159話目
まず最初に。ジルヴァラはかなり丈夫です←
普通の幼児ならヤバいことでも、多少のことは何ともないです(^^)
感想ありがとうございますm(_ _)m
悪戯をして叱られる一幕もあったが、初めて作ったナンは主様も気に入ってくれたみたいで良かった。
プリュイと一緒に後片付けをしていると、主様が視界の端でそわそわしているのが見える。
「ジル、幻日サマが、一緒にオ風呂入りたいようデス」
何でだろうと首を傾げていると、呆れたようにため息を吐いたプリュイから説明されて納得する。
「もう少しで終わるから」
へらっと笑って主様を見ると、ぽやぽやしながらこちらを見る姿が、遊んで欲しそうな猫っぽくて美人可愛い。
思わず謎単語を作っちゃうぐらい無言でおとなしく待つ主様が可愛くて、いつもより早く片付けが終わってしまった。
ちなみにだが、残ったカレーはいくつかの鍋に分けて、冷めてから主様に収納してもらってある。
ナンの方はと言うと欠片も残らなかった。
作った身としては嬉しくて、綺麗になった皿を前にニマニマと頬を緩めてしまった。
「終わりましたか?」
片付けが終わったのを見計らい、そわそわと主様が話しかけてきたので、俺はへらっと笑って頷く。
「じゃあ、お風呂行くか」
俺がそう言うや否や、主様の腕が伸びて来て人拐いかと思う手際の良さで小脇に抱え上げられる。
「ジル、着替エ持っテ行きマスね」
「おう、ありがと。よろしくな」
いってらっしゃいませ、と見送ってくれて、さらに着替え持ってきてくれると言うプリュイへ手を振りながら俺は無抵抗に小脇に抱えられ運ばれて行く。
主様の腕力なら手足の力を抜いてても重くないだろうし、遠慮なく脱力して手足を揺らしていると、頭上からため息が聞こえてくる。
「ロコ……運ばれ慣れ過ぎです」
「人拐いとか変態にはちゃんと抵抗してたし」
主様を筆頭に皆が簡単に俺を抱き上げ過ぎなんだよ、という突っ込みは飲み込んでから、へらっと笑って小脇に抱えられたままでグッと拳を握って見せたのだが、
「……そもそも捕まらないでくださいね」
返ってきたのは至極真っ当な言葉だった。
●
今日も主様から全身を洗われて一足先にのんびりと浴槽に浸からせてもらいながら、主様が髪を洗うのを眺めている。
体を洗う姿すら芸術品のようで見惚れてしまうが、髪を洗う手付きはあの綺麗な髪に対するものとは思えないぐらい雑だ。
逆に何で俺の髪を洗うのにあれだけ繊細さを発揮してるのかが、毎度思うけど謎過ぎる。
「ロコ」
「ん」
ボーッとしてたら体を洗い終えた主様が浴槽へ入って来て、背後から抱き締められるように主様の膝上に乗せられる。
そのまま主様の顔が首筋に埋まってきて、お湯とは違う温度に首筋を撫でられる。
「ひゃ! ……主様、なんだよ」
振り返ってじとりと恨めしげに睨むとぽやぽや微笑まれたので、俺のさっきの悪戯に対する意趣返しなのかもしれない。
「主様、意外と大人気ないよな」
お湯を揺らしてくつくつと笑っていると、俺の腹辺りに回された腕にギュッと力が籠もって背中で主様の胸板を感じる。
それは、ふわふわぽやぽやした麗人とは思えないしっかりとした筋肉だ。
筋肉って温かいよなぁと、お湯とは違う温度に半分寝かけながらとろとろとしていると、耳元へ吹き込むように主様の声がする。
「……で、ロコ。抵抗『してた』とはどういうことですか?」
ボーッとしてた俺はくすぐったさに首を竦めながら、問われた意味を考えるのに何度か瞬きをして、それが先ほどの人拐い云々の時の会話だと思い至る。
「んー、ほら、浅い川で主様が流されたり、お菓子で釣られたり、変な花に襲われたりした時とか? あとは、一人でご飯の準備とか片付けしてた時とかだな。ソルドさん達がいた時は全然無かったんだけど、主様と二人になってからはどうしても一人で行動するのが増えたからな」
「私は……何を……?」
そんなに前のことでないのに、今とだいぶ違う……主様のぽやぽや死亡フラグ建築士に関しては今もだけど……主様との関係を懐かしく思い出しながら軽い口調で答えたのだが、思いの外主様にショックを与えてしまったのか、記憶を失った人みたいな呟きを洩らして動かなくなる。
「いや、今が過保護過ぎるだけで、前の方が普通ぐらいだろ? ……尻触られたり、胸触られても、男の俺にはそこまでダメージはないし……やっぱり女の子と間違われ……って、寒……っ!」
苦笑い混じりで適当なフォローをしていたら、それが不味かったのか主様の魔力が駄々洩れし、浴槽のお湯を凍りつかせてしまう。
魔力自体なら平気になってきたが、さすがに物理的に起こった変化は防ぎようがなく、流氷が浮いた海と化した浴槽の中で俺はガチガチと歯を鳴らすしか出来ない。
浴槽から上がろうにも主様の腕は外れないし、呼びかけたくても歯の根が合わず言葉が上手く出せない。
なので頼りになる魔法人形の名前も呼べない。
俺の二度目の死因凍死? 低体温症?
