表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/396

1話目

 こういうのが読みたい! という自分の欲望のまま書き殴ってます。

 ストレスかかると溺愛BLが読みたくなる呪いにかかっているようです。

 誤字脱字、タイトル被り等見つけた方は教えていただけると幸いです。

 詰め込み過ぎて読みにくいかも知れませんが、少しでも萌えていただけると幸いですm(_ _)m

 ラノベと呼ばれる作品において、乙女ゲームのモブに転生した、なんて一昔前には目新しかった設定は、あっという間にほぼテンプレ設定の一つになったと思う。

 そこから立身出世したり、ヒロインや攻略対象と関わったり避けてみたりして、ストーリーが色々展開するものなんだろう。

 なんで俺がそんな事を語っているかって?



「変わったお猿さんですね」



 俺が今現在乙女ゲームの攻略対象者らしき人物と遭遇したからだ。

 物心ついた時には、俺は深い森の中で色んな動物達と暮らしていた。

 最初体型的に自分は猿の仲間だと思っていたが、ある日ふと気付いてしまった。

 泉に映る俺は他の仲間と違い、体毛は頭にしか生えておらず、瞳はたまに来る布などをまとった二足歩行の動物が持つ武器みたいな色をしていて、体型もその二足歩行の動物とよく似ていた。

 俺はたぶんあちらと同種なのかも知れないと思ったりもしたが、動物達と離れようとは思わなかった。

 しかし、少しだけ心持ちが変わり、あの二足歩行の動物を真似て布──はなかったので毛皮や葉っぱを巻いた。あと単純に体毛のない俺は冬場は寒かった。

 気配を殺して二足歩行達に近づき、彼らの話す言葉も少しずつ覚えていった。

 もしかしたら仲間かもしれない二足歩行達だが、今の俺と森の仲間達にとっては敵なのだ。

 向こうの言葉が分かれば、敵の対応がしやすくなると死ぬ気で覚えた。

 俺達の敵は俺と同種らしい二足歩行達の他にももちろんいたが、二足歩行達は賢いので特に面倒だった。

 それでも仲間の動物達と協力し、俺は森の暮らしを満喫していた。

 動物達は俺が二足歩行達の言葉で話しかけても理解してくれるようになった。俺自身は動物達の言葉は頭の中になんとなく流れ込んできて、意思疎通はお互い出来ていた。

 動物達からは食べられる植物、決して食べてはいけない物、危険な場所の見分け方、気配の消し方等、生き残る術を日々学んで生き延びていた。

 日々危険とは背中合わせだったが、幸せではあった。


 動物達は確かに俺の家族だった。


 そんなあたたかな日は、突然終わりを告げる。

 雪もすっかり溶けて、森が命の気配に満ちている。

 食料を探すため一人で森の中を歩いていた俺は、なんとなく嫌な感じがして住処の方を振り返った。



『ぐぉーっ!』



 音にするとそんな感じの聞いた事ない吠え声がして、俺は恐怖から立ち止まってしまった。

 吠え声に続き、仲間である動物達の逃げ惑う鳴き声が聞こえ、木が折れるような音が続いた。

「なんなんだよ」

 震える声で呟いた俺は、住処へと向かって駆け出した。

 行ってはいけないと本能は叫んでいたが、まだあそこには仲間がいるのだ。

 俺は何度か転びそうになりながら、住処にしている泉の側までたどり着いた。

 そこに広がっていたのはたくさんの血溜まりで、血溜まりの中には家族だった仲間の動物達の無惨な死体があり、その死体を見たことのない生き物が貪っていた。

 仲間の死に様に泣きながらも、俺は嗚咽を噛み殺して、敵である生き物を観察した。

 体型は森の中でたまに見る二足歩行達と似ている気はしたが、大きさは二倍ほどあり、肌の色は土のよう、口には牙が見える。顔つきも俺や二足歩行達と全然違う。

 何より目立ってる違いは、額辺りから生えている真っ直ぐな二本の角だ。

「おに、だ」

 突然、何故かそんな単語が俺の口からこぼれ落ちた。

 そのせいで気配を殺していたのに、『おに』に気付かれた。

 そうだ、あれは『おに』だ。

 逃げなければいけない。

 俺は本能に急き立てられように駆け出した。

 吠えた『おに』が追ってくる気配がある。

 捕まったら殺される。

 無惨な姿となった仲間達を思い出すが、復讐すら考える余裕もなかった。

 必死に駆け抜ける先に見えたのは、一人の二足歩行の姿だ。

 夜になる直前の空みたいな綺麗な色をした長い髪に、仲間のトカゲが溜め込んでいた綺麗な石みたいな──それより不思議な色をした綺麗な瞳。

 近くで向き直った二足歩行は、そんな綺麗な男の人だった。

 なんかどこかで見覚えがある人だ、と思ったり、やたらと色んな知識が次々と浮かぶが深く考える間もなく俺の背後で『鬼』の吠える声がした。

 俺を見ていた夕陽色の髪をした青年の瞳が、俺を見てやんわりと細められる。



「変わったお猿さんですねぇ」



 それが攻略対象者である彼との初対面だった。

 そこからまぁ一気に色々起きた。



 攻略対象である『彼』はこの時点でかなり強く、俺が『鬼』と心の中で呼んでいたオーガをあっという間に倒してくれた。

 追いかけられている間から前世の記憶は微妙に戻って来ていたようだったが、さすがに幼児の脳には容量オーバーだったのか、俺はオーガが倒れたと同時ぐらいに気を失ったようだ。

