103話目
おはようございマス(*ノω・*)テヘ
ジルヴァラ、グラナーダ殿下を落としに行くぜ←
「それで、ジルは冒険者になりたいんだよね?」
主様語りが一段落ついた頃、何の前置きもなくグラナーダ殿下がそんなことを口にする。
「……はい。ですが俺はまだ年齢制限で」
「知ってるよ。それで、僕から冒険者ギルドへ根回しして欲しくてお茶会へ来たんだよね」
いきなりお願いするのは失礼だろうと濁した俺の言葉を遮ったグラナーダ殿下に、俺はしぱしぱと瞬きを繰り返す。
「はい、そうです」
俺がびっくりしている横で、自動給餌機のように俺の口へと食べ物を運んでいた主様が代わりに答えてしまう。
「主様、ちょっとはこうなんか、遠回しに言えよ」
聞きようによっては……というか、まんまお前を利用してやるぜな主様の発言に、俺は慌てて主様の服を引っ張って小声で訴えるが、そんなことで口から出てしまった言葉が消える訳もなく。
「構わないよ。僕も幻日の話を聞けて楽しかったからね」
そう言って鷹揚に微笑んでくれたグラナーダ殿下に、俺はひとまず大きく安堵の息を吐くが、ふと上げた視線の先、赤色の瞳の中に見えた寂しげな色に何かを考える前に手を伸ばしていた。
あまりに急な動きだったせいか、グラナーダ殿下の護衛さん達が反応しそうになってたようだが、その時の俺は気付けていなかった。
丸いテーブルに四人で腰掛けていて、グラナーダ殿下は隣に腰掛けていたため、伸ばした手の先は簡単にグラナーダ殿下の手へと届く。
避けられるかと思ったが、グラナーダ殿下は避けずに握らせてくれて、驚いた表情で俺を見てくる。
「最初、お茶会へ参加したのは確かに冒険者になるための口利きして欲しかったからですよ? ……でもさ、今日来たのは、グラナーダ殿下へ会いたかったのもあるんだ……ですよ」
「僕と?」
さすが王子様というか感情の揺れを見せない余裕な微笑みを浮かべるグラナーダ殿下だが、その目の奥には一人ぼっちの小さな子が見える気がして、俺は手を握ったままグッと顔を寄せていく。
さっきから口調がぶれぶれなのは見逃して欲しい。言いたい気持ちを伝えるのに、慣れない着飾った丁寧な言葉では上手くいかない気がするのだ。
「そう。俺はもっと色々話してみたかったんだ。
──グラ殿下と」
答えの代わりにギュッと握った手を強く握り返され、俺はへらっと悪戯っぽく笑ってみせる。
「もちろん、口利きもしてもらえると嬉しいけど」
俺の言葉にグラナーダ殿下は、一瞬軽く目を見張ったが、すぐに小さく吹き出して声を上げて笑い出す。
つられて俺も笑うと、無言で展開を見守っていてくれたニクス様と、そのニクス様によって物理的に黙らされていたナハト様も緊張を解いた様子で笑っている。
「……しぬかとおもった」
ナハト様だけは、なんか軽く死にかけてたみたいだ。
ニクス様、口と鼻は同時に覆ったら駄目だからな?
