173話目
オネエさんとおばちゃんは最強だと思ってます(*´Д`)
「ごめんなさいねぇ、ジルちゃん。ほら、お姉さんが抱っこしててあげるわ」
オーアさんの助け船で依頼は受けられそうだけど、アシュレーお姉さんの腕の中からは抜け出せずに抱えられたままオーアさんと目が合ったのでとりあえずへらっと笑いかける。
「こんにちは、オーアさん。依頼を受けたいんですけど……」
「こんにちは、ジルヴァラくん。ちょうどジルヴァラくんに配達して欲しいという指名の配達依頼があるのですが、この依頼はどうでしょうか?」
そう言いながらオーアさんがカウンターの上に出してくれた紙を確認すると、書かれていた届け先はあの料理屋さんだ。俺にわざわざ指名依頼するなんて、ヒロインちゃんがトラウマになってしまったのかもしれない。
ヒロインちゃんみたいな子はかなり特別だと思うけど。
「もちろん、受けます!」
「タイミングが合えば、カフェの方の依頼もジルヴァラくんへの指名が来てますのでお願い出来ますか?」
元気良く返事をしてからサラサラと書類へサインをしていると、そこにすっとオーアさんがもう一枚紙を差し出して来たので少し驚いてしまうが、依頼人を確認してすぐ納得する。
「カフェの方? あー、ドゥルセ様が指名してくださったんですね。そっちも受けたいんですけど、次はいつになりますか?」
そう言えばドゥルセ様のところは、リーフデ様と仲良く出来るかも条件だったし、俺へ指名依頼になる可能性は高いよな。
一人でうんうんと頷いてオーアさんを窺い見て訊ねると、オーアさんはカウンターの上のカレンダーを確認して三日後に当たる日を指差す。
「この日なんですが……ご予定はいかがですか?」
「大丈夫……です! 今日は主様も一人で出かけさせてくれたし、問題ないです」
「では、こちらの依頼の方も受けていただけるということで……」
少しの安堵を滲ませるオーアさんの呟きを聞きながら、差し出されていたもう一枚の書類にも目を通してサインをしていく。
油断すると口調から猫が逃げ出しちゃうから注意しないとな。
「あら、あの過保護なお兄さん、ジルちゃんを一人で出かけさせてくれたのね〜」
背後からその様子を眺めていたアシュレーお姉さんは、驚きを多分に滲ませた声音で感心した様子でそんな感想を洩らしている。
「そうなんです。風邪でしばらく寝込んでる間はずっとべったり一緒だったんで、少しぐらい離れても平気になったんじゃないかと思うんです、俺」
アシュレーお姉さんから見ても過保護だったんだなぁと頭の隅で考えながら、俺はえへへと笑って本日二度目のドヤ顔でプリュイへ披露したのと同じ仮説を披露したのだが、返ってきたのはあらあらあらと言わんばかりの視線が間近から二組だ。
とても気になる視線だったが、俺はそれより大事なことを思い出したので、体勢を整えてアシュレーお姉さんへと向き合う……ように抱え直してもらったので締まらないのは今は見逃して欲しい。
「何かしら、ジルちゃん。アタシにお話があるの?」
「うん。会えたら言おうと思ってたのにぶつかったら忘れてました。アシュレーお姉さん、お見舞いありがとうございます。靴下寝る時に履かせてもらってます!」
間近になったアシュレーお姉さんの瞳を見つめて、お見舞いのお礼を伝えてぺこりと頭を下げる。
会えるとわかってたら増産したクッキーを持ってきたのだが、残念ながら今日は手ぶらなので言葉と笑顔だけで感謝を伝えたのだが、優しいアシュレーお姉さんはそれだけでうふふと嬉しそうに微笑んでくれる。
「あら、そんなこと。いいのよ、アタシがしたくてしたのだから。でも、使ってくれて嬉しいわ」
いい子いい子と優しく頭を撫でてくれるアシュレーお姉さんの手に目を細めて笑っていると、エジリンさんが木箱を持ってやって来る。
それをカウンターへ置いたエジリンさんは、呆れたような眼差しをちらりとアシュレーお姉さんへ向けてから、俺の方を見て木箱を示す。
「こんにちは、ジルヴァラくん。こちらが本日頼みたい荷物となります。壊れ物の割れ対策は施してありますので、このままお持ちください」
「こんにちは、エジリンさん。ありがとうございます。お預かりします」
