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19話目

前半フシロ団長視点で、後半主人公視点です。


もう隠す気のない主様と、気付きもしないジルヴァラ。

「寝たか」


 先ほどから何事か呟いて抱きついてきたり、胸辺りを叩いて戯れてきたり、無邪気そのものな仕草を見せていた子供の体から力が抜け、その顔を覗き込んで確認した俺は、そうポツリと洩らす。

「やはり怖かったんだろう。それを悟らせないとは、強い子だ」

 くたりとしていてもまだ軽い体を支え、俺はこちらを睨んでいる『あいつ』へと視線を向ける。

 いつも微笑んでいて浮世離れし、感情の揺れなど見せない相手が、今は明らかな妬心や執着を覗かせて俺を睨んでいる。

 周りからはふわふわと微笑んでるだけにしか見えないだろうが、付き合いの長い俺にはわかってしまった。

 これ以上刺激すると、隠しきれなくなった殺気や漏れた魔力で馬が怯えて走れなくなる。

「ほら、お前の膝を枕にして横にしてやれ。その方がゆっくりと休めるだろう」

 俺がそう言ってジルヴァラを抱える上げる前に、ゆったりとした動作ながら素早く動いた『あいつ』の腕がジルヴァラを奪う。

 そう、まさに奪ったとしか言えない動作だ。

 隣でドリドルが不快そうに眉を寄せたが、こちらはこちらでジルヴァラがお気に入りだから仕方ないだろう。

 しかし、お気に入りだとしてもふざけた二つ名で呼ばれているような相手を前に一歩も引かないあたり、本当にいい人材を見つけたと思う。

 『あいつ』に棘々した態度をとる理由も、偏見などではなくただジルヴァラ(幼い子)をきちんと見ておらず、倒れるまで働かせやがって、というジルヴァラを気遣う感情からなせいか、『あいつ』から敵意は抱かれてない。多少苦手だとは思われているようだが。

 ジルヴァラの頭を膝に乗せ、満足そうにふわふわと微笑んだ『あいつ』は、お気に入りだという髪をやけにゆっくりと撫で回している。

 無意識なのかは微妙だが、俺やドリドルが触ったせいだろうと思いながら、あれだけ撫でられても起きる気配のないジルヴァラの寝顔を見つめていると、不意に背筋がゾクリとする。

 反射的に視線を向けた先にあったのは、慈愛に満ちた微笑みをジルヴァラへ向けながらも、底冷えのする妖しい輝きの瞳で俺を見つめている『幻日』と呼ばれるに相応しい表情だった。

 馬車がガタゴト揺れる中で目を覚ました俺は、自分の置かれている状況が理解出来ず、ゆっくりと瞬きしてそのままの体勢で周囲を見渡す。

 眠る直前、俺はフシロ団長ソファで思い切り甘え倒した感じになっていたはず。

 そこまで思い出して、色々羞恥で悶えそうだったが、それを飲み込んでさっきから視界に入っていて、認めないようにしていた主様の寝顔を下から見上げる。

 どうやら、俺は主様の膝枕で寝かしてもらっているらしい。

 あまり他人に触らない主様だから、誰か膝枕してくれるにしてもドリドル先生かな、と思っていたので、しばらく思考停止してしまったのだ。

「……ロコ? 起きたんですか?」

 俺が身動ぐ気配で起きたのか、そもそも目を閉じていただけだったのかはわからないが、パチリとスイッチを入れたように目を開けた主様の声に、俺はコクリと頷いて体を起こす。

「膝ありがと。重かっただろ?」

「いえ」

 主様の隣に座り直すと、横から物言いたげな視線がやたらと突き刺さってくる。

「なに? あ、もしかしてよだれでも付けちゃったか?」

 常にないあからさまな主様の視線を受け、俺は慌てて口元を拭うが、汚れている気配はなくひとまず胸を撫で下ろす。

 そんな慌てふためく俺を、まだ主様は物言いたげなぽやぽや感で見つめてきている。

 救いを求めるように周囲を見るが、フシロ団長とドリドル先生は、何か仕事の話をしているのか、こちらを見ていない。

 が、俺が起きたことには気付いていたらしく、というか、この狭い密室で気付かない訳ないよな、と脳内で一人でボケて突っ込んで混乱していると、こちらを見たドリドル先生と目が合う。

「ジルヴァラ、具合はどうですか?」

「え、ああ、眠くなっただけだから。心配してくれてありがと」

 ドリドル先生にへらっと笑って返すと、フシロ団長も俺の方を見ていて足をポンポンと叩いて見せてる。

「到着までもう少しかかるからな。また座るか?」

「大丈夫。疲れたらお願いするよ……って、なに、主様?」

 フシロ団長の悪戯っぽい笑顔に、ニッと返した俺だったが、まだ主様はじっと俺の方を見ている。さすがに気になって主様へ声をかけると、ぎこちなく足をポンポンと叩く動作を返される。

