188話目
主様より怖がられる、さすがヒロインちゃん←
「みんな、大丈夫だから! 主様は俺の大好きな人で、えぇと厳密に言えば人間じゃないんだけど、優しい人外さんなんだよ」
主様を警戒して今にも逃げ惑って駆け出しそうな動物達に慌てた俺は、パタパタと手を振って身振り付きで主様が怖くないアピールをするが、動物達は『マジで?』と言わんばかりに……というか訴えながら俺と主様を交互に見ている。
これは俺が主様にくっついて、何もしてこないアピールをするしかないかと主様へ近づこうとするのだが、肩に乗っているテーミアスがぢゅぢゅと盛んに鳴いて止めてくる。
「大丈夫だって! 何もしてない相手に主様は手を出したりしないから」
その分、敵対したり危害を加えてこようとした相手には容赦ないけど。
付け足しそうになった蛇足でしかない一言は飲み込み、俺はへらっと笑って怯える動物達に戸惑っている主様へとゆっくりと近寄っていく。
固唾を呑んで見守ってくれている動物達の視線を感じながら、俺は主様の足元に辿り着いた。
俺の肩上でぢゅぢゅと鳴いてるテーミアスは、逃げ損ねたのか俺を守ってくれる気なのかわからないが、もふもふが首筋に当たってくすぐったい。
「主様、動物達怖がってるから、もうちょいこう存在感控えめに出来ないか?」
「……?」
存在感控えめにをおにぎりを握るようにキュッキュッと空気を握るようにして主様を見るが、無言のままきょとんとした表情で首を傾げられる。
「可愛い……じゃなくて、無理か」
どうやら主様は何もしてない自然体で怯えられてしまっているようだ。
しょうがないので先ほど考えた『俺がくっついて危なくないよアピール』という捻りのない名前の作戦を実行しようと思い、勢いよく主様の足へとしがみつく。
ここで下手にためらうと、動物達が余計怖がってしまうので本日は遠慮なく行く。
俺が無言でしがみついたからか、今度は主様を驚かせてしまったらしく、俺の体当たり程度で揺るがない体幹の持ち主な主様がゆらりと体を揺らす。
それでもふらつくことはなく俺をしがみつかせ、主様は無言でぽやぽやとしてじっとしてくれている。
「ほら、何にもしてこないだろ……え?」
太さは成人男性の普通だが大樹のように揺るがない足へとしがみついたまま、へらっと笑って動物達へ主様の安全性をアピールしていた俺だったが、無言で身を屈めた主様によって持ち上げられてしまう。
「ふぇ?」
思わず気の抜けた声を洩らすと、俺の肩の上でテーミアスもぢゅ? と間の抜けた声を上げている。
怖がっている訳では無さそうなので、俺の作戦はある意味成功したのだろう。
他の動物達も主様に慣れたのか主様の足元へ集まってきてくれたまでは良かったが、何故か皆一様に前足を持ち上げて俺の方へと伸ばしている。
後ろ足で立てる子達は後ろ足で立って両前足で、立てない子達は片方の前足を上げて器用にお手というかおいでおいでみたいな感じで宙を掻いてる。
「え? なにこれ、可愛いけど……」
返してと訴えながら主様を囲んで始まり出した奇行に俺が戸惑っていると、主様は動物達へ見せるように俺をギュッと抱きしめてくれる。
「ロコは私のです。返しません」
主様も動物達の警戒心を解こうとしてくれてるんだと思ったら違ったらしい。
同じ目線に立って、なんか俺を取り合ってる。
まぁ動物達は取り合ってるというより、大きなヤツに捕まった俺を助け出そうとしてくれてる気がする。
返してーと訴えてるし。
「大丈夫だって。主様はそろそろ帰る時間だから迎えに来てくれたんだよ。さらわれてる訳じゃないから」
このままだと主様が襲われて……も大丈夫だろうけど、その反撃で動物達が怪我しちゃいそうなので、俺は『俺がくっついて危なくないよアピール』を再開する。
主様に抱かれている際はあまりしていない……つもりの、俺自ら相手にギュッとしがみついて大好きホールド状態になる。
どうでも良いことだが、ソルドさんやトルメンタ様に抱かれた際は、扱いの雑さの不安もあるのでかなり本気でしっかりとしがみついている。