アシュレーお姉さんから床へと降ろしてもらって、アシュレーお姉さんがカウンターから持ち上げてくれた木箱を受け取る。
「ありがと、アシュレーお姉さん。じゃあ、行ってきます」
見守るような四つの視線を感じた俺は、その持ち主達にへらっと笑いかけて木箱をしっかりと抱えて冒険者ギルドを出発する。
道のりは前回覚えたのでばっちりだ。
迷うことなく前回通った道を歩きながら、俺はふと気付いた違和感に首を傾げる。
「あれ……四つ……?」
アシュレーお姉さんに、オーアさんに、エジリンさん。
あと一人分感じたような気がしたのだが、気のせいだったのかもしれない。
それか俺は気付かなかったけど、ザワザワしていた集団の中に森の守護者の誰かがいたか、奥からアルマナさんがこっそり覗いていたのかもしれない。
そう自分を納得させた俺は、荷物を安全に運ぶために木箱へ集中するのだった。
●
「今日もバッチリだ。ありがとな、ぼうず」
何事もなく料理屋さんに着いて勝手口へ回った俺を待っていたのは、前回と同じ恰幅の良い中年男性な料理人さんだ。
態度といい、服装からしても、この料理人さんがここで一番偉い料理人さんなんだろう。
今回も声は大きいけど、初回みたいに突然怒鳴られたりすることもなく、運んで来た荷物を確認した料理人さんは豪快な手つきで俺の頭を撫でてから荷物を受け取った旨のサインをしてくれた。
「何かお手伝い出来ることありますか?」
どうせなのでそう訊ねると、野菜の皮剥きを頼まれたので厨房の隅にお邪魔して、一番年下らしい料理人のお兄さんと一緒に多種な野菜の皮剥きをしていく。
極稀に異世界だなぁという野菜もあるが、基本は前世でお世話になった野菜ばかりなので俺でも皮剥きの戦力になれている。
「ジルヴァラは聖獣の森の方から来たのか。僕もその近く出身なんだよ」
「へぇ、そうなんだ? お兄さんも遠くから来たんだな」
「まぁな。王都で腕を磨いて、地元に帰って自分の店を出すのが夢なんだよ」
「カッコいいな」
そんな会話を小声で交わしながら、山のようにある野菜の皮剥きを終わらせる。
「コッホさん、終わりました!」
「よし、次はそれを刻んでいけ。切り方はわかってるな?」
「はい!」
「ぼうずはもう十分だ。手伝いありがとな。ほら、賄いだが向こうに用意しといたから食ってけ」
お兄さんとコッホさんという名前だとさっき知ったばかりの料理人さんが話してるのを眺めてたら、思いがけない言葉が飛んで来て反応出来ず目を見張って固まってしまう。
「ん? 昼飯食べてきたのか?」
「い、いえ、まだです。ありがとうございます、いただきます!」
俺の反応に首を傾げているコッホさんに、慌てて返事をするとぺこりと頭を下げて厨房から出て客席の方へと回らせてもらう。
このお店はオープンキッチンスタイルというか、ラーメン屋さんでよく見る感じの客席から厨房が見え、カウンターに出来上がった料理が置かれてそれを店員さんが配膳するタイプなので、客席の方へと移動しても厨房の中はよく見える。
昼のピークは過ぎたので、ホールにはもうお客さんがちらほらしかいないので、俺が端っこで食べてても問題ないのだろう。
物珍しくてホールの中をきょろきょろと観察していたら、おばちゃん店員さんにからからと笑われて、賄いが用意されていたカウンターの席へと抱っこされて座らされてしまう。
どうやらカウンターの椅子は高さのあるものだったので、俺が届かなくて困ってると思われたらしい。
「ありがとうございます、お姉さん」
「おやまぁ、あたしにお姉さんだなんて口の上手いおちびちゃんだねぇ」
あからさま過ぎるお世辞かなぁと思ったが、さすがおばちゃん店員は一枚上手でまたからからと笑われて背中をバシバシと叩かれる。
「お世辞でも嬉しいね。ほら、遠慮せず食べてきな」
「はい、いただきます」
うぅむ、やはりおばちゃんという生き物は異世界でも最強のようだ。
そんな妙なことを納得しながら、俺はへらっと笑って遠慮なく用意してもらった賄いをいただくことにした。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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