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168話目

風邪は治りかけが肝心です。

 なんか壮大にシリアスしちゃったけど、無事に料理人さんからフレンチトーストの作り方は聞けたので良しとしよう。



 主様の鉄壁な完全ホールドから抜け出した方法はと言うと、普通に「主様に美味しいの食べてもらいたいから〜」とふんすふんすしながら説明したら大丈夫だった。

 ただし、主様がずっとキッチンの外からガン見してたせいで、教えてくれた料理人さんがちょっと怯えてて申し訳なかった。

 美人で可愛らしいところもあるし、普通にしてれば怖い要素なんて欠片もないんだけど、色んな噂話だけが先行しちゃってるんだろうなぁ。

 でも、主様の可愛らしいところとかはなるべく皆に知られたくないっていう心の狭い俺もいて、なかなかに複雑だ。

「ロコ?」

 そんなことを考えながら主様を眺めていたら、さすがの主様も視線が気になったのか小首を傾げて俺の頭を撫でながら名前を呼ばれる。

「主様は、美人で可愛いよなーって見惚れてただけー」

 隠すようなことでもないので素直に答えて、もぞもぞと体の位置を落ち着くポジションを探して身動ぎし、放置されかけていた本へ視線を戻す。

 本日の本も『おじーさん』シリーズだ。

 何冊か読んでわかった……いや、読まずにもわかってたけど、『おじーさん』は決してお爺さんな訳ではなさそうだ。

 たぶん愛称が『おじーさん』なんだろう。

 外国だとキャサリンだかをキャシーとか、どうしたらその愛称になるんだ? という変化をする名前もあるから『おじーさん』もそういう類の変化をした愛称なのかもしれない。

 あと考えられるのはものっすごく単純な話で、もともとの名前が『オジー』という可能性だ。

「これが一番自然な話だよなぁ」

 ちなみにだが、イオが読んでくれた『むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんとおじーさんがいました』で始まるあれが第一作らしい。

 イオが初めて『おじーさん』シリーズを読むであろう俺のために第一作を選んで持ってきてくれたかと思うと、胸の辺りがほっこりした。

「……またおじーさんですか」

 俺が本の方へ意識を奪われてると、主様が何処か憎々しげな口調でポツリと呟いて、抱え込んでくる腕の力が強まる。

「主様、ちょっと本読みにくいんだけど……」

「嫌です」

「嫌です……って……まぁいいか」

 控えめに抗議したら、思いの外全力の拒否が来てしまったので、俺は数度瞬きをして抗議を諦めると少しだけ身動ぎして読書を再開する。




「ジルヴァラ様、そろそろ昼食のお時間ですが……」

 読書に夢中になっていた俺は、フュアさんの控えめな声がけにハッとすると、読んでいた本を閉じて顔を上げる。

「ごめん、夢中になってた」

「ジルヴァラ様は、ご本がお好きなんですね」

 俺の謝罪にふふと柔らかく微笑んだフュアさんは、気にしてませんという代わりなのかそんな相槌を打ってくれながら、テキパキと昼ご飯の準備をしてくれる。

 メニューは美味しそうなナポリタンっぽいパスタと、ポタージュスープだ。色味的にコーンかな?

「トマトソースのパスタとコーンポタージュです。お代わりもございますので、必要でしたらお声がけください」

 絶対にこのパスタ服を汚しそうだなと思ってたら、フュアさんが「失礼します」と言って俺の首元によだれ掛け……ではなく、ナプキン的なやつを着けてくれた。

「ありがと、フュアさん。いただきます!」

 パスタはあーんしにくいメニューなので、俺は自力でパスタをくるくるして口へ運ぶ。

 パスタは啜っちゃいけないのはたぶん異世界でも一緒だろうなぁ、と一気に啜って食べちゃいたい自分と戦いながらパスタを食べていく。

「……ロコ」

 どうしても世話を焼きたい主様がスプーンを持って待機してるので、パスタを飲み込んで無言であーんと口を開けるとすかさずスプーンが突っ込まれる。

 パスタ、スープ、スープ、パスタ、スープ、スープ、スープ、スープという忙しない食事に、俺は何とか口を動かして社畜のランチタイムかよという脳内突っ込みを入れつつ、それでも昼ご飯をしっかり堪能する。

 やっぱりプロの料理人さんが作るとパスタも一味違うよなぁ。

「もうお腹いっぱい! ごちそうさま、今日のも美味しかった!」

 お腹いっぱいになってきた俺は、まずは大きな声で終了宣言をして主様の手を止めてから、フュアさんへ向けてへらっと笑いかける。

 食べ終わった食器を片付けようとした俺だったが、さっと近寄って来たフュアさんによってさり気なく片付けられてしまう。

 俺の世話ばかり焼いてるように見えていた主様も、合間合間にきちんと食べていたようで、いつの間にか空になったパスタの皿が三枚ぐらい重なっている。

「ごちそうさまでした」

「お口にあったようで何よりです」

 ぽやぽや微笑む主様に、凛とした微笑みで返したフュアさんに見惚れてると、フュアさんと目が合ってくすりと笑われる。

 その表情の意味がわからず首を傾げていると、フュアさんは主様の膝上に戻された俺へと近寄ろうとして、何かに気付いた様子で足を止める。

 フュアさんが足を止めたのと、俺の背後で少し主様が身構えたのは同時で。

 今度は警戒するような主様の態度を訝しんで首を傾げていると、フュアさんはその場で微笑ましげな表情をして自らの口元を指差すジェスチャーをする。

「幻日様。申し訳ございませんが、ジルヴァラ様の口周りが少々……」

 その動作と言葉で、俺は自分の口周りの状態を悟って拭く物を探してきょろきょろしていると、主様から顔を掴まれる。

 あ、と思った時には、べろりと舐められた後で、それから微苦笑になったフュアさんがそっと差し出してくれた濡れた布巾で顔を拭われる。

 舐められた意味は全くなかった気はするが、主様が満足げな顔をしてぽやぽやしてるので良いことにした。

 すっかり自堕落な生活になってしまったので、明日から朝走り込みしようかなとか思いながらソファに腰かけた主様の膝上でうつらうつらしていると、料理人さんが夕ご飯の準備を始めてくれたのか、良い匂いが漂ってくる。

 スパイシーなその匂いは、俺も大好きだし、主様も気に入ってくれたあの料理の匂いだ。

 プロの料理人さんが作るとどんな味なのかなと期待をしつつ、俺は主様の寝かしつけの腕前に白旗を上げてしまっていた。



 ふっと目が覚めたのは、近くで食器の触れ合う音と人の話し声が聞こえてきたからだ。

 それは眠る前にはいなかったはずの相手で、俺はくっつきそうになる瞼をしっかりと押し上げて、声の主を確認してへらりと笑いかける。




「こんばんは、フシロ団長」




「おう、こんばんは、ジルヴァラ。すっかり良くなったみたいだな」




 俺の元気な様子を見たフシロ団長は、いつも通りニッと笑ってくれて大きな手で俺の頭を優しく豪快に撫でてくれるのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


そりゃあ、この方もお見舞いに来ますよね。


いいね、ブクマ、ありがとうございますm(_ _)m


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誤字脱字報告助かります(`・ω・´)ゞ

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