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193話目

戯れ合うショタまたはロリは尊いです←

 目覚めた瞬間、ほぼゼロ距離の美人さんに驚く一幕もあったが、そういえばと寝落ちする直前のやり取りを思い出した俺は、にへらと頬を緩めてその寝顔を堪能してからベッドを出て洗面所へ向かう。

 途中、すっかりお馴染みとなったプリュイへめり込む一幕を経て、朝ご飯を食べ終えた俺は少し休んで冒険者ギルドへ向かう。

 主様も俺が一人で出かけるのに慣れたのか、出かける時にも何も言われなくなった。

 それはそれでほんのちょっと寂しいが、それより認められたみたいで嬉しい。

 気分は上々だが、仕事でも何でも慣れ始めた時が危ないと言われてるので、俺は改めて気合を入れ直して今日の指名依頼へ向かうことにした。




 のだが……。

「昼ご飯までごちそうになっちゃったし、午後からどうしようかな」

 そもそも今日の指名依頼はケーキの配達と遊び相手兼話し相手なので、入れ直した気合は少々持て余し気味となって消化不良だ。

 お昼まで引き止められて、美味しい昼ご飯までお腹いっぱいごちそうになってしまったので、物理的にお腹が重い。

 依頼達成の報告をした後、腹ごなしも兼ねてぶらぶらと道を歩いていると、後方からガタゴトと馬車の走る音が聞こえてきたので道の脇へと少し体を寄せる。

 そのまま通り過ぎるかと思った馬車だったが、ゆっくりと速度を緩めたかと思うと少し進んだ先で停車する。

 たまたま? まさか人拐い? と少し警戒して足を止めて様子を窺っていると、馬車の扉が開いて満面の笑顔をこちらへ向けるナハト様が顔を覗かせる。

「ジル!」

 俺の名前を呼んでニカッとした笑顔を浮かべるナハト様は、見慣れない服装をしている。

 いや……見慣れない服装なのだが、何故か微妙に見覚えがあるというか既視感がある気もする。

「ナハト様、何処かへ出かけるのか?」

 奇妙な既視感に内心で首を傾げながらナハト様へ訊ねると、ぶんぶんと首を横に振って自らの着ている服を摘んで見せてくれる。

「逆だ、逆だ。ほら、学園から帰ってきたとこだ」

 着ている服を見せて学園から帰ってきたとアピールするということは、学園の制服なんだろうなぁと改めてナハト様の服装を見た俺は既視感の理由を悟る。

「がくえん……」

 ナハト様の服装に見覚えがある訳だ。

 ナハト様の通っている学園とは、ヒロインちゃんが冒険者しながら通っていて、ナハト様やニクス様、それにグラ殿下とかの攻略対象者も通ってたゲームに出て来る学園だ。

 もちろんゲームの舞台になったからには制服姿の攻略対象者の立ち絵もスチルもあったので、俺の薄ぼんやりとしたゲーム知識でも覚えられていたらしい。

 俺の知る前世のブレザーよりきらびやかな装飾のあるファンタジーなブレザーは、コスプレとかで見たら違和感ぱねぇ感じだけど、ファンタジー世界の美少年なナハト様には似合っている。

 ニクス様やグラ殿下も違和感なく着こなすだろう。

 そんなことを考えているうちに、俺はナハト様にぐいぐいと手を引かれて馬車へ……乗れなかったので同乗していた執事さんに抱えられて馬車へ乗せられる。

 一歩間違えば人拐いにしか見えない光景だ。

「オレ、今日は帰ってから父上に剣の稽古つけてもらうんだぜ。ジルも一緒にやらないか?」

「え? あ、うん……でもいきなり迷惑じゃないか?」

 ぴったりと右隣にくっついて腰かけて話しかけて来るナハト様に、俺は反射的に頷いてからちらりと執事さんへ視線をやりながら訊ねる。

「ジルなら良いだろ。な? ヘイズ」

「ナハト様が良いとおっしゃるなら、旦那様は特に何もおっしゃらないと思いますが……」

「旦那様は……?」

 まるで他の誰かが口を出してくることを想定しているような執事さんの言葉に、俺は確認の意味を込めて執事さんを見つめてみたが返ってきたのは静かな微笑みだけだ。

「オレは良いに決まってるだろ? ……あ! えっと、もしかしてジルは予定とかあったか?」

 今さらながらその可能性に気付いたのか、喜色に満ちていたナハト様の顔が一気に曇って、隣に腰かけている俺の表情を心配そうに窺ってくる。

「いや、大丈夫。ちょうど依頼達成の報告して帰る途中だったから、予定はないよ」

 俺がへらっと笑ってそう答えると、ナハト様の表情があからさまにホッとして、安堵から脱力したのか俺の方へ体重をかけて寄りかかってくる。

「……そっか、良かった。オレさ、学園で、あなた強引でワガママでしょ! って、変な女……の子に言われたんだ。ジル、嫌だったらちゃんと言ってくれよ?」

「変な子もいるんだなぁ。少なくとも俺はナハト様をワガママなんて思ったことはないけど。少し強引なとこもあるけど、嫌だったら俺はすぐ言うし、ナハト様はちゃんと俺の都合も聞いてくれるだろ?」

