124話目
主様のアピールポイント。
自分の方がレアな存在だと言いたいようです。
ジルヴァラは、未だに主様が人外案件完全放置です(*ノω・*)テヘ
忘れてる訳でも理解出来てない訳でもないです。ただ、どうでもいいだけ。
若干の不安は感じつつも、アルマナさんからは明日の予定は大丈夫だという手紙は返ってきたそうなので一安心だ。
準備するってほどの準備がある訳じゃないが、なんか落ち着かなくて俺は自室のベッドの上で荷物の確認をしていた。
「思えば遠くまで来たよな……」
メイナさんから貰ったリュックサックはだいぶボロボロになったし、同じくメイナさんから貰った服も靴も草臥れてしまったが、どちらも大事にしまってある。
今俺が普段使いにしてる物は、イオのパパママが用意してくれた物だ。
中古だって言ってたような気もするがどれもしっかりとした作りの物で、洋服とかも俺がぐんぐん伸びない限りしばらくは大丈夫だろう。
「熊の毛でも毟ってくれば良かったな」
そこでまた俺の思考は懐かしい森の方へと戻されて、床に敷かれた毛足の長い絨毯を見ながらふと呟きを洩らす。
思えば森での思い出の品は着ていた毛皮ぐらいだったけれど、それはメイナさんちに置いてきてしまった。
「ぬいぐるみももふもふしてるけど、熊とは違うからなぁ」
何となく手が寂しくて謎ぬいぐるみをもっちもちとしていると、少しだけ気が紛れる。
そのまま無心でもっちもちとぬいぐるみを揉んでいると、いつの間にかベッドの傍らには主様がいて、俺をじっと見ていたようでバッチリと目が合う。
覗き込んだら吸い込まれそうな妖しく美しい瞳を真っ直ぐに見つめてへらっと笑いかけると、主様からもふわりとした微笑みが返ってくる。
「……声かけてくれよ」
いつから見られてたんだろうと思いながらそう言うと、俺は荷物を詰め込んだリュックサックを置いてベッドから降りる。
詰め込んだといっても、今の俺に背負えるリュックサックでは、ちょっとした調味料と小さな鍋、それと主様がくれた救急箱的な物らしい手のひらサイズの小箱、あとは何かの皮で出来た袋の水筒だ。
ソルドさんから貰った小剣は、ガンドさんに頼んでベルトに着けられるようにしてもらった……そうだ。
いつの間にか主様がしてくれていたので、俺自身はガンドさんには会えていない。
ガンドさんにお礼を、と考えた俺が思いついたのは、俺でも知ってるようなドワーフのあるある知識だ。
「なぁ、ドワーフってお酒好きなのか?」
「……確か好きだったと思いますが」
自分で訊ねておいて、ファンタジーの定番がここでも通用することに感動していた俺は、主様の微妙に面白くなさそうな表情に気付かない。
「ドワーフって、皆大人になってもガンドさんぐらいの身長なのか? 女の人は髭生えてる?」
調べるほどではないがちょっと気になっていたことを矢継ぎ早に訊ねていたら、不意に脇腹へと主様の手がかかり、無言で小脇に抱えられてしまう。
そのまま主様は俺へ一瞥もくれずに部屋を出て、廊下を進んでいく。
「主様? なんか怒ってる?」
乱暴という訳ではないが、いつもの抱き上げられる時より雑な扱いに、俺は精一杯首を反らせて主様の顔を窺おうとする。
こんな斜め下から見上げる角度でも主様は完璧で美しく──以下同文。
スタスタと進む足取りは迷いなく、主様は俺の方を見てくれる気配はない。
何か怒らせるようなこと言っちゃったかなぁと、小脇に抱えられた体勢のまま首を捻っていると、主様がポツリと何か呟く。
それが聞き取れず、手を伸ばしてくいくいと主様の服を引っ張ると、ため息混じりにもう一度繰り返してくれる。
「私の方がドワーフより珍しいです」
「へ?」
今度はきちんと聞き取れたが、言われた意味がわからず、間の抜けた声が洩れてしまう。
「だから、私の方がドワーフより珍しいです」
