わずフシロ団長を見るが、フシロ団長はすでにそこにはおらず、俺に見えたのは開いた馬車の扉から並走させた馬へ飛び乗ってヒャッハーしそうな勢いで走り去る後ろ姿だった。

「フシロ団長……」

 かろうじて剣だけ装備した軽装なフシロ団長に、俺が不安を隠せず呟いていると、馬車の扉を閉めて戻って来たドリドル先生の手が宥めるように頭を撫でてくれる。

「フシロ団長は盗賊程度に後れを取りませんよ。もちろん、他の団員もです」

「……うん」

 わかってるけれど、やっぱり不安は消えず、俺は外の様子に耳をそばだてる。

 聞こえてくるのは、速度を変えず走り続ける馬車の音と、剣戟の音、それと野太いいくつもの悲鳴。

「オズ兄、大丈夫かな……」

 俺が心配するまでもないだろうが、攻略対象者だと思い出してしまったせいで、余計に安否が気になってしまい、足を揺らしながら馬車の外を見つめる。

「オズ兄……ああ、騎士見習いのオズワルドですか。一番若手ですが、将来有望だと私の耳にも入ってきてます。彼なら大丈夫ですよ。信じてあげてください」

「そう、だよな」

 ドリドル先生の言葉に大きく頷いてはみたが、それで漠然とした不安が消える訳はなく、落ち着かない気分でそわそわしてると、不意に体を持ち上げられ戸惑う間もなく座席に降ろされる。

「主様?」

「またオズ兄、ですか……あのうるさいのが消えれば、ロコが安心するんですね」

 俺を降ろして、ポツリと何事か呟いた主様は、何の躊躇もなく馬車の扉を開け、そこから身を乗り出すような体勢になる。

「主様!?」

 もちろん馬車は未だに走行中なので、主様の長い夕陽色の髪がバッサンバッサン風で煽られるのを見ながら、驚きの声を上げる俺。その勢いのまま駆け出して主様を支えようとするが、その前にドリドル先生に捕獲されてしまう。

「ジルヴァラ、落ち着きなさい! あの方ならまあ大丈夫です」

 先程のオズ兄に対する大丈夫とかなりの温度差のある大丈夫に、俺は思わず抵抗するのを止めて、主様のバッサンバッサンしてる後ろ姿を見つめる。

〈爆ぜなさい〉

 前方を見据える主様の口から聞こえたのは、聞いたことがないけれど意味がわかるという、意味がわからない言語だ。生まれ変わってから覚えたこちらの言語でも、当たり前だが日本語でもない。

 聞き取れた意味通りのことが起こるなら、と俺が身構えたとほぼ同時に轟音が響いて、車体が左右に大きく揺さぶられる。外からは馬の嘶きと、御者さんらしき必死に馬を宥める声も聞こえてくる。

「……また派手なことを」

「主様の魔法? っていうか、フシロ団長とかオズ兄とか巻き込まれてないよな!?」

 俺を守るように抱え込んでくれていたドリドル先生は、呆れたように呟いて苦笑いしてたが、俺は新たな不安にドリドル先生の腕から抜け出して主様の側へ駆け寄る。

「そんな間抜けはしないです」

 駆け寄ってきた俺をひょいと抱え、何でもないことのようにポツリと答えた主様は、後ろ手ですぐ馬車の扉を閉めてしまったため、俺の目からはフシロ団長達の安否の確認は出来なかったが、主様がそう言うなら大丈夫なんだろう。

「今の、爆発の魔法?」

 元の位置に戻った主様から膝に乗せられ、俺はひとまず気になっていた事を口にする。

 あれが言葉通りの現象を起こす魔法なら、外で起きたのは爆発なのかな、と単純にそう考えただけの質問だった。

「……何故そう思うんですか?」

 だが、落ちてきた声はぽやぽやしておらず、俺は首を傾げて膝の上から主様を見上げる。

「何故、って、主様が爆ぜなさいみたいなの唱えてたから?」

「……そうですか」

 それで興味を失ったのか、適当な相槌の後、主様は猫でも撫でるように俺の頭を撫でている。

 俺の方はというと、フシロ団長達がどうなったか気になり過ぎてそわそわしていたら、落ち着きなさいとばかりにギュッと背後から抱き締められる。

 そこへタイミングよく、走ってる馬車の扉が開かれ、フシロ団長がドスンとダイナミック乗車してくる。

 馬車の御者も馬車を牽いてる馬も、フシロ団長が乗ってた馬も慣れていることなのか、馬車は何事もなく普通に走り続け、少しだけ並走していた馬は俺の視界からはすぐ見えなくなる。

