108話目
感想でご指摘いただいたあれの回収です(ㆁωㆁ*)
まだ完全に回収はされてませんが、現在地はあそこでした。
ヒロインちゃん……もとい白い害虫が見たなら、「あんたが盗ったのね!」とキーキー喚く代物ではあります←
「じゃあ、プリュイ留守番よろしく。いってきます!」
「いってらっしゃいマセ、幻日サマ、ジル」
ぶんぶんと手を振って玄関を出る俺は、プリュイに見送られて貸し切った馬車へ乗り込んで冒険者ギルドへ出発した。
主様は俺と手を繋いで無言でぽやぽやしていたが、ちらりと見上げるとプリュイのお見送りに対して、軽く頷いてはいた。
その動作に思わず、心の中でこっそり、
「うむ。苦しゅうない」
というアテレコをしたら、思いの外しっくりきてしまい堪えきれず、しばらく笑いが込み上げて収まらなくなり、危うく馬車の行き先がドリドル先生の所へなりかけてしまった。
「もう大丈夫ですか?」
笑い過ぎで疲れた俺を膝枕で休ませてくれながら、ぽやぽやを薄れさせた主様が心配そうに覗き込んでくる。
「おう。ごめん、なんか笑い出したら止まらなくなっただけだからさ」
ちょっと腹筋痛いなぁと苦笑いしてお腹を擦っていると、主様の手が伸びてきて一緒に擦ってくれる。
「ロコ、驚かせないでください」
「だよな。俺も自分で驚いた」
申し訳なさもあって、へらっと力なく笑っていると、目元を覆うように主様の手が置かれる。
「ゆっくりと走ってもらいますから、少し休んでいてください」
「ありがと。そうさせてもらうな」
素直に目を閉じると、いい子です、とばかりにお腹に続いて頭を撫でられる気配がする。
眠らなくとも目を閉じているだけで仮眠って効果あるんだよな、とか考えて目を閉じた俺だったが──。
どうやら秒で爆睡していたようだ。
●
「ロコ、ロコ、着きましたよ? 私が抱えて降りますか?」
主様の楽しそうな声が聞こえたと思ったら、体が浮く気配がして、俺はバッと目を開ける。
まず見えたのは、気のせいでなければ残念そうな顔をして俺を抱えている主様だ。
「ありがと、主様! 自分で歩けるから。というか、歩かせて」
幸いにもまだ馬車の中だったので、シャキッと目覚めた俺は手足を揺らして主様へお願いする。
「そうですか? ここから先は危険ですから、決して私から離れてはいけませんよ?」
抱っこしてた方がいいんだけどなぁ、という圧力をかけてくる主様へへらっと笑って返した俺は、主様のローブをギュッと掴んで無言で離れないアピールをしておく。
「……何か変な生き物がいたら、問答無用で抱き上げますので」
「お、おう」
身を屈めて目線を合わせた主様からの、やたらと目力の入った睨みを受けて、俺は若干引き気味で頷く。
危険人物でも危ないことでもなく、変な生き物限定の注意って何なんだ? という至極真っ当であろう突っ込みを言える空気ではなかった。
俺が頷いたのを確認した主様は、俺の目元へ唇を寄せて口付けてからため息を吐いて姿勢を正し、馬車の扉へ向かう。
唐突すぎて驚いたけど、先ほどの笑い過ぎによって涙が滲んでいたんだろう。
主様の奇行の理由を推測しながら、俺は主様の服をギュッと掴んでくっついて歩いていく。
これって抱っこと同じぐらい幼児が甘えてるように見えないか? と気付いたのは、主様にくっついて馬車を降りて、冒険者ギルドの扉をくぐった後だった。
「おい、あれ……」
「なんでこんなところに?」
「何しに来たんだ?」
「「「というか、あの足にくっついてるちっこいのはなんだ?」」」
「あれ? あのちっこいの……」
等等々、聞こえること、聞こえること。
さすが主様有名人だ、と思いかけたが、皆様の揃った突っ込みは俺へ向けてらしい。
今のところ主様へ絡む勇気ある冒険者はいないようなので、気にしないでおく。これぐらい想定内だ。
主様の服を掴んだまま興味津々で見渡した冒険者ギルドの中は、入って右手の壁にクエストとかの貼られた大きな掲示板があり、人集りが出来ている。
真正面は受付かな。
カウンターがあって、数人のお姉さん達が等間隔に並んで、冒険者らしい人達の相手をしている。
奥の方にもカウンターがあって、そこにいるのはゴツくて目付きの鋭いおじさんだ。
あっちはお姉さん達とは何か違う担当なんだろう。
お姉さん達の前には行列があるけど、おじさんの方は無人だ。と思ったら、お姉さん達の並びの中にも空いてる箇所があるのに気付く。
なんでだ? と悩む俺の耳に、主様のため息が聞こえてくる。
それが聞こえた訳ではないだろうが、受付にいる可愛らしいお姉さんから手招きされる。
可愛らしいんだけど……なんか、俺は生理的に苦手かもしれない。
女子力高めだけどそこまで男には媚びてない私は自称サバサバ系で職場のマドンナよ、という空気を全身にまとってるけど、それを感じさせないようにしている感じ?
