129話目
こちらは本日2話目の投稿となりますので、ご注意くださいm(_ _)m
出来れば、前の話からお読みください(。>﹏<。)
「寝顔は本当にちっちゃい子みたいだよなぁ」
「本当も何も実際小さいんです」
「……天使がいるわ」
頭の上でゴソゴソとトレフォイルの三人らしきそんな会話が聞こえてきて、微睡んでいた俺の意識は一気に浮上する。
三人が来ているってことは寝過ごしたんだ! と慌てながらも、寝起きの良さを発揮して飛び起きようとする。
「ヤバ、寝過ごし……いった……っ!?」
「うぉ!」
寝起きで言葉がおかしくなった訳ではなく、勢いよく飛び起きた結果、俺の寝顔を間近で覗き込んでいたソルドさんと額でごっつんこしたようだ。
痛みから再び閉じた瞼の裏には、チカチカと星が飛ぶ。
俺がもう一度横になって痛みをやり過ごしてると、同じように呻くソルドさんの声と二人分の叱る声が聞こえてくるので、ソルドさんも同じぐらい痛かったのだろう。
「ジ、ジル!」
現場を目撃してたらしいプリュイの慌てた声がして、ひやりとした物がぶつけた額へ宛てられる。
何かなんてわかり切っていたが、念のため目を開けると、やはり額へ宛てられたのはプリュイの手だった。
つるりとした面でおろおろとしているプリュイは、時々ゴミを見るような眼差しをソルドさんへ向けている。
やはりぶつかったのはソルドさんのようだが、プリュイの眼差しの意味がちょっとわからない。
「いたた……ごめん、ソルドさん、大丈夫か?」
俺は額にプリュイを貼り付けたまま体を起こしてソファへ腰かけながら、ソルドさんの様子を窺う。
どうやらソルドさんは顎を押さえてるから、顎に俺の額が当たってしまったらしい。
「この馬鹿なら大丈夫です。ジルヴァラの方は痛くないですか?」
「本当に、この馬鹿なら平気よ。ジルヴァラの可愛いおでこが赤くなっちゃったわね」
ソルドさんの言われようが気になったが、俺が何ともないアピールをすればソルドさんに対する当たりも弱くなるだろうとソーサラさんの服をちょいちょいと引っ張る。
自分でもあざとすぎるかな、と思わなくもないが、首を傾げながらニッと笑って見せる。頑張って上目遣いらしきものも添えて。
「俺大丈夫だから、ソルドさんをあんまり怒らないで?」
効果はと言うと……。
「もう! ジルヴァラにそう言われたら、許しちゃうわ!」
主にソーサラさんには絶大だったらしい。アーチェさんは少し困ったような笑顔だ。
昨日の失敗から学んだのか、絶妙な力加減でソーサラさんの胸にギュッと抱き締められる。
「俺が急に起き上がったからぶつかったんだからな?」
「いや、俺が覗き込んでたのが悪かったんだよ。ジルヴァラの寝顔が可愛くてな」
復活したソルドさんが苦笑い混じりで謝りながら、ソーサラさんに抱き締められている俺の顔を覗き込んで邪気なく笑って口を開く。
「子供の寝顔は天使みたいって言うからな」
可愛い扱いは微妙な気分だけど否定するのも何なので、俺は子供全般可愛いよなーで流しておく。お前自身が子供だろ、と突っ込みそうな表情になったソルドさんは、アーチェさんに睨まれて口を閉じてる。
ソルドさんとアーチェさんは、仲良しだな。
ホッコリしていたら、俺を抱き締めたソーサラさんがちょっとぷるぷるとして、抱き締める力がギュッと強まる。
「違うわ。ジルヴァラが天使なのよ」
声を荒げず、静かに微笑んで言われると逆に迫力というか、うん……まぁ、いいや。
うっとりと見つめてから頬擦りをしてくる年上の巨乳美人に、俺は達観した気分でおとなしく頬擦りをされておく。
ここ最近の頬擦りのイメージは、髭でジョリジョリだったので、つるつるすべすべなソーサラさんの頬擦りは落ち着かないというか、物足りない。
「俺が天使なら、ソーサラさんは女神だな」
主様ほどの人外な美貌ではないが、ソーサラさんもこの近距離で粗の見つからないまさに美魔女だ。……あれ? 美魔女って使い方なんか違うか? そんなことを脳内で考えていたせいか、特に何も考えず言葉が口から転がり落ちる。
「まあ……ジルヴァラは女ったらしになりそうだわ」
ほんのりと頬を染めたソーサラさんは、感嘆したように小さく声を上げて、その後ブツブツと口内で何事か呟いて頬にキスをされる。
「うふふ、誉めてくれてありがとう」
「へへ、どういたしまして」
そのままの流れでソーサラさんに抱っこされそうになるが、アーチェさんが「たまには僕にも」と割って入ってくれたので、俺はアーチェさんの腕に抱っこされて洗面所へ向かう。
ソーサラさんのことは嫌いじゃないけど、女の人に抱っこされるのはだいぶ気恥ずかしいのだ。
これは前世の記憶云々とかではなく、男の子として矜持みたいな所からくる感情だろう。
「顔洗ったら、すぐ行くのか?」
顔を洗おうと踏み台に降ろしてもらうと、付いてきていたソルドさんからそう訊ねられた。
ソーサラさんは、ここで待ってるわとソファでお茶を飲んでいたので、ここにいるのは俺を運んでくれたアーチェさんとソルドさん、気配なく付いてきていたプリュイと、いつの間にかいた主様……って、主様がいつの間にか増えてるし。
鏡越しにいつの間にか増えていた人影に軽く目を見張りながら、俺はソルドさんからの質問を思い出して頷く。
「朝食べ過ぎちゃってお腹空いてないし、冒険者ギルドで用事済ませてから帰り道に買い食いしたいなぁ……なんて」
台詞の後半を鏡越しに主様へ向けて言ってみると、無言でぽやぽやしながら嬉しそうな微笑みで頷いてくれた。
主様も忘れてなかったようで嬉しい。
それを確認してから俺は、冷たい水で顔を洗ってスッキリする。
洗い終えるとすかさずプリュイからタオルが差し出され、そのままボフッと顔を拭かれる。
「ジルヴァラ、帰りに寄り道するなら、俺達と一緒に打ち上げでもどうだ?」
「……んー、すっげぇ嬉しいけど、今日は主様と二人で買い食いして帰りたいんだ」
ソルドさんの背後に見える気がするぶんぶんと振られる尻尾の幻覚が、俺の答えを聞いてピタリと止まる様まで幻視出来てしまい、とても心が痛む。今からでも、と俺が思いかけた時だった。
落ち込んでいた表情からパッと満面の笑みを浮かべたソルドさんは、顔を洗い終えて踏み台にいた俺を抱き上げて間近から瞳を覗き込んでくる。
「じゃあ、別の日ならいいだろ? 俺達も、ジルヴァラのお祝いしたい!」
ぶんぶんと振られる見えない尻尾を復活させ、年上とは思えない無邪気さで誘ってくるソルドさんのお誘いを断るなんて非道なことは、俺には出来なかった。
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とんでもない間違いしてるので、誤字脱字報告助かります(*ノω・*)テヘ