本気でそう思いかけた時、バンッと勢いよく浴室の扉が開かれて、青色が浴室へ飛び込んでくる。
「ジル!」
入って来たのは異変に気付いてくれたらしいプリュイだ。
何のためらいもなく主人であり創造主という絶対的な存在の主様から俺を奪い取って流氷の海と化した浴槽から出してくれたプリュイ。
「ジルを殺ス気デスか?」
今の今まで浸かっていた浴槽並みに冷ややかな言葉を主様を突きつけるプリュイを、俺はぼんやりとしてきた視界の中で見つめている。
俺を抱き上げたプリュイの体は温かく、冷え固まった体が解れるにしたがって眠気が襲ってくる。
これ、寝たら死ぬぞ! 的なやつじゃないよな? とか遠退く意識に抗っていたが、プリュイの「寝テモ大丈夫デス」というふるふるな体と同じぐらいの柔らかな声音を聞いたら安心してしまい、俺はあっという間に意識を手放していた。
「ロコ、ロコ、ごめんなさい、そんなつもりは……」
魔法人形に抱えられて運ばれる子供へ浴槽から飛び出した赤髪の青年が血の気が引いた顔で追い縋るが、目を閉じた子供はピクリとも反応せず、魔法人形からは主へ向けるものとは思えない冷め切った眼差しが向けられる。
「幻日サマは、マズ服ヲ着てくだサイ」
そう言い捨てると魔法人形は自らの不定形な体を使って子供の全身を包み込み、水気を吸い取ってから服を着せていく。
「ジルは、部屋デワタクシが温めマス」
魔法人形がそう言っても、青年は自分がやらかしてしまった自覚があるせいか何も言わない。
常に穏やかに微笑んでいる表情には不服さがありありと浮かんでいるので、何も言えないの間違いかしれないが。
魔法人形はそんな主を気遣う様子もなく、意識のない子供の体に負担がかからないようにすることだけ気遣って歩いていく。
その背後を幽鬼のように青年がついていくが、ぐるりと振り返った魔法人形に睨まれてすごすごと引き返していく。
「少シハ、反省シテくだサイ」
ふんっと存在しない鼻を鳴らすような仕草を見せ、魔法人形はまたゆっくりと歩き出す。
子供を連れた魔法人形が到着したのは、子供の自室となっている部屋だ。
ベッドへ向かう道すがら、魔法人形はチリ一つ落ちていない暖炉へ伸ばした体の一部を使って数本の薪を投げ込み、さらに火を点ける。
この屋敷はあの青年の魔法によって快適な温度に保たれているため、暖炉が暖炉として用をなしているのは、青年と子供が食事を摂るあの広間だけなのだ。
そんな普段は使っていないが掃除だけは行き届いた暖炉へ火が入り、部屋の温度が一段と上がる。
「ジル」
ベッドへ寝かせた子供の顔を覗き込んだ魔法人形は、紫だった子供の唇にやっと赤みが戻ってきている様子に安堵の息を吐く。
そして、とろりと人型だった体を崩して冷えた子供を温めるために包み込んで、文字通りの添い寝をする。
そこまで魔法人形は頑張ったが、初めての冒険者として依頼をこなした疲れもあったのか、次の日の朝目覚めた子供は──。
「ごほごほ……っ」
盛大に風邪を引いてしまっていた。
いつもお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
主様がキレてるのは、ジルヴァラへ無関心で放置気味だった過去の自分です(๑•̀ㅂ•́)و
主様が死亡フラグでなんやかんやしてる間、ジルヴァラ結構ヤバかったんだよ? 的な。
本人は自力で抜け出したり、スルーしちゃってケロッとしてます←
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