155話目
勢いで書いてるため、たまに細かい設定が抜けてて、読み直して書き直したりしてます(*ノω・*)テヘ
ナハト様の兄達の呼び方、直さないとなぁと思いながら何処と何処だっけ? となって放置されてます。
今回は、ジルヴァラが箸を踏み台と一緒に手に入れてたのを忘れていたため、あちこち書き直してたらこんな時間の更新となりました。
「主様、主様ー。今日は主様、時間空いてるか?」
朝食後、プリュイと一緒に片付けを終えた俺は、ソファで優雅にお茶を飲んでいる主様へと突撃して今日の予定の確認をする。
ま、別に突撃といっても、ソルドさんとかにするように足へしがみついたりした訳じゃなく、ソファの隣のスペースに上体を乗り上げさせて、主様の顔を下から覗き込むだけだ。
「空いてますが……」
「なら、俺ガンドさんの所行きたいんだけど行ってきて良い?」
まずは一人で出かけさせてもらえないか交渉してみる。
もしかしたら、昨日きちんと一人…………ほぼ一人で依頼は出来たから、気をつけて行ってきなさい、と許可もらえるかな? とちょっと期待もしてみたり?
「それは、ロコだけで出かける、という意味ですか?」
「そう。ほら、予備の踏み台貰ったから、お礼言いたいし。作ってもらいたい物もあるし」
これは行けるか? と主様をじっと見つめていると、伸びて来た主様の手が髪を撫でて頬を撫でて、顎の下をくすぐるように撫でられる。
くすぐったくて目を細めていると、
「……今日は駄目です」
と、ボソッと返って来た言葉と共に主様によって抱き上げられ、膝上へと移動させられる。
「そっか」
やっぱり駄目だったか、と思ったが『今日は』と付いたからには、次ぐらいは大丈夫かもしれない。
たぶんだけど、昨日叩かれたから、またあの男に会うかもと主様は心配してくれているんだろう。
「私と一緒なら、良いですよ」
そう言って、俺を守るようにギュッと抱き締めてくれるので、この仮説はあってそうだ。
「おう。じゃあ、もうちょっとしたら出たいんだけど、主様は平気か?」
主様を心配させるのは本意じゃないし、主様と一緒に出かけられるのは嬉しいからへらっと笑って頷き、主様の顔を間近から見上げる。
主様はどの角度から見ても美人だなぁと見惚れてると、また顎の下をくすぐられる。
「えぇ、構いませんよ」
俺をくすぐるのが楽しいのか、主様は楽しそうにぽやぽやしながら俺を抱えたまま立ち上がる。
「やった! 主様とお出かけだ」
一人で出かけるのも魅力的だが、主様と出かけられるのはもっと嬉しくて思わずそんな声を上げながら、主様の服をギュッと掴んでくすくすと笑う。
「一人で出かけたかったのではないですか?」
そんな俺の様子を、主様は不思議そうに見つめてきて可愛らしく小首を傾げている。
「まぁな。でも主様と出かけられるのも嬉しいから」
俺が言葉通り嬉しくてふへへと気の抜けた笑い方をしていると、主様はぽやぽやしながらため息を吐いて、
「ロコは変わってます」
と、久しぶりに聞く台詞を口にする。
前と違うのは親猫が子猫を毛繕いして構うように、主様が唇であちこちに触れてくることだろう。
髪、額、鼻先、瞼と次々に落ちてくる唇は、最後に頬へと触れて離れていく。
「久しぶりに聞いたな、それ」
そこまで前ではないはずなのに、懐かしさすら感じる台詞に思わず吹き出すと、ぽやぽやしている主様の眉間に少しだけ困ったように皺が寄る。
なんだかそれが嬉しくて、さらに声を上げて笑っていたら、少し主様の気分を害してしまったのか、
「あまり無邪気に笑うな。──首輪を嵌めて閉じ込めたくなる」
と、冗談混じりの脅しをいただいてしまった。
からかい過ぎるのは良くなかったな。
●
ちょっと脅されてからかわれたりもしたが、主様は怒っていた訳ではなく無事に二人で外出出来ることになった。
貸し切った馬車へ主様と二人で乗って、ガタゴトとガンドさんの工房を目指す。
二人きりの馬車内で広々使えるはずだが、主様は俺の隣へぴったりと張り付いている。
主様が膝上に乗せようとするのを全力で拒否したら、こういう状態で落ち着いた。
長距離ならお尻が痛くなるからと膝上に乗せてもらうのもありだが、ガンドさんの工房へ向かう距離ぐらいは一人で乗れるようにしないとな。
一応これでも冒険者になった訳だし。
主様の甘やかしから逃れた達成感にふふんとドヤ顔をしてたら、ふむと考え込んでから櫛を取り出した主様による毛繕いタイムが始まった。
暇潰しに俺を構うのは決定事項らしい。
身だしなみが良くなるし、気持ち良いのでおとなしく主様に身を預けて髪を梳いてもらっていたら、気付いたら爆睡していて主様の膝上に抱えられていて。
「ロコ、着きましたよ」
主様に揺すられて目を覚まし、ハッとして周囲を見渡すといつの間にか主様の膝上に乗せられていて、ふふと微笑む主様を前に、なんだか負けた気分になった。
気を取り直して、抱き上げて来ようとする主様を手を避けて、しゅんとされてしまったが心を鬼にして一人で馬車から降りる。
