189話目
今回は別視点のストーリーですが、ガッツリ本編です。
ちくちくちく主様ですが、素で言ってるので毒を吐いてるつもりではないという余計タチが悪いやつです。
感想ありがとうございます(^^)
[視点変更]
「ねぇ、グロゼイユ。森まで付き合って!」
寝起きで聞くには騒々し過ぎる声に起こされた俺は、見た目だけは愛らしいと言えなくもない少女──スリジエに引っ張られて森へ連れられて来ていた。
俺としてはお嬢ちゃんとでも呼びたいところだが、そう呼ぶとスリジエが癇癪を起こして手をつけられなくなるのでそう呼ぶしか選択肢はない。
まあ可愛い子の我儘を聞いてやるのも悪くない。
悪くないはないのだが……。
「もう! 何なのよ!」
目の前には初心者でも大丈夫だという触れ込みの森の浅い場所で動物達と戯れるスリジエの姿がある。
──現実逃避してても仕方ないか。
改めて目の前の光景を眺めてみる。
俺の目の前では、初心者でもそこそこ安全と言われている森で、人間を見たらすぐ逃げていくような小さな動物達から威嚇されまくるスリジエがいる。
可愛らしい少女と動物達という、音声がなく遠目からなら辛うじて可愛らしい取り合わせだが、実際は動物達からは盛んに威嚇の声が上がり、スリジエも元気良く怒鳴り返している。
ウサギや小鳥など攻撃能力があまりない動物達ばかりなので、今のところ攻撃はされていないが、何処からどう見ても敵視されているのは明らかだ。
「……スリジエ、何かしたのか?」
「何もしてないわよ! もう! どっか行きなさいよー! グロゼイユ、どうにかしてよ!」
「どうにかしてと言われてもなぁ」
さすがに何もして来ない愛らしい見た目の動物達へ剣や魔法を振るう気にはなれず、俺もお手上げ状態で少し離れた場所から見守るしか出来ない。
「もう! こうなったら強行突破するわ!」
威嚇だけで攻撃はされないので、開き直ったらしいスリジエは高らかに宣言して、草藪の中にある抜け道だという場所へ突っ込んでいってしまった。
相変わらず貴族令嬢らしからぬ行動力だ。
こういうある意味天真爛漫と言えなくもない所が、俺と同じくスリジエの後見をしてるあのクソガ……ギリギリ青年なエノテラは気に入ってるんだろうな。
俺としてはウケるだけだが。
「もう、止めてよ! この服高いんだからね!」
なら着てくるな、と言いそうになった言葉を飲み込み、俺はスリジエのスカートへ齧りついていたウサギをそっと外してやって、礼も言わず駆け出したスリジエの後を追う。
スリジエがかなりイライラしてきているので、動物達へ対していきなり魔法でもぶっ放されたら寝覚めが悪い。
そう思っての行動だったが、俺の行動はスリジエの行動力に負けてしまった。
小柄なスリジエなら身を屈めたぐらいで通り抜けられる穴は、俺には狭く前を行くスリジエから遅れてしまったこともあり、俺が穴を抜けた時には『ドゴォ!』という腹に響く音が響いてギョッとする。
幸いなのかそれとも最後の自制心でスリジエが外したのかはわからないが、スリジエの放った魔法は地面を抉っただけで動物達への被害はゼロらしい。
しかし、スリジエが『貴重な植物の生えている安全地帯』だと言っていた場所は、スリジエ自身の魔法によって見るも無惨な状態だ。
「スリジエ、やり過ぎじゃないか」
「だって! だって、あいつら、あたしを馬鹿にしてるのよ!? あたしは悪くない!」
怒りのまま魔法をぶっ放したせいかハァハァと肩で息をするスリジエは、呼吸を乱しながらも元気良く叫んでそこここでこちらを見ている動物達を睨みつけている。
今にも地団駄でも踏み出しそうなスリジエを、どう連れ帰るかと悩む俺とあんなの放置して帰ろうぜと囁く俺がいるが、何とか連れ帰る方向へ思考を傾ける。
ここで放置しても、どうせまた俺が呼ばれるのは目に見えてる。
「だからと言って、何もしてこない動物達相手に食べるために狩る訳でもないのに魔法をぶっ放すな」
「グロゼイユはあいつらの肩を持つの!?」
「そうじゃない、落ち着けスリジエ」
相変わらず話の通じないスリジエに、俺はどう説得したらと貼りつけた笑顔の下でため息を吐く。
「……黙ってもらえますか? 耳障りなので」
その言葉が聞こえた瞬間、俺は自分の心の声が洩れてしまったのかと反射的に口元を手で覆うが、声の主に向けられたであろうスリジエの視線は俺へではなくスリジエが破壊した箇所のさらに奥の方を見ている。
どうやら俺の心の声ではなく、第三者がここにはいたらしい。
しかも、発言の内容はスリジエの行動を咎めるものだ。
そのはずなのにその声が聞こえた瞬間、スリジエはキュルンという音がしそうな勢いで表情を変えて、そちらを振り返る。
「幻日様! こんな所で会えるなんてあたし達やっぱり……っ!?」