俺が理解してないと悟ったのか、主様は一旦足を止めて小脇に抱えていた俺を、しっかりと両腕で体の前で抱え直して、俺の目を見てさらにもう一度繰り返してくれる。
だからといって急に理解出来る訳はなく、俺は首を傾げて主様の吸い込まれそうな瞳をじっと見つめ返す。
そのまま何も起きない時間が数秒流れ、焦れた主様からかぷりと鼻先を噛まれた。
●
「幻日サマは、自分ノ方がドワーフヨリ、珍しいト言いたいノだと、思いマス」
俺が主様に鼻先をかじられるている所に通りがかったプリュイは、ふるふるとしながら説明してくれて、ついでに主様を引き剥がしてくれる。
鼻を塞がれて地味に息がし難かったので助かった。
「あぁ、そういう意味か。確かに、主様の方がドワーフより珍しいよな……って、これ結構な失礼な発言だろ」
一人呟いて納得しかけた俺は発言の無礼さにハッとして主様を振り返るが、そこにあったのは、そうでしょそうでしょ、と言わんばかりのぽやぽやしたドヤ顔だ。
俺が困惑しているとプリュイがポツリと、
「トテモ嬉シイようデス」
主様を見てそんなナレーションするような一言を付け加えてくれる。
「そうみたいだな」
主様が嬉しいなら良いかと開き直った俺は、へらっと笑って未だにドヤ顔をしている主様の頬へちょこんと指先で触れてみる。
嫌がられるんじゃないかと内心ドキドキだったが、主様は僅かに目を細めただけだ。
「えへへ……あ、やば、夕ご飯の準備忘れてた!」
主様の頬に触った指を見つめて達成感に浸っていた俺は、夕闇の迫る窓の外を見て慌ててプリュイを見る。
「プリュイ、手伝ってくれ」
「ロコ」
主様の腕からプリュイの方へと移動して夕ご飯を作りに行こうと手を伸ばした俺は、背後からの拘束が強まり、首を傾げて振り返る。
「ご飯、私が買ってきました。……一緒に食べましょう?」
俺と目が合ってふわりと微笑んだ主様から出た予想外な言葉に、俺はゆっくりと瞬きを繰り返してやがて破顔する。
「おう!」
俺が大きく頷いて返事をすると、主様はぽやぽやと嬉しそうに微笑んで、廊下を進む一歩一歩が明らかに大きくなる。
スタイルも抜群で足も長い主様がそんな歩き方をすれば到着が早くなるのも当然で、辿り着いたのはいつも食事をとる暖炉前のテーブルだ。
そこに並んでいるのは、見覚えのあるパンだ。
薄く焼かれた生地みたいなのに、肉と野菜がみっしりと詰まったそれは、どう見てもドロシアさんのお店の肉パンだ。
「これって、ドロシアさんのとこの?」
降ろしてもらったソファの上から主様を振り仰いで問いかけると、困ったようなぽやぽやで首を傾げられる。
「店の名前はわかりません。緑のに会ったので、教えてもらいました」
「緑の……って、オズ兄か。うん、わかっちゃうようになったのが申し訳ない」
なんかやるせない気分になりながら頷いた俺は、そのやるせない気分をとりあえずその辺に置いておいて、目の前のパンがドロシアさんのお店の肉パンだと確信する。
「これ美味しかったもんなー。主様、ありがと! いただきます!」
俺は早速肉パンを一つ手に取り、思い切りかじりつく。
たっぷりに詰まった具とタレが口の端から垂れるのを感じながらも、かじり取った一口を咀嚼していると、すかさず主様の顔が寄ってきて口の端を舐められる。
その背後ではプリュイが、出遅れた! という表情でゆらゆらと伸ばした触手を揺らしている。
「主様、プリュイがしてくれるから、ゆっくり自分の分……」
食べろよと言いかけた俺だったが、言われた瞬間の主様のしょんぼりとした顔を見て、色々と諦める。
「お願いします……」
「はい」
主様が嬉しそうだと、俺も嬉しいからな。
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