幕の外3
今回は白いあの子のお話ですので、お嫌いな方は回れ右でお願いいたしますm(_ _)m
読まなくても本編には影響はなく、お前そんなことしてたのか、的な話ですので。
●我が世の天下?
無事にゲームより早く冒険者になれたあたし。
あまりにも上手く行き過ぎて、やっぱりあたしはこの世界の主人公なのと実感してしまったわ。
だけど現実となったこの世界は、ゲームの時と違って戸惑うことも多いから大変。
攻略対象者の行動パターンは全部覚えていたつもりだったのに、会えない攻略対象者もいるし、会えても上手くフラグが立たなかったりもするし。
「まぁ仕方ないわよね。いくらあたしが可愛くても、ゲームの時よりさらに幼いんだもの」
たぶん『小児性愛者』と思われたくないというブレーキがかかるせいで上手くいかないのだと思うから、そういう攻略対象者にはもう少し経ってから会えばあっという間にメロメロに出来ると思うの。
あたしは少し先の楽しい未来を思い、思わずくすくすと笑ってしまう。
「スリジエ? どうかしたのか?」
あたしの笑い声が聞こえてしまったのか、少し離れた所でモンスターを倒していたエノテラがあたしを心配そうに見つめている。
もう。エノテラはあたしのこと好き過ぎるから、ちょっと困るわ。
ま、このエノテラはあの乙女ゲームのメイン攻略対象者だったせいか、時間軸ではゲーム開始前だと言うのにほぼゲーム通りで攻略出来てしまうぐらい、チョロくて扱いは楽だけど。
誉めておだてれば勝手に色々してくれるし、おかげであたしはモンスターと戦ったりせず、冒険者としてのランクを上げるポイントを稼げている。
そうそう。
このモンスターとの戦いってのも当たり前だけどゲームとは違うのよねぇ。
あたしは後ろで見てるだけだけど、臭いし、怖いし、うるさいし。
ゲームではコマンドを入れたら、エフェクトを散らせて簡単に死んでいたモンスターが、血をまき散らしながら死にものぐるいで反撃してくるからウザい。
受けた傷だって、ゲームではちょろっとなんか唱えればどんな傷でもすぐ治っていたのに、今のあたしにはせいぜい掠り傷を治す程度しか出来ないなんて。
きっと覚醒のためのフラグが立ってないせいだから仕方ないけど、早く聖女として覚醒しないとあの人とのフラグが立たないし。
その代わりなのか攻撃魔法が使えるようになっていたのは、きっとヒロインとして転生したあたしへの神様からの贈り物だと思うの。
序盤モンスターの定番のゴブリンとか、化け物みたいに大きなネズミとかも一発で消し飛んだ時はびっくりしたわ。
それなのに過保護なエノテラは、スリジエは俺が守るから、とあたしをあまり戦わせてくれないの。
可愛過ぎるって罪よねー。
一緒に森へ来たのに今もあたしを安全な場所にいさせて、自分が剣を振るってモンスターを倒してくれている。
この世界には普通の動物もいるけど、モンスターとの差は魔力があるかないかぐらいで、どちらも食材として食べられている。
何だったらモンスターの肉の方が高くて美味しいのよね。
だから、あたしが出してるカレーの屋台では、わざわざ指示してモンスターの肉を使わせてる。
あそこは貴族街に近いし、高級な味が受けてあっという間にもとが取れると思ってたからモンスターの肉を使わせてたのに……。
「全然流行らないのよねぇ」
あたしは危なげなく戦うエノテラを微笑んで見守りながら、口内で呟いて思わず舌打ちまでしてしまった。
慌てて口元を手で覆い、エノテラの方を窺うが気付いてないみたい。
良かったと安堵の息を吐きながら、つい先日様子を見て来たカレーの屋台を思い出す。
長蛇の列となってると思っていた屋台は、閑古鳥がけたたましく鳴いてそうなガラガラ具合で。
呆然としていたら、屋台を任せている平民の兄妹が駆け寄って来て、
