126話目
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もちろん、読んでいただけるだけで十分嬉しいです(*>_<*)ノ
「ん……」
寝坊しまくった昨日とは違い、ぱっちりと目覚めた俺は、まずは少し離れた所で眠る主様を……見つけられずゆっくりと瞬きを繰り返す。
そういえば昨夜寝落ち寸前に主様何処かへ行ったなと思い至り、慌てて起き上がろうとして自分の体が上手く動かせないことに気付く。
あと、背中とお腹辺りがとても温かい。
「今日は背後からか……」
俺の子供体温を湯たんぽにすることがすっかりお気に入りになった主様は、本日は背後から俺を抱き込んでいたらしい。
いくら寝惚けていたとはいえ、俺もすぐに気付けよって話だけど。
恒例となった謎ぬいぐるみへ身代わりをしてもらい、俺は主様の腕の中からするりと抜け出して、そのまま洗面所へと向かう。
「今日は朝からカツ揚げて、朝はカツサンド、昼はカツ丼にするか」
主様がフラグ的な発言をしてたのがちょっと怖いので、神頼みじゃないけど定番な験担ぎをしようと考え込んでいた俺は、顔面からふにゅっと何かに思い切り埋まる。
「ジル?」
「あはは…………ごめんなさい」
ジト目で埋まった物体──プリュイから睨まれてしまい、俺は誤魔化そうと笑ってから、諦めてペコリと頭を下げて謝罪をする。
無言でジトーッと見つめてくるプリュイはちょっと怖い。
「もう、ジル、めっ、デス」
ぷるぷるな指で俺の鼻先をちょんっと突いて叱りながら、俺を難なく抱え上げるプリュイ。
本当にこの筋肉のきの字もないふるふるぷるぷるボディで、どうやって持ち上げてるんだろう。
特に硬化してる訳ではなく、触れてる感触はぷるぷるなままだ。
「今日は、ちょっと朝からガッツリした物作りたいから、色々手伝い頼むな? ま、いつもプリュイは手伝ってくれてるんだけどさ」
「わかりマシタ。いつもヨリ、張り切りマス」
「そっか、ありがと。でも、主様みたいに肉を粉砕したりはしないでくれよ」
「いたしまセン」
そんな会話を交わしながら洗面所で顔を洗い、何故か再びプリュイに抱えられてキッチンへと向かう。
俺が歩くより速いから、と自分を納得させているうちにキッチンへと到着し、早速カツを揚げる準備に入る。
まずは挟む用に食パン。主役になるなんかの肉。卵、小麦粉……。
材料を揃えていた俺は、肝心のあれが見当たらなかったので、調理器具の準備をしてくれているプリュイを振り返って声をかける。
「パン粉ないや。プリュイ、適当なパンを粉砕しといてくれるか」
さっきのフラグの回収ではないが、プリュイには肉ではなくパンの粉砕を頼むことになった。
●
「コンな感じデ、ドウでショウ」
そう言ってプリュイは金属のバットに広げた、生パン粉程度に粉砕されたパンを見せてくれる。
「おう、バッチリだ。ありがとな」
プリュイがパンを粉砕してくれている間に、俺の方の準備もほぼ終わっている。
俺の方の準備は、豚っぽい肉と鳥っぽい肉の二種類を揚げやすいサイズに切り、豚っぽい肉の方はこんな感じかな? とテレビで見たことがあった筋切りの真似事までしてみた。
最悪火さえ通ってれば俺も主様も歯はしっかりしてるから、問題なく食べられるだろう。
「あとは、塩コショウしてー……プリュイ、キャベツ千切りにしといてくれるか?」
「ハイ」
粉、卵液、プリュイ作のパン粉と順番にまとわせていき、出来上がったのを用意しておいたバットへ並べていく。
「揚げるのはフライパンでいいか」
「ジル、これガ油デス」
キャベツの千切りを終えたプリュイが、そう言って差し出してきたのは陶器で出来た一抱えはある茶色い壷だ。
「ここに油入れてくれるか?」
揚げ菓子が屋台で普通に売ってるを見たので、この世界は食に関しては前世の知識で俺つえー的なことをする機会はほとんどなさそうだな。
そんなする気も、そもそもそこまで技術も知識もないんだよなと考えながら、俺はフライパンに注がれる油を見つめる。
ラードとかではなく、たぶん植物性っぽいので、菜種とか油の取れる植物があるか……ファンタジーにダンジョンとかモンスターから採れるのかもしれない。
油が温まるまでの間に、プリュイと一緒にタロサの料理帳を見ながら揚げ方の確認をしていく。
「よし、これぐらいだな。油はねるかもしれないから、気をつけろよ?」
油の温度の確認をした俺はプリュイへそう一声かけてから、適温になった油にカツを滑り込ませていく。
プリュイが耐熱性に優れているのは昨夜のお風呂の会話でわかっていたが、何となく風船みたいに弾けたらどうしようという恐怖がある。
「ジルの方ガ……」
逆にプリュイから俺を心配する言葉が出た瞬間、パチパチとおとなしく揚がっていたカツが突然パチンッと油をはねさせる。
「あっつ! 水入ったかなぁ……」
踏み台の上なのであまり大きくは逃げられずはねた油が腕に当たり、その部分が赤くなっていく。
「ジル! 大変デス! 今エリクサーを……ッ!」
「平気だ……って言いたいけど、冷やさないと水膨れになるから、プリュイちょっとここ冷やしておいて……」
そこまで言った時だった。
不意に背後から脇に手を差し込まれたと思ったら、体を持ち上げられてコンロの前から強制的に退場させられる。
「ロコ、すぐにあの医者の所に……」
「行かなくて大丈夫だから。水で冷やしておけば、水膨れにもならないから」
持ち上げた犯人である主様によって問答無用でドリドル先生の所へ運ばれそうになり、俺は苦笑いしてシンクの方を指差す。
「プリュイ、残り揚げといてもらえるか?」
ぽやぽやおろおろしている主様に運ばれて行きながら、プリュイを振り返ると、心得たとばかりのキリッとした顔で頷いてくれたので、カツは大丈夫だろう。
「……じっとしていろ」
うん。こっちの方が大丈夫じゃないかもしれない。
ゾワッとするような低音で囁かれ、掴まれた腕は水道代とか気にしていないであろう水量の水に突っ込まれる。
「冒険者になるんだから、これぐらいの火傷なんて屁でもないって」
「それとこれでは話が違う」
背後から抱え込まれるようにして蛇口の下へ腕を突っ込む形で固定されているので、主様が今どんな表情をしているかわからない。
わからないのだが、ですます、が何処かに出かけるぐらいに動揺してるようだ。
主様の中で、冒険者として活動してする怪我はセーフだけど、こうやって日常的な怪我はアウト?
だとしたら、
「驚かせてごめんな?」
そう言って謝罪すると、背後から大きなため息が聞こえてきて、首筋にさらさらと主様の髪が当たってくすぐったい。
「……家の中と言えど、気は抜けないのだな」
やけに感情のこもった主様の呟きに、何処の深窓の令嬢だよ!? と突っ込みかけた言葉を飲み込んで、俺はへらっと笑って流れる水で感覚のなくなった腕を見つめていた。
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ジルヴァラの思いがけない怪我に弱い主様。
ジルヴァラは運動神経良いので滅多に転びませんが、転んで膝から出血とかしたら、本当に『エリクサー』出てくるかも知れませんねぇ(*ノω・*)テヘ




