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118話目

味の記憶って、結構強いですよねーという話です(*>_<*)ノ


プリュイ、そこは開けてはいけない扉です←

「ん……っ」

 顔に触れるひんやりさらさらと触れる何かに、俺は寝ぼけながらもくすぐったさから逃れようと体をよじる。

 そのまま体を丸めていると、優しい笑い声と共にぐっと体ごと引き寄せられて、背後から包まれる気配がある。

「ぬしさま……?」

「……はい。もう少し寝ててください」

 起きようとした俺を遮るようにギュッとしっかりと捕まえてくるのは、やはり主様のようだ。背後から声も聞こえたので確定で良いだろう。

 帰ってきたのかとか、何処行ってたとか、聞きたいことはあったが、ギュッと包み込まれる安心感に遠のきかけた睡魔が秒で帰ってきてしまう。

「おか、えり……」

 それでも一番伝えたい言葉は何とか口から出てくれたようで、あたたかい暗闇に沈み込む中、主様の「ただいま戻りました」という優しい声を聞いた気がした。





 次に目覚めたのは、瞼に眩しい光を感じたからだ。

 俺の部屋にしろ主様の寝室にしろ、朝日がベッドまで射し込むことはなかったような……そこまで考えて俺はハッとして起き上がろうとして失敗する。

「ぬ……」

 反射的に失敗の原因である主様へ呼びかけようとしてしまった俺は、慌てて口元を手で覆う。

 下手に声をかけて眠りを浅くしてしまうと、主様の拘束が強まったり押し潰されそうになってしまう。

 俺も学習するんだぜ、と内心で誰へ向けたものかわからない自慢をしながら、俺は何とか巻き付いていた主様の腕の中から抜け出してベッドを降りる。

 見渡すまでもなくここは主様の寝室なので、寝てる間に主様が運んだのだろう。

 時計を確認すると時間はもうお昼近い。完全に寝坊だ。

 パタパタと駆け出した俺は、ちらりと振り返った主様の腕の中が寂しそうだったので、ベッドへ駆け戻ると俺の代わりに謎ぬいぐるみを突っ込んでから寝室を後にする。

 ドリドル先生の特製ドリンクのおかげか今の体の性能のおかげかはわからないが、二日酔いはすっかり良くなったようだ。

 ついでに昨日の痴態まで思い出してしまい、顔に熱が集まる。たぶん今俺の顔は真っ赤だろう。

「叱られて泣くって、許されるのはヒロインちゃんみたいな可愛い女の子か、小さな子供までだよなー」

 自嘲して呟いた俺は、顔の熱をさっさと冷ますためにもと洗面所へ向かう足をせかせかと速める。

 その結果、前方不注意でふにょんという慣れ親しんだ感覚に全身で飛び込んでしまい、プリュイに捕獲されての移動となってしまった。

「ジル、ワタクシじゃなけレバ、ジルが怪我シテしまいマス」

「ごめん……」

 めっ、と俺を優しくたしなめてくれたプリュイは、謝る俺をしばらく見つめてから、ハッとした顔になって全身をふるりと震わせる。その後、何故か細い触手を伸ばしてきて俺の頬を突いてくる。

「……ワタクシ、昨夜ノ先生ノ気持ち、分かってしまいマシタ」

「そ、そうか」

 それはどっちの意味で? と問いたくなるのを飲み込んで、ちょっと興奮したようにふるふるしているプリュイから、俺はそっと視線を外しておとなしく洗面所まで運んでもらった。