「お嬢様、言われた通りのレシピを再現したのですが、全く売れません」
と縋りついて来て。
「……そもそもあたしの言ったレシピを再現出来てないじゃない」
そこで初めて屋台のカレーを味見させてもらったけど、見た目はシャバシャバ過ぎるスープカレーで、味は芯のあるご飯のお粥に薄いカレー味を付けたような代物だったのよ。
なんなのあれ、あり得ない。
あたしはきちんとカレーライスの説明をしてあげたのに、どうして再現出来てないのかしら。
見た目からして不味そうだし、味も最悪だったカレーライスを思い出したあたしは、思わずまた舌打ちをしそうになったのをグッと堪え、そこで妙案を思いつく。
「そうよ、あたしがまず作って見せてあげれば良かったんだわ」
なんでこんな単純なこと気付かなかったんだろう。
一般人に口頭の説明だけで作られる訳がなかったのに。
思いついた妙案に、あたしは一人でうふふと笑ってしまい、またエノテラから不思議そうな眼差しを向けられてしまったので、誤魔化すように森の奥を指差す。
「モンスター狩るのは十分だから、そろそろ行きましょ?」
「スリジエが見つけた……安全地帯なんだよな? そんな場所がこの森にあったとはな」
感心しきったエノテラの言葉に、あたしはニッコリと微笑んでエノテラの手を引いて歩き出す。
これから行く場所は、あのゲームの中での特殊なイベントで出て来た場所だったんだけど、現実世界となったこの世界でもちゃんと存在してるのを確認済みよ。
あそこには高く売れる植物とか木の実が生えてるから、金策に重宝する場所だし。
変な動物達が邪魔してくるから、ゲーム内での知識を有効に使って裏商人から動物が避けていくっていう道具も手に入れて、場所の確保はバッチリだったはずなのに。
普通の人間にはまず見つからない場所。現にあたしが何度か訪れた時、他の人間が来たことなんてなかった。
それなのに──。
「冒険者ギルドの職員と……A級冒険者だな」
エノテラが隣で何か言ってるけど聞こえない。
慌てて入り口を塞ぐギルドの職員へ詰め寄ったけど、あたしの秘密の庭は見つかってしまっていて、今は何かの捜査のために入れないと言われてしまった。
押し問答するあたし達を嘲笑うように、小さな動物達が茂みを掻き分けて顔を覗かせてこちらを見て、あたしと目が合うと逃げ去っていってしまう。
その小馬鹿にしたような態度に、あたしはイラッとしながらふと気付く。
そういえばこれもゲームとは違う。
ゲームではヒロインは動物に好かれていて、このあたしの秘密の庭でもよく戯れていて、攻略対象者の好感度アップに一役買っていたのに。
現実となったここではそんなことはなく、動物達は普通に逃げてしまうし、何だったら問答無用で敵意まで向けられる。
「って、それより、どうして動物がここにいるの?」
あの道具を設置してから動物の類は一度も見ていないのに、今さっき思い切り動物達と目が合ったということは、あの道具に何か不具合が起きたのかもしれない。
「スリジエ? どういう意味だ?」
不思議そうに問いかけてくるエノテラを無視して、あたしは動物が避けていくっていうあの道具を設置した場所を目指して茂みを掻き分ける。
「おい、危ないぞ?」
心配性なエノテラの声を背中に受けながら、あたしはあの道具を置いた場所を覗き込む。
そこには何もない。
「ない……どうして?」
見た目はただの箱にしか見えない物を、わざわざ誰かが持ち去った? 何のために?
「わかった……あたしへの嫌がらせね!」
あたしが早く動き始めたから、ゲーム内の悪役キャラ達も早めに動き出して、ヒロインであるあたしの妨害を始めたのよ。
これは早速冒険者ギルドへ行ってしっかりと訴えないといけない。
あたしは強気が売りのヒロインなんだから、こんなことぐらいで泣き寝入りはしないんだから!
