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161話目

今回かなり短めです。


切る場所の関係でこの長さになってしまいました。

「あー……」



 体調が悪いせいもあるが、また苦い薬を飲まなければいけないという事実に重い気分になりながらも、俺はドリドル先生にされるがまま診察をされていく。

 変な声を出しながら喉奥を覗かれて、上着を捲り上げられる。

 そう言えばいつもは使っていない暖炉で炎が揺れてる。プリュイが部屋を暖めてくれたんだろう。

 上着を捲り上げられて何をされるかと思ったら、今回は風邪っぽいせいか、聴診器がで出て来てそれで胸をペタペタとされていく。

 主様はこういう診察を見慣れないのか、さっきからずっと無言でジーッとガン見して来ている。

 確かに主様が風邪引いてる姿なんて想像出来ないよな。

 ダルさもあってボーッとしていると、プリュイが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「ジル」

 不安そうに呼びかけてくるプリュイはというと、優秀な氷枕として俺の頭へ貼りついて冷やしてくれている。

 今は上体を起こしているのに、俺には重さを感じさせないという素晴らしい働きだ。

「だい、じょぶ……ごほっ……」

 喋ると同時に咳が出てしまい、背中を丸めて咳をしていると、ドリドル先生から優しく背中を撫でられる。

「ただの風邪のようですね。何か食べられそうですか?」

「食欲ない……水飲みたい」

 そう言うとほぼ同時に視界の端にいた主様が素早く動いて、コップに入った水を差し出される。

「ロコ……」

 あまりにも切ない声と表情で名前を呼ばれてしまい、俺って余命宣告でも受けてる? と聞きたくなったのを主様から受け取った水と共に飲み込んでおく。

 キンキンではなくちょうど良く冷えた水が喉を通る感覚に、ほぅと息を吐いていると主様の手が頬に添えられる。

「あつい」

 触れた頬の熱さに驚いたように主様がポツリと洩らし、その流れで頬をむにむにと揉まれる。

「発熱をしているのですから、当たり前です。私はジルヴァラが食べられるような物を用意してきますので、その間ジルヴァラを……見ていてあげてください。それとこのメモを騎士団長へ」

 ドリドル先生は呆れたように主様の呟きへ突っ込みを入れて俺の頬を揉む主様の手を引き剥がして、何かが書かれたメモを渡している。

 そのメモを主様が受け取って、白い鳥へと変えて飛ばすのを見ながら、俺は優秀な氷枕なプリュイによってベッドへ寝かされる。

 いつまでも温くならないプリュイのおかげで頭は良い感じて冷やされ、起きたばかりなのにまた意識がとろりと溶けてくる。

「ぬしさま……」

 具合の悪い時ぐらい甘えてもいいかな、と主様を呼んでおずおずと手を伸ばすと、いつもよりひんやりと感じる手がギュッと俺の手を包み込んでくれる。

 安堵感からほぅと息を吐いた俺は、主様の手を引き寄せてすりすりと頬を擦り寄せる。

 今なら甘噛みしてくる主様の気分がちょっとわかるなぁとふにゃふにゃしていると、ゴホゴホと咳き込んでしまい、驚かせてしまったのか俺の手を握る力が強くなる。

 そんなに心配しなくても、これぐらいの風邪なんか森で暮らし始めた頃はよく引いてた気がする。

 それがなくなったのはいつからだっただろう。

 そんなことをぼんやり思い出しながら、俺はゆっくりとまた懐かしい夢の中へと落ちていった。

 深い深い森の奥の洞窟の中、枯れ葉ともふもふ達に包まれて小さな体を丸め喘ぐような呼吸を繰り返す幼児が一人。

 ビュービューと吹き荒れる雪が洞窟の入り口から吹き込むのと一緒に、真白く大きな四つ足の生き物が入って来て、鼻先でちょいちょいと幼児を突く。

『死ぬのか』

 洞窟の中に響いたのは年老いているようであり、若くも聞こえるような不可思議な男性らしき声で。

 もふもふ達は青年の言葉を理解しているのか、不安げにもふもふと揺れて幼児を守ろうとするようにさらに密集していく。

 もふもふでぎゅうぎゅう詰め状態の中、幼児はゆっくりと目を開けると白い四つ足の鼻先を小さな手でぺちぺちと遠慮無しに叩いて、その目をじっと見つめ返して笑う。

『しにたくないから、しなない』

『……わかった』

 しばらく幼児を見つめた後、白い四つ足がふっと吐息混じりの笑い声を洩らすと、もふもふ達の毛並みと幼児の黒い髪が吹かれて揺れる。



『お前は──』



 何事か囁いた後、白い四つ足はぎゅうぎゅう詰め状態なもふもふ達ごと幼児を抱え込むようにして目を閉じる……その直前に幼児をべろっと一舐めして、何事も無かったようにむふーっと鼻息でもふもふ達と幼児の毛並みをゆらゆらとさせ。

 そんなのどかな光景を、幼児へ与えるためらしい果実を手に戻って来た熊が優しい眼差しで見つめていた。









「…………あれって、いつだったっけ?」

 ゆるゆると目を開き、夢の続きのようなぼんやりとした声で呟いた黒髪の子供だったが、繋がれたままの手に気付くと嬉しそうにふわふわと微笑んで、抱いた疑問のことなどすぐ忘れてしまったようだった。

いつもお読みいただきありがとうございますm(_ _)m


具合悪い時って、人恋しくなりますよねぇ

(*´Д`)


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