「ふぁ……さっぱりしたー」

 冷たい水で顔を洗った俺は、プリュイが渡してくれたタオルで顔を拭きながら、キッチンへと向かう。

「そういえば、ドリドル先生はもう帰っちゃったのか?」

「ハイ。デスガ、あとデ様子を見に来るトおっしゃらレてマシタ」

「そっか。お金は受け取ってくれないだろうし、クッキーでも焼いてお礼に渡すかな」

 洒落たクッキーとかは無理だが、ザ定番って感じのクッキーは一時期ハマってたので、何とか作られるだろう。

 バターたっぷりのレシピだったから、社会人になっては体重的な心配とお値段の関係であまり作ってなかったので、レシピ思い出せるかはちょっと心配だが。

 キッチンに到着した俺は、冷蔵庫の中を覗き込みながら頭の中で昼ご飯のメニューも考えながら、クッキーに使う卵とバターを取り出す。

「本取って来マスか?」

「あー、今回は簡単なレシピにするから、本が無くても……あ、でも焼き時間参考にしたいから、頼めるか?」

 俺の手からバターと卵を受け取ってくれたプリュイの言葉に、俺は一瞬悩んでから、へらっと笑っておねがいをする。

 どうせならドリドル先生には綺麗に焼けたのを食べてもらいたいので、クッキーの焼く温度とか時間を確認というか思い出しておきたい。

「ハイ」

「ついでに、何か野菜と肉たくさん使うレシピ……あ、そうだカレーの作り方の書いてある本あったら、それもよろしく」

「わかりマシタ」

 冷蔵庫の中を覗いたら、茄子とか玉ねぎとかカボチャとかゴロゴロしてたので、とっさに思いついたメニューの名前を口にして追加で頼むと、プリュイはすぐ頷いて、俺専用図書室となった部屋の方へと消えていく。

 プリュイを見送った俺は、萎びそうな茄子と玉ねぎとカボチャ、それとまた増えていた豚っぽい肉の塊を取り出す。

 カレーに関しては、俺が知識チートして考えたとかではなく、この世界に元からある料理だ。しかも、どちらかというと本格インドカレーとかではなく、日本で人気のタイプのいわゆる家庭のカレーが主流だ。

 あの乙女ゲームに似た世界だから、とかいう訳ではなく、俺みたいに向こうの世界の記憶がある人間が他にもいたんだろう。

 しかも、かなり料理好きで、時短料理にも理解があるタイプの。

 そういえばゲームでも料理作りのミニゲームあったけど、全ての材料揃えて鍋にぶち込むと出来上がるゲーム的な料理だったからなぁ。

 ヒロインは料理得意な設定だったけど、リアルなヒロインちゃんは……まぁゲームそのままっぽかったし、料理好きだろう。

 主様の胃袋掴まれないように……。

 そんなことまで考えて、俺は自分の女々しい考えに苦笑いして、水気を振り払う犬のようにぶるぶると体を震わせる。


 その行動に深い意味はない。


 本当に深い意味はないので、プリュイはキラキラした目で見てくるのを止めてくれ。

「ジル、可愛ラシかったデス」

 プリュイの謎過ぎる可愛いポイントをスルーして、俺はクッキーを後回しに一先ずカレーの準備に入る。

 というか、カレー煮込んでる間にクッキー行けるだろう。

 今の俺には一人で何役もこなせる万能調理器みたいな助手のプリュイがいてくれるのだから。



 なんて、格好つけてみたが、特にせかせかと何かする訳ではなく、いつも通りに和気あいあいと料理するだけだ。

 カレーは多めに仕込んでおいて鍋ごと主様の収納に入れてもらえばいいとあえて大鍋で作っていく。

 混ぜたりとか少し力のいる作業は、時短も兼ねて今日はプリュイへ丸投げさせてもらう。


「バター、コンナ感じデス?」


「ん、ばっちり。そこに、砂糖を何回に分けて入れてもらって……──」


「肉は粉砕しますか?」


「一口サイズで頼むな」



 プリュイにクッキーの生地の下ごしらえを頼みつつ、起きてきて早々肉を粉砕しようとする主様に肉の切るサイズの指示を出す。

 ひき肉カレーも美味しいが、今日は野菜たくさん肉ごろごろなカレーを目指している。

 俺? 俺はにんにく剝いて薄く切っている。

 前世のうちのカレーは、肉は何でもありだけど、どの肉の時でも結構ガッツリとにんにくスライスを入れていた。

 ま、母の味ってやつだ。

 一人で暮らすようになって自分一人で作ったけれど、母の味にはならなかった。

 ルーも市販の物だし、作り方も手伝って見ていたのに、だ。

 鼻の奥がツンと痛んだのは、プリュイが伸ばした体の一部で玉ねぎを刻んでいてくれるからだろう。

 そう誤魔化して、俺は肉を斬り終わってこちらを窺うように主様にへらっと笑ってみせた。




 今日これから作り上げるカレーが、新しい『うち』のカレーだ。





 しかし、寂寥感覚える切っ掛け、食べ物ばっかりだな、俺。

いつもありがとうございますm(_ _)m


しんみりしきれないのが、ジルヴァラクオリティ(*ノω・*)テヘ


感想、評価、ブクマ、いいねありがとうございます(。>﹏<。)いただけると、小躍りして喜んでます\(^o^)/

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