184話目
まずは感想ありがとうございます(^^)
お高い店、私は行ったことないのでイメージで!←
帰り道、俺はぽやぽやと歩く主様へ声をかける。
「なぁなぁ、昼ご飯寄って行きたい所あるんだけど……」
普通の人なら買った物が邪魔で寄り道しにくいだろうが、うちには主様がいるので俺達は手ぶらだ。
なので遠慮なく寄り道をしたいと提案すると、主様はぽやぽやと頷いてくれる。
あ……そういえば、正確に言うと主様は手ぶらじゃなかったな。
また俺を抱えているから。
手を繋いで歩こうとしたが、昼間近なせいか人通りがさらに増えてきていて、足元をちょこちょこする俺の安否が不安になってしまったらしい。
不安そうに見つめられたら逆らうことも出来ず、俺は抵抗を諦めて主様に抱えられて行き先を指差して示すことにする。
向かうのは俺が冒険者ギルドの配達でお邪魔した料理屋さんだ。
昨日食べさせてもらったカレーピラフが今日から新メニューとして並ぶらしいので、せっかくだから主様と行きたいと思ってたのだ。
少し昼の時間としては早めだが、あまり混んでない方が有名人な主様も落ち着いて食べられるだろう。
美人過ぎるせいか有名人なせいか両方のせいかは不明だが、周囲の視線を集めまくる主様の横顔を見ながら考えていた俺は、たどり着いた先で自分の考えが甘かったことを思い知る。
「うわー、この時間でもこんなに混むのか」
二回ともすぐ裏口へ向かったので混み具合はあまり見ていなかったのだが、実際に目にした混み具合に俺は思わずボソリと洩らして抱かれたままなせいで間近にある主様を見る。
主様は気分を害した様子もなく「ここで食べたいのですか?」とぽやぽやとした表情で首を傾げ、満席にしか見えない料理屋の方へと歩いていく。
「すみません、今ちょうど満席でして……」
そして、当たり前だけど普通にそう言われてしまう。
「主様、待つの嫌なら俺は別の店でも良いぜ」
カレーピラフは今度持ち帰りさせてもらえばいいと、俺は主様の耳元で囁いたのだが、主様は不思議そうに俺を見てから店員さんに何かを見せている。
その途端、気の良い感じで良くも悪くも距離感の近かった店員さんの態度が一変する。
「──失礼いたしました。お席のご用意がございますので、どうぞこちらへ」
店員さんはぴしりと背筋を正したかと思うと満面の笑顔を微かな笑みへと変え、畏まった口調で別の入り口へと案内される。
重々しい扉が開かれた先は、伸びた廊下の両側に個室が並ぶ静かな空間だ。
向こうはあれだけの混み方をしていたはずなのにこちらへ喧騒は聞こえず、品の良い穏やかな音楽が流れていて眠くなりそうなぐらいだ。
内装も俺が見てもわかるくらい明らかに高そうで、場違いな雰囲気を感じて主様を見るが、主様はぽやぽやと微笑むのみだ。
どう考えても主様の権力でVIP席的な所に通されたんだよな、これ。
少し高めな大衆食堂だと思ってたけど、この料理屋さんはどうやらお貴族様相手でもきちんとやっているらしい。
「主様、俺ここ場違いじゃないか?」
「私のロコに文句を言うのなら、私が相手になります」
ドヤとする主様の言葉に、案内をしてくれていた店員さんの肩が微かに揺れる。
主様に限って口喧嘩ってことはないだろうから、反撃は実力行使だよな。
「主様、お店に迷惑になるようなことはしないで欲しいなぁ」
今まで主様の行動から考えると、相手の末路は氷漬けか丸焼き辺りだろうけど、どちらもあまり見たいものではない。
なので、全力で可愛子ぶってみたのだが、正直俺自身へのダメージが一番大きいかもしれない。
「……わかりました」
主様はしばらく無言で俺を見た後、ふわりと微笑んで頷いてくれたので一安心だ。
「痕跡すら残さず消し去ります」
ダメージを受けながらも胸を撫で下ろしていた俺は、何事か呟いた主様の声を聞き逃してしまったが、たぶん『我慢します』とか言ったんだろうと特に聞き直すこともなく、好奇心のまま周囲を見渡していた。
●
「こちらへどうぞ。ご用の際はそちらのベルをお使いください」
畏まって緊張しきりの店員さんに通されたのは、カップルが向かい合って腰かけて食事をするのにちょうど良さそうな個室だ。
入り口の扉はかなり厚そうなので、きっちり閉じたら聞こえるのは店内に流れる品の良い音楽と相手の声だけになりそうだし、カップルや夫婦想定の部屋なんだろう。
内装も何かちょっとムーディー? な雰囲気で少し落ち着かない。
「ロコ?」
店員さんが去った後、落ち着かない様子の俺の異変を感じ取った主様から名前を呼ばれ、俺はへらっと笑ってみせる。
「ここ高そうで落ち着かないだけだよ」
「ここはそこまで高くはないです。内装の値段でしたら、私達の家の方が高いです、一桁」
俺の緊張を解そうとしてくれたのか、ぽやぽやとした主様がドヤッとそんな冗談を口に……って、冗談だよな? え? 本当にうちの内装そんなに高いのか?
