156話目
相変わらずほのぼのパートです。
地雷女みたいになりつつある主様と、それを可愛いなぁで流しそうなジルヴァラ。
そして、うちのヒロイン枠のイオです。え? 白い害虫? いやー、何のことだか(*´Д`)
感想、いつもありがとうございますm(_ _)m
ガンドさんの店先で修羅場みたいなことをするのも迷惑なので、俺は主様の手を引いて馬車へと乗せる。
買った箸はお弟子さんなドワーフさんが紙袋に詰めてくれたので、主様を引く手とは逆の手で抱えている。
「御者さん、すみません、うちまでお願いします」
主様の頼んでくれた御者さんは質もいいのか、俺の指示でも快く頷いてくれて、無事に馬車は走り出す。
ガタゴト揺れる馬車の中で、主様はぽやぽやしながら恨めしげに俺を見つめて首を傾げている。
俺はため息を吐いて紙袋を漁ると、先ほど見せた俺用の箸ではなく、それより長い箸を主様へと見せる。
もちろんそれでは意味は通じなかったらしく、主様は無言で首を傾げたままだ。
「これ、主様用に買ったんだ。今度うどん作りたいって言ってただろ? どうせなら、主様と箸で食べたいなぁって思ってさ」
「…………それがどうして私に払わせないのに繋がるんですか?」
不機嫌そうというより不安そうに見える主様に対して、俺はへらっと笑ってその手に主様用の箸を握らせる。
「俺が初めて冒険者として稼いだ金で主様に何か贈りたかったんだよ。高い物は買えないし、そもそも主様ならもっと色々持っていそうだしさぁ」
自分で言っていて段々虚しくなってきてしまい、俺は軽く唇を尖らせて主様の手から箸を取り戻そうとしたが、既の差で主様によって収納へとしまわれてしまう。
「あ」
「これは私の物です」
ふんっと小さく鼻を鳴らして、ぽやぽやドヤァとした表情をする主様に、気に入ってはもらえたようだとひとまず安堵する。
「そういえば、贈っておいてなんだけど、主様って箸使えるのか?」
何処にしまわれるのかわからないが、何となく箸が消えた先を目で追っていた俺は、ふと思いついたことを口にする。
主様の食べる姿は綺麗だが、スプーンやフォークぐらいしか使っている姿を見たことがない気がしたのだ。
「…………覚えます」
じっと見つめていると、しばらく無言で見つめ返してきてから主様は力強く宣言した。
「じゃあ、主様が上手く使えるようになったら、うどん作って食べようぜ。上手く打てるかわからないけど」
実際作ったのは遥か昔だが、確か作り方がタロサの料理帳に載っていたので、それを頼りにさせてもらえばそこまで食べられない物が出来ることはないだろう。
うんうんと一人で頷きながら何となく窓の方を見る。
流れて行く景色はまだまだ真っ昼間な街中の風景だ。
焦るあまり行き先を自宅にしてしまったが、まだ帰るには早い気がする。
「せっかく出て来たんだし、何か主様は用事とかないのか?」
貸し切り馬車なので、ちょっと行儀は悪いが窓に張り付いて外を見ながら主様を振り返るが、返ってきたのは無言で横に振られる首だ。
「じゃあ、うちに帰って昼ご飯に……」
するか、と言いかけた俺の視界に入ったのは、進行形で前を通り過ぎようとしていた通りに面している大きな店だ。
「あ、そうだ! 御者さん、あそこの店前で停めてもらえますか?」
思いついた瞬間に声に出してお願いすると、前の所の小さな窓越しに寡黙な御者さんが頷いてくれるのが見える。
急な進路変更にも嫌な顔一つしないし、本当に良い御者さんだ。
「ロコ?」
訝しんで俺を呼ぶ主様に、俺は見覚えのある店の方を指差して見せる。
「ほら、イオの所にお礼行かないと! 俺、主様と話してちょっと怒り過ぎたせいで気絶しちゃったから、ちゃんとお礼言えてないし!」
本当は事前に連絡すべきだろうが、クッキー渡してありがとうって言うぐらいなら、そこまで営業の邪魔にはならないだろう。
この間買い物した時には、イオ家族には会えなかったし、ちょうど良い。
最悪の場合、俺が子供だってことで多目に見てもらえるかもしれないし、と子供らしからぬ少々ずる賢い考えで突入した結果──。
「やったぁ、ジルとお昼ね!」
昼ご飯にお呼ばれして、イオと並んでテーブルにつくことになっていた。
●
渡したクッキーは、あんな素人丸出しの手作りの物で喜んでもらえて、嬉しいが若干申し訳なくなる。
