149話目
叩かれたことなんてすっかり忘れてるジルヴァラです(*´Д`)
皆様も、熱中症にはご注意くださいm(_ _)m
「ごめんくだ……さい……って、え?」
初めて入る鍛冶工房の中、襲ってくる熱気に目を細めながら挨拶をした俺の目に入って来たのは、火の入った炉? っていうのかな、それの前でぶっ倒れている依頼主であろうドワーフさんの姿だ。
周りには使っていたであろう道具が散らばってるし、どう見ても作業中ぶっ倒れた感じだ。
脳梗塞? 心臓麻痺?
色んな物騒な病名が頭を過っていくが、俺は自分の肌に感じる異様な暑さによって、前世で真夏に何人もの命を奪っていた恐ろしい存在を思い出す。
「もしかして、熱中症?」
普段から慣れてるドワーフさんが今さら熱中症になるとは思えないが、顔を真っ赤にしてハァハァと息をしている様子は、熱中症っぽく見える。
もしかしたら少し体調が悪かったり、ご飯抜いたりしちゃって熱中症になったのかもしれない。
どんな理由にしろここで倒れてるのは悪化しかしないだろうと、俺は背負い籠を適当な場所に置いて、倒れているドワーフさんへと近寄る。
両脇に手を差し込み、抱き上げてみようとしたが無理だった。
身長は俺とそんなに変わらないのに、ドワーフさんはとんでもなく重い。
意識を失った人間は重いってこういうことなのか? と知識でしか知らなかったことを実感しながら、俺はドワーフさんをズルズルと引きずって何とか涼しい所……というかほぼ外へ引っ張り出す。
俺はドワーフさんを適当に寝かせると、前に担ぐ形になっていたリュックサックをガサゴソと探ってそこから水筒を取り出す。
主様から貰った物のせいか、何の革かはわからないけど丈夫だし、嫌な臭いはしないし、やたらといっぱい入るし、いつまでもひんやりと……って今は水筒の性能はどうでもいいな。
「ドワーフさん! 水飲めますか?」
名前がわからないのでドワーフ呼びで申し訳ないが、ドワーフは見た目で年齢がわかりにくいので、おじさん! と呼んでて若かったりしたら申し訳ない。
混乱するあまり、そんな変なことを気にしながら、俺はドワーフさんの頭を少し持ち上げて口元へ水筒の飲み口を近づける。
「う……」
外に出した効果は少しはあったのか、微かに呻いたドワーフさんの口が動いて頷いたのがわかり、俺はゆっくりと水筒を傾けていく。
こくり、こくり。
ゆっくりと、だが大きく喉を鳴らして水を飲み干していく様子に、俺はひとまず安堵の息を吐く。
「親方、生きてるのかい?」
俺が何をしてるのかわからなくて遠巻きにしていた人の中から、人の良さそうなふくよかな女性が話しかけてきてくれたので、俺はことさら人懐こい笑顔を心がけてへらっと笑いながら、大きく頷いて見せる。
「俺が来た時には中で倒れてました。暑くて倒れたのかな、と外へ運んだところなんです。それで、すみませんが塩とか少し分けてもらえませんか?」
「あー、親方またやったんだね。わかったよ、すぐ塩持ってきてあげるからね」
お利口さんだね、と俺の頭を一つ撫でてから、女性は体型にはそぐわない颯爽とした足取りで自宅があるらしい方向へ駆け去っていく。
「こ、こは……」
女性を見送っていると、腕の中から声が聞こえてきて視線を落とすと、ドワーフさんはぼんやりと目を開けて周囲を見渡している。
「炉の前で倒れてたんです。水、もう少し飲みますか? 今、塩持ってきてくれるように頼んだので、それも舐めておいた方がいいと思います」
「お、おお、ありがとうな……」
俺が声をかけながら水筒を差し出すと、ドワーフさんはお礼を言って、グビグビと勢いよく水を飲み干していく。
この分なら大丈夫そうだな、と安心していたら、さっきの女性が塩を乗せた皿と、見覚えのある赤い実の乗せられた皿を持ってきてくれる。
「親方! あんた、またやったんだね? ほら、お塩と梅干しよ! いくら仕事終わりのお酒が美味くなるからって、水分控えるのは止めなさいって言ったでしょう!」
