111話目
自称サバサバ系(仮)だと面倒なので、適当に名前付けました。
ヒロインちゃん側なので、植物繋がりなお名前です。
自分で書いてて、後頭部を張り倒したくなる受付嬢さんです。でも、見た目は可愛くて、人気はあります。
今も自分の受付カウンターに並んだ冒険者さん達を放置してると思います。
ちなみに私はベテランお姉さん派です←
「お待たせしました」
扉の前で待つことしばらく、そっと扉が開かれて隙間からベテランのお姉さんが顔を覗かせる。
主様は「どうも」と短く答えて、扉をくぐって外というか受付カウンターのあるホールへと出る。
そこはまだ少しガヤガヤしていたが、あの特徴的な甲高い声は聞こえなくなっていた。
「なんであの子を追い出すんですか!?」
代わりな訳ではないだろうが、あの自称サバサバ系(仮)お姉さんが何か叫んで、ギルドのスタッフらしい眼鏡の男性へ詰め寄っている。
「前回きちんと説明しておいたはずです。あの彼女にも、ネペンテス、貴女にも」
「そ、それは……」
「冒険者ギルドは、冒険者全てのための物であり、彼女だけを贔屓する訳にはいきません。騒ぎを起こすようなら容赦なく叩き出すと、前回きちんとお伝えしてありましたので、今回はそれを実行したまでです」
「で、でも、衛兵まで呼ぶなんて……」
ネペンテスと呼ばれた自称サバサバ系(仮)お姉さんは、弱々しいながらも反論して悔しそうに唇を噛んでいるが、どう聞いても眼鏡の男性の方が正論だと思う。
俺と同じように感じてるのか、野次馬の中にも数人うんうんと頷いている人が見えるのだが、同数ぐらいあのネペンテスと呼ばれたお姉さんの方に同意してるように見える表情の冒険者が混じっている。
これはネペンテスさんの魅力なのか、ヒロインちゃんのヒロイン力からなのかは不明だが、何か目つきが狂信者みたいで怖い。
主様はさすがというかいつも通りのぽやぽやしていて、あちらの騒ぎなど全く気にした様子もなく、何かを書いてベテランのお姉さんへ渡している。
何だろうと気にしていると、また何かを言われたのか、ネペンテスさんが何事か反論する声がする。
「……あれが目を惹きつけてる間に、裏口からお帰りください」
あまりの剣幕に思わず主様の背後に隠れてホールの様子をこそこそ窺っていたが、ふっと息の洩れるような音がしてそちらを見ると、ベテランのお姉さんからそう小声で話しかけられ、裏口をそっと教えてもらえた。
「ありがと、お姉さん」
道中の移動速度を上げるためか、無言で主様によって小脇に抱えられながら、俺はへらっと笑ってお礼を言って、名前を知らずにお別れとなったベテランのお姉さんへ手を振る。
ホールでは未だにネペンテスさんが、眼鏡の男性相手にきゃんきゃん頑張っているのが見えている。
そのおかげもあって、俺達は無事に人目を避けて冒険者ギルドの建物を後にすることが出来た。
●
「主様、そろそろ人さらいと間違われるから降ろしてくれよ」
裏口から冒険者ギルドを抜け出した俺達は、そのまま入り組んだ路地裏を進んでいき、ある程度離れた所で俺は主様へそう声をかける。
場所が場所だけに、下手すればこちらも衛兵を呼ばれるかもしれない。
いくら美形補正があっても、子供を小脇に抱えて歩く主様は悪目立ちするのか、先ほどからちらちら見られている気がする。
「私から離れないと約束しました」
久しぶりのヤダ◯ン主様に、俺は苦笑いして手を握ったり開いたりして見せつける。
「ほら手を繋いでれば大丈夫だろ?」
「降ろしたらロコが拐われるかもしれません」
「主様みたいな美人ならともかく、俺なんか狙われ……いや待てよ、主様狙いのやつに狙われる可能性もあるな」
俺自身に価値はなくとも、主様が危険に晒されるのは嫌なので俺は譲歩案として……、
「せめて抱いてくれ」
物理的荷物扱いからの待遇改善をお願いすることにした。
俺がお願いを口にすると、触れ合っている主様の体がピクリと反応して足が止まる。
「……なんて?」
聞き取れなかったのか? と思いながら、俺は体を捩って主様の方を見てもう一度繰り返すことにする。
「抱いて?」
ゆっくりめにはっきりと発音したから、これで聞き取れないということはなかった筈だが、主様からぽやぽやが消える。
スッと目が細められ、まるで睨むような眼差しを向けられてしまい、俺はさすがに甘え過ぎだったかと反省していると、しばらくしてからやっと主様が動き出す。
「……私以外には言うな」
グッと体を持ち上げられて片腕に乗せるような体勢で抱き上げられると、ゼロ距離でも完璧な主様の顔が寄ってきて、ほぼキスでもされるんじゃないかという距離で囁かれる。
「へ? お、おう、わかった」
何を? と言いたかったが言える雰囲気ではなかったので、俺は空気を読んで頷いておく。
