115話目
今回はアーチェさん視点です。
ソルドさん視点は、わちゃわちゃするし、ソーサラさん視点はジルヴァラしか見てないので←
「ソルド! お前なんてことを!?」
片付けの手伝いを終えてジルヴァラの元へ戻った僕が見たのは、ソルドが持ち込んだチョコレートをジルヴァラがその可愛らしい口へと入れてしまう瞬間だった。
チョコレートを美味しそうに食べるジルヴァラを微笑ましく見ていた僕は、ソルドが持ち込んだチョコレートがどのような物だったか思い出すのが遅れてしまった。
一生の不覚だ。
すぐに思い出して、ソルドへ向けて鋭く声を発したが、すでにチョコレートはジルヴァラの口の中で。
ソルドは張り倒したくなる間抜け顔で不思議そうに僕を振り返っている。
幻日様も叫んだ僕を少し怪訝そうな顔で見てくるが、今はそれどころじゃない。
「どうしたの、アーチェ」
僕の大声に驚いたのか、ソーサラも早足で戻って来て僕とソルドを交互に見ている。
「ソルドが、あのチョコレートをジルヴァラへ食べさせたんですよ!」
「え? 別にチョコの一個ぐらい良いだろ? お腹いっぱいだって、それぐらい食べさせても……これ、すっげぇ美味いだろ?」
ソーサラへ放った言葉に、ソーサラより早くソルドが反応していっそ無邪気に返してくるが、僕はあまり呑気な態度のソルドに頭痛がしてくる。
「え? 嘘、まさか本当なの? あれ、幻日様に差し上げるんだと思ってたわ。あたし、水持ってくるわ!」
ソーサラはすぐに理解してくれたらしく、ふにゃふにゃ笑っているジルヴァラを心配そうに見やってからキッチンの方へと駆け戻っていく。
「ロコ?」
心配そうにジルヴァラを呼ぶ幻日様へ伝えるのは怖ろしいが、呑気な顔をしている我らがリーダーは役に立たないのはわかっているので、僕は彼を刺激しないようにゆっくりと近づいていく。
近づいてしっかりと見えるようになったジルヴァラは、とろんとした顔をして近づいて来た僕へ人懐こいふにゃふにゃな笑顔を向けてきてくれてとても可愛らしいが、今はそれに癒やされている場合ではない。
「申し訳ありません! 先ほどうちの馬鹿リーダーがジルヴァラへ食べさせたチョコレートは、甘さ控えめでとても美味しくはあるのですが、度数の強い酒を使っている物なのです。僕やソーサラは、幻日様へ差し上げるものだと勘違いを……いえ、これは言い訳ですね。本当にどう謝罪をしたら……」
無言でジッと見つめてくる宝石のような瞳に射られ、恐怖で視線を外しそうになるが必死に耐えた僕は、そのまま床へと膝をついて深々と頭を下げる。
「え? え? 俺何かやっちゃったのか? 幻日様! すみません!」
未だに事態が飲み込めないソルドも、床へと跪いた僕を見て何かヤバいことになってることは悟ったらしく、素早い動きで僕の隣へ跪いてそのままの勢いで床へ額を打ち付けたのが視界の端に見える。
自分が悪いと思ったらまず謝る。こういう素直なところが、ソルドの憎めないところだ。幻日様相手に通じるかわからないが。
えへへ、と笑うジルヴァラの笑い声しか聞こえない張りつめた空間に、もう一度ゴンッと鈍い音が響いて、ジルヴァラの笑い声すら聞こえなくなる。
重苦しい空気の中、パタパタと忙しない足取りが聞こえてきて、ソーサラが戻って来てくれたのが顔を上げなくてもわかるが、僕は顔を上げられない。
「うちの馬鹿がなんてことを……っ! うちの馬鹿、とても酒が強いので、小さい頃から普通にこういう系のチョコレートも好きで食べてたみたいで、今日もジルヴァラに食べさせてあげたかっただけだと思うんです。……来る道中も、すっげぇ美味いから気に入ってくれるかな、とウキウキしてて、どうか許してあげてください! バツならあたしも受けますから」
ソルドを挟んだ反対側、ソーサラも跪いた気配がして、謝罪の言葉がそちらから聞こえてくる。
次に聞こえてくるのは、幻日様からの冷ややかな罵倒かと僕達が身構えている中、聞こえてきたのは。
「みんにゃ、わりゅくにゃいよ、ぬししゃま、いじめちゃ、らめだじょ?」
すっかり呂律が回らなくなってふにゃふにゃになりながらも、僕達に非はないと訴えてくれるジルヴァラの声だ。
