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180話目

倫理観はまぁジルヴァラなんで←

「……これは」



 山盛りにしたしょうが焼きとご飯を黙々と減らし、その合間にスープを飲んだ主様は珍しく驚いたような表情でボソリと声を発する。

「え? どうかした? 髪の毛とか入ってた?」

 珍しいリアクションに俺が慌てて声をかけると、主様はもう一度ゆっくりと味わうようにスープを飲んで、ふわりと微笑んでくれる。

 どうやら悪い意味の反応ではないな、と俺は安堵しながらも眼福な微笑みを浮かべてスープを飲む主様を見守る。

「以前、ロコが温まると作ってくれました」

「ん? あー、そういえば、俺に絡んできた男の人を主様が始末した前の日の夕ご飯に作ったな。あの日はかなり冷え込みそうだったから、ちょうど良いと思って作って、主様が気に入ってくれたのが嬉しかったのに、何で忘れてたんだろ」

 絡まれた記憶がウザ過ぎてそれに関連付けられたせいで思い出さなかったのか? としょうが焼きをもぐもぐしながら悩んでると、主様が目を見張って固まっていることに気付いて首を傾げる。

 今日は主様の珍しい表情ばかり見るなと思いつつ、瞬きせずこちらをガン見している主様を見つめ返す俺。

「私が……殺したと……?」

「知ってたけど」

 そこで驚くんだと逆に驚きながら、俺はこくりと頷いてへらっと笑ってみせる。

「悪いやつだったんだろ? でも、あんまり危ないことするなよ? 怪我とかしたら、俺泣くぞ?」

 倫理観ぶっ壊れてるとは思うけど、俺としてはちょっと話した程度のどうでも良い奴が死んだとしてもあまり動揺はないし、それより主様が怪我しなくて良かったなぁぐらいにしか思わない。

「ロコが泣くのは困ります」

 復活した主様からの食い気味の返答に、俺は「そか」とほっこりしながら頷いて夕ご飯を再開する。

「……怖がらないんですか?」

 訂正だ。主様の中ではまだ話が終わってなかったらしく、首を傾げたままじっと見つめられている。

「俺が主様を怖いなんて思う訳ないだろ。あ、綺麗過ぎてってことなら、たまにあるけどな」

 主様もそんな所気にしたりするんだと思ってしまった感情は出さないようにして、俺は主様を安心させようと何でもないことのように軽い相槌を打って食事を続ける。


 実際、何でもないことだから。


 しばらくじっと俺を見つめていた主様だが、嘘ではないと判断したのかぽやぽやと微笑んで食事を再開する。

 その姿に頬を緩めた俺は、空になったスープ皿を見つめる。

「主様も気に入ってくれてるし、また森へ行った時に探すか」

 俺にとっては食べると体が温まる野草だったが、アシュレーお姉さんによると熱冷ましを作る時に使えるらしい。

 俺の知識は食べられるか食べられないかで偏ってるし、ちょうど良いからじっくり図鑑を眺めてみよう。

 確か主様の棚買いしてくれた本の中に図鑑があったはずだ。

 そんなことを考えながらいっぱい食べてくれている主様を眺め、俺の夕ご飯は終了する。




 かなり多めに焼いたしょうが焼きは主様の胃の中へ綺麗に収まったようだ。

「コレが植物図鑑デス」

 お風呂はさっき済ませていたため、夕ご飯の片付けを終えた俺はベッドにうつ伏せで寝転んでプリュイが持ってきてくれた本を眺める。

 しっかりとした紙質の図鑑は、写真かと見紛うほど綺麗な絵が描かれていて、その下に植物の名前と特徴が書かれている。

 今日はこれを読み聞かせしてくれるつもりなのか、伸びて来たプリュイの手が本を支えて見やすい角度にしてくれていて、触手が文字を辿っていく。

「綺麗な花だな」

 俺がそう称したのは、今開かれているページに描かれている黒い彼岸花みたいな花だ。

 正直、綺麗だけど少し空恐ろしくもある。

「コレは猛毒デス」

 あまり難しい説明をすると俺が眠れないだろうと、プリュイは説明を簡略する気らしい。

 つるりとした面に浮かぶドヤとした表情に、俺はこっそり笑いながら次のページをねだる。

 次のページも美しい花が精緻に描かれていて、思いがけず眠る前の美術鑑賞みたいで良い夢が見られそうだ。

「コチラも猛毒デス」

「美しい花には棘だけじゃなくて毒もあるんだな」

 口に出して思い出したのだが、そういえばファンタジーじゃない前世の世界でも、色鮮やかな植物とか動物は毒を持ってることが多かった気がする。

 確か派手な動物とかはその見た目で『毒持ってます』アピールしてる聞いたことがある気がしたけど、それはこちらの世界でも言えるのかもしれない。

 誰にも披露出来ない考察を脳内でしながら、俺は柔らかい声音で紡がれるプリュイによる植物図鑑朗読を聞きながら、心穏やかとはいえない眠りへと眠りへと落ちていく。



 プリュイ、それただの植物図鑑じゃなくて、毒のある植物の図鑑じゃないか? という突っ込みを飲み込みながら。

[視点変更]



「眠リましタカ」

 植物図鑑など読み聞かされたせいか少しだけ眉間に皺を寄せた子供の頭を優しく撫でた青い魔法人形は、図鑑をパタンと閉じて子供へと布団を掛け直して部屋から立ち去ろうする。

 その足がピタリと止まり、瞳のない目が扉の方をちらりと見てから、意味ありげに子供の方へと向けられる。


「アー、ジルはココデ一人デ寝タイんデスか。わかりマシタ。エ? 邪魔スルと嫌いニナルと? ハイ、ワタクシ邪魔しまセン」


 わざとらしい大声での一人芝居をした魔法人形は、眠っている子供が目覚めないか確認しつつ、扉の方の反応を窺う様子を見せるが特に何事か起きる訳でもなく。

 ふぅとため息を吐いた魔法人形は、やり遂げた表情で額の汗を拭うような仕草をする。

 ここに魔法人形の創造主である赤の青年がいたら、汗をかく機能などないですが、などと無粋な突っ込みが入るだろうが、幸いというべきか今部屋にいるのはかかない汗を拭う魔法人形と穏やかに眠る子供だけだ。


「ジル。オやすみナサイ、良い夢ヲ」


 世間一般では感情を持たないはずと言われる魔法人形は触手を伸ばして子供の頬へと触れて、慈愛に満ちた表情で子供へと愛しげに囁いてから、てちてちてちと独特の足音と共に子供の部屋を後にする。




 魔法人形の計らいにより、子供は朝まで自室でゆっくりと寝ていられるはずだったのだが……。




 次の日早朝。



「プリュイ、なんか今日は主様が寝惚けてたみたいで、俺のベッドにいたんだけど……」




 相変わらずの前方不注意で自らの体へ埋まってきた子供の苦笑い混じりの報告に、感情がないはずの魔法人形は呆れきった表情を子供の部屋の方へと向けるのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想、評価、ブックマーク、いいねいただけると嬉しいです(^^)


ジルヴァラの倫理観はぶっ壊れてる訳ではなく、あくまでも悪人相手プラス主様フィルターがかかった結果ですので。

根底には、人を殺すことへの忌避、は残ってるはず……?

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