170話目
幼児と魔法人形の留守番話ですー(*´Д`)
ドリドル先生からは完治で大丈夫と言われたが、最近過保護拗らせ気味の主様によって「もう何日かは外出禁止です」とお達しがあったため、俺は未だに家に缶詰状態だった。
主様本人は、冒険者の本分として依頼を受けていて、ここ数日は朝出て夜帰ってくるというある意味サラリーマンのような生活サイクルとなっていて。
何を言いたいかと言うと、俺は今一人で留守番中という訳だ。
正確には頼りになる万能魔法人形のプリュイがいるので、とても安全なお留守番だ。
本日も少し行きたがらない主様をいってらっしゃいと見送って、プリュイと一緒に家の掃除をする。
掃除と言っても俺がさせてもらえることなんてたかが知れてるが、家事も全力でやるとなかなかいい運動になる。
「ふう……」
全力でモップ掛けして少し浮いた額の汗を拭っていると、即座に伸びて来たプリュイの触手によって全身の汗を拭われる。
汗が引いて体が冷えることによって風邪がぶり返すのを心配してくれてるのだろう。
一気にさらりとした全身に脱力しつつ苦笑いしていると、プリュイ本体がてちてちてち近寄って来る。
「具合ハ、どうデスか?」
「おう、絶好調だぞ」
一時間に一回はされる問いかけに、俺はへらっと笑って腕を曲げて力こぶを作る真似をする。
俺は同年代の幼児よりは筋肉質だと思うが、まだちょっと全体的にふにふになので、あくまでも作る『真似』だが。
実際、全く力こぶが出来る気配はない。
「そろそろ昼ご飯だな。朝ご飯の残りご飯でチャーハンにするか」
チャーハンならスープは中華っぽい卵スープだな、と脳内で付け足してメニューを決定した俺がキッチンへと向かい歩き出すと、背後からてちてちてちとプリュイがついてくる。
「今日も主様いないから、一緒に食べような」
プリュイを振り返ってえへへと笑いながら言うと、困ったような微笑み付きながらもこくりと頷いてくれる。
主様がいないから出来るプリュイとのご飯タイムは、留守番の際の楽しみになっている。
もちろんプリュイと楽しく話しながら食べられるのも楽しいけど、スライムボディなプリュイの食べる姿は摩訶不思議で、何回見ても飽きないのだ。
あまりに見つめ過ぎて毎回プリュイから「モウ終わりデス」と照れられてしまうぐらいだ。
食べる時は人の食べ方を真似てくれてて、口にあたる部分から食べ物を摂取するのだが、咀嚼はなくどんな食べ物でも綿あめかのようにスッと消えていく。
「やっぱり不思議だ」
「ジル、見過ぎデス」
本日もおにぎりにしたチャーハンが口部分から消えていく不思議な光景に見惚れていたら、わざとらしくぷんぷんと怒ってみせたプリュイに、柔らかい指先でちょんちょんと頬を突かれる。
俺の頬はまだふにふにだが、プリュイの指先も負けずにふにふにと柔らかい。プリュイは全身スクイーズみたいなもんだし、当然か。
頬を突く柔らかな感触にふへへと気の抜けた笑い方をしながら、主様のいない昼ご飯は平和に過ぎていく。
昼ご飯を食べ終わり、片付けを終えてしまうと、幼児な俺に待つのはお昼寝タイムだ。
プリュイの体越しの揺れる青色を見ながら連れ込まれたベッドの上でしばしの抵抗をしてみるが、幼児な体のせいかプリュイの寝かしつけテクのせいかはわからないが、今のところ全戦全敗だった。
「……今日も勝てなかった」
昼寝から目覚めた俺は、すっきり感とほんの少しの悔しい気持ちを抱えながら、ベッドから起き上がる。
働き者なプリュイは体の一部を俺の抱き枕にして、何処かで家の中の掃除でもしてくれているのだろう。
攻撃能力を持った今のプリュイだと、どっちの『掃除』かはわからないけどな。
そんなことを考えながらボーッとして抱き枕をふにふにと揉んでいると、俺が起きたことに気付いたプリュイがてちてちてちと足音をさせて近づいてくるのがわかる。
プリュイの独特な足音は隠密行動中はきちんと聞こえなくなるそうなので、今現在てちてちてち聞こえるのは俺を驚かせないようにしてくれてるのかもしれない。
足音は部屋の前で止まり、ゆっくりとしたノックの後に扉が開かれてプリュイが入ってくる。