「おい、ちょ……待てよ!」
あたしが走り出すと、あたしのことが大好きなエノテラはきちんと追いかけてきてくれる。
あたしって愛されてるなぁと思いながら、か弱いあたしはすぐに息切れしてしまい、エノテラからお姫様抱っこで運んでもらっちゃったのは……まぁヒロイン特権よね。
そのままエノテラはあたしを冒険者ギルドまでお姫様抱っこで運んでくれたんだけど、汗だくで息切れしてなければもっとポイント高かったのになぁ。
って、今はそれより、あたしは正義の訴えをしないとね。
バンッと勢いよく冒険者ギルドの扉を開けると、中にいた冒険者達の視線が一斉にあたしを見る。
あたしを見た途端に、あちこちからヒソヒソと声が聞こえてくる。
あたしって特例冒険者だし、可愛くて目立つ有名人だから仕方ないわ。
悪意のこもった声も聞こえる気がするけど、これも人気者の宿命よね。
注目を一心に浴びる中、あたしは胸を張って颯爽とした足取りでカウンターへと近寄り、高らかに宣言する。
「ギルドマスターを呼んでもらえるかしら?」
こういう所では貴族令嬢らしい高貴な振る舞いを忘れないようにと心がけ、あたしはニッコリと微笑んで話しかけたのだが、受付の男の人の反応は芳しくない。
あたしみたいな可愛い子が話しかけてるのに何も思わないなんておかしいわ。
今日に限ってネペンテスは休みみたいだし、本当に間が悪い。
その後も何か色々言われて、ギルドマスターは呼べないの一点張りだから、あたしは仕方ないからあたしが正しいってことを、そして悪人から酷い目に遭わされたってことをハッキリと訴えたのに、連れて行かれた先は草臥れたサラリーマンみたいな副ギルドマスターだという男の人の前なのはなんで?
隣に座らされたエノテラが、ガチガチに緊張してるのも意味不明だし。
結局、ギルドマスターには会わせてもらえなくて、あの動物が避けていく道具は使用に許可がいる物だと静かな声で説明を受けたけど、納得がいかない。
あんな便利な物、使って何が悪いの? というか、道具は使うために存在してるのよ? おかしいじゃない。
幸いにも拾ったことにして買った場所は言わなかったから、取り上げられた道具はまた同じのを買えば良いのよね。
あたしってばあったま良いー。
自画自賛していたあたしは、エノテラが「まじかよこいつ」みたいな目であたしを見てたなんて気付かなかった。
「スリジエ、何で獣避けなんて物を使ったんだ? あれが……」
冒険者ギルドから出た瞬間、エノテラが責めるようなことを言ってきたから、あたしは気合で目を潤ませてエノテラの服をギュッと掴む。
「ごめんなさい……だって、あたし知らなかったの。あれがあれば、エノテラが怪我しないで済むと思ったの……」
そのまま弱々しく訴えて上目遣いで見つめると、チョロいエノテラはすぐにあたしを責めたことを謝ってくれ、お前に泣かれたら困るんだよ、とぶっきらぼうながら甘く囁いてくれる。
男って本当にチョロい。
あの草臥れたサラリーマンみたいな男の人も、あたしが「知らなかったの、ごめんなさい」と涙を流しながら謝ったら今回だけは不問にしますと見逃してくれたもの。
あたしはこの世界の主人公だから、当然なんだけどね。
いつもありがとうございますm(_ _)m
エジリンさんの対応はほだされた訳ではなく、「こいつ話聞く気ないな?」と諦めてさじを投げただけです。
ちなみにジルヴァラと全く同じ説明をしっかり受けてます。
・獣避けをやたらと置けない理由
・置いてしまうと起こる危険性
そんなことをきちんと伝えてますが、ヒロインちゃんは……。
ざまぁキャラですが、ちゃんと対応はされているんです。本人がざまぁフラグの方へと突っ走るだけで。
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