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142話目

ソルドさん、丈夫(*>_<*)ノ

「ソルドさん、本当に体平気か?」

 すっかり気分も落ち着いたので、主様の膝から滑り降りた俺は、ソルドさんの足元へと近寄る。

「おう、全然平気だ。慣れてるからな」

 慣れてるんだぁ、と思わず生温い眼差しをソルドさんへ向けてしまったが、ソルドさんはどう勘違いしたのかわからないが照れ臭そうに笑って頭を掻いている。

「この馬鹿は丈夫だから、そこまで心配しなくて大丈夫よ」

「そうなのか」

「ま、痛いものは痛いけど、前衛の俺が倒れたら、パーティー瓦解しちまうからな」

 ははと朗らかに笑ったソルドさんは、足元の俺を抱え上げてくるりと回してくれる。

 よくマイホームパパが子供にしてあげるような、あれだ。

 色々学習したのか回されたのは数度で、すぐにしっかりと抱えられてちょいちょいと頬を突かれる。

「俺達はいつでも行けるが、ジルヴァラの準備はどうだ?」

「持って行く荷物はまとめてあるし、着替えればすぐ行けるぜ」

 ソルドさんの指を避けながら、軽く胸を反らせて答えると、ソーサラさんからくすくすと笑われてしまう。

「あら、どんな依頼かもわからないのに、荷物の用意まであるのね」

「いつもは主様が収納からほいほいと出してくれるから、つい色々と詰めたくなってさ」

 自嘲気味に笑ってチラッと主様を振り返ると、聞こえていたのかふふんと鼻を鳴らし、ぽやぽやドヤァな顔しててちょっと可愛らしい。



「そういえば、幻日様は収納魔法お使いになられましたね」

「サラッと使ってるから稀有な魔法だって忘れそうになるよな」

「そもそも存在が伝説みたいな方よ」



 今はあんなぽやぽやしてるけどな、という副音声が聞こえそうな表情で見つめられていても主様は気にせず、変わらずぽやぽやして、ソルドさんに抱かれている俺の動きを目で追ってきている。