んー、上手く表せないけど、主様があのお姉さんに近付くのが嫌で、思わず主様の手を握る。
途端にギュッと握り返されて、主様から蕩けるような笑顔を向けられ安堵出来たのは一瞬だけで、何故だか周囲からは悲鳴が聞こえてビクッとなってしまう。
「え? なになに?」
ヤバい奴でも入って来た? 俺つえー系の主人公でも現れて、とんでもない獲物とか背負ってきた?
主様と手を繋いだままきょろきょろするが特に先までと変化はなく、俺は首を傾げて主様を見上げる。
ずっと俺を見ていた訳じゃないだろうが、タイミングが合ったのか主様とばっちり目が合って瞳を覗き込まれる。
「だから、抱き上げるといったでしょう?」
仕方ない子ですねぇ、と言わんばかりの表情で柔らかくぽやぽや微笑んだ主様は、疑問符を浮かべている俺を気にせず抱き上げる。
「ここには変な生き物がいるんですから」
ふふ、と珍しく声を上げて笑う主様がちらりと見たのは、自分の前に並んでいた冒険者を退けてさぁさぁと待ち構えている自称サバサバ系と言い出しそうな受付のお姉さんだ。
自称サバサバ系はなかなか扱いが難しいんだよなぁ、と蘇りかけた前世の嫌な記憶を押し込めてると、いつの間にか主様は受付カウンターの前に立っていた。
目の前にはあのさぁさぁ言ってた自称サバサバ系(仮)なお姉さん──ではなく、ベテランぽいお姉さんが落ち着いた眼差しでこちらを見ていて。
そのまま見つめ合うこと数秒。
「こんにちはー。ギルドマスターさんに会いに来ました。約束はしてあります」
主様がいつまで経っても喋らないので、俺は元気良く挨拶してベテランお姉さんの視線がこちらへ向いたのを確認してから簡潔に用件を伝えていく。
「……お話はうかがっております。そちらへの扉からギルドマスターの部屋へどうぞ。『案内』は必要でしょうか?」
案内ならあたしが! と遠くの方であのお姉さんが叫んでるが、お姉さんはまず自分の前に並んでいた冒険者さん達の相手をしっかりとしてあげて欲しい。
「『道』は知っているので大丈夫です」
ベテランお姉さんと微妙に含みを感じる会話と視線を交わすと、主様は自分へと向けられる視線など全く意に介さず、示された扉へ向かって歩き出す。
「お気遣いありがとうございます!」
挨拶は大事ってことでベテランお姉さんにへらっと笑って挨拶をすると、鉄面皮かと思ったベテランお姉さんの口元が僅かに綻んで、微かな「どういたしまして」という囁きが俺達を見送ってくれた。
「あの方はまともなので」
返ってきた囁きが嬉しくてベテランお姉さんへ向けて手を振ってたら、主様からそんな呟きが聞こえてくる。
主様からそんな評価をされるなんて、相当しっかりとしていて真面目な人なんだな、とベテランお姉さんへの評価はうなぎのぼりだ。
無事に冒険者へなれたなら受付は彼女のところへ並ぼうと密かに決意していた俺は、いつの間にか静かになっていた周囲に気付いて瞬きを繰り返す。
あの騒がしいホールから遠ざかったせいかとも思ったが、それにしても静か過ぎる。
迷うことなく階段を登っていく主様の動きで揺られながら、落ち着きなく周囲を見渡す。
「どうかしましたか、ロコ」
「……なんか、変な感じする」
主様の探知魔法で探される時のゾワッとした感覚と似てるが、あれよりかなり落ち着かない。見えない手で触りまくられてるみたいだ。
心配そうに覗き込んでくる主様へそれを伝えると、瞬きを一つして中空を軽く睨んだ主様は、収納から何かを取り出して俺の手に握らせる。
「探られてますから。気になるようでしたら、これを」
こちらを探ってるという相手へなのか、それとも俺の手に握らせた指輪のせいなのかはわからないが、主様の口調には何処か忌々しげな雰囲気が滲んでいる。
「……ついでですから、その気に食わない指輪も見てもらいましょう」
訂正。完全に指輪のせいだった。
黒い石の嵌まった高そうなこの指輪は、俺がうっすいゲーム知識を掘り起こして見つけた物なのだが、主様の探知魔法すら防いでしまうトンデモな指輪だそうだ。
だからゲームでも重要な役割があって、そのおかげで俺のうっすいゲーム知識にも残っていたんだろう。
その肝心要の重要な役割は思い出せないんだけどな。
主様にとって、これを俺が着けると探知魔法で探せなくなるので存在してるのすら許せないらしいが、俺とフシロ団長からの懇願によって主様収納に仕舞われていた。
そんな曰く付きに近い品だが、落ち着かない俺を心配した主様は、誰かの探知魔法を防ぐために使わせてくれる気らしい。
「やっぱり外したいです」
相当気に食わないのか、そんな呟きを洩らしながらだったけど。
いつもありがとうございますm(_ _)m
あたたかいお言葉という燃料投下ありがとうございます(。>﹏<。)
毎度になりますが、反応をいただけると、小躍りして無言でニマニマしてます(*>_<*)ノ
これかれもよろしくお願いします。ただいま説明回で詰まってます。説明回はちょい面倒です。




