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123話目

反省主様(*>_<*)ノ


肋骨折れなくて良かったね←

「ごめんなさい」



「気にしてないって」



「ごめんなさい、ロコ」



 俺をハグで落としかけた主様は、トレフォイルの三人に言葉で止められ、さらにちょうど良いタイミングで俺の様子を見に来てくれたドリドル先生に物理的に止められた後、先の台詞をずっと繰り返していた。

 どんよりと陰を背負ってソファに腰かけながら。

 しょうがないので、俺の方から主様へ触って荒療治することにした。

 主様は触られること好きじゃないけど、このどんよりループから復活するきっかけになるかもしれないという計算だ。

「主様。ほら、何ともないだろ?」

 そう声をかけながら、ソファに腰かけている主様の隣へ陣取り、先程とは逆に俺が主様をギュッと締め上げる。

「これでおあいこってことでいいだろ?」

 今の俺の全力では主様へダメージは無さそうだが、やっと主様からどんよりが消えていき、ぽやぽやが戻ってくる。

 荒療治した甲斐があるってもんだ。

 密かにドヤ顔をしていた俺は、主様から離れようとしたが、伸びて来た主様の腕に捕まって引き戻され、膝の上に座らされる。

「体調は大丈夫そうですね。食欲はありますか?」

「おう! もう全然平気だ。食欲も普通にあるぜ」

 慣れたもので苦笑いして主様の奇行を流したドリドル先生は、そのまま俺への問診を開始。俺も普通に答えていくが、そこであれのことを思い出してプリュイを探す。

「ジル、これヲ……」

 そんな言葉と共に気配なく背後に現れたプリュイが差し出してくれたのは、中身が詰まったA4判封筒ぐらいの大きさの茶色い紙袋だ。

「ありがと、プリュイ」

 紙袋を受け取った俺は、居住まいを正してドリドル先生へ向き直る。

「ドリドル先生、いつもありがとうございます。これ、ほんの気持ちだけど、俺が焼いたクッキーなんだ。よかったら食べてくれよ」

 喋ってる途中で照れ臭くなり、えへへと誤魔化すように笑いながら紙袋をドリドル先生へ差し出す。

「これが私の仕事ですし、ジルヴァラのことは心配ですから、そんなに気を回さなくていいんですよ?」

 心配ですからと言った辺りで、ドリドル先生の視線は俺ではなく、俺の背後を睨んだように見える。主様が何か変な顔でもしたのか、と振り返った先はいつものぽやぽや美人さんだ。

「でも、嬉しいです。ありがとうございます、ジルヴァラ」

 そう言ってふふと柔らかく笑ったドリドル先生は、皆でいただきますね、とクッキーの紙袋を受け取ってくれた。

 ついでに、ドリドル先生の背後で、待てと言われた大型犬みたいな顔をしていたソルドさんにも、よかったら三人で食べてくれよ、とクッキーを渡しておいた。

 俺の焼いたクッキーがお礼になるか微妙だが、ドリドル先生もソルドさん達も喜んでくれて、嬉しくなった俺もふにゃふにゃと笑っていると、肩がずしりと重くなる。

「ん?」

 そちらを見ると視界が夕陽色だ。

 主様が顎を俺の肩へ乗せたらしく、さらさらと流れる髪が視界を埋めていく。

「主様?」

「……私の分は」

 いつものぽやぽやした声ではなく、不機嫌というか拗ねたような常より少し低音に耳元で囁かれ、俺はくすぐったさから首を竦めながらプリュイを見る。

「ハイ、幻日サマの分デス」

 心得たとばかりにプリュイの手にはすかさずさっきと同じ紙袋が握られていて、それはあっという間に主様の手へ渡る。

 すぐ食べるのかと思っていたら、主様は上機嫌にほわほわとして、クッキーの入った紙袋を収納してしまった。

 主様の収納は時間停止するし、非常食にしてもらえるならちょうど良い。生肉よりは絶対。

「クッキーありがとな、ジルヴァラ。で、書類はこれから出しに行くのか?」

 密かな達成感に浸っていた俺は、ソルドさんから問われた内容が一瞬わからず瞬きを繰り返したが、二・三度瞬いてからあぁと納得の声を洩らす。

「アルマナさんも都合があるだろうし、今日主様から手紙を出してもらって、都合が良いなら明日の午後からでも……で、主様、良いよな?」

 予定を口にしてから、俺は一人での外出が無理なことを思い出して主様を振り返ると、紙袋から一枚だけ取り出したのかクッキーをかじりながらコクリと頷かれた。問題ないらしい。

「って、感じだけど」

「じゃあ、俺達もついていきたいから、明日の昼過ぎにまた顔出してもいい……ですか?」

 俺への問いかけたのを主様へと変えたため、妙な口調になって訊ねてきたソルドさんに、主様はクッキーを咀嚼しながら無言で首を縦に振る。

「よしっ。これで、俺達もジルヴァラが冒険者になるところへ立ち会えるな」

 仲良しなトレフォイルの三人は、小さく円になって、何かプレゼントとかするか? 防具? お守り? そんなことを小声で話し合ってるのが漏れ聞こえてくる。

「それは、是非私も……と言いたいですが、さすがにそんな長時間空ける訳にはいきませんので、ジルヴァラから話を聞くのを楽しみにしています」

 ドリドル先生は本業が忙しいらしく、残念そうな顔でそう言うと俺の頭を一つ撫でてから紙袋を抱えて去っていった。

「俺達も行くよ。何か急用あったら、冒険者ギルドへ伝言するか、拠点にしてる宿屋ここだからここへ連絡くれ……ください」

「わかった! また明日なー」

 メモをテーブルへ置き、主様に気を使って妙な語尾で挨拶をするソルドさんは、アーチェさんとソーサラさんと連れ立って帰っていってしまって……。



 一気に人気が減った室内は、何だか寂しく感じてしまう。

「プリュイー」

 人肌恋しくなった俺は、プリュイを呼びつけて両手を広げる。

 手っ取り早くプリュイのふるふるボディに全身で甘えておこうと思っての行動だったのだが、ドリドル先生とソルドさん達を見送ったプリュイが戻って来るより先に、主様の腕がしっかりと絡みついてきて主様の体温に背後から包み込まれる。

「オヤ、ワタクシの出番ハなさそうデスね」

 少し遅れて姿を現したプリュイは、主様に捕獲された状態の俺を見ると、気分を害した様子もなくふるふると笑って静かに去っていった。



「主様ー、あったかいけど、動けないだろ」

 プリュイの後ろ姿を見送った俺は、くすくすと笑いながら無言で背中へ貼りついている主様へ話しかける。

「ロコが寒そうだったので……」

 主様も微かに笑っているのか、背中へ触れる体も、俺の笑う声とは別のリズムで揺れているのがわかる。

「そっか、ありがと。……明日の午後から会えるか、アルマナさんに手紙お願いしてもいいか? 主様が書くの面倒なら、俺が書いて……」

「私が書きます」

「そ、そっか、頼むな?」

 俺が書いてもいい、と言いかけた言葉を食い気味で遮られ、俺はへらっと笑って絡みついてきている腕へ軽く触れ重ねてお願いをしておく。


「これでロコは明日から紛うことなく冒険者です」


 俺をしっかりと捕獲したまま、主様がそう言ってくれたのだが、何だかフラグっぽいよなぁと思ってしまった俺は、ちょっと捻くれているかもしれない。

いつもお読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m


主様が建てたフラグ、ジルヴァラは破壊できるでしょうか←


反応頂けるととても励みになります。という訳で、感想、評価、ブクマ、いいね、ありがとうございます(。>﹏<。)

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