140話目
おはようございます(^^)
もうしばらくほのぼの回です。
「あら、抜け駆けなんてずるいわね、アーチェ」
慌てふためいたソルドさんの後ろから顔を覗かせたソーサラさんは、俺を膝の上に乗せてベッドの上にいるアーチェさんを見て悪戯っぽく笑っている。
これはたぶんアーチェさんが寝惚けてベッドに入って来たことがわかっていてからかってるんだろう。
「また寝惚けたのかよ、アーチェ。幻日様が留守で良かったな」
こちらもからかっているのが丸わかりのソルドさんの言葉を聞いた瞬間、アーチェさんの顔色が一気に悪くなり、膝の上にいた俺を忘れていたようで、ベッドから飛び降りようとする。
「おわ……っ!」
ふかふかのベッドに転がっただけなので怪我はしてないが、予想外に身軽なアーチェさんの動きについていけず、コロコロとベッドを転がっているとぽよんとした馴染みある物体に受け止められる。
「ジル、何トモないデスか?」
「あはは、大丈夫だよ。プリュイが受け止めてくれたから、ちょっと目が回ったぐらい」
俺を受け止めてくれたのは、いつの間にか部屋の中にいた頼れる魔法人形プリュイだ。
こんなに大声で騒いでて、屋敷の管理と防衛をしているプリュイがいない方がおかしいよな。
そんなプリュイもさすがに俺がベッドを転がるとは思わなかっただろうから、少し慌てた様子でふるふるとしている。
受け止めてもらった流れでプリュイに持ち上げられたままへらっと笑っていると、さっきよりさらに青ざめた顔のアーチェさんが駆け寄って来る。
「す、すみません! ジルヴァラ、何処か痛んだりしませんか?」
「大丈夫だって。あとソルドさん、主様はそんなことで怒ったりしないから、アーチェさんをからかうなよ?」
あははと笑ってプリュイの体をぺちぺち叩いてると、トレフォイルの三人からは何言ってんだこいつみたいな表情で見つめられてた。
「怒らないよな、プリュイ」
ちょっと自信がなくなってプリュイへ訊ねると、こてんと首を傾げられる。
「ワタクシには、ワカリかねマス」
「……怒らないと思うけどなぁ」
小声で呟いていると、プリュイから抱っこされたまま、洗面所へと運ばれていく俺。
その後をついてくるトレフォイルの三人。
「ソルドさん達、朝はご飯派? パン派? まさかの麺派?」
プリュイの腕の中からグッと体を伸ばして背後の三人に問いかけると、答えが返ってくる前に「ジル、めっ、デス」とプリュイから柔らかくたしなめられて、生えてきた触手によって体をしっかり固定される。
「プリュイが俺を落とす訳ないだろ?」
「それデモ、危ないノは駄目デス」
過保護だなぁと笑っていると、プリュイのぷるぷるな指先で鼻先を突かれる。
「……ソーサラ、魔法人形ってあんなに感情豊かなのか?」
「形とかは千差万別だから一概には言えないけど、あたしが見た中でこんなに感情表現豊かな魔法人形は初めて見たわ」
「一度だけダンジョンで戦った魔法人形は、姿形からしてプリュイとは似ても似つかないものでしたね」
そんな会話が聞こえてきて、俺は何だか嬉しくなる。
うちのプリュイはすごいんだぞーって自慢したくなるが、造ったのは主様な訳だし、俺が自慢するのは自重しておかないと。
それでも堪えきれず、むふふふふと奇妙な笑い方していたら、プリュイから心配そうにガン見されていた。
●
「何でも良いってことなら、無難にパンだな。厚切り食パンに、ベーコンエッグ乗せて豪快にぱくっとなー」
「パンは何枚焼きマス?」
トレフォイルの三人は朝から何でも食べられる強い胃の持ち主達だそうなので、遠慮なくガッツリで、三人が馴染みのあるパンにすることにした。
ソルドさんは朝カレーしたかったみたいだけど、カレーは鍋ごと主様の収納の中なのでここにはない。
今から作っても構わないが、時間がかかり過ぎるので今日はパンで我慢してもらおう。
そういえばここまで普通にカレーが浸透してるなら、カレーを出す屋台とかあるかもしれない。
屋台のカレーライスとか美味しそうだと考えて、俺はふと米の貴重性を思い出す。
「あ、でもこの辺じゃ米が貴重なんだっけ」
主様はほいほい出してくれるから有り難みが薄れてるが、他にも色々高級食材と貴重な食材とか食べてそうだな、俺。
「ジル?」
プリュイからの質問に答えることを忘れていた俺は、怪訝そうに名前を呼ばれてしまい、慌てて質問に答えるために脳内でパンの枚数を数えていく。
「とりあえずパンは八枚焼いといてくれ」
ベーコンエッグにしないで、目玉焼きとカリカリのベーコンと分けて焼いて、目玉焼きにベーコン添えたほうが良いな、と方針を決めた俺はフライパンへまずはこちらも厚切りなベーコンを投入する。
同時進行でスープも、とプリュイへ野菜のカットを頼もうとした俺の目に、キッチンの入口からこちらを窺うアーチェさんが映る。
「アーチェさん? どうかしたか?」
「お客様だからと先ほどは断られてしまいましたが、やはり手伝わせてください。ベッドへ侵入した罪滅ぼしも兼ねて」
俺が見ていることに気付いたアーチェさんは、そう言って困ったように笑って見せる。
真面目なアーチェさんはずっと気にしそうだし、本人の言う通りにしてあげた方が良いかと納得した俺は、コクリと頷いて野菜の入っている籠を指差す。
「じゃあ遠慮なく。スープお願いしていいか? 材料とか調味料は好きに使ってくれていいから」
「わかりました。任せてください」
俺の言葉にやっと普通に微笑んでくれたアーチェさんは、早速キッチンの中へと入って来て、材料を選び始めたのだが……。
「……さすが幻日様のお宅のキッチンですね」
キッチンの機能や置かれている道具の数々に目を見張ったアーチェさんは、感心しきった様子で無意識っぽい呟きと共にスープの具材になるであろう野菜とかを刻んでいる。
少し放心気味なので、手を切らないか心配だが、パーティーの料理担当しているだけあって放心気味でも包丁の動きは危なげない。
しかし、主様はサラッと使わせてくれていたけど、どうやら本人だけでなく、お屋敷もチートらしいです。
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