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186話目

このままほのぼのと大きくなるまでこんなかんじの二人です。

「……今追い出そうとして」



「口答えはするな! こんなドブ臭い平民と一緒にいるなど、本当に貴様は弟とよく似ている!」



 俺を庇おうとしてくれるグロゼイユさんの緩い感じの反論が、中年男の怒りに火を注いでしまったらしい。

 俺の思い出したストーリーの通りなら仕方ないだろう。

 目の前の中年男は、グロゼイユさんの父である自分の弟へかなりの嫉妬心を持っていたのだから。



 それこそ殺してしまいたいくらいに。



「迷惑かけてごめんなさい! もう俺一人で戻れるんで……」

 これ以上グロゼイユさんと中年男間の悪感情が増えるとバッドエンドのルート入りそうで怖いので、俺は諍いの原因である自分が消えて中年男の怒りを収めようと頭を下げてその場から逃げ出すことにする。

 これで少しでも中年男が落ち着いてくれればと思って駆け出した俺だったが、突然ガッと首へかかった衝撃で前へ進めなくなり、一瞬息が出来なくなる。

「ガハ……ッ」

「っ! 止めてくれ!」

 咳き込む俺と、グロゼイユさんが思わず上げたような切羽詰まった声。それと中年男がいやらしくガハハと嘲笑う声。

 ゴホゴホと咳き込む俺が振り返ると、そこには底意地が悪い笑みを浮かべた先ほどの陰険な男が立っていた。

「二度も旦那様の視界を平民風情が汚して、謝罪もせず消えるつもりか」

 主が主なら従者も従者か。

 眇められた目には主と似たりよったりな苛虐心があからさまに浮かんで俺を見つめている。

 痛いのは嫌だし、グロゼイユさんへの攻撃の口実にもなりたくないし、俺は素直に謝ろうとしたのだが、その前にグッと思い切り頭を押さえつけられて思わず膝をついてしまう。

 幸いにも床はふかふかの絨毯が敷かれてるので痛みはほぼなかったが、驚いて頭を押さえつけてきた犯人である陰険な男を見上げると、床を指差される。

「何立ったまま謝罪しようとしてるんだ?」

 その仕草と言葉で、要求されている『謝罪』を悟った俺は深々とため息を吐く。

 これぐらいで傷つくようなプライドなんて持ってはいないが、さすがにちょっとムカついてきた。

 蹴られるの覚悟で言い返してやろうかと中年男を睨むと、すぐさまわかりやす過ぎる反応が返ってくる。

 体型に似合わず、神経は色んな意味でよく巡っているようだ。

「なんだその目は!」

 握った拳を振り上げる中年男を止めようとしたグロゼイユさんは陰険な男に邪魔され、中年男の拳が俺へ振り下ろされる、まさにその瞬間だった。



「私のロコに何をしてるんです?」



 俺の背後の方から聞こえてきた声の冷ややかさと物理的な空気の冷ややかさで、中年男は拳を振り上げた体勢のまま凍りついたように動かなくなる。

 何だったら陰険そうな従者の男も、グロゼイユさんすら動かなくなった空気の中、俺はあえて空気を読まずに表情を緩めきって振り返る。

「主様!」

 相手を確認する前に名前を呼んでしまったが、俺が大好きな主様の声を聞き間違える訳ないからな。

 内心で俺がそんな一人ドヤッとをしてると、ぽやぽやとしていなかった主様の表情に少しぽやぽやが戻って物理的な冷ややかさは少し薄れたような気がする。

 未だに中年男は真っ青な顔でガクブル状態だから、あくまでも気がするだけだが。

「ロコ」

 主様から目を離してたら不満そうに名前を呼ばれたので顔を向けると、すたすたと距離を詰めてきた主様によって跪いた体勢から立ち上がらせ……てもらえたついでに、そのまま抱え上げられる。

 一番の安全地帯に俺を確保して安心したのか、主様の表情がさらにぽやぽやとしてきて安否を確認するように間近から覗き込まれる。

「私以外の男と何をしてたんです?」

 心配をかけ過ぎたせいでヤンデレ彼女みたいな発言をしてくる主様を安心させようとへらっと笑った俺は、グロゼイユさんを視線で示す。

「トイレ行った帰りに迷子になって、あのお兄さんに案内してもらってたんだよ」

「……そうですか。で、その他は?」

 ふむ、とばかりに頷いてグロゼイユさんから興味を失った主様は、明らかに俺を害そうとしていたように見える二人をちらりと見て、答えを求めるように俺へと視線を戻す。

「えぇと……ほら、俺が悪戯でもすると思ったんじゃないか?」

 ここで俺が「虐められた」とか騒げばここは冷凍庫かボヤ騒ぎに……って、さすがにそこまで主様も過保護じゃないかと途中思い直したが、ガクブルする姿を見たらどうでもよくなったのでそのままの流れで肩を竦めて誤魔化しておいた。