「このまま部屋まで運んでやるか?」

「歩けるから」

 半ば飛び降りる勢い……というかソルドさんの腕から勢いのまま飛び降りたら、主様より過保護なプリュイの触手によって空中キャッチされて、ゆっくりと床へと降ろされる。

「…………ありがと」

 何だかとても複雑な気分になったけど、プリュイには一欠片の悪意もないので、俺は触手をふにふにしながらお礼を言っておく。

 それがかなり不服そうに見えたのか、ソーサラさんから微笑ましげに見つめられていることに気付き、俺は苦笑いして肩を竦めて誤魔化しておく。

 バツが悪いのでさっさと荷物を取って来ようと歩き出すと、触手もゆらゆらとついてくる。

 少し古めかしい洋風のお屋敷の中を、幼児を追って迫ってくる触手。

 何処のB級ホラー映画だという光景だろうが、ここではすっかり見慣れた光景だ。

 プリュイは俺が転ぶんじゃないかと心配してくれてるんだろうが、これから冒険者になって依頼を受けに行く俺に対して過保護過ぎるだろう。




 部屋に到着すると、さっさと着替えて荷物の入ったリュックサックを背負って引き返そうとしたのだが、そこで部屋の中まで付いてきていた触手に気付く。

「プリュイ、心配してくれるのは嬉しいけど、俺冒険者になったんだぜ? これから依頼受けるんだからさ、怪我とか日常茶飯事に……」

 どうやらプリュイは触手でも話は聞こえてるようなので、ふるふるとしていた触手を捕まえてそう話しかけた時だった。

 皆まで聞くことなく、手の中に捕まえていた触手がビュンッと勢い良く引っ込んでしまう。

「えぇー……」

 俺に掴まれるのそこまで嫌だったのかよ、とちょっと凹んでいると、ペタペタと独特の足音が高速で近づいて来るのが聞こえてくる。

 あれ? と首を傾げていると、半透明の青色が勢い良く部屋へ飛び込んで来て、捕食されるんじゃないかという勢いで抱き締められる。

「怪我ハ駄目デス! ワタクシも付いていきマス!」

「……プリュイ、それは無理だろ」

 元々魔法人形は戦闘用らしいから付いてきてもらえれば心強いけど、さすがにそれは駄目だろう。

「まずは安全な依頼からって話だから、せいぜいその辺で転んで擦り傷出来るぐらいだから心配するなって」

「デスが……」

「プリュイがそんなこと言ったら、主様まで付いてきちゃいそうだろ」

 苦笑いをして俺を捕食しそうな勢いのプリュイをぺちぺち叩いていると、扉の方からガタンッと音がして同時に声が聞こえる。




「え?」




 心底驚いたような声は、どう考えても主様の声にしか聞こえず、首を傾げてそちらを見ると、やはりというか主様が目を見張ってそこに佇んでいた。

 その足元には久しぶりに見た元・呪われ剣が落ちている。

 ガタンッという音の原因はあれらしい。

「主様、剣ならソルドさんから貰った小剣があるからな? あと、まだ俺にはその剣は重いし長いから……」

 よくゲームとか小説とかで自分の身の丈より長い剣を振り回したりしてるけど、あれこそまさにファンタジーだよな。

 ソルドさんとかフシロ団長あたりなら出来そうだけど。

 ちなみに二人共、普通の……たぶんロングソードって分類されるぐらいの長さの剣を使ってる。

「剣は今度私がもっと良いのを買います。……ではなくて、私は付いていっては駄目なのですか?」

 思考を別の方向へ飛ばしていた俺は、思いの外近くから聞こえた主様の声に軽く目を見張り、ほぼゼロ距離になった主様を見上げる。

 プリュイは主様が接近した時点で、俺から離れていたらしく、今はちょっと離れた場所でふるふるとしている。

「……えぇと、付き添いはトレフォイルの三人がいてくれるし、俺は一人で行きたいなぁ」

 ぽやぽやしなくなってしゅんとした主様からじっと見下ろされ、居たたまれない気持ちになるが、心を鬼にして答えると主様の綺麗な宝石色の瞳が妖しく輝いた気がする。

「何故あちらは良くて、私は駄目なんですか?」

「……主様、美人だし、有名人で目立つから? 大丈夫だって、アルマナさんがそんな変な依頼を受けさせると思うか?」

 吸い込まれそうな瞳に見惚れてボーッしそうになる頭をブンッと振って、俺は主様を見上げてニッと笑ってみせる。

「ですが……」

「主様もプリュイも心配し過ぎ。……それにさ、万が一俺がピンチになったら助けに来てくれるだろ?」

 不安そうな主様の手をギュッと握ると、やっと不承不承ながら頷いてくれたのだった。





「主様ってさ、一緒に旅始めたばっかりの頃の方が俺のこと信頼してくれてなかったか?」

 冒険者ギルドへ向かう乗り合い馬車の中、ソーサラさんの膝上に乗せてもらいながら、俺は三人へ向けて素朴な疑問を口にする。

 ソーサラさんを守るためか両隣へ腰かけたソルドさんとアーチェさんは、俺を挟んで視線を交わし合い、何かお前が言えよ、的な押し付け合いをやっている気がする。


 俺そんなに変な質問したか?


「あれは信頼じゃなくて、たぶん幻日様は興味がなかったのね、ジルヴァラに。今は興味津々で目が離せないってところでしょ」

 頼りにならない男共ね、と言わんばかりの表情でため息を吐いたソーサラさんは、そう言って柔らかく微笑んで俺の顔を覗き込んで優しい声で囁いてくれる。

 キツめの美人さんなソーサラさんだけど、こういう慈愛溢れる顔も似合っている。

 その微笑みと優しい声で紡がれた言葉に、俺は嬉しくなってえへへとはにかんで笑う。

 両側でソルドさんとアーチェさんが睨みを効かせてくれてるせいか、乗り合い馬車の中で絡まれることもなく、俺達は無事に冒険者ギルドへと向かって行った。

お読みいただきありがとうございますm(_ _)m


主様、さらっとついてくるつもりでしたが、もちろん却下されますよねー(;・∀・)


ちゃんとおとなしく留守番してるかは知りません←


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