150話目
ドッタンバッタンと視点変更忙しい回です。
私の文才が不足してるので、ここで補足しておきます。
ジルヴァラスタート→ソーサラさん視点→アーチェさん視点→オーアさん視点→ソルドさん視点です(ノ´∀`*)
「ジルヴァラ! 殴られたって、本当なの!? ほら、よく顔を見せて……っ! なんとことを……っ!」
叩かれたことなんかすっかり忘れていた俺は、ソーサラさんの反応に瞬きを繰り返すしか出来なかった。
親方ドワーフさんも、漬け物屋さんの女性も何も言わなかったから、そこまで酷いことにはなってなかったとは思ってたが、そんなに目立つのだろうか。
だとしたら、帰った時に主様やプリュイを心配させちゃうなと思っていると、ひやりとした物が頬に触れる。
「痛かったでしょう? ほら、あっちで座って休みましょう?」
俺の頬に濡らした布をあてながら、ソーサラさんは俺の手を引いて椅子の方まで連れて行ってくれる。
背負い籠は近寄って来た冒険者さんが持って行ってくれたし、書類も違う冒険者がオーアさんの所へ提出してくれた。
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げると、冒険者さん達はそれぞれ気にするなと頭を撫でてくれて、にこやかに去っていった。
よく見ると微妙な時間帯なせいか冒険者ギルド全体の人が少なく、カウンター内にいる職員も少ない。
具体的に言うと、エジリンさんが見当たらない。
社畜と呼びたくなるエジリンさんは、冒険者ギルドに来た時は常にいたような気がしてたが、そうでもないらしい。
きょろきょろと周囲を見渡していると、椅子に腰かけたソーサラさんから膝の上へ抱えられてしまった。
「ソルドとアーチェなら、ちょっと野暮用よ。──すぐ終わるでしょうから、あたし達はここで待っていましょう」
妙に含みのあるソーサラさんの言葉に首を捻り、何となくオーアさんの方を見ると、本物の秘書のようなビジネス笑顔で返されて終わった。
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[視点変更]
「結局、三回ともソルドはついて行っちゃったわね」
今回はアーチェもついて行ったので、冒険者ギルドで一人待ちながら、あたしは自嘲気味に呟く。
二人共あたしを子供好きだと言うけれど、二人も十分子供好き──二人は単にジルヴァラが好きなだけかしら。
それはさておき、一人留守番となったあたしはゆったりと椅子へ腰かけ、粘っこい目で見てくる男達へ指先をバチバチといわせて警告をしながら、のんびりとジルヴァラの帰りを待つ。
ケーキを崩さないようにちょこちょこと歩く姿も可愛らしかったけれど、さっきの重い荷物を背負ってよたよたと頑張る姿も可愛らしかったと可愛いジルヴァラの姿を思い返していると、出来る受付嬢のオーアがこちらを見ていることに気付く。
何かを言おうか悩むような彼女には珍しい仕草に、あたしは首を傾げながらオーアの方へと歩み寄る。
「オーア、何かあたしへ用かしら? もしかして、過保護過ぎるという警告?」
せめて初めての依頼ぐらい少し過保護でも良いでしょ、との意味を込めてオーアを軽く睨むと、返ってきたのは苦笑いと横に振られる首で。
「……最後の配達先が少し気になっていまして。苦情という程ではないのですが、最近冒険者ギルドは忙しいのか、と。話を聞くと、頼んだ物がちゃんと届かないようなので、これでジルヴァラくんが届けて『きちんと』揃っていた場合は……」
周囲を憚って小声で告げられた内容に、あたしは思わず周囲を窺ってしまったが、オーアがそんな注意を怠る訳はなく周囲には人影はなく、こちらを気にしている……のはあたしの胸辺りをニマニマ見てるから大丈夫そう。
「ジルヴァラが不正なんてする訳ないから、これできちんと届いたなら、誰か途中で荷を抜いてるってことかしら?」
「残念ながら。……人選には一部を除いて気をつけていたんですが」
