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18話目

頑張れオズ兄!


そして、ジルヴァラのフォローがさらにオズ兄を追い詰めていくスタイル←


ドリドル先生に悪意や偏見はないです。ただ、主様と馬が合いません。

「だぁかぁらー、あれが昨日話してあったオズ兄で、怪しい人じゃないんだって」

 引き戻されたテントの中で、簡単な朝食を食べながら何回も主様へ説明を繰り返したのだが、主様は納得したのか微妙なぽやぽや顔だった。

 顔を洗いに行こうとしたら、まだ外にいるかもしれません、と引き留められたから、たぶんというか絶対納得してない。

 なんでここまでオズ兄が主様に警戒されてしまったのかわからない。

「……優しくて爽やかで格好良いのに、オズ兄」

 朝食を食べ終わり荷物をリュックへ片付けながらポツリと洩らして、俺はどうしたら主様からオズ兄への不審感が拭えるか考える。

「爽やか過ぎて駄目とか?」

 騎士とか冒険者はゴツい系ばっかりだから、爽やか細マッチョなオズ兄は、もしかしたら主様があまり付き合いのないタイプで苦手なのかもしれない。

 そうだとしたら、それこそオズ兄に顎髭でも生やしてワイルドマシマシになってもらうしかないのか、とか悩んでると、テントの外からくしゃみが聞こえる。

 その直後、

「出直してきてください」

と、いつの間にかテントの外へ出ていた主様の声が聞こえて、俺は反射的に先ほどまで主様がいたはずの場所を振り返る。

 当然だがいなかった。

「あれ? さっきまで主様いたよな?」

 俺がブツブツ言ってた時には、視界の端でぽやぽやしてたけど、どれだけ速く動いたんだろう。

 さすが主様だー、と妙な感心をしていると、入口からぽやぽやとその主様が入ってくる。

「誰かいたのか?」

「ええ。緑色の不審者が……」

「へぇ…………って、だから、それはオズ兄なんだって!」

「そうでしたっけ?」

 惚けている訳ではなく本気で不思議そうに呟く主様に、俺はこれからの馬車移動がちょっとだけ心配になってしまった。

「おう、準備は出来てるようだな」

 さすがの主様もフシロ団長を不審者扱いはせず、俺達は無事に騎士団の馬車に乗せてもらっていた。

 俺のイメージでは、護送車みたいに席が向かい合わせであって、そこにゴツい騎士達とビッシリ並んで座るのかと思ってたけど、俺と主様が乗せられたのは大人六人でいっぱいになるだろう普通の馬車だ。

 そこへ乗ってるのは、俺と主様、それとフシロ団長、さらに、

「ジルヴァラ、これも食べなさい」

「あむ」

 俺を餌付けし続けているドリドル先生だ。

 ガタゴト揺られながら、油断してて向かい側から口に入れられたのは、なんか桃っぽい果物を干したやつだ。

「……ごちそうさま。ドリドル先生、もう食べられないよ」

 しっかりと断らないと延々と食べさせられそうなので、俺は自らの口を手で覆い隠して首を横に振る。

「まだたくさんありますよ? 子供が遠慮するものではありません。そちらの方は、気にしなさそうですから、今のうちにたくさん食べておきなさい」

「……あはは、ありがと。もう一つだけもらおうかな」

 主様をチラリと見て嫌味全開なドリドル先生の言葉に、俺一人でヒヤヒヤしながら差し出されたドライフルーツらしき物を受け取って、ちまちまとかじる。

 主様は聞いてないのか、聞こえてないのか、はたまたどうでもいいのか、ぽやぽや微笑んでいるだけだ。

 今度のは黄色くて細長いから、マンゴーみたいな味かと思ったら干し芋だった。

「あ、これ一番好き」

 干し芋レンジでちょっと温めてバター乗せて食べると美味しいんだよ、カロリーとかカロリーとか背徳感バリバリだけど。

 あむあむと干し芋(仮)をかじって、懐かしい思い出……というか、もう少し乙女ゲームの内容を思い出せると安心できるんだけどなぁ、とか考え込んでいたら、いつの間にか膝の上に紙袋ごと干し芋(仮)が置かれていた。

「干し芋が一番好きなんて、本当に慎ましい子ですね。他のはもういりませんか?」

 干し芋で合ってたな、と内心でドヤ顔してると、余計な物まで渡されそうなのでぶんぶんと首を横に振る。

「いっぱい食わないと育たないぞ?」

 無言で俺が食べる様子を見ていたフシロ団長は、からかうように言いながら、遠慮なく俺の頭をガシガシと撫でてくれるのだが、さっきから撫でる度にチラリと主様を見るのはなんでだろう。

 俺が小さすぎるから、ちゃんと食わせてるんだろうな、的な圧力か?