そのまま数歩進んで主様を振り返った俺は、おとなしく後から降りてくる主様をその場で待つ。
「行こうぜ、主様」
どうしても抱き上げてくれようとする主様に対して、先に手を繋いでしまう作戦で抱き上げられるのを阻止して、俺はガンドさんの工房へ向けて歩き出す。
馬車はぴったり店の前に停めてもらったから、そんな大した距離じゃないんだけどな。
「ガンドさん、こんにちはー」
相変わらずぽやぽやしてるだけの主様の分も俺が元気良く挨拶して工房の中へ入っていく。
「おう、ボウズか。今日はどうした? 踏み台の追加か?」
すぐに奥からガンドさんが姿を現し、ガハハと笑いながらその辺にあった踏み台をバンバンと叩いている。
「今日は違いますけど、踏み台使い心地ばっちりです! 予備もありがたく使わせてもらってます。それで、ほんの心ばかりの品というかこれ俺の作ったクッキーです。お礼にもならないですけど、ガンドさんお金受け取ってくれなさそうなんで……」
自分で作った物だから丈夫さに自信があるのだろうが、あんまり商品はバンバン叩かない方が良いのでは、と頭の隅で思いながら主様から出しておいてもらったクッキーの包みをガンドさんへ差し出す。
「お、わざわざ悪いな。ワシは甘い物もイケる口でな。早速茶の時間にでも皆で食べさせてもらおう」
豪快な笑顔でクッキーを受け取ってくれたガンドさんは、それを奥から出て来たお弟子さんっぽいドワーフに渡している。
「踏み台はバッチリと言ってたが、どこか使い難いとかありゃ、すぐ直してやるぞ?」
ガンドさんの頼もしい言葉に、俺は欲しかった物があったことを思い出して、手で長さを示しながら首を傾げてみせる。
「今のところは大丈夫です。あの、踏み台じゃないんですけど、俺が使えるような長さの箸ってまだありますか?」
「おう、ちょうどこの間新しく作ってみたのがあるぞ。ほらこっちだ」
ガンドさんに手招きされ、俺はちょこちょこと工房の奥へとついていく。
興味がない主様は、視界に俺が入ってれば問題ないのか入口辺りでぽやぽやして佇んでいる。
それを俺の方からも視界の端で捉えながら、ガンドさんが出してくれた箸を見せてもらう。
本職の人がきちん作っただけあって、ソルドさんの作ってくれた物より洗練されている。
まぁ、比べること自体が失礼かもしれないが、俺はソルドさん作の箸も愛着が湧いて嫌いじゃない。もちろん、前回俺が頼んで作ってもらったガンドさんの箸も手抜きな訳じゃないが、今回のは柄とかに細工がしてあって高そうだ。
「ちなみにいくらですか?」
主様にバレると即座に払いに来そうなので小声で訊ねると、ガンドさんは何かを察してくれたらしく「どれも銅貨三枚だ」と同じく小声で答えてくれる。
確か街中では、銅貨一枚でリンゴが一つ買えるって話だから……うん、高いか安いかわからないな。
でも、こんな装飾もあってしっかりとした箸ならこの間のより長持ちするだろうし、お得だろうと思った大きく頷いて箸を指差す。
一つは俺の使う用に少し短めな物と、もう一つは大人の男性が使うのに適した長さの箸を選んで指を差して示す。
「よし、二つ買ってくれるならまけて銅貨四枚にしてやろう」
「そういう訳にはいかないです。きちんと代金受け取ってください」
「子供が遠慮するもんじゃない」
「良い物にはきちんと対価を払うべきです」
顔を突き合わせてこんな感じでゴニョゴニョと揉めた結果『代金は銅貨五枚。代わりにオマケ付けてやらァ』という話で、何とか決着がついた。
安く買わせようとする店主と、高く買おうとする客という謎な状態だったが、無事に箸は買えたので良かった。
問題のオマケだが、俺が買った箸とは違って装飾も何もないシンプルな菜箸だ。
「じゃあ、これ代金です」
「おう、確かに受け取ったぞ」
傍から見たら時代劇の悪徳商人と悪代官のようなやり取りを終え、俺は買ったばかりの箸を手に主様の元へと戻る。
パタパタと駆け寄ると、何故だがわからないが屈み込んで来た主様から抱き締められ、ぐりぐりと額を首筋へ擦りつけられる。
猫のマーキングみたいだなぁと他人事のように思いながら、俺はじっとして主様の気が済むの待っていた。
しばらくすると満足したのか、主様はぽやぽやとした表情で俺の手元を覗き込んでくる。
「それは?」
「新しい箸だよ」
俺がソルドさんの作の箸で食事をする姿やガンドさんの作ってくれた箸を使う姿は、何度か見ているからか、主様は特に疑問を抱く様子もなくぽやぽや頷いていたのだが、
「おいくらですか?」
「代金ならもうボウズから貰ったぞ」
と、ガンドさんが答えた瞬間、主様の表情からぽやぽやが消える。
「私はもう用済みだと……」
「何でそうなるんだよ!」
この世の終わりみたいな声音で呟かれて、俺は全力で突っ込むことになってしまった。
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