せめて形だけでも変化をつけれるように抜き型作ってもらおうと心に誓いながら、俺はクッキーを無邪気に喜んでくれているイオの横顔を見つめる。
いつもなら俺の隣を陣取るであろう主様は、イオに場所を譲ってくれて今は一人掛けのソファでぽやぽやしていて、そんな主様へイオのママであるファスさんがふわふわと話しかけている。
漏れ聞こえてくるのは「うちのイオがお世話になりましてー」とか「うちのロコは〜」とか、保護者同士のやり取りっぽい会話だ。
「ねぇ! ジル、聞いてる?」
主様の方に気を取られていたら、イオの言葉を聞き逃してしまったらしく、可愛らしく頬を膨らませたイオに詰め寄られる。
「ごめん、ボーッとしてた」
「もう! ジルったら、幻日様のこと好き過ぎるんだから」
俺が主様を見ていたのはバレバレだったらしく、イオはわざとらしい仕草で呆れたように肩を竦めてみせる。
その仕草は大人のマネをする子供そのもので可愛らしく、俺はくすくすと笑ってごめんともう一度繰り返す。
その後はきちんとイオと他愛もない話をして、俺が冒険者になったと聞いたイオは自分のことのように喜んでくれた。
しばらくしてファスさんが運んできてくれて、テーブルにドンッと乗せられたのは、湯気を立てる焼き立ての大きなパイだ。
「ママのミートパイ、美味しいのよ?」
「へぇ、俺ミートパイって初めて食べるかも」
イオと並んでミートパイに目を輝かせていると、うふふと楽しそうに笑いながらファスさんがミートパイをカットして俺とイオの前に置かれた皿へと一切れずつ置いてくれる。
「あら、そうなのね。ジルくんの口に合うと良いのだけど」
「いただきます!」「いただきまーす!」
仲良くイオと声を揃えて食前の挨拶をし、フォークでミートパイを崩して口へと運ぶ。
熱々なので手で持って豪快にがぶりとはいけそうもないのが、ちょっと残念だ。
行儀悪いが丸ごとかぶりついても美味しそうなんだけどな。
「んー、美味い!」
「でしょ!」
もぐもぐもぐもぐと咀嚼して飲み込んでから、イオと顔を見合わせて笑い合って感想を言うと、我が意を得たりと笑顔のイオが大きく頷く。
「主様は……」
静かになった主様を見やると、ぽやぽやしながらパイを素手で持って綺麗な所作で食べている。
綺麗な所作だけど、熱々なミートパイを手掴みで食べてる。
思わず脳内で二回呟いたが、主様は手の皮膚までチートなのだろう。
俺は真似するのは止めておこう。火傷する未来しか見えない。
そう思いながら小さく首を振り、真似しそうだったイオをそっと止めておく。
おとなしくフォークでミートパイを切り崩しながら味わい終え、これも食べてと出してもらったミニトマトで口の中をさっぱりさせる。
「イオ? トマト食べないのか?」
ほんの少しだけ酸味はあるが甘くて美味しいミニトマトを味わっていると、俺の隣でイオが皿の上に一つ残ったミニトマトと睨み合いをしてるのが見え、首を傾げて様子を窺う。
「二個は食べたもん」
唇を尖らせて拗ねたような言い方をするイオに、俺は睨み合いの理由を悟ってくすくすと笑う。
「俺食べ足りないから、残りの一個もらっていいか?」
「え? うん! いいよ!」
俺の提案に一瞬きょとんとしたイオは、すぐにパァッと笑顔になってミニトマトが乗った皿を俺の方へと差し出し……たりはせず、フォークにミニトマトを刺してあーんの体勢だ。
大人からは散々されてきたあーんだが、同年代からされるとなんだかとても気恥ずかしい。
遠くからニマニマして見てくるファスさんが視界に入ってくるので、余計に。
「はい、ジル。どうぞ?」
「あ、あぁ、ありがと」
ここで断るのもなんだかなぁなので、俺はへらっと笑ってイオのあーんを受けてミニトマトを食べるしか選択肢はなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
大まかな設定は書き留めてあるんですが、細かい所は勢いで書いてるので、たまに読み返して矛盾発生してワタワタしてます(*´艸`*)
そもそも5話で終わる予定の話だったんだけどなぁ←
感想、評価、ブックマーク、いいねありがとうございますm(_ _)m小市民なので、わかりやすく反応いただけると心の栄養になっております(^^)