「ちゃんと食べてるよ。主様が収納魔法使えるってわかったから、最近はあんまり狩りしなくても食べられるから楽なぐらいだぞ」

 握り拳を作って気合を入れてフォローしてみせるが、座席の高さに俺のサイズが合ってないため、足をバタつかせて電車ではしゃぐ子供みたいになった。

「そもそもきちんとした大人が一緒で、こんな小さな子供が狩りをして食い扶持を稼がないといけないのが間違ってます」

 そして、満面の笑みなドリドル先生に、正論で即打ち返された。

「いや、でも俺は主様に無理矢理くっついてるだけだし、出来るだけ自分の食い扶持は自分で稼がないと……」

 ぽやぽやしてる主様の隣で、主様に扶養の義務はないと力強く訴えてたら、ため息を吐いたドリドル先生の腕が伸びてきて、膝の上の干し芋ごと俺をひょいと持ち上げる。

「私達と一緒に来れば、そんな苦労はさせませんよ」

 そのままドリドル先生の膝に置かれるのかと思ったら、移動後の着地点はフシロ団長の膝の上だった。

 ガチムチなフシロ団長は、意外と座り心地が悪くない。

 移動中は鎧も着てないので、遠慮なく頼りがいのある胸板を背もたれにさせてもらう体勢で寛いで、残り半分になっていた干し芋をかじりながら、反論だけはちゃんとしておく。

「別に苦労だなんて思わないけど。森では自分で自分の食い扶持稼ぐなんて当然だったし」

 ドヤァと胸を張って宣言したら、苦笑いしたドリドル先生からよしよしと頭を撫でられた。

「ジルヴァラはいい子ですねー。いいんですよ、あんな駄目な大人の擁護をしなくても」

「俺はいい子でもないし、擁護するつもりもない。そもそも主様は悪い大人じゃないだろ。あと、俺がそう思ってそう行動するのは自由だろ? ただでさえ、迷惑かけっぱなしなんだからさぁ……」

 ドリドル先生の中で主様はどんな風に見えてるのかとても心配になるが、本人が気にしてないのだから俺が気にしても仕方ないんだろうけど。ドリドル先生の評価下げてる原因は俺だからなぁ。