「……えぇと、俺にそこへ乗れってことか?」

「はい」

 おずおずと尋ねるとコクリと頷いて、ぽやぽやから、ぱぁという笑顔になった主様に、俺はフシロ団長に返したのと同じ台詞を返そうとしたが、口を開く前に伸びて来た主様の手が俺の腰辺りを掴む。

「え?」

 有無を言わさず軽々と持ち上げられ、俺の体は主様の上に乗せられてしまう。

「いや、あの大丈夫……」

「好きにさせてやれ」

 すぐ降りようとした俺を制したのは主様ではなく、苦笑いしたフシロ団長だ。

「ロコは軽いですね」

 俺とフシロ団長のやり取りは聞こえているだろうが、主様は気にした様子もなく満足そうだ。

「……足が痺れる前に降ろしてくれよ」

 俺は諦めを滲ませて力なく笑うと、なるべく小さくなってお行儀よく横向きで主様に腰かけておく。

「……さっきみたいにしないんですか?」

「あれは、フシロ団長だったから……」

 さっきみたいに、とはフシロ団長にしてたみたいに抱きついたり、胸板をペシペシ叩いたりのことだろうが、主様みたいに細身だとちょっと遠慮してしまう。あと普通にキャラ的に無理だ。

 フシロ団長なら、大概のことは笑って許してくれそうだし。実際、さっき色々しでかした覚えがあるけど、気にした様子もなかった。

 そういうのを色々込めた『フシロ団長だったから』だったのだが、それを聞いたフシロ団長の顔が目に見えて強張っていき、俺は首を傾げてフシロ団長の視線を辿り、その先にいる主様を見やる。

「主様?」

「……ロコは私より、あちらがいいんですか?」

 まるで拗ねてるような主様の言葉に、俺はきょとんとして改めて主様を見つめる。

 気持ちが沈んでるせいか、そこには常より暗く妖しい輝きとなった瞳があり、俺をじっと見つめていて。

「そういう訳じゃないよ。主様とフシロ団長のどちらか選べみたいなこと言われたら主様を選ぶけど、座り心地はさすがに主様でも勝てないだろ」

 主様はもしかしたら脱いだらすごい系バキバキなのかもしれないけど、プロレスラー系ながっちりムチムチなボディのフシロ団長と比べてしまえば座り心地に関してはいまいちだ。

 背もたれにするのも、ちょっとためらわれる。間近になる顔面が美人過ぎて落ち着かない。

 それを全部説明は面倒なので、座り心地の一言で理由をぶん投げたら、主様は納得してくれたのか、じーっとフシロ団長の体を観察してるようだ。

「座り心地……」

「筋肉って力入れてなければ意外と柔らかいし、何よりくっついてるとあったかいんだよな」

「どう見ても、幻日様はフシロ団長より細身ですからね」

 ドリドル先生は、呆れた表情で笑いながら、サラッと主様へ追撃するのを止めて欲しい。

「……あー、俺を睨んでも筋肉はつかないからな? こればっかりは体質だろ」

 睨まれているらしいフシロ団長から、弱りきった様子の発言が聞こえて、俺は小さく吹き出してしまう。

「主様は主様のままでいてくれよ。ガチムチな主様はちょっと……」

 それでも美人だろうけど、違和感がパないってやつなんで、このままでいて欲しい。

「ですが……」

「もう……ほら、これでいいか? 重かったらすぐ言ってくれよ?」

 負けず嫌いなのかなんなのか、未だにフシロ団長をちらちらと見て固まらせている主様に、俺はため息を吐いて、フシロ団長にしたように主様を背もたれにして遠慮なく体重をかける。

「フシ……主様、王都までどれぐらい?」

 フシロ団長に尋ねかけた俺を止めたのは、シートベルトのように俺の腹部に回された主様の腕だ。そう言えば、前はヘルツさんに対して拗ねてたな、と思いながら主様へと質問し直す。

「何事もなければ今日中には着きます」

 ギュッと締めつける力を強めてアピールしてきていた主様から出たのは、そんなフラグ感満載の答えだ。

 一級フラグ建築士な主様の、いかにもなフラグ発言。どう考えても嫌な予感しかない。




「フシロ団長! 前方に盗賊です!」




 嫌な予感ほどよく当たるのは、異世界でも世の常らしい。

反応ありがとうございますm(_ _)m

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