●
「えぇと、そのグラナーダ殿下の護衛さん達、さっきは驚かせてごめんなさい」
グラナーダ殿下は他のお茶会参加者との挨拶のため少し離れたので、俺はちょこちょこと護衛さん達に近寄って小声で謝罪をして頭を下げる。
グラナーダ殿下の護衛が疎かにならないように、ぽやぽやしてる主様をついて行かせたので大概のことは何とかなるだろう。
「いえ、敵意がないのはわかっておりましたので……」
「あまりに素早い動きでしたので、身構えてしまいました」
護衛さん達はそう言って微笑み、交互にこそっと俺の頭を撫でてくれてから、グラナーダ殿下の側へピッタリと張り付くために戻り、代わりに主様が帰ってくる。
「冒険者ギルドへ話を通してくれるそうです」
「そっか。一歩前進だな」
主様から報告に、グラナーダ殿下の方を見ながら嬉しさから頬を緩めていると、俺の視線に気付いたグラナーダ殿下がこちらを向いてニコリと微笑まれる。
その唇が無音で何かを紡ぎ、意味ありげな視線で主様の方を見やるが、すぐ何事もなかったように別のお茶会参加者の方へと外れていく。
「なんか今、主様に話しかけてた?」
「………………今度は個人的に会いに来てくれ、と」
グラナーダ殿下の視線を追った俺が主様を見上げて問いかけると、かなり溜めのある答えが返ってきた。
「えぇと、そのごめん……」
そう来たかぁ、と思いながら、俺は申し訳なさから主様の手をキュッと握ってゴニョゴニョと謝罪する。
本当なら「嫌なら断っていいよ」とハッキリ言いたいところだが、早く冒険者になりたい俺としては言い出せなくて、こんな微妙な謝罪となってしまった。
「そのさ、グラナーダ殿下なら、無体なこととかしないだろうし、話をするぐらいだから……苦手なことさせてごめん」
喋っているうちに自己中心的な考えの自分に嫌気が差してきて、俺は今からでも断るか、とグラナーダ殿下の現在地を確認する。
ちょうど今は、ナハト様とニクス様を連れたノーチェ様と話しているようだ。
近くに寄っておいて、話が途切れたタイミングで目力で訴えてみよう、まずは。
で、駄目だったら、かなり失礼だけど俺の方から話しかけて、やっぱりいいですと伝えようと考えながら、近づいていく。
よし、早速目力で……と気合を入れようとした俺は、不意に振り返ったグラナーダ殿下とばっちり目が合う。
呼ぶまでもなく、グラナーダ殿下の方から俺の方へと近寄って来てくれ、ギュッと手を握られる。
「ジル、ちょうど良かったよ。ジルはいつなら都合がいいんだ? 冒険者ギルドへ行くだろうから、その後で構わないけど、僕もそこそこ忙しいからいつでもという訳にはいかなくてね」
「えぇと、グラナーダ殿下、そのことなんですが、やっぱり止め「……ジル、僕と話したかったって言ってくれたのは嘘だったんだ?」え?」
主様と話せるのが嬉しいのか頬を染めているグラナーダ殿下には申し訳ないが、と気合を入れて断りを入れようとした俺の言葉は、ニコリと微笑んだグラナーダ殿下にぶった切られる。
「呼び方も話し方も戻ってるし、さっきのは僕の言質を取るためのお芝居だったんだね。ジルはとんだ小悪魔だ。幻日の前で言ってしまえば今さら断れないから、もう僕に利用価値はないよね」
ほとんど息継ぎしてないんじゃないかという勢いな早口で喋るグラナーダ殿下に圧倒されてしまい、俺は瞬きを繰り返すことしか出来なかったが、肩で息をするグラナーダ殿下を見ていてやっと話の内容を飲み込めて首を傾げる。
「冒険者ギルドへ話を通す代わりに、主様と二人きりで会いたいって話なんですよね?」
「え?」
「「は?」」
最初の「え?」はグラナーダ殿下で、次のは護衛さん達から洩れた突っ込みの声だ。
護衛さん達は誤魔化すようにそっぽを向いたので、そちらは聞こえなかったことにしておくが、問題はグラナーダ殿下の方だ。
「え? って、違うんですか? 主様が個人的に会いに来て欲しいと言われたと……」
話の内容が内容なので、人気のない所まで移動して改めて話を振ると、グラナーダ殿下は目を丸くしてぶんぶんと首を横に振る。
「違うよ。僕は、ジルと個人的に会いたいって幻日にお願いしたんだ。それでさっきも目が合った時に、頼むよ、と伝えたのに」
どうしてそうなった、とばかりに顔を掌で覆って天を仰ぐグラナーダ殿下を横目に、俺は背後にずっと無言で佇んでいる主様を見上げる。
「主様?」
「…………だって、嫌です」
そっぽを向いて拗ねたようにそう言った主様にキュンとしてしまったのは秘密だ。
いつもありがとうございますm(_ _)m
冒険者にむけて、ちまちま前進中です(`・ω・´)ゞ
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そして、前回追い出された白いアイツは何処へ行ったんでしょう←