「フシロ団長、すげぇ!」

 身軽そうに見えない体型のフシロ団長の曲芸かと見紛う素晴らしい動きに、俺は誉める語彙をあまり持たず、とりあえず興奮のあまり『すげぇ』を連呼する。

「……そりゃどうも」

 照れ臭そうな笑顔を浮かべて近寄って来て俺の頭を撫でてくれたフシロ団長だったが、先程まではしなかった嗅いだことのない焦げた匂いが鼻を掠め、俺は小さく鼻を鳴らす。

「団長、怪我人はいますか?」

「こちら側には大した怪我人は出てない。先生の出番はないな。後始末に数人残して、俺達はこのまま王都へ向かう」

 匂いを嗅いで首を傾げる俺に気付いたのか、ドリドル先生と話してたフシロ団長が険しい表情をして俺から少し距離を取る。

「ごめん! 別に臭いとかじゃなくて、さっきはこんな焦げた匂いなんてしてなかったから、気になって」

「……あぁ、そちらの方か。そいつの魔法の余波で少し焦げただけだ。他の奴らも特に大きな怪我はしてないから心配するな」

 俺の言葉を聞いて安堵を滲ませたフシロ団長は、ほんの少し焦げたシャツの端を摘んでいつも通り豪快に笑って見せる。

 そちらの方、という単語に内心で首を捻るが、騎士さんが皆無事ということに安心して脱力する。

「良かった……フシロ団長も、みんなも無事で。主様も、ありがとな」

「ロコが安心したなら良かったです」

 俺の髪を撫でながら、いつも通りぽやぽや笑う主様を何か言いたげな顔で見ているフシロ団長。

 主様やり過ぎたんじゃないよな、とちょっとだけ心配になるぐらいのガン見だったが、結局フシロ団長は何も言わなかったから、たぶん大丈夫だったんだろうと思いたい。

 ガタゴトと何事もなく街道を走り抜ける馬車。それを見ているのは、若草色の髪をした年若い騎士だった。



「オズワルド、生きてるな?」

 先輩騎士からの呼びかけに、少し呆けていた様子のオレは慌てて居住まいを正し、


「はい!」


と、気合の入った返事をする。

「幻日様の魔法は、本当に規格外だな」

「まったくだ」

 オレと先輩騎士達。お互い軽く煤けた格好だが怪我はなく、オレは改めて呆けてしまうような周囲の状況を見渡す。


 何ヶ所か焦げている地面。だが、あれだけの轟音でほとんど穴が開くこともなく、幻日様が乗られていた馬車はそのまま走り抜けていった。

「おい、早く片付けるぞ」

「……はい」

 幻日様と一緒に馬車に乗っているはずの小さな友人が気になって、オレが遠ざかる馬車をちらちらと見ていると、苦笑いした先輩騎士達に代わる代わるバンバンと背中を叩かれる。

 すみません! と声を張り上げて気持ちを切り替えたオレは、用意された大きな布袋を片手に自分の前の焦げた地面へと視線を落とす。

「規格外、というか、これはもう……」

 先輩騎士の一人が思わず洩らした呟きの原因となるのは、馬車を襲って来た盗賊達──ただし、誰一人原形は留めておらず、ほとんどが真っ黒く焦げ落ちて砕け、人であったかすら怪しい物体と成り果てたモノだ。

 せめてもの幸運なのかはわからないが、オレに見えたのは収束する炎の玉に飲み込まれ一気に爆ぜた様子で、あれなら死の痛みはほとんど無かっただろう。誰も確認のしようはないが。

 それは例外なく……街道脇で合図を出していたであろう仲間すら、同じような物体と成り果てて発見されていて。

「……さすが幻日様、か」

 一人の騎士の呟きに、真っ黒く焦げ落ちた死体の一部を布袋へ拾いながら、先輩騎士が同じような畏怖に満ちた瞳を馬車が走っていった王都の方へ向ける中、オレは布袋を掴む手にギュッと力を込める。



「……化け物だろ」



 自分の口からポロリと出てしまった呟きに、オレ自身が一番驚いて周囲を見渡すが、幸いなのか先輩騎士達には聞こえなかったらしい。

 オレは小さく頭を振って不穏な考えを追い払うと、唇を引き結んでどの部位かすらわからない黒い物体へと手を伸ばし、無言で布袋へと拾っていった。

「うわぁ……っ!」

 やっと外を見る許可が出たため、馬車の窓に張り付いて外を見ていた俺は、目の前に広がった光景に感嘆の声を上げる。

 前世の記憶が蘇ってから……というかそもそも森で暮らしていた俺にとって、メイナさんの住んでた村以来の人の住んでる場所となるが、村から王都は格差がとんでもなかった。

 まず目に入ったのは、王都を囲む高く積み上げられた石壁だ。あの高さなら、ドラゴンでも来ない限り大丈夫だろう。

 その高い石壁越しでも見えてるのが、王都ってぐらいだし、城のてっぺんの部分だと思う。

 俺の薄っぺらな知識じゃ、✕✕国の〇〇城に似てる! とか出てこないのが残念だ。

 どうやら前世の俺は海外旅行とか興味がないタチだったらしい。

 でも、Theファンタジーな城は素直に楽しみなので、俺は門番が控えている巨大な門の方へと視線を向ける。

「そんなに楽しみですか?」

 座席から俺が落ちないか心配なのか、俺の腰を掴みながら尋ねてくる主様は、ワクワクしてる俺とは逆にどこか浮かない顔をしている。

「あぁ、もちろん! これで俺も冒険者って名乗れるんだぜ?」

「…………そう言えば、ロコは冒険者になりたかったんでしたね」

 そう言えばと出てくるまでの間から推測する……までもないが、どうやら主様は俺が冒険者志望だと忘れていたらしい。

「まずは冒険者ギルド行こうぜ?」

「ええ、構いませんよ」

 ぽやぽやと頷く主様に、へらへらと笑っていた俺だったが、ドリドル先生から出た一言に膝から崩れ落ちそうになる。



「冒険者登録は、確か十歳からではなかったですか?」



「え!?」



 マジですか!? と主様を見やるが、ぽやんとした表情で首を傾げられる。

 聞く相手を間違えたか、と次いでフシロ団長を見やると、顎髭を撫でながら困った顔で頷かれてしまい、俺は今度こそ膝から崩れ落ちた。

いつもありがとうございますm(_ _)m


オズ兄、死亡フラグを建てていく←

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