 後半愚痴るようにブツブツ呟いて、安定感抜群なフシロ団長ソファの上でため息を吐いてると、背もたれから軽い震動が伝わってくる。

 どうやらフシロ団長が笑ってるらしい。

「名前だけの貴族のボンボン騎士共に、ジルヴァラの爪の垢を煎じて飲ませたいもんだな」

「本当にそうですね」

 フシロ団長とドリドル先生から、ため息混じりのやけに実感のこもった会話が聞こえる。

 やっぱりファンタジー小説あるあるな騎士もいるんだな、と思ってると、ぽやぽやしてたはずの主様がやけに不安そうなぽやぽやでこちらを見ている。

「特にあの名前ばかりの副団長のゲースには、ジョッキで飲ませたいものです。まぁ、彼がこの任務を嫌がってくださったおかげで、私達はジルヴァラと出会えた訳ですが……」


「え?」


 主様に気を取られていた俺は、思いがけず記憶に引っかかる名前が聞こえ、反射的に声を上げてバッと視線をドリドル先生へ移す。

「どうかしましたか?」

「本当に爪の垢取ったりはしないぞ?」

 二人の問いかけはかろうじて聞こえていたが、俺の意識は大きくゴツい手で俺の手を優しく取ってズレた言葉をかけてくるフシロ団長へと移動する。

「ゲース副団長……」

『本当にゲス野郎じゃん! 名は体を表すっていうか、名前考えるの面倒だったのかよ! つーか、乙女ゲームの悪役でここまでゲス野郎でいいのか?』

 記憶の中の自分が、そんな文句を口にしてテレビ画面の前で大笑いして、次には憤慨していた記憶が蘇る。


「ジルヴァラ?」

「どうした、ジルヴァラ?」

「ロコ?」


 三者三様の呼びかけは、俺にはもう聞こえていなかった。

 蘇った俺の記憶では、ゲースは副団長ではなく、ゲスな騎士団団長としてオズ兄のルートの敵として現れた。

 そう、少し思い出せた。既視感を覚えてたオズ兄も攻略対象者だった。ゲームの立ち絵よりちょっと幼いせいですぐ思い出せなかったんだろう。

 ということは、ゲームの本編は少し未来で、ゲースが副団長から団長になってたとなると、フシロ団長になにかあったという訳だ。

「引退……はないな」

 ペシペシと戯れて叩いてみても逞しい胸板はびくともしないし、顎髭で実年齢はわかりにくいが、数年で引退するような年齢でもなさそうだ。

「おーい、ジルヴァラ?」

 体調でも年齢でもなく、フシロ団長が騎士団団長ではなくなってるということは、何か不祥事を起こしたか、あとは……、



「死んだ……?」



 口に出したのが呼び水となったのか、オズ兄のルートでの会話が思い出される。

 ゲスなゲースのせいで腐った騎士団が原因で、ヒロインが怪我をして王都の下町の医者へと運び込まれる。

 運び込んだのは、その腐った騎士団の中でも腐らず、でも何も出来なくて悩んでいたオズ兄だ。

 そこで、ヒロインがオズ兄を励まして……でストーリーは進むが、その中で確かオズ兄というかゲーム内のオズワルドが話してたはず。


『前の騎士団長は、とても素晴らしい方だった。豪快で力強く、貴族だろうが平民だろうが気にせず、誰にでもお優しい。あの方が、生きてらっしゃったら……』


 亡くなった理由……。

 それもチラッとだけど、言ってたはず。


 俺は浮かび上がってきた記憶を必死に手繰り寄せる。

 周りで何か言われてたが、今はこの豪快で力強い、部下に製氷機扱いされても怒らない、そんなフシロ団長を死なせたくない一心で、ギュッと物理的にもしがみついて記憶を辿る。


「……人身売買組織?」


 そう、それだ!


 大規模な人身売買組織の壊滅作戦が行われた時に罠にハマってしまい、助け出した子供達を庇って亡くなった。団長らしい最期だったと。

 で、最後の方でその罠の犯人は団長になりたかったゲースだと判明して、ゲース蹴落としてハッピーエンドになるのがオズワルドのルートだった……はず。

 ところどころ欠落してるけど、おおよそこんな感じの流れのはず。

 ゲースが団長になると、本当に最悪なことばかりしか起きないのは確かだ。

 それを防ぐキーパーソンは、もちろん俺が今物理的にしがみついてるフシロ団長だろう。

「フシロ団長、死なないよな?」

 思わず尋ねても意味がない問いをしてしまったが、フシロ団長は呆れたりせず豪快に笑って頷いてくれた。

「お、おう、死ぬ予定は当分ないな。どうした? さっきからボーッとしてたようだが、馬車に酔ったか?」

 フシロ団長の大きな手が心配そうに頭を撫でてくれ、ドリドル先生は真剣な表情で覗き込んで来て、俺の顔色を確認しているようだ。

 向かい側の席では、主様がぽやぽやしてこちらへ伸ばしかけた手をさ迷わせてるのが見え、やっと少し安心出来た。

「もしかして、さらわれた時のことを思い出して不安になってしまいましたか? あの人身売買組織なら、完全に壊滅したと報告が来てますから大丈夫ですよ」

「それでやたらと俺にひっついて来てたのか。いつもは少し大人びてるが、こんな子供らしくて可愛いところもあるんだな」

「ジルヴァラはそこも含めて可愛いんですよ」

 無意識のフシロ団長生存確認は、甘えてると勘違いされたようだ。違うと訂正して、じゃあなんだ? と言われるのも困るので、誤魔化すように笑っておくが、聞き流せない内容に気付いてドリドル先生を見やる。

「……人身売買組織壊滅したのか?」

「ええ。かなり大きな組織でしたが、優秀な冒険者パーティー二組の合同作戦で一気に壊滅させたそうです。有事のため留守番にと置いてきた副団長は、()()()()留守を守っていたらしいですね」

「確か、若手で最近名を上げてる三人組パーティーとヘルツのとこだったな、その二組ってのは」

 今度は前世ではなく今の世で聞き覚えのある名前に、俺は軽く目を見張ってフシロ団長を見上げる。

「ヘルツさん、知ってるのか?」

「おう、飲み仲間だ。あいつは子供好きだからな。誰よりも張り切って人身売買組織へ乗り込んでったらしい。俺が王都にいたら一緒に乗り込んでたが、先にこっちの用事があったからな」

 意味ありげにフシロ団長が見ているのは、少しぽやぽやが薄れて不機嫌そうな主様だ。昔からの知り合いっぽいし、フシロ団長は主様に用事があったのか。

 それにしても、そうそう人身売買組織がある訳ないから、壊滅させられたっていう組織がフシロ団長の死の原因になる組織だよな。

 それが壊滅して、フシロ団長が無事ってことは、フシロ団長が死ぬ未来は回避出来てたってことか。

 蝶のはばたきじゃないけど、俺が主様にくっついてて主様の王都到着が遅れたから?

 原因が何にしろ……、


「本当に良かった……」


 記憶を思い出して不安になってからの安堵で、一気にどっと疲れてしまい、俺は子供特権を発動させてもらい、フシロ団長の胸板を枕に眠りに落ちていった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


ちょっとだけ、やっと乙女ゲーム要素出ましたが、ジルヴァラが思い出せた時には終わっているという、残念な主人公です。

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