床を見つめているのでわからないが、ぺちぺちと音がしてくるのは、ジルヴァラが力の入ってない手で幻日様の体の何処かしらを叩いているのだろう。
あの子以外がそんなことをしたら、なんて恐ろしいことを考えかけてしまったが、そもそも幻日様自身がそこまで他人を寄せつけないだろうと軽い現実逃避をする。
「ソルドしゃん、ごんっていった。いたくにゃいか?」
そんな言葉の後に、床しか見えなかった視界に細い足が二本入ってきて、あのジルヴァラが幻日様の膝から降りたのだと悟る。
「いたいにょ、いたいにょ、とんでけー」
こっそりと横目で様子を見ると、真っ赤な顔をしたジルヴァラが、いつもより幼く見える無邪気な笑顔をソルドへ向けて、その頭をよしよしと撫でているところだった。
えへへーとジルヴァラが楽しそうに笑っている声だけが聞こえる中、はぁーと幻日様が深々とため息を吐いて立ち上がる。
殴られ蹴られるぐらいは覚悟する中、幻日様はソルドを撫でているジルヴァラを抱き上げただけだ。
「ロコが怒っていないなら、私はどうでもいいです」
降ってくるように聞こえたのは、本当に僕達などどうでもいいのだと伝わってくる、何の感情も含まれていない平板な声だ。
「おこりゃにゃいよ? ソルドしゃんのちょこ、おいしかった」
「そうですか」
そうジルヴァラに応える声にだけ、とろりと蕩けるような甘さを滲ませた幻日様は、見苦しいので立ってください、と何の感情もこもらない声で僕達を立たせる。
さっきから駄々洩れてくる幻日様の魔力にあてられてるのか、それとも恐怖からかはわからないがふらつく足に何とか力を込めて立ち上がる。
僕に少し遅れて真っ青な顔をしたソーサラも立ち上がり、一番遅れてソルドが立ち上がった。
「えっとねぇ、ソルドしゃんたちに、おねがいがありゅんだけど……」
この状況でジルヴァラは僕達を呼び出した理由を話し出そうとしてくれているようだが、それを止めたのは幻日様だ。
「ロコ、まずは水を飲んで……」
「はぁい」
そのやり取りが終わるのを待って、ソーサラが水の入ったコップを幻日様へ差し出す。
「ありあとー」
無言の幻日様の代わりに、ふにゃふにゃ笑ったジルヴァラがお礼を口にして、幻日様から水を飲ませてもらっている。
「ん……にゃんかねむい……」
今のところジルヴァラの様子を見る限り、幸いにも気持ち悪くなったり具合が悪くなったりはしていないようだが、油断は出来ない。
「あたし、お医者さん呼んできます」
ソーサラもそう思ったのか、ちらりと僕と目を合わせてから、ジルヴァラを心配そうに見ている幻日様へ声をかけて早速外へ向かおうとする。
「いえ、こんな時間にソーサラ一人で行かせられません。僕が……」
「いいや、行くなら俺だろ。俺が考えなしだったのが原因だ」
ソーサラを止める僕をさらに割って入ってきたソルドが止めて、即座に外へと向かおうとする。
その背中へ幻日様から声がかかる。
「──医者を呼ぶなら、騎士団専属の医者を呼んでください。私……ロコの名前を出せば来てくれると思います」
そう説明してくれる顔は、何故か先ほどのやり取りの間より歪んで見えるような気がする。
「騎士団の医者だな。わかった! すぐ連れてきてやるからな!」
「んー? ドリドルせんせぇくるの……?」
その医者はジルヴァラがかなり懐いている相手なのか、ほとんど眠りかけているが名前を呼ぶ声は嬉しそうだ。
「すぐに来るでしょうから、ロコは寝てていいですよ」
甘やかすような幻日様の声は、言われた本人でなくとも蕩けそうな破壊力抜群な代物で、僕は軽く頭を振って熱を逃す。
『子供』好きなソーサラは……心配そうにジルヴァラを見つめていて、ブレないなと感心していると──。
「客間を用意させます。今日は、泊まっていきなさい」
死刑宣告じゃないか、と僕が心配してしまったのは、腕に抱いたジルヴァラを見つめてあまりにも美しい微笑み浮かべた幻日様のせいだろう。
いつもありがとうございますm(_ _)m
お酒は二十歳になってから(*>_<*)ノ
ジルヴァラは楽しく酔っ払うタイプです(ㆁωㆁ*)
そして、誰も彼もに甘えるわけではなく、きちんと相手を見て甘えてます。野性の本能ですかね。
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