167話目
エセシリアスな語りをするジルヴァラです(*´ω`*)
「ふぁ……よくねた……」
目覚めた瞬間からわかる体のスッキリ感に、俺はもぞもぞと主様の懐から抜け出してベッドから降りると、大きく伸びをする。
昨夜お風呂に入ったおかげで体も全体的にすっきりしてるし、気分は爽快だ。
「今日の朝ご飯、久しぶりに作れそうかな」
「……もう一日ぐらい、うちの料理人に任せてゆっくりしてください。ジルヴァラ様はまだお小さいのですから、そんなに頑張らなくて良いのですよ」
思いがけず独り言に答えが返ってきて、俺はきょとんとして声のした方を見ると、そこには俺の世話焼き待ち万全なフュアさんが困ったような微笑みで待機してくれている。
「おはよ、フュアさん」
「おはようございます、ジルヴァラ様。本日の朝はフレンチトーストでございます」
「わぁ、フシロ団長んちの料理人さんの作るフレンチトーストなんて、絶対美味しいやつだ!」
挨拶からのフュアさんによるメニュー発表により、俺は自分で朝ご飯を作ろうとしていたことなどすっかり忘れて、楽しみ過ぎてその場で小さくぴょこぴょこと跳ねる。
「ふふ。大変お可愛らしいですが、ジルヴァラ様は病み上がりなのですから、あまり無理は……」
フュアさんの優しくたしなめる台詞は微笑ましさを増した表情と共に途切れ、ぴょこぴょこしていた俺の体は背後から近寄って来た誰かに抱き上げられて、物理的におとなしくさせられる。
「ロコ」
「お、おう、主様。おはよ」
いつの間にか起きてきた主様によって抱き上げられ、常より幾分か低い声音でたしなめるように名前を呼ばれてしまい、俺は首を竦めて誤魔化そうと挨拶をしてみる。
返ってきたのは深いため息で、おとなしくしてなさいという言葉の代わりなのか抱え直されてゆっくりと頭を撫でられる。
「お食事は本日もこちらへお持ちしますので、もう少々お待ちくださいね」
フュアさんから微笑ましげな顔で見られながら、俺は主様に抱えられてベッドの上へと戻される。
あぐらをかいた主様の懐という世界一安全であろう場所に抱え込まれながら、俺は動かせる範囲で手足を動かしてみる。
いわゆるストレッチというやつだ。
すっかり体調が良くなったから、正直動きたくて仕方ないのだ。
「ロコ」
途端にじっとしてなさいとばかりに主様から名前を呼ばれて、完全に動けないように抱き締められてしまう。
俺の洗濯物を片付けてくれていたフュアさんの方から、堪えきれなかったのか小さくくすくすという笑い声が聞こえてくるのだが、主様から完全ホールド状態になった俺はそちらを見ることも叶わない。
緩む気配のない拘束に、俺はこのまま寝てしまわないように気合を入れ直し、主様の服をギュッと掴んで何となくそのまま揉んでみる。
「尊い……っ」
フュアさんの方から謎の声が聞こえたのは謎だけど、とりあえずフレンチトーストが来るまで眠らずに済んだので俺としては万々歳だ。
●
「ふぁ……とろける……」
たぶん今俺の顔もとろとろかもしれないけど、それぐらいプロの料理人さんが作ってくれたフレンチトーストは美味しかった。
厚切りの食パンを二枚ペロッと食べ終えた俺は、余韻でとろとろしたまま主様のあぐらの上でホットミルクをちびちびと飲んでいる。
主様もかなり気に入ったのか、三回目のお代わりをしてフレンチトーストを食べていってる。
このプロ作のフレンチトーストを食べてしまうと、俺のフレンチトーストなんか食べてくれなくなりそうだなぁと寂しく思いながらフレンチトーストを食べる主様の顔を下から見つめていると、不意に主様がこちらを見たのでバッチリと目が合う。
「どうしましたか、ロコ。食べ足りない?」
「ううん、お腹いっぱいだ。……いや、このフレンチトースト美味しいから、俺のフレンチトーストなんか霞んじゃうなぁと思ってさ」
お腹いっぱいと擦って答えてみせたが、その後もじっと見つめてくる主様に負けて、へらっと自嘲するように軽い口調で答えておく。
プロの料理人さんの作った方が美味しいのは当たり前なんだけど、子供じみてるとは思うが何だか悔しいのだ。
それでいて、作ってもらっておいてそう思う自分が申し訳なくもあり、主様のあぐらの上でもだもだしていると、ふふと主様が笑う気配がしてギュッと抱き締められる。
「私はロコの方が好きです」
そのまま告げられたのは、今の俺にとって何よりも嬉しい言葉で。
思わず伏せていた顔をぱっと上げて主様を見ると、仕方ない子だと言わんばかりの表情で俺を見て笑ってくれていて。
俺はあまりの嬉しさから、さっき食べたフレンチトースト並みにとろとろとした状態になってしまい、面白がった主様からずっと頬を突かれていたが、それも気にならないぐらいに嬉しかった。
あの『肉なんか生で食べても一緒』とか言い切っちゃうような食に全く興味のない主様が、俺の作ったフレンチトーストの方が好きと言ってくれたのだ。
嬉しくない訳無いだろう。
「ありがと、主様」
お礼を言うと主様からは不思議そうに首を傾げられてしまったが、それぐらい嬉しかったのだ。
えへへへと笑いながら、俺は内心で『料理人さんにコツとか聞こう』と密かに決意していた。
いくら俺の作った方が好きと言ってもらえたとはいえ、好きな人にはどうせなら美味しい物を食べてもらいたい。
夕飯までの間にこっそり抜け出せるか? と俺は俺をしっかりと捕獲している主様の様子を窺うのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
行動理由が『主様大好き』なジルヴァラでした(*´Д`)
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