141話目
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ソルドさん、調子に乗っちゃうだけで、悪意はないです。
「んー、美味い!」
シンプルイズベストな誉め言葉と共に言葉通り美味しそうかつ、豪快に目玉焼きを乗せた食パンを食べてるのがソルドさん。
「確かにシンプルな食べ方ですけど、美味しいですね」
ゆったりと微笑みながら、ソルドさんの感想に同調しつつも、綺麗な所作で食べ進めるアーチェさん。こちらも目玉焼きを乗せている。
「汚さないように食べるのが難しいわ」
ソーサラさんには厚切り食パンに目玉焼き乗せは、かじりつくものとしてハードルが高かったようで、別々の状態だが美味しそうに食べてくれている。
俺はソルドさん派なんで、遠慮なく黄身で口周りを汚しながら目玉焼きとベーコンを乗せた食パンへかじりつき、すかさず伸びて来た触手によってちょいちょいと口元を拭かれる。
ちなみに本体は少し離れたキッチンで自分の分のパンを食べているところだろう。
見えてないのに俺の口元が汚れるタイミングがわかるのは何故だろう。
その度にソーサラさんが「出遅れたわ!」という謎の勝負も行われている。
「アーチェさんのスープ、久しぶりだけどやっぱり美味しい」
「ありがとうございます」
俺が感想を伝えると、アーチェさんははにかんだように微笑んでる。クールな見た目に反して、なんか可愛らしい。
肉より野菜派なアーチェさん作のスープは、野菜とキノコがゴロゴロ入っていてお世辞じゃなく美味しいし、誉められて照れてるクール美人は可愛い。良い朝だなぁ。
そういえば、忘れがちだけどソルドさんもちゃんとイケメンだ。
「ジルヴァラー、おかわりー」
……幼児な俺より汚して食べてる口周りを拭って、その口を閉じて、キリッとした顔をしていれば。
「プリュイ、お願い」
俺がそう言うのと、キッチンの方から新たな触手がお皿を持って伸びて来て、お皿をテーブルへ置いてからソルドさんの顔面を乱暴に拭う。
「おわっ!?」
ソルドさんが仰天して声を上げると、プリュイ(触手のみ)は笑うように少しふるふるして、俺の世話をしている触手とちょんっと触れ合ってから引っ込んでいった。
「ジルヴァラ、今のはあの魔法人形の一部なんだよな?」
新たなパンをあっという間に食べ終えたソルドさんは、興味津々な様子でプリュイが引っ込んだ方を見つめている。
「そうだけど?」
「よく千切れないもんだなー。ちょっと引っ張って……」
好奇心旺盛なソルドさんに悪気はないのはわかっているが、プリュイを傷つけるかもしれない発言に思わずソルドさんを見つめる視線が鋭くなる。
「じょ、冗談だって! ジルヴァラの大事な家族にそんなことする訳ないだろ?」
「……ならいいけど」
ソルドさんは俺の様子に気付いてすぐ気付いて謝ってくれたけど、一度プリュイがいなくなってしまったことを経験した身としては笑えない冗談だ。
これで不貞腐れたり不機嫌になったら三人を困らせるのはわかってるけど、お腹の奥がぐるぐるするような感覚に表情が上手く繕えない。
「ソルド! もう、なんてこと言うのよ!」
ソルドさんがあわあわして、アーチェさんがおろおろして、ソーサラさんがソルドさんを叱って、ぐるぐるしている俺を隣に腰かけて膝上に乗せて抱き締めてくれる。
「ソーサラさん、大丈夫だよ、ごめんなさい。ちょっと、プリュイいなくなった時のこと思い出しちゃっただけ」
あははと誤魔化すように笑っていると、視界の端に見えていたソルドさんの表情が固まり、俺の体はグイッと持ち上げれてソーサラさんの膝上から移動させられる。
「プリュイ?」
千切られる云々が聞こえたプリュイが気分を害して現れたのかと思ったが、俺を持ち上げたのはプリュイのふるふるボディではなく肉のしっかりとある腕だ。
「ただいま帰りました」
「……おかえり、主様」
間違えられて、主様が気分を害したんじゃないかと心配したが、特にそんな様子はなくいつも通りぽやぽやした主様からギュッと抱き締められる。
「何かありましたか?」
主様が俺の異変に気付いてくれたのが嬉しくて、さっきまでぐるぐるしていた気分が一気に落ち着いて上向きになり、現金だなぁと俺は自分で自分に呆れてしまう。
「んー、主様の顔見たらどうでも良くなったから、大丈夫!」
俺の発言を確認するように主様が顔を寄せてきたので、すりと鼻先を軽く触れ合わせて、ニッと笑いかける。
ついでに心配そうにこちらを窺ってくれている三人にも、ごめんなさいの意味を込めて笑顔を向けて頭を下げると、気にするなとばかりにソルドさんがひらひらと手を振り、アーチェさんから後頭部へ鋭い突っ込みを受けていた。
「ならいいです」
しばらく俺の目を覗き込んでいた主様は、やがてふっと笑みを溢して俺を抱えたままソファへと腰を下ろす。
そこへ計ったように気の利く魔法人形なプリュイが、主様の分の朝食のセットを持ってくる。
今度は触手ではなく、きちんと本体だ。
主様の前に朝食をセットし終えたプリュイは、テキパキと俺達が食べ終えた食器を片付けてくれる。
先ほどあんな発言してしまったからか、ソルドさんはバツが悪そうにプリュイのことを見ている。
と、テキパキと作業をしていたプリュイが、つるりとした面にニコリとした笑みを浮かべてソルドさんの方を見てふるふると触手を伸ばしていく。
「……ワタクシは、何ヲ言わレテも平気デスが、ジルを悲しまセル人ハ、オ客様デモ──次ハ許しまセンよ?」
そのまま何かを伝えようだが、俺の耳には聞こえず首を傾げて二人を見ていると、勢いよくソルドさんが俺の方を振り向いて壊れたように何度も頷いた。
さらに首を傾げる俺を膝に乗せた主様は、よくやったとばかりの表情でぽやぽやしながら、綺麗な所作でニ枚あった厚切り食パンをあっという間に食べきってしまう。
その様子をふふと笑いながら見ていると、すっかり萎れてしまったソルドさんがおずおずと近寄って来て、主様の足元へしゃがみ込んで俺を上目遣いで見つめてくる。
「ジルヴァラ、何も考えず酷いこと言ってごめん。プリュイがジルヴァラの家族みたいなもんだってわかってたつもりだったんだけど……」
調子乗っちまった、と本気で反省した様子を見せているソルドさんに、俺はへらっと笑って大きく首を振る。
「俺の方こそ、冗談だってわかるのに、ちっちゃい子みたいに大げさな反応しちゃってごめんな?」
俺の言葉に、ソルドさんは「え? というか、ジルヴァラはち……」とまで何か言いかけたが、無言のまま満面の笑顔で寄って来たソーサラさんのバチバチを受けて、う、と呻いた後パタンと倒れた。
少々心配になる光景だったが、本当に数分したら何事なく復活していた。
ソルドさんが丈夫なのか、ソーサラさんが威力のコントロールバッチリなのか……俺は試したくないので、ソーサラさんを怒らせないように気をつけよう。
アーチェさんは慣れた光景なんだろう、全く動じず冷めきった眼差しを倒れ込んだソルドさんへ向け、主様は変わらずぽやぽやしてお代わりした食パンを食べている。
そんな様子を横目にプリュイはテキパキと片付けて終わらせていって。
本日も主様宅は平和だ。
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ジルヴァラ、たまに六歳児らしくなって、自分でも戸惑います。