冗談とも本気ともつかない主様の発言にあわあわしてると、高そうな椅子の上に座らされる。
「ロコ、何が食べたいんですか?」
テーブルを挟んで腰かけた主様から訊ねられたが、注文の決まっている俺はニッと笑って「俺カレーピラフ食べたい」と簡潔に答える。
新メニューだけあって主様も初耳らしく、こてんと首を傾げて俺を見ている。
「カレーピラフ……ですか?」
「主様も好きだと思うから、一緒に食べようぜ? あとはわからないから、主様が適当に頼んでくれよ」
わくわくとする気持ちを抑えられず、緩みきっているであろう顔で主様へ訴えると、くすくすと笑い声混じりで頷いてくれる。
「わかりました」
主様がホテルの受付カウンターで見るような銀のベルを鳴らすと、すぐに先ほどの店員さんがやって来る。
「カレーピラフを二人前と、おすすめの肉料理を二人前、適当にスープを二人前お願いします。それと果実を絞ったジュースを一つ」
「かしこまりました」
一瞬ぴくりと店員さんの顔に動揺が見えた気がしたが、応える声にも笑顔にも崩れた様子はないので、俺の気のせいだったらしい。
そう思いながら、俺は今さらながら手元にあるメニュー表を手に取る。
内装に合わせたのか黒いしっかりとした装丁のメニュー表の中には、金字でメニューが書かれていたのだが……。
「……コース料理だよな、そういえばこういう高い店って」
そう。書かれていたメニューはコース名とどういう内容の料理が出るかという物。
前世で一度だけ行ったことがあったお高いレストランも、そういえばそうだったなぁとほろ苦い記憶付きで思い出す。
コース料理しかないのにこういう注文の仕方されれば、あの店員さんも微妙な表情になるよなぁ。それでもほとんど動じず返すあたり、さすがこちら側の接客任されてるだけあるな。
「ロコはコースが良かったですか?」
「主様と食べられるなら何でも良いけど、あんまりかしこまったのは苦手だな」
「では、このままで」
ベルに伸びかけていた主様の手は戻され、程なくして注文した全ての料理がワゴンに乗せて運ばれてくる。
おすすめを頼んだ肉料理は骨の付いた牛ステーキ、適当にと頼んだスープは綺麗な琥珀色したコンソメスープ、それと俺用にリンゴジュース。それとカレーピラフだ。
「ごゆっくりどうぞ。ご用がございましたら、遠慮なくお呼びください」
丁寧な挨拶を残して去っていった店員さんを見送って、俺達は「いただきます」と手を合わせて食事を開始した。
さすがお金持ち向けな料理は品良く美味しかったが、俺の舌には正直カレーピラフが一番美味しく感じられた。
貧乏舌なのか子供舌なのかは不明だが。
予想外だったのは、主様はカレー好きなのでカレーピラフも気に入ってくれると思ったのだが、主様は少し怪訝そうな顔をしながらゆっくりとカレーピラフを食べていく。
「あれ? 口に合わなかった?」
「いえ、でも……ロコの作るカレーの方が、私は好きです」
そんなさらに予想外な嬉しい台詞をもらってしまった俺は「トイレ行ってくるな!」と照れ隠しと生理現象から部屋を飛び出す。
主様が呼び止めてた気もするが、とりあえずパタパタと小走りでトイレへ無事にたどり着き、そして見事に──。
「どっちから来たんだっけ?」
迷子となってしまった。
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