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172話目

プリュイ最強説。


ちなみに囁いたのは、昨夜も見たであろう光景をジルヴァラに告げ口しますよ、辺りかと。

 なんか朝から微妙な気分となってしまったし、寝惚けて主様のベッドへと潜り込んだ身として「一人で冒険者ギルドへ」とは言い辛い。



 ま、行きたいから言うんだけどさ。




 で、結果はと言うと。


「…………危ない依頼を受けないなら」


と、かなり渋々だけど許可をもらえたので逆に驚いてしまった。

 風邪の間ずっと張りついてくれてたから、飽きたというか俺に対する興味が少し薄れてちょうど良くなった……とか?

 そんな仮説を立てた俺は、キッチンで並んで朝ご飯の食器を片付けてくれているプリュイへとドヤ顔で披露してみたところ──。



「ソレは絶対幻日サマに言ってハいけマセン」



 なんてかなり強めに止められてしまった。

 そういえば主様からの許可が出る直前、プリュイが主様へなんか耳打ちしてたし、やっぱりプリュイの方が主様のこと理解してるんだろうな。

 ヤキモチ妬きな六歳……というか、年齢関係なくただ俺がヤキモチ妬きなだけな気がするが、正直お腹の奥がジリジリするような感じがして俺は無意識にお腹を擦る。

「ジル? オ腹痛いデスか?」

 主様に聞かれたらまたドリドル先生誘拐事件が起きそうなプリュイの問いかけに、俺は慌ててぶんぶんと首を横に振る。

「最近食べ過ぎてるから、お腹出て来たかなぁと思ってさ」

 誤魔化すために口にしたとはいえ、完全な幼児体型までとはいかなくてもちょっとぽっこりとしたお腹に自分で少々ダメージを受けてしまったが、その甲斐はあってプリュイは納得した様子で伸ばしてきていた触手を引っ込めてくれる。

「ジルは成長期デス。たくさん食ベテくだサイ」

 何もせず引っ込むかと思った触手だったが、俺のお腹ではなく頬をふにふにと突いてから、本体であるプリュイの元へと戻っていく。

「十分食べてるよ!」

 ここで曖昧な答え方でもしてこれ以上ご飯の量を増やされても困るので、俺は元気良くお腹いっぱい宣言をしてへらっと笑っておいた。

 その努力は通じたのか、とりあえずご飯の量は増やさなくても済みそうだ。

 安堵で胸を撫で下ろしていた俺は、これ考えてみれば幸せな悩みだよなぁと緩みそうになる口元をギュッと引き結んで表情をキリッとさせる。



「ジル、やっぱりオ腹痛いデスか?」



 プリュイからそう訊ねられる程度には不評なようだけど。

「じゃあ、いってきまーす」

 リュックを背負って元気良く挨拶して玄関から外へと向かう俺を、玄関先でプリュイがふるふるしながら見送ってくれている。

 主様は先に出かけてしまったので、見送りの姿はない。……べ、別に寂しくなんかないし。

「イッテらっしゃイマセ、ジル。オ気ヲつけテ」

「おう」

 心配そうなプリュイに片手を挙げて応えると、気を取り直して意気揚々と俺は一人で外を歩き出す。

 よく考えたら抜け出した以外で初の王都一人歩きなので、正直ドキドキしている。

 これから一人で乗り合い馬車へ乗り込み、冒険者ギルドへ向かうと思うとワクワクが止まらない。

 一人でふへへと笑い声を洩らしていると、不意に視線を感じた気をして足を止めて辺りを見回す。

 俺みたいな小さいのが一人歩きしているせいか、不思議そうだったり心配そうな感じの人と何回か視線が合ったので、にこりと笑って愛想を振り撒いてから再び歩き出す。

 そんなにやたらめったら街中に『子供』好きな変態がうろついてる訳ないよな。

 自意識過剰過ぎるなと照れ臭さからポリポリと頬を掻いていた俺は気付かなかった。



 俺が辺りを見回す直前に路地裏へ引き込まれ、氷漬けになって放置された『子供』好きがいたなんて。



 その後も特に何のフラグが建つこともなく、乗り合い馬車の中では隣りに座ったおばあさんからお菓子を貰い、降りる時は手間取ってたらぶっきらぼうな雰囲気のお兄さんがそっと手を貸してくれ、馬車から降ろしてくれた。