「ジル、具合ハいかがデスか?」
「元気だって。プリュイ抱き枕のおかげでぐっすりだったし」
未だに腕の中にあったプリュイの一部をぺちぺちと叩きながら笑って答えると、叩いていた部分がふるふると震えてから本体の元へと戻っていく。
「ソレハ、よかったデス」
「もうすぐ主様帰ってくるかな。……今日の夕ご飯はハンバーグにするか」
少し悩んでから夕ご飯のメニューを決めた俺の脳裏を過っていたのは、先程ふにふにと揉んでいたプリュイ製抱き枕の感触で。
その件に関しては、こちらを不思議そうに見てくるプリュイ本人には言えそうもなかった。
●
「隠し味にマヨネーズー」
俺の謎の歌に、付け合わせの定番なにんじんのグラッセを仕上げていてくれたプリュイからは、不思議そうな眼差しが向けられる。
純粋過ぎるその眼差しに、羞恥心が込み上げてきそうになるが気合で飲み込み、ハンバーグを仕上げていく。
「よし。プリュイ、捏ねてもらえるか?」
ひき肉を混ぜる時温まるのが良くないと聞いたことがある気がしたので、混ぜるのはプリュイの触手にお任せだ。
ちなみに玉ねぎは飴色までは面倒なので軽く火を通して混ぜ、繋ぎは卵と牛乳に浸したパン粉。それと先程つい歌ってしまった隠し味のマヨネーズだ。
これはタロサの料理帳プラスうちの家のハンバーグのレシピだ。
ちなみにうちではハンバーグといえば豚ひき肉で、合い挽き肉なんて物は知らなかった。
本日のハンバーグはというと、主様のおかげでいい肉がたくさんあるので、高そうな牛っぽい肉のハンバーグだ。
プリュイに頼んだら、てちてちてちとあっという間にひき肉にしてくれた。
「ジル、こんな感ジでドウでショウ」
「ん、ばっちり、ありがと。で、それをこれぐらいの平たい楕円形にして……」
俺の適当な指示でもプリュイはばっちり応えてくれ、俺の想像するハンバーグの形へなっていく。
「あとはこうやって空気抜いて、真ん中少しだけ凹ませて焼いて……煮込みハンバーグにしよ」
牛っぽい肉だから中は半生でも……とか悩むのも面倒なので、確実に火を通せて美味しく食べられる煮込みハンバーグにすることにする。
スープはミルク仕立てのスープにしたので、あと少し煮込めば出来上がりだ。
主様が帰ってくるまでに間に合うかなと考えていると、玄関の方から物音が聞こえてくる。
物音に気付いてしまった俺がそわそわとしていると、プリュイの方からふふと柔らかな笑い声が聞こえて手に持っていたフライ返しを奪われる。
「あとハ、ワタクシでも出来マスので、ジルはお迎えニ行ってくだサイ」
「おう! ありがと、プリュイ!」
空気の読めるプリュイにお礼を言った俺は、洗った手を拭うのもそこそこに玄関へと向かって駆け出した。
玄関から入った所で待っていてくれたのか、主様は玄関から一歩入った場所でぽやぽやとしながら駆け寄る俺を見つめている。
「主様、おかえり!」
「ただいま、ロコ」
ここで海外のホームドラマなら駆け寄った俺が抱きついて、受け止めてくれた主様がくるくると回るみたいな展開がありそうだけど、俺達の関係性でそれは無理なので俺は駆け寄った足元でへらっと笑って主様を見上げ。
主様はぽやぽやと微笑みながら、ちょっとぎこちない手つきで俺の頬を撫でてくれる。
体温の確認も兼ねてるのか、今日はあからさまにホッとした表情をされる。
「……跡は消えましたね」
ポツリと主様が呟いた言葉は俺には聞こえず、首を傾げて見上げていたが、言い直してくれる気も説明してくれる気もないらしい。
大したことではないんだろうと納得した俺は、へらっと笑って玄関から動かない主様の手を引いて奥へと向かう。
「今日の夕飯は煮込みハンバーグとミルク仕立てのスープだぜ」
「はい」
そんな会話をしながらのんびりと。
この感じなら明日は冒険者ギルドへ顔を出す許可もらえるかなぁと思いながらも、俺は握り返された手が嬉しくてひっそりと頬を緩めるのだった。
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