あまりの変わり身の早さに俺が呆然としてる間に、スリジエは姿を現した幻日様の元へと駆け寄ろうとしていたが、俺は別に止めはしなかった。
今まで聞いたことのあった幻日様の恐ろしい話しか知らなかったら一応止めてはみたと思うが、俺はつい先日あのおちびに対する態度を見たばかりなので少なくとも幻日様は女子供には優しいのだと、
──そう勘違いしていたようだ。
近寄ろうとするスリジエを見る目には一切の感情が見えず、おちびが『宝石みたいな瞳』と頬を染めて誉めていた瞳は深く暗い穴の底のようだ。
どう贔屓目に見ても好意がある相手にするような眼差しではない。
何だったらその辺の雑草を見ている眼差しより興味が無さそうだ。
「やっとあれが偽者だってわかってくれたのね……!」
この状況でその台詞を言えるなんて、本当に『面白い』女だが……。
「死にたいのか?」
思わず素の言葉が口から溢れたが、幻日様に夢中なスリジエは気付きもしない。
相手に愛称をつけて呼び、頭言葉には『私の』をつけて牽制して溺愛をしているのに、これでアレが偽者だとしたら目の前の化け物はとんでもない愚者だが……。
「ずっと思っていたんですが……」
幻日様の話し出しに、何度も会っているというスリジエの言葉は本当だったんだのかと、意外に思いつつもすっかり蚊帳の外な俺は傍観者に徹することにする。
それに、これでどちらの言葉を信じるべきかわかるだろう。
「えへへ、なに? やっぱりあたしの方が可愛いって? でも、そういうことはきちんと段階を踏んでから……」
頬を染めてくねくねとしながら自らの前に立つ恋する乙女な少女を、幻日様は相変わらずな眼差しで見ている。
あの表情と眼差しがスリジエを見ている……というより、視界に入ったので仕方なく視認しているようにしか見えないのは、俺の目がおかしいのだろうか。
実際、見られているはずのスリジエは頬を染めて、愛する恋人に会えた! と言わんばかりの顔をしているのだから。
「私はお前を知らないのだが? 万が一、知っていたとしても興味すら湧かない」
「……え?」
「何故、お前は自分が本物だと宣う? 私にとって、お前など壁のシミ以下だと言うのに」
つらつらと幻日様の吐いた言葉は、冷静な傍観者である俺でも予想外……予想以上に毒を孕んでいて、静かな怒りを感じさせる。
「な、なんで!? あたしよ? 聖女になる予定のスリジエよ? あなたの運命を──」
「あなたが聖女であろうとなかろうと、どちらでも私には欠片も興味はありません」
口調だけは元へと戻ったが、何だったら声の冷ややかさは増した気すらする。
たぶんだが、周りにいる動物達を気遣って幻日様は魔力を抑えているのだろう。
出て来た理由も、スリジエが動物達へ攻撃しようしたので姿を現したように思える。
つまりはスリジエの重みは動物達以下なのだろう。
それこそ、
「壁のシミ以下か」
それって相当下なんじゃと笑いそうになった俺だったが、状況が状況なので飲み込む。
このままだと下手をすれば、スリジエと共に俺も幻日様から消し去られる可能性すらある。
幻日様の魔法なら可能で、俺達にそれを防ぐ術などない。
「スリジエ、出直すぞ。押して駄目なら引いてみるのもありじゃないか?」
スリジエに向けて優しく声をかけるが、幻日様を見つめてぶつぶつと呟くスリジエには届いていない。
もう実力行使で……と俺が動こうとした瞬間、幻日様の背後──何もないただの大木の根に見えていた部分からひょこりと見覚えのある黒髪の子供が現れ、その銀色の目とばっちりと目が合ってしまい、見つめ合ったまま固まること数秒。
動き出したのは幻日様と、
「出て来てはいけません!」
ニヤリと勝ち誇るように嗤ったスリジエ。
「やっぱり偽者がいたわ! もう! まだ幻日様を騙してるのね!」
先ほどの怒りに任せた魔法より、さらに殺意を高めた魔法がスリジエから放たれ──るかと思われたが、スリジエは唐突に豪快な倒れ方で地面へ向かって倒れていく。
一応同行者の義理として受け止めてやると、スリジエの見た目だけは愛らしい顔面に貼りつく茶色が目に入る。
「テーミアス、か?」
それはこの森に住む幻の獣、テーミアスで。
何だかわからないが、ドヤ顔をしているように俺には見えた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなどいただけたら嬉しいです(^^)
感想でいただきましたが、そういう所まで書くことがあったら、ムーンライト?の方へ投稿することもあるかも知れません。ですが、今はこの幼児期のほのぼのいちゃいちゃが楽しいので、ジルヴァラにはゆっくり育ってもらおうと思ってます。
我慢出来ず、主様が噛んだり舐めたりしてますが、まぁ今のところはR15にギリギリ収まってる……はずなので。
ちなみにR指定なベッタベタのいちゃいちゃも大好物です←




