144話目
ひしひしと感じる主人公としてのヒロインちゃんの存在感←
そして、脳筋確定なソルドさん(*ノω・*)テヘ
「配達先は数件あるのですが、何事もなければ時間的に一日で回れると思います。荷物が多いので、何度かここへ戻って来ていただくか、荷車を引く……いえ、何でもありません」
無事にソルドさんを復活させ、アーチェさんとソーサラさんを苦笑いさせてから、俺はオーアさんから配達先の説明を受けていた。
オーアさんが荷車に関して何か言いかけて止めたのは、どう見ても俺が荷車を引けそうもないからだろう。
ソルドさん達から手伝ってもらえば可能だけれど、それはどうしてもの最後の手段だ。
この荷物が届かないと誰か死んじゃう! とかいう場合は、ソルドさんから荷車を引っ張ってもらうのもやぶさかではない。
「ちなみに、この荷物が早く届かないと誰か死んじゃうなんてことは……?」
念のためにオーアさんにそう確認してみたら、ふふと小さく微笑んでくれて、ゆっくりと首を横に振られる。
「そのように緊急性が高い物は別の冒険者へ依頼を出してあるので大丈夫です。特例冒険者への依頼は、ある程度時間に余裕がある物となっております」
説明しながらオーアさんが差し出してくれたのは、三件の配達先らしい住所と名前が書かれたメモで、それぞれ下には荷物の中身が書かれている。
俺と一緒にそのメモを覗き込んだトレフォイルの三人は、目配せし合ってカウンターの上に取り出した地図を乗せて相談を始めている。
「一番近いのはどれ?」
せっかく三人が考えてくれているので、オーアさんではなく三人へ向けて訊ねると、ソルドさんがメモの一番上の部分を指差す。
「えぇと、届け先は料理屋さんで、荷物は冒険者ギルドへ依頼のあった香辛料だな。──まずはここから行きます。オーアさん、荷物は何処にありますか?」
「それでしたら……」
オーアさんがそう言いながら視線を向けた先には、俺がやっと抱えられる大きさの木箱を持ってやってくるエジリンさんの姿があった。
「ジルヴァラくん。こちらが香辛料となります。重いのと、割れやすいのでお気をつけください。……それと、ジルヴァラくんには関係ないのですが、少々届け先の方から何か言われるかもしれませんが、大丈夫でしょうか」
エジリンさんはカウンターに木箱を置きながら、気遣わしげな視線を俺へと向ける。
「あー、俺が小さいからですか? それだったら平気ですけど」
俺は木箱の蓋を開けて中身を確認しながら、自嘲気味にへらっと笑っておく。小さいのは事実だし、何を言われようと気にしない。
俺の答えにエジリンさんは少し困ったような笑顔で、カチャリと眼鏡の位置を直して視線を少しさ迷わせる。仕草といい、疲れたような笑顔といい、やはり社畜という言葉が似合ってしまう。
「それもありますが、前回配達をしてくださった冒険者が、届け先と少し揉めたようで……」
「あれは相手が悪いのよ! スリジエは悪くないわ!」
「……平気です。俺は自分が頼まれたことを全うするだけですから。……それでですが、いらない紙とか布とか柔らかい物ありませんか?」
途中、妙な声が合いの手を入れるように聞こえた気もしたが、俺もエジリンさんも気にせず会話を続ける。
「何に使われるんでしょうか?」
エジリンさんの言葉に、用途がわからなければ用意のしようがないかと気付いた俺は、香辛料の並んだ木箱を指差す。
「このままじゃ手で運んでる時に絶対に割れそうなんで、緩衝材になる物ないかなぁと思ったんです」
「かしこまりました」
「俺の前に運んだって人は、もしかしてそういうこと気にせず運んじゃったんでしょうか」
エジリンさんは緩衝材になる物を探しに行ってくれたので、依頼を受けるための書類を用意してくれているオーアさんへ向けて質問してみる。そんなに急ぎでない届け先と揉めるなら、まずそれが理由っぽいだろう。
中身を確認しないで急いでガチャガチャ運んで、瓶が割れしまったとかヒビ入ったかしたのかもしれない。
「そちらの届け先に関してはそのようですね」
苦情を言われたであろうオーアさんは、少し疲れたような感じで答えてくれて、書類を俺の手元へ差し出してくる。
「…………んん? そちらの届け先に関しては?」
その書類を読んでサインをしてから、俺はオーアさんの言い回しの違和感に気付いて首を捻る。
首を捻る俺の側ではトレフォイルの三人が荷物を覗き込んで、話し込んでいる。
「ソルドみたいなタイプだったのかしら」
「ソルドは力はありますが、そういうところへ気は回しませんからね」
「おう、それは二人に任せてるからな」
お前は脳筋だから的なことを言われているソルドさんは、全く気にした様子もなく快活な笑みを浮かべて大きく頷いてみせている。
トレフォイルの三人は今日も仲良しだ。
そこへエジリンさんが戻って来たのだが、何故だかとても疲れた表情をしている。
「すみません」
「その子にだけそんなことしてあげるなんて、えこひいきよ! 紙もタオルも冒険者ギルドの物なんだからね!」
一言謝るエジリンさんに被せるようにキンキンと響くある意味わかりやすい説明が聞こえてきて、俺は引きつった笑みで緩く首を横に振る。
「じゃあ、俺の手持ちのタオルでも……」
そう言ってリュックサックをおろしかけた俺の目に、冒険者達の中に混じるずんぐりむっくりなドワーフの姿が映る。
一瞬ガンドさんかと思ったが人違いだ。
この近くに工房があるドワーフなのか、それとも冒険者なんだろう。
そこまで考えて、俺は緩衝材にちょうど良いのではないかという物を思いつく。
「ソルドさん、この近くに木工系の工房とか製材所みたいな所ある?」
「え? あー、確かあったと思うが、あの女ぶん殴るのに薪でももらってくるか?」
相当苛ついたのか、女の子に優しいはずのソルドさんからとんでもない暴言が出てきてしまったが、それを首を振って軽く流して、俺はソルドさんに硬貨を数枚握らせる。
「薪はいらないから、木くずとかおがくず分けてもらってきてほしいんだけど。頼めるか?」
「よし、わかった! 二人はジルヴァラについててやってくれ」
何に使うんだとか全く聞くこともなく、ニパッと明るい笑顔を浮かべたソルドさんは、颯爽と駆け出していく。
「まぁ、会話の流れから察せるか」
その背中を見送って俺がポツリと呟くと、俺を守るように両隣へ陣取るアーチェさんとソーサラさんからは、
「いや、たぶん何もわかってないですよ」
「とんでもない量もらってきても驚かないであげてね」
なんて、ソルドさんのことをよくわかっている発言がもらえた。
数分後、俺の目の前には大きな布袋を抱えたソルドさんと、手伝ってくれたらしいドワーフのおじさんが、こちらも大きな布袋を抱えて立っていて……。
思わずアーチェさんとソーサラさんを振り返ると、大きく頷かれてしまった。
「やっぱりこうなりましたか」
「まぁ、前と違って腐る物じゃないからマシね」
これでいいだろ? とキラッキラの笑顔をして布袋を差し出しているソルドさんを責めることなんて出来る訳もなく、俺はへらっと笑って「ありがと!」と布袋を受け取るしかなかった。
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