 寄りかかってきたことにより、俺の目線より下になった頭をぽんぽんと軽く叩きながら素直な言葉を告げたが、ナハト様はまだ気にしているのか少し表情が硬い。

 確かに乙女ゲーム本編のナハト様なら俺様系担当だったから『強引でワガママ』かもしれないけど、今のところは多少の片鱗はあっても可愛らしいものなんだけどな。

「えー、その変な女の子より、俺の方がナハト様のこと好きだと思うなぁ」

 初対面の時のことを思い出しながら悪戯っぽく一言付け加えると、ナハト様は俺の言いたいことがわかったのか軽く目を見張ってから頬を染めて照れ臭そうに笑ってくれる。

「そうだな。オレの事を好きなヤツの言葉の方が重いに決まってる」

 そう言ってからナハト様はえへへと笑って横から勢いよく抱きついてきて、俺では受け止めきれず二人揃って座席へ倒れ込んでしまう。

 座席はふかふかなので背中への痛みはなかったが、俺より体格の良いナハト様に潰される形になったので一瞬息が詰まる。

「おや」

 ずっと空気だった執事さんの方からそんな一言が聞こえたが、特に怪我をしたりしてはなさそうだと判断されたのか手出しも口出しもない。

 そのまま子犬のように戯れてくるナハト様としばらく笑い合って色々話していたのだが、昼ご飯を食べてお腹いっぱいになっていた俺は人肌と程良い馬車の振動によって眠気を誘われて、抗うことも出来ず深い眠りへ落ちてしまっていた。

[視点変更]



「でさぁ……って、ジル?」

 ジルを下敷きにしてしまった状態で話しかけていたオレは、答えがないことを訝しんでその顔を覗き込む。

 するとそこにあったのは気持ち良さそうに寝息を立てる年相応の幼い寝顔だ。

 悪戯心からふくふくとして円やかな頬をつんつんと突くと、口元が緩んで笑顔になる。

「可愛いなぁ……」

 普段は一つ年下と思えないほどしっかりとしてて、負けん気が強いジルだけど、こうして眠っている姿はオレより年下だと思い出させてくれる。

「ジルヴァラ様はナハト様より小さくていらっしゃいますので、まだ午睡が必要なのでしょう」

 柔らかく微笑んでいる執事のヘイズの言葉を聞いたオレは、瞬きをして下敷きにしていたジルの上からゆっくりと体を退ける。

 ジルの昼寝の邪魔をしたら悪いからな。

 オレが退いたことで寒くなったのか、ジルがふるりと身震いして体を丸めるような仕草を見せる。

 どうしようかと悩んでいると、ヘイズが近寄って来て自分の上着を眠るジルへと掛けてくれた。

 それを見た瞬間、安心すると同時に胸の奥がモヤモヤして、オレは制服の胸元をギュッと握る。

 オレの制服の上着だとジルの全身を覆ってあげられないし、汚したりしたらと起きた時にジルが気に病むかもしれない。

 そう内心で言い聞かせても、モヤモヤは無くならない。

 さっきだってオレだけではジルを馬車へ引き上げられなかった。

 オレがもっと大きくて力があれば、ヘイズみたいにジルを抱えて馬車へ連れ込めたのに。

「だぁー!」

 増していくモヤモヤに思わず大声を上げると、慣れてるヘイズは軽く目を見張ってそれ以上の反応は見せず流してくれたが、眠るジルの方から「ん」と小さな声が聞こえてきて、オレは慌ててジルの顔を覗き込む。

 少し眠りが浅くなってしまったのか、投げ出されたジルの手がさ迷うように動いて、掛けられている上着を握ろうとする。

 何だかとてもそれが気に入らず、オレはさ迷うジルの手を取ってギュッと握ってやる。

 ジルの手はたくましい生活をしていただけあって柔らかくはないがオレより少し小さくて、握るとしっかり握り返してきてくれて、胸の奥にいたさっきまでのモヤモヤがパァッと晴れていってしまった。



 今度はふわふわする胸の奥を抱えて、オレは眠るジルの手をずっと握ってやる。



 初対面でのオレの最悪な態度を気にせず、仲良くしてくれる大切なオレの『友達』だ。

 臆面もなくオレのことを好きだと言ってくれる大事な大事な友達。



「オレも好きだからな」



 囁いた言葉に返事は当然ないが、握ったままの手がまた握り返してくれて、モヤモヤしていた気分なんか今度こそ完全に吹っ飛んでしまったのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


ジルヴァラは主様一筋です(*´Д`)


感想などなどいただけたら嬉しいです(^^)


ついに200話の大台が目の前に……(´゜д゜`)


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