フシロ団長はあの体格と三人のパパさんだけあって、多少の粗さも感じられるが安心感もぱないので俺も全身を預けきっている。
改めて意識して抱きつくと恥ずかしいので、そんな抱っこ批評で脳内を落ち着かせながら、俺は動物達へへらっと笑ってみせる。
俺は捕まってるんじゃないぞー好きでココに要るんだぞーという気持ちを目一杯に込めて。込めなくても駄々洩れてる気はするんだけどな。
「ロコは私のです。返しません」
主様も張り合わないで欲しい。冗談でも嬉しくなるから。
鳥まで集まってきてしまい、かなりカオスになってきて空間だが、主様への警戒心と恐れは薄れたらしく、主様の肩の上へ降りてくる猛者も現れる。
主様がチラッと見ると慌てて飛び立つので、度胸試しみたいな扱いをされてるみたいだ。
それを見て俺がくすくすと笑うと、主様も優しく目を細めてこちらを見ている。
その柔らかい表情のくすぐったさに俺がえへへと蕩けきっていると、一斉に動物達が鳴くのを止めて同じ方向を見て動きを止める。
すぐにまた動き出した動物達は、先ほど主様が出現した時のように──いや、それ以上に嫌悪感というか悪感情が伝わってくる。
「ウザくてうるさいのが来る? 怖い訳じゃなくて?」
狩人とか冒険者ではないようだ。
そういう相手だったら、ただ『怖い』で逃げていくだろう。
動物達は各々逃げる準備をしながら、俺達へさっさと離れるか隠れるかした方が良いと伝えて来るので、素直に肩上のテーミアスの指示に従って隠れ場所にお邪魔させてもらう。
あの広場のさらに奥。
木の根で出来た丸い部屋のような空間があった。
ゲームでは入ったことのないというか入れなかった場所だ。
「ここって……」
「案内がないと入れないようになっています」
降ろしてもらった俺が辺りを見回していると、少し身を屈めている主様が木の根で出来た壁に触れている。
というか、冷静に考えれば主様がいたんだし、俺達は普通に逃げられたんじゃないかとその横顔を見ながら今さら気付く。
俺が肩の上のテーミアスと一緒に慌てていたから、ここまで付き合ってくれたんだろうな、主様も。
いくら俺みたいな足手まとい付きでも、主様が逃げられない相手なんていなさそうだし。
そんなことを考えながら地面に座って主様を見ていたら、怯えていると思われたのか動物達が俺の周りに集まってきて、俺はもこもこの中心部となる。
「……心配してくれてありがと」
しかし、主様に続いて動物達を怯えさせてるものって……あ、違うか、今来てるのは『ウザくてうるさい』だから怖くはない……、
ドォゴォッ!
「え?」
外から聞こえて来た明らかな爆発音に俺が声を洩らすと、集まってる動物達からも「ぴゃっ」とか「ひゃん」とか可愛らしい鳴き声が聞こえ、怯えて膝上に上ってくる動物達もいて俺はほぼ完全に動物達の中に埋まってしまう。
これは守ってくれてるのか、それとも俺に隠れようしてるのか微妙だが、身動きが取れなくなった俺が主様の方を見ると、すでに主様は入り口から外へと向かうところだった。
「ロコはここにいてください」
珍しいキリッとした表情で俺へとそう言い置いて、主様は振り返ることなく音の発生源である外へと消えていってしまう。
主様を見送った俺が怯えている動物達を宥めながら外の様子を窺っていると、肩の上で力強くテーミアスが一つ鳴く。
「任せとけって、なにするんだ?」
やたらと自信満々な可愛いドヤ顔の持ち主に連れられ、俺は主様が出て行った入り口の方へと近づいて行き、そこからそっと顔を覗かせると──、
見覚えのある濃い赤毛の青年を引き連れた真っ白な髪に金の目の可愛らしい美少女、そんな二人連れとばっちり目が合って思わず固まってしまった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
ちまちま進んでいっておりますが、ジルヴァラからの矢印の太さは変わらないのに、ヤバイことになっている主様からの矢印の太さ。そして、それに気付かないのがうちのジルヴァラクオリティ(*ノω・*)テヘ
感想などなどいただけたら嬉しいです(^^)