心から残念そうに呟くオーアの示す一部には心当たりがあり過ぎるが、それは横に置いておいて、今はジルヴァラの帰りを待つしかない。
あたしがそう思った時だった。
ジルヴァラの後をついていったはずのアーチェが駆け込んできたのは。
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[視点変更]
リーダー特権だ、と宣って三回ともジルヴァラの後をついてきているソルドの気配を感じつつ、僕は少しよたよたとしながらもしっかりと歩くジルヴァラの小さな背中を見つめていた。
転ばないだろうか、とハラハラしていると、あまり面相のよろしくない男性がジルヴァラへと接触するのが見える。
生憎と僕の位置からでは何を話してるかはわからないが、ジルヴァラの表情に怯えは見えないので大丈夫だろうと固唾を呑んで見守る。
しばらくすると、ジルヴァラの元気の良い断りの声が聞こえてきて、あの面相のよろしくない男性はジルヴァラから荷物を預かろうとしていたようだとわかる。
それだけなら、ただ幼く見えるジルヴァラへ手を貸そうとした善人だ。しかし、見た目で判断はしたくないが、あの男性の面相は少々気になる。
ジルヴァラが去っていく際に見せた目配せのようなものも。
「アーチェ、気付いたか」
「どうもただの『いい人』では無さそうですね」
僕がジルヴァラとの距離を詰めるか悩んでいると、ソルドが近寄って来て真剣な声音で問うてくる。
ソルドの勘が反応したのなら、あの男性はほぼ黒確定だろう。
「嫌な予感がしやがる。ジルヴァラと距離を詰めるぞ」
「はい!」
頷き合ってジルヴァラを追う速度を上げる僕達だったが、それは後手だったようで。
追いついた時には、ジルヴァラは自力であの男性を振り切って走り出す所で、僕は一安心してあの面相のよろしくない男性へ話を聞こうとしたのだが、男性の逃げ足の方が上手だった。
「ちっ、逃げやがったか」
「あれは明らかに初犯ではないですね」
ここで男性を追うべきかジルヴァラを追うべきか悩んだのが不味かった。
あの男性はまだジルヴァラから荷物を奪うことを諦めておらず、僕達が追いついた時には、ジルヴァラは頬を赤くして唇の端から血を滲ませ、あの男性に叩かれたことは明白で。
咄嗟に背中へ伸ばした手は空を切る。
弓矢は街中の尾行では目立つと思い、冒険者ギルドにいるソーサラに預けて来てしまったのだ。
「あのゲス野郎っ!」
弓矢を置いてきたことを悔やむ僕の横からソルドが考え無しに飛び出すより早く、的確に男性の急所を襲撃したジルヴァラが自力で拘束を抜け出して、一気に安全な方へと駆け抜けていく。
「……さすがジルヴァラですね」
ひとまず去った危機にまだ安堵の息は吐けない。
何故なら、まだジルヴァラの危機の『原因』は目の前にいるのだから。
「アーチェ、お前は武器無いんだから、冒険者ギルドまでひとっ走り頼むな?」
「……わかりました」
徒手空拳で戦う自信は少々無いので、僕は素直にリーダーの指示に従って駆け出す。
ソルドがこんなゴロツキ崩れのような冒険者の仲間にやられる訳がないとわかっているとはいえ、何があるかわからない。
それに何より、僕自身あの男性には文字通り一矢報いたいのだ。
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[視点変更]
ネペンテスさんに聞かれてしまうと、また『えこひいきだ』と言われそうでしたが、ソーサラさんになら話しても構わないだろうと判断したわたくしは、普段のわたくしの行動からは少し外れた無駄話をしてしまった。
まるでそれが呼び水となってしまったかのように、トレフォイルのメンバーであるアーチェさんが駆け込んで来て、ジルヴァラくんの危機と、最近鍛冶工房への荷物配達で出て来ていた苦情の原因となる事柄を知らせてくださった。
わたくしは即座にエジリンさんへ相談をして、即座に動ける信用の置ける冒険者達を集めてもらい、A級冒険者でもあるエジリンさんの指揮で街の方へと飛び出して行かれました。
