119話目
カレーライスに、マヨネーズをかけたサラダ……とある方への当てつけじゃないデスヨー(。>﹏<。)
「へぇ、カレー粉での作り方って、そこまで難しくはないんだな」
プリュイの持ってきてくれた本は、カレー粉での簡単なカレーの作り方や、俺でも知ってるような料理が綺麗なイラスト付きでわかりやすく説明されていた。
他の料理も気になるけど、そこは後でゆっくり見させてもらおう。
本を閉じた俺は『タロサの料理帳』というタイトルを確認してから、プリュイと主様……主にプリュイの手を借りてカレーをほぼ完成させる。
あとは煮込むだけなのでプリュイに混ぜてもらっておいて、俺は寝かせておいたクッキー生地を取り出して、伸して……いきたかったが、今の俺ではちょっと力が足りず、主様によって伸してもらう。
「甘くて美味しそうな匂いがします」
目を細めながらくんくんと鼻を鳴らしてクッキー生地を伸ばす主様は、悪戯な猫のようで可愛らしい。
「焼きたて食べてみような」
あまりの熱視線ぶりに、さすがに焼く前の生地を食べたりはしないよな……と思ったが、主様は生肉を普通に食べてしまうタイプなので念のために『焼いて食う』をアピールしておく。
「…………はい」
不安になる間はあったが、無事に適度に薄くなったクッキー生地を型で抜く。
「ま、これでいっか」
さすがにお菓子作る気はなかったのか、多種のキッチン用品の中に抜く用の型はなかったので、俺は適当なサイズのコップを使ってクッキーを抜いて天板へ並べていく。
「コレデいいデスか?」
「うん、そんな感じでお願い」
カレー鍋を混ぜているプリュイも触手を伸ばしてきて同じ作業を手伝ってくれている。正直、作り過ぎた感はあるが、主様の収納に入れておいてもらえば、主様の非常食にもなるだろう。
カロリーとか栄養バランスとか気になるけど、生肉へ齧りつくよりはマシだ、きっと。
クッキーを並べ終わった天板を前に、俺はふぅと息を吐いて額の汗をぬぐ……うまでもなく、伸びて来たプリュイが汗を拭ってくれる。
「後は焼くだけだな」
天板をオーブンへと運ぼうとした俺を、主様が無言で制してプリュイと二人で全てを運んでくれる。
「ありがと」
「いえ。ロコが火傷したら困りますから」
ぽやぽやと心配してくれる主様の言葉に、俺は思わずビクッとしてしまうが、オーブンの設定を終えると誤魔化すように笑ってすぐ炊飯器の方へと向かう。
「ロコ?」
ん? という反応をした主様がついてくる気配はするが、そちらは見ないようにしておく。
実は主様が起きてくる少し前、玉ねぎを炒めている時に不注意で油を跳ねさせ、少々火傷をしてしまったなんて絶対言えない。
火傷したのは服で見えにくい首の辺りだし、気付かれてはいないはずだけど、思わずドキッとしてしまった。
「この炊飯器って便利だよなー。勝手に入れた米の量で水の量決めて炊いてくれるなんて」
思い切り話題を逸らした俺に、主様は怪訝そうな顔をしながらも、俺の言葉にゆっくりと首を横に振る。
「それは米を炊く魔具ではありませんが……」
火傷に対する追及かと思ったら、まさかの炊飯器ではないという否定だったようだ。
「へ?」
間の抜けた声を洩らし、俺は今現在進行形で米を炊き上げてくれた魔具……地球で言うところの家電にあたる、炊飯器だと思っていた物を眺める。
大きめの黒いフルフェイスヘルメットみたいな形のそれは、ボタンを押すとパカッと上部の蓋が開いて、中に食材を入れられる金属製の内釜がある。
そして今は炊きたてのご飯が艶々としている。
「どう見ても炊飯器だろ?」
味見する? としゃもじで掻き混ぜながら訊くと頷かれたので、行儀悪いが手でご飯を摘んで、あちあち、と言いながら主様の口元へ運ぶ。
「甘くてもちもちです」
ぽやぽやと食レポみたいな台詞を言うのは良いけど、主様はさっきからしれっとした顔で俺の指まで食べている。
「そ、そうか」
思い切り噛まれたりはしないので好きにさせながら、炊飯器ではないという炊飯器へ視線を戻す。
「美味しく炊けてるし、炊飯器だろ」