「ありがと! お兄さん!」

 乗り合い馬車の中へと戻っていくお兄さんへ手を振ってお礼を言うと、微かに口の端を上げるクールな笑顔が返ってきた。

 俺もあと何年かしたらあんなクールな笑顔が似合うイケメンになれ……ないか。

 どうにもならない自問自答をして脳内で突っ込みを入れた俺は、自嘲気味に笑いながら改めて目の前にそびえる冒険者ギルドの建物へと視線を移す。

 あんまり眺めていて、絡まれても嫌なのでさっさと入ることにする。

 建物の中はそこまで騒がしくないし、ヒロインちゃんはいないみたいで何よりだ。

 そんな確認方法が出来るヒロインってのもなかなかだけど、そういう天真爛漫な所が攻略対象者に受けるんだろう、たぶん。

 俺は現実でヒロインちゃんみたいな子に会ったとしても恋に落ちる自信はない。前世でも幸いにもそんなタイプとのお付き合いはなかったし。

「というか、向こうが俺に興味持たないよな」

 興味を持たれるとしたら主様と一緒にいる時ぐらいだろうが、今日の俺は一人なので万が一ヒロインちゃんと会っても問題ないことに今さら気付く。

 無駄に入っていた肩の力を抜いた俺は、小走りで冒険者ギルドの建物の中へと飛び込む。


「っと!? おら何処に目ぇつけてやがる……あら、ジルちゃんじゃない」


「ごめんなさい! ……あ、アシュレーお姉さん」


 結果、前方不注意だった俺は、いかつい冒険者へとぶつかって絡まれる……なんて俺つえー主人公な展開はなく、実際ぶつかってしまった相手は美人さんな顔見知りだった。

 いやまぁ一瞬、ごらぁとかいう感じの低音の声は聞こえちゃったけどな。

 俺と同じく聞こえてしまったらしい周囲にいた冒険者さん達がガクブルしてる辺り、さすがアシュレーお姉さんはA級冒険者だと変な感心の仕方をしてしまう。

 ごらぁな声からきゅるんきゅるんな声に戻ったアシュレーお姉さんは、自らの足へとぶつかった俺を責めることなく優しく笑って抱き上げてくれる。

 最初のごらぁも、前見てないなんて危ないじゃないという警告からだろうし、アシュレーお姉さんの優しさからのものだろう。

「駄目よぉ、ちゃんと前見てないと。こわーいお兄さんにぶつかったらどうするの」

 アシュレーお姉さんは抱き上げた俺の顔を覗き込み、めっ! と優しく窘めてくれるし、俺の予想は当たったようだ。



「いやあんたほどこわいやつは……」



 俺がへらっと笑って「ごめんなさい」と繰り返すのと、なんか外野からボソリと聞こえたのは同時で。

 聞き取れなかった俺はきょとんとアシュレーお姉さんを見ていたが、アシュレーお姉さんの鋭い眼差しは俺を見ておらず、声の聞こえた方を睨んでいる気がする。

 しかしそれは数秒のことで、すぐにいつも通りな微笑みを浮かべたアシュレーお姉さんは、俺の方へと視線を戻して赤ん坊をあやすように揺らしながら歩き出す。

 このまま受付まで運んでくれるようなので、遠慮なく甘えさせてもらう。

 アシュレーお姉さんに抱えられていれば絡まれるフラグなんて建ちようがないからな。

「ったく、ジルちゃんが怖がったらどうしてくれるのよ〜」

 もう失礼しちゃうわ、可愛らしくぷんすか怒ってみせるアシュレーお姉さんに、俺はくすくすと笑ってふるふると首を横に振る。

「俺がアシュレーお姉さんを怖がる訳ないです。心配しないで」

「っ!? もぉ、ジルちゃんは可愛いわね〜」

 俺の言葉に息を呑んだアシュレーお姉さんから、フシロ団長のような頬擦りをされるがこちらは全くじょりじょりはせず、正直物足りない。



「アシュレーさん、そろそろジルヴァラくんに依頼を受けさせてあげてください」



 いつになったらコレ終わるかなぁと思いながら無抵抗で頬擦りをされ続けていたら、カウンター越しに目があったオーアさんから助け船が出されて、やっと俺はアシュレーお姉さんの頬擦りから解放されたのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


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