殴られたというジルヴァラくんは少し心配ですが、おかげでこの冒険者ギルドの膿出しが出来そうで何よりです。
「ジルヴァラ、殴られたなんて……」
あんな小さい子になにするのよ、と憤慨するソーサラさんの呟きは、口に出すことの叶わないわたくしの呟きと思いがけず重なってしまい、わたくしはうっすら微笑んだままジルヴァラくんの無事を願って、いつもの通りの業務を続けていきます。
普段では考えられない小さなミスを数度してしまって、微笑みの裏でひっそり項垂れていると、エジリンさんがイイ笑顔を浮かべて戻られ、全て上手く行ったことを悟ったわたくしは、ソーサラさんと見つめ合って微笑み合いました。
エジリンさんの後ろからは、同じくイイ笑顔のアーチェさんもチラッとお顔を覗かせたので、きっとジルヴァラくんを殴ったというお相手へ一矢報いられたのでしょう。
ソルドさんのお姿が見えないのは、念のため、まだジルヴァラくんの側へついてあげてるのでしょう。
アーチェさんもソーサラさんへ報告してまた戻られるようですし。
ああいう小悪党は、何処からでもいくらでも湧いてくるものですから。
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[視点変更]
きっとジルヴァラは、俺をお馬鹿な大型犬みたいなお兄さんぐらいにしか思ってないだろう。
実際嘘ではないし、そう思われるのも嫌ではない。
「けどさぁ、俺だって大事な奴が傷つけられたらムカつくんだよなぁ」
「や、やめてくれ……」
ジルヴァラの見事な一撃で悶絶していた男の背中を踏みつけて地面へ縫いつけていると、そんな情けない声を上げて逃げようとしている。
あぁ、踏みつけてる背中じゃなく、逃げないように地面へナイフで縫いつけた手が痛むのか?
ジルヴァラを殴るような手だから、少し痛めつけたくらいでちょうど良いよな。……それと目印にもなるし。
和ませてやろうとニッと笑いかけると、踏みつけている男がヒィッと悲鳴を上げる。
その笑顔のまま周囲を見やると、足下の男のようにヒィッと悲鳴を上げるのが物陰に数人いる。
あれが仲間かと思ったのと、俺の優秀な仲間の放った矢が悲鳴を上げていた奴らの肩や腕へと突き刺さるのは同時だ。
急所をきちんと外してあげるあたり、アーチェは優しい。
幸いにも俺の足下の男が、わざわざ人目のない所でジルヴァラを襲ってくれたため、一般人を巻き込まないので済むのが楽でいい。
仲間かわかりにくい奴にはきちんと服を壁とかに縫い付けるだけで済ませているあたりも、アーチェは優しい。
「今、エジリンさんがこちらへ向かわれてますから、あとはお任せしましょう」
汚い物でも見るような眼差しを俺の足下の男へ向けるアーチェは、いつも通り冷ややかに微笑んでるが、いつも以上にその眼差しは鋭い。
「おう。俺は、ジルヴァラが心配だからそのままついてくわ」
思い切り足を振り下ろして男を気絶させてから、俺はニッと笑って使わなかった剣を鞘へとしまう。
「……ジルヴァラを無事にギルドまで見送ったら、僕達は一度宿屋へ行って着替えてきましょう」
アーチェのその言葉に、俺は初めて自分の服へと飛んだ返り血に気付いて、あーあと声に出してしまう。
「よく殺さなかったですね」
アーチェが独り言のようにそう呟くので、俺はちらりと目線で近くの建物の屋根の方を見やる。
俺の意味ありげな視線に気付いたアーチェは、それを追って何かを見つけたのか、青ざめた顔色であぁと短く声を洩らし、見なかったことにするように視線を落とす。
「横取りして恨まれたくないからな」
ニッと笑った俺の視界の端、建物の屋根の上を高速で移動する赤色が、連行される男達と同じ方向に消えて行ったなんて、お馬鹿な俺は全く見てはいないだろう。
いつもありがとうございますm(_ _)m
そして、いつも感想ありがとうございます!(^^)
あの方、やはり家でおとなしくしてなかったようですねぇ(他人事)
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