「……約束です」
鼻先を軽く触れ合わせてから顔を引いて歩き出した主様に、やっぱり猫っぽいよなぁとズレたことを思っていると、主様の足が止まる。
「着きました」
自宅まではかなりあるし、馬車との待ち合わせ場所かなと主様の顔を見つめていた視線を周囲へ向けた俺は、そこに見覚えのある建物を見つけて瞬きを繰り返す。
「イオのお店?」
正確にはイオのお父さんがやってるお店だが、まぁそれは俺の脳内の何処かに放り投げておいて──主様が着きましたと立ち止まっていたのは店の前だ。
「買い物をすると……」
お礼を言いに来たのか、と驚いていた俺に対して、主様はそう答えて店の中へと入って行く。
「いらっしゃいませ……げっ」
よそ行きモードのニウムさんがすぐ俺達を迎えてくれたが、主様を見た瞬間、思い切り心の声を短い呻き声で洩らしてその表情を強張らせている。
「ニウムさん、この間はお世話になりました」
緊張を解してあげようとへらっと笑って話しかけると、やっとニウムさんの視線が俺を捉える。
「おう、ジル坊いたのか。良かった」
やけに気持ちのこもった『良かった』を呟いたニウムさんは、ふぅと息を吐いて額の汗を拭う仕草をする。
「旦那達ならお出かけ中でございますが……」
今さらなよそ行き口調でイオ達の不在を教えてくれたニウムさんに、俺はゆっくりと首を横に振る。
主様はまた置き物というか乗り物と化して、無言でぽやぽやしている。
さっきのニウムさんの『良かった』は、主様がこうなることを見越しての発言だったのかもしれない。
無言でぽやぽやしてられたら、何買いに来たかすらわからないもんな。
「手紙を書きたいから、便箋と封筒と、俺でも使えるようなペンが欲しいんだけど」
手の大きさがわかり易いように、ニウムさんへ向けてニパニパと手を握ったり開いたりしていると、くく、と笑われてしまった。
「悪い悪い、可愛らしく、ついな」
他にお客様がいないせいか、猫を被るのを止めたニウムさんは、恨めしげな目で見てしまっていたらしい俺へ向けて謝罪し、こっちだ、と案内してくれる。
相変わらず『何でも屋』という感じの店内を進んで行って案内されたのは、数種類の便箋と封筒が並んだ棚だ。
便箋と封筒が分かれている物と、同じ柄の便箋と封筒がセットになった物があり、俺は悩んだ結果一番シンプルな便箋と封筒のセットを選んだ。
一番枚数があって、値段もお手頃らしい。
値段はニウムさんが何故か表情を引きつらせて教えてくれなかったけど。
「次はペンか。羽根ペンもあるが、万年筆の方が握りやすいか?」
そう言いながら、ニウムさんは何種類かの万年筆を俺の手に握らせてくれた。
「あ、これ握りやすい」
俺がそう呟いたのは、俺が見ても万年筆だな、とすぐわかるような定番の形をしてるが少し胴軸が細めの万年筆だ。
「なら試し書きしてみるか」
「おう」
俺の好感触な反応に、お、という顔をしたニウムさんは、すかさずメモ帳を差し出してくる。
「うん、書き心地も良いな。これいく……」
「では、これを買います。予備も含めて二本。それとインクを」
俺が値段を訊ねたのを明らかに遮った主様は、俺が口を挟む間もなく注文を終わらせてしまう。
「ニウムさん、いく……ぶっ」
「色は黒以外にもありますか」
再度訊ねようとした俺の口は、主様の手によって覆われてしまい、口から出たのは不明瞭な呻き声だけ。
さらに主様が重ねて質問したので、ニウムさんから苦笑いを向けられてしまった。
これは後で払う所をしっかり見るしかないか、と密かに決意していた俺だったが、主様による伝家の宝刀、
「釣りはいりません」
によって、あっという間に計画は頓挫してしまう。
とりあえず、金貨が数枚必要な額だということだけはわかったが、帰り際わざわざ一旦俺を降ろした主様がニウムさんに何事か囁いていたので、これは後日来ても教えてもらえなさそうだ。
「ありがと、主様。でも、早く大きくなって、絶対返すからな?」
帰り道、馬車の中でそう宣言すると、主様は微笑んで膝上にいる俺の頭を撫でてくれる。
「楽しみにしています」
柔らかく何処か寂しげな声音で降ってきた呟きに、思わず主様を振り返るがそこにあったのはいつも通りのぽやぽやな微笑みだけだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
すっかり遅くなりましたが、誤字報告ありがとうございます(。>﹏<。)
たまに……いえ、結構とんでもない間違いしてるので、教えていただけると助かりますし嬉しいです(*´艸`*)
一応、投稿前に軽く読み直すんですが、やはり自分の目じゃ甘いんですね(*ノェノ)キャー
感想、評価、いいね、ブクマももちろん大感謝です(*>_<*)ノ