 あんまり騒いでお店に迷惑かけたくないし。

「そ、その通りだ! どこの馬の骨かも知らぬが貴様も保護者なら……」

「旦那様! そのおと……その方は、あの幻日様でございます!」

 俺の言い訳に乗っかろうとした中年男を、真っ青になった従者が必死に止めたかと思うと顔を見合わせ、二人揃って転がるような勢いで遠ざかっていった。

「ロコがそう言うのでしたら、今は(・・)見逃します」

「ありがと……?」

 微妙に主様の発言の一部に強調された部分があった気もするが、俺は首を傾げながらお礼を口にしつつ、一人取り残されていたグロゼイユさんを振り返る。

「はぁ〜……。確かに夕陽色の髪に宝石みたいな目の美人さんだな、間違いなく」

 そんな独り言を呟いて手で顔を覆っていたグロゼイユさんは、俺の視線に気付くとニヤリと笑ってみせる。

「無事に大好きな保護者と会えて良かったな、おちび」

 主様を刺激しないようにしてくれてるのか、少し離れた位置からひらひらと手を振って悪戯っぽく話しかけて来たグロゼイユさんは、そのまま先の二人が消えていった方へと飄々とした足取りで去っていってしまった。

「色々ありがとな!」

 立ち去る背中に慌てて言い忘れていたお礼を伝えると、片手が気だるげに挙げられてひらひらと手を振って返される。

 ゲーム開始の数年前なのに、グロゼイユさんはもう『グロゼイユ』なようだ。本編のグロゼイユよりちょっとわかりやすく優しかったけど。

 まぁ、あれは俺が本編のヒロインちゃんよりさらに幼い幼児なせいかもしれないけど。

 匂い付けなのか主様に頬擦り付きで運ばれながら、俺はグロゼイユさんの背中が見えなくなるまで見送っていた。



 そのせいで俺がただの赤毛好きで、グロゼイユさんの赤毛を気に入って見惚れていたと主様からあらぬ疑いを掛けられてしまったりもしたが、それ以外は何事もなく部屋へと戻れた俺達は、店員さんへ挨拶をして店を後にする。

 お会計はとっくのとうに主様が終わらせてくれていたので、俺は主様へ「ありがと。ごちそうさまです」と告げて帰宅の途につく。



 ──先ほどの件もあるので、問答無用で主様へ抱えられたままで。

[視点変更]



「スリジエの話とずいぶん違うな」



 もともと話半分で聞いてはいたが俺が聞いていた話では、あの『幻日』様にまとわりついている子供は、本来なら彼女がいるべき場所を奪った偽者なのだということだったが……。



 初対面ではあのおちびがその『子供』だとは知らなかったが、トイレに行きたいと無警戒に見ず知らずの俺の服をギュッと掴む辺り、世間知らずで甘やかされたお坊ちゃんかと思った。

 しかし、その後の会話で親を知らず育ち、赤の他人に保護されているらしいと知らされる。

 しかし、世間知らずではなさそうだが、十分甘やかされてはいそうだ。

 初対面の時は、冒険者ギルドでもなかなかの有名な魔法使いである美女にでろでろに甘やかされて帰っていき、今日はというと──。



「とんでもない有名人が出て来たが、どう見てもあれは騙されていて偽者と共に……って感じじゃないな」



 そもそもあんなおちびがそんなことをするように見えなかった。

 よく子供に怖がられる俺へ怯える様子もなく笑いかけ、はぐれないようにと思わず握った手は小さかったが握り返してくる力は思いの外強かったのを覚えている。

「確認……いや、聞いても会話にならないか」

 言われることは何となくわかっている。



「あの方は騙されているの。あたしが正しいの。あそこはあたしがいる場所なの」



 改めて彼女が言うであろう言動を思い出しながら口に出してみると、そのおかしさに思わず笑い出しそうになる。




 どちらが正しいのかはまだわからない。




 だがあのゲス野郎から俺を庇おうとした真っ直ぐな銀の目は、キラキラと眩しく見えて。

 世界へ絶望しかけていた俺の目の前に無理やり割り込んできて、ギラギラと太陽のように輝いていた金色が、ほんの少しだけ何となく『ニセモノ』に思えてきてしまったのは気のせいだろう。




 握った手のあたたかさを思い出した俺はふっと笑い、無様に転がるような勢いで逃げて行った愉快な二人を追いかけるのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


BLタグが仕事をするのは、ジルヴァラがもう少し育ってからなのであしからず。

そろそろBLタグ詐欺と言われそうなので……。


相変わらずジルヴァラの中では、主様はちょっと俺のことを気にかけてくれるようになった、程度の認識です。


ジルヴァラからの矢印はずっと同じ向き同じ大きさですが、向こうからの矢印はというと……?


感想などなどいただけると嬉しいです(^^)


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