どうやらこの親方と呼ばれているドワーフさんは以前も熱中症になっていて、しかも原因は体調不良とかではなく、ただのお酒が美味しく飲みたいがための水分我慢って……。
「死にたくないなら、水分と塩分はちゃんととってくださいね?」
苛立ちというか怒りというか、その感情が顔に出ないように気をつけながらニコリと笑って告げると、ドワーフさんは少し引きつった表情で頷いてくれる。
「本当にそうだよ、親方! こんなちっちゃな子心配させて、何考えてるんだい!」
「あぁ、今度から気をつける…………で、ぼうずは誰だ?」
「あら、そういえば、見覚えのない子だね」
今さら俺が誰だか気になったのか、地面にドカッと座り込んだドワーフさんと女性から、訝しむような視線を向けられる。
俺は居住まいを正すと、へらっと愛想良く笑って、
「俺は冒険者ギルドから荷物の配達に来た冒険者です。今荷物持ってくるんで」
と、挨拶をして頭を下げる。
もう三回目なんで慣れてきたが、俺が『冒険者ギルドから』と言った瞬間、ドワーフさんの顔がわかりやすく引きつる。
今回はヒロインちゃんはあの盗み取りの被害に遭っただけで何かをしたりしてないと思うんだけどな、と淡い期待をしたのだが……。
「冒険者ギルドから? じゃあ、あのやたらと態度と声の大きい白い髪の女の子は知り合いかい? やたらと『ドワーフなんか人じゃない』って親方に絡んで大変だったのよ? あの子は、人族以外は人として認めないタイプなら、ここへの配達は止めてもらいたかったね」
荷物を取りに行こうとした俺に、女性からそんな言葉がかけられて、淡い期待は脆くも崩れ落ちる。
確かに俺もファンタジー脳だから『ドワーフって人?』とは思ったけど、この世界ではそういう分類なんだなと納得はしていた。それをヒロインちゃんは出来なかったんだろう。
だからといって、本人へ向かって言うのは駄目だろう。
「なんか、すみません……」
どっと疲れを感じながら、俺は鍛冶場の中へと置いてきた背負い籠を背負い直して、親方ドワーフさんの前へと運んでくる。
「これが荷物です。確認していただけますか?」
「おう。しかし、最近冒険者ギルドも忙しいのか、頼んだ物が結構抜けてやがるからなぁ」
よいしょと立ち上がった親方ドワーフさんは、梅干しを食べたせいではない渋面で俺の運んできた荷物を確認してくれる。
「お、今日は全部揃ってるぞ。これで早速注文されていた商品を作るか」
ガチャガチャと中身を確認した親方ドワーフさんは、パアッと笑顔になると早速背負い籠を持って工房の中へと戻ろうとしてしまう。
「親方さん、今日はもうお休みした方が……」
思わず俺がそう声をかけると、隣で女性も大きく頷いてくれ、
「そうだよ。また倒れたらどうするんだい? 今日は、この子に受け取りのサインをしてあげて、休みにしな!」
と、援護射撃をしてくれた。
あと、俺が梅干しに興味を引かれていたら、喜んで瓶で分けてくれた。
この女性、とてもいい人だ。
「んー、酸っぱいけど美味しい!」
早速一つ貰って食べていると、女性から優しく頭を撫でられる。
「そりゃ良かった。あたしは、あっちで漬け物の店出してるんだよ」
そう言って女性が指差してみせたのは、通りを挟んだ向かい側にあるお店だ。
「今度お店へ買いに行きますね」
「おや、ありがとね」
そんな和やかな会話をして俺は女性と別れ、親方ドワーフさんからは無事に受領のサインを貰えた。
荷物の入った背負い籠は置いて、前回届けた分の空になった背負い籠を持って帰る方式なので、帰り道は楽々だ。
念のため、先ほど昏倒させた男のいた通りを避けて冒険者ギルドへ辿り着いた俺を待っていたのは、涙ぐんだソーサラさんによる熱烈な抱擁だった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
明日は投稿出来ないかもしれませんm(_ _;)m
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