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163話目

診断はただの風邪です。


感想、いつもありがとうございますm(_ _)m

「ロコ……」



 悲しそうにぽやぽやしている麗人からあまりに切ない声で呼ばれて、俺って本当に死ぬんじゃないかと思いながら、俺は咳き込んだダメージでベッドに横たわっていた。

 そんな主様の背後からドリドル先生が呆れたように笑っているのが見えてるので、本気で思っている訳ではないが。

 それよりドリドル先生の手にしている薬包紙が、切なそうな主様より若干俺の気持ちを重くしている。

 ドリドル先生が変な物を飲ませるはずはないけれど、この世界の粉薬はやたら苦い気がする。

 前世であったような子供用風邪シロップ的な甘えた薬は……たぶん無いのだろう。

 まさか俺がなんだかんだで飲むから、苦い物を飲まされてたり?

 ──その分効く気がするから、諦めて飲むしかないか。

 覚悟を決めた俺はゆっくりと上体を起こし、ベッドの傍らで悲しそうにぽやぽやしている主様を見ないようにしながら、準備万端なドリドル先生へ視線をやる。

「では、これを」

 自分で口の中へ入れるよりドリドル先生から粉を入れてもらって、水で流し込むのが確実なので俺は水の入ったコップを受け取り、一口含んでから餌をねだる雛鳥のように大きく口を開いて待つ。

「いい子ですね」

 ふわりと優しく微笑んだドリドル先生は手際良く俺の口内へサーッと粉薬を流し込んでくれて、俺は苦味を感じる前にと口内へ入ったそれを必死で水で押し流していく。

「にっが……」

 何とか吐き出さずに飲み込めたが、薬の苦味に俺は涙目で水をお代わりしてがぶ飲みする。

 頑張りましたねと誉めてくれるドリドル先生にへらっと笑い返していると、切なそうにしていた主様からギュッと抱き寄せられ、生理的に浮かんでいた涙を唇で拭われる。

 くすぐったさに目を細めていると、主様はいつの間にか手にしていた飴玉を俺の唇へ押し当ててくる。

「ありあと……」

 あーんと口を開けて伸ばした舌で飴玉を受け取って口内へと入れる。

 口の中でカラコロと転がしてると、甘いというのは何とかわかるので、口内へ広がる甘さが薬の苦味を中和してくれる。

「これって、前にフュアさんから貰ってたやつ?」

 口の中を指差しながら訊ねると、主様は俺の唇をふにふにと押しながらこくりと頷いてくれる。

 さっきから触った唇が思いの外柔らかいとか思って無心に押してるんだろうけど、飴を食べにくいので止めて欲しい。

 何度か間違えて主様の指まで舐めちゃってるし。

「ぬし、さま……ゆび……や……」

 途切れ途切れそう伝えると、主様はゆっくりと瞬きを繰り返して俺をじっと見つめてから、やっと指を離してくれる。

 これで落ち着いて飴を食べられると胸を撫で下ろしてカラコロさせていると、何処からか視線を感じてそちらへ顔を向ける。

 そこにはイイ笑顔したフュアさんがこちらを見ていた。

 イイ笑顔したフュアさんとプリュイによって服を剥かれた俺は、温かい濡れタオルで全身の汗をくまなく拭われ、汗で濡れた服も替えてもらってスッキリした状態でベッドに寝かされる。

 そういえば、俺はずっと今は昼だと思ってたけど、実はもう夜らしい。

 カーテンがきちんと閉められていたし、そこまで気を配る余裕がなくてわからなかった。

 今は氷枕(プリュイ)を頭に宛ててもらって一眠りして、少し胃に物も入ってにがーい薬も飲んだから、少し楽になった気がする。

 咳も少し収まってきたし、朝になれば熱もちょっとは下がってるんじゃないかと期待している。



 ──何より。



「ベッドの傍らに突っ立って見ているくらいなら、添い寝でもしてあげなさい」



 ドリドル先生からそう言われた主様が添い寝してくれることになったから、現金な俺はそれだけでちょっと元気になれそうだ。

 主様相手なら風邪うつるなんて心配はないだろうし、と考えて小さくくふくふと笑った俺を、おとなしく寝てなさい、とばかりに伸びて来た主様の腕が引き寄せてきて。

 最近は寒いせいかたまにくっついて眠っていることもあったが、今日はまだ意識のハッキリとしている状態で抱き寄せられて、主様の腕の中にいるので少し気恥ずかしい。

 もぞもぞとしていたらさらに拘束が強まって、額へ柔らかな感触が触れてくる。

「ぬしさま……?」


「ロコ、おとなしく寝なさい」


 やんわりとたしなめるような口調ながら、声音は何処までも甘やかすように優しくて。




 不謹慎だけど、風邪を引くのも悪くないなぁと思ってしまいながら、俺は優しくてあたたかい夢の中へ落ちていく。

 この腕の中なら、どんな高熱に魘されていても悪夢は見ないだろうと確信しながら。


『あ、犬だー』

 具合悪いせいか、やたらと懐かしい夢ばかり見るなと夢の中で夢だと思いながら、俺は目の前の白いもふもふへと飛びつく。

 もっふもふな胸毛は夢の中でももふもふで、俺は遠慮なくもふもふへと埋まる。

「がうがう」

 そのまま無心で埋まっていると、白い犬はそんなことを不機嫌そうに俺へと言ってきた。

 夢の中なんだから、もうちょい優しくなってもいいよな? まぁ、俺の記憶の中から出て来たモノだから仕方ないんだろうけど。

 ちなみに言ってきた内容は、


『あんな奴の側にいるから具合悪くしたんだぞ』


 みたいな内容だ。

『主様は悪くないもん』

 熱に浮かされた夢の中なせいか、思わず出て来た反論の台詞は記憶の俺よりだいぶ幼い。

「がるる」

『人外だろうが、主様は主様だもん!』

 主様に対する文句をブツクサ口にする白い犬に大声で反論して睨むと、白い犬は少し悲しげな顔をして俺を見つめてくる。

『心配しなくても大丈夫だよ。風邪引いたのは俺のせいで、主様のせいじゃないから』

「がうがぁ」

 これは『でもさぁ』という不満げな相槌なので、俺は腕を目いっぱい広げて白い犬の大きな体を抱き締める。

『俺がもうちょい大きくなったら、会いに行くよ。熊と仲良くして、元気でいてくれよな? そこは俺の実家なんだし、そこの皆は俺の──』



「家族なんだから……」



 思いがけず夢の中で口にした言葉は現実の空気を震わせ、俺はゆっくりと目を開ける。

 もちろん目の前に広がっていた光景は懐かしい森の中ではなく、慣れ親しみ始めた自分の部屋だ。

 それなのに、何となく……本当に何となくだけど、何処からか白い犬の気配がして体を起こそうとしたのだが、それより早く伸びて来た腕にギュッと力強く抱き締められる。

 反射的に主様の顔を見るが、そこにあったのは完璧な寝顔で。もう一度抜け出そうと軽く身動ぎしてみたが、逆に何もわからなくなるくらいしっかりと腕の中に包み込まれてしまう。




 主様の匂いに包まれてしまうと、確かに感じていたはずの白い犬の気配はあっという間に遠ざかってしまい、俺は今度は夢も見ない深い眠りへと落ちていった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


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