「……だいぶ昔に貰った物なので、よく覚えてませんが、入れた食材に入れた人物が望んだ調理を施す物? だとか言ってました。今まで使ったことなかったので」
何それ魔法みたいだ、と言いかけた言葉を、そういえばここ魔法がある世界だったと飲み込んだ俺は、やっと主様の口から解放された指をプリュイに綺麗にしてもらいながら、ふと思いついて訊ねる。
「くれたのって、主様の知り合いの人?」
「ええ、まぁ、そうですね」
「なら、主様が生肉を食べたりするから、心配してプレゼントしてくれたんだな。おかげで楽にご飯炊けるし、今度会ったら俺の代わりにお礼言っておいて欲しいな」
主様の古い友人であろうその人……人じゃないかもしれないけど、主様が生肉を食べる姿を見て心配したんだろう。で、これなら使えるだろうとくれたんだろうが……。
「俺がいなくても、これなら料理というか火を通したり出来るんだろうし、生肉食べるのは止めてくれよ?」
お腹壊さないのはわかっていても、やはり忌避感はあるし、心配にもなってしまう。
それに、こんなに簡単に調理できる道具があるなら使わないと損だろう。
そう思っての発言だったのだが、
「嫌です。……ロコがいないならご飯食べません」
そんな思わぬハンスト宣言が来てしまった。
「いやいや、そりゃ一人でご飯食べるのって味気ないけどさぁ……」
冗談だろうが、子供のワガママじみた主様の宣言に苦笑いして答えた俺は、そういえば主様と会ったばかり頃に主様をこんな言葉で説得しようかと思いかけたことを思い出して、感慨深くなる。
「皆で食べた方が美味しいもんな」
主様が食べることに興味を持ってくれたのが嬉しくてふふと声を上げて笑いながら頷いていると、主様の腕が伸びて来て抱え上げられてしまう。
「ほら、カレーも出来たし、クッキーは……もうちょいかかるからプリュイに見ててもらって、俺達は先にご飯食べようぜ? プリュイ、お願いしてもいいか?」
遠慮なく主様の服を掴んで体を安定させると、俺はオーブンを振り返ってから、次にプリュイへと視線を向ける。
「ハイ、もちろんデス」
カレー鍋の火を止め、キリッとしてふるふるとプリュイが自信溢れる返事をしてくれたので、俺は主様を誘導してサラダを仕上げる。
サラダを仕上げるといっても、適当に食べやすいサイズに切った野菜にマヨネーズをかけたシンプルな物だ。
「あとは、カレーを炊けたご飯にかけて食べるんだけど、ちょうど良い皿……主様、ちょっと深さがあるこれぐらいの皿ってあったっけ?」
俺を支える主様の腕はしっかりとしていて安心感があるので、俺は主様の服から手を離して両手で円を描いて皿の大きさを表す。
「……これでどうですか?」
俺の描いた円を見て少し考えた主様がそう言って収納から出してくれたのは、カレーを入れたら映えそうな白い皿だ。大きさも俺が示した円とほぼ同じぐらいだ。
「バッチリだ。ありがと」
俺も慣れたもので、抱えられたまま主様から皿を一枚ずつ受け取ってご飯をこんもりと片側に寄せて盛り、それを三皿用意する。
「運びマス」
「ありがと、プリュイ」
相変わらず器用なプリュイは、ふるり震えて触手を伸ばして俺がご飯を盛った皿を持ち上げて運んでくれる。
そのまま、仲良く三人でカレーの入った寸胴鍋前へと移動して、ご飯の上へお玉でカレーをかけていく。
「アチラへ運びマスね」
二人分のカレーライスとサラダ、カトラリーが乗ったお盆をプリュイが運んで行ってくれる。
「カレーはあったかいお茶より、水がいいか。水差しとコップ持って行きたいから……」
降ろしてくれ、という俺の言葉は、お盆を持ちながら伸ばした触手で器用に水差しとコップを運んでくれているプリュイを見て、行き場を失う。
「では、行きましょう」
「おう……」
ぽやぽやドヤァという器用な表情の主様を見上げて力無く頷いて返し、俺は色々諦めて降りようと入れていた体の力を抜いて主様の胸へと体を預けるのだった。
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