 目が覚めた時には、そこはもう森の奥ではなく何処かの建物の中で、俺はきちんと二足歩行達──人間の服を着させてもらっていた。

 幸いなのか思い出した前世の記憶は消えてはいないようだ。

「ぼうや、気がついたのかい?」

 体を起こして木と石で構成された室内を見渡して観察していると、部屋の扉が開いて世界名作的なアニメで見たことのあるワンピースみたいな服装の女性が入ってくる。

 前世では普通の日本人だった俺としては違和感しか感じないが、西洋人な見た目のこの金髪女性には似合ってると思う。

「……」

 口調に迷った俺は、ひとまず無言で頷いておく。

 某探偵漫画の眼鏡の少年のように、開き直って子供っぽく振る舞うべきか、素で行くべきか、それとも丁寧な感じで行くか。

「なにか食べられそうかい?」

 俺の悩みなど知る由もない女性は、心配そうな顔をして俺の頭を撫でてくれる。

「……はい」

 まあ丁寧な感じにすれば不快にはならないだろうと自己完結し、俺は無難な返事をして笑っておく。というか、かわいこぶった幼児な振る舞いは俺には無理だ。

 言葉を覚えといて良かったと今さらながら思う。

 俺には転生チートみたいなものは全く無いのだ、残念ながら。

 今まで森で生活していて、そんな気配は欠片もなかった。

「チートでもあればみんなを助けられたのかな」

 記憶の中より小さくなってしまった手を握ったり開いたりして、思わずそんなどうしょうもない事を呟く。

「みんなと言うのは、あの動物達の事ですか?」

「ふぇ!?」

 気配すらなく近寄って来ていた相手から声をかけられ、俺は思わずひっくり返った奇声を上げてしまう。

「変わった鳴き声ですね」

 そんな嫌味一歩手前なことを言って、いつの間にかベッドの側でぽやぽや笑っているのは、攻略対象であり俺を助けてくれたあの青年だ。

 改めてゆっくりと見た青年は、やっぱり綺麗だ。さすがと乙女ゲームの攻略対象だなとは思うが、未だに青年の名前は思い出せない。

「……助けてくれてありがとう」

「ついでですから、気にしないでいいですよ」

 謙虚とかではなく、青年は本当にそう思っているようだ。俺を見る目には、興味の一欠片すら浮いてない。

 さっきの質問も聞いてみただけらしい。

「俺……ジルヴァラっていいます」

 青年の名前を思い出せないので、俺の方から名乗ってみる。名乗れば名乗り返してくれるだろうという計算だ。

 ちなみにこの名前は目が覚めてから適当に考えたというか、前世の記憶の片隅にあった何処かの国の言葉で銀って意味の単語を引っ張り出したものだ。

 口に出してみたら意外といい響きで良かった。

 シロガネとの二択だったが、和の言葉はなんか浮きそうなので止めておいた。

「そうですか。オーガをあの森で見たのは初めてでしたか?」

 うん、これは名乗り返してくれる気はないらしい。

「はじめて、だと。突然やって来て……あなたが来てくれなければ俺も死んでました」

 ぽやぽや笑ってるだけで底の見えない相手に少し怖くなって、こちらの質問だけはきちんと答えておく。

「初めてですか。見たところ君は五・六歳のようですし、今回は何か突発的な発生だったのでしょう」

 ふむと悩む青年を、俺はベッドの上に半身を起こしたまま見つめておく。彼の見立てが確かなら、俺の年齢はそれぐらいなんだろう。

 乙女ゲームの世界と俺は思ったが、それはこの目の前の青年が攻略対象だった事を思い出したからで、どんな世界観でどんなストーリーだったかはほとんど覚えていない。

 自分が主要キャラでないことだけは、しっかりとわかっているが。

 俺みたいな狼に育てられた少年みたいな設定のキャラがいたら、さすがに覚えてるだろうし、銀の目だってかなり特徴的だ。こんな濃い設定のキャラなら、なかなか忘れないと思う。

 主要キャラなのかモブなのかは置いといて、もっと乙女ゲームの記憶があれば、この青年の名前を呼んだり、存在するであろう闇を気付いてあげて、などとフラグを建てられそうだが俺には無理そうだ。

「あの、お名前を……」

「名乗るほどの者ではありません」

 取り付く島もないようだし。

 俺の問いかけは、ぽやぽやと笑って流されてしまい、青年はそのまま立ち去ってしまった。

「時代劇みたいな台詞だ」

 まさかリアルで聞くことになるとは、と地味な感動を覚えていた俺だが、すぐに気分は落ち込んでいく。

 青年と話してる間に、先程の女性が戻って来て、ベッドの脇のテーブルに食事を置いていってくれてはあったが、あまり食欲は無い。

「もうあそこには戻れないよな」

 いつまたあのオーガのような恐ろしい『モンスター』が現れるかもわからないし、生き残った仲間達がいたとしても帰って来ないだろう。

 俺と暮らしていた動物達とは違い、魔力というファンタジーな能力と体内に魔石という謎物質を持つ生物──それがモンスターだ。

 そりゃ動物にも肉食動物はいるし、凶暴なのもいるがモンスターは核が……格が違う。

「冒険者になる、とか……」

 まず最初に思いついたのは、俺のおぼろげな乙女ゲームの記憶にもあった、この乙女ゲームの主役である『ヒロイン』が通る道である冒険者だ。

 乙女ゲームの主役にしては珍しく武闘派なヒロインで、家が貧乏だから冒険者をして金を稼ぐ、というとんでも設定なゲームだった……気がする。

 男のくせに、と言われてしまうので、こっそりだが、かなり楽しんでプレイしていたはずなのに、あまり記憶には残っていない。

 そもそも前世の記憶自体が薄いのだから、プレイしていたゲームの記憶なんて薄いのは当然かもしれない。

「……天涯孤独だよな、当然」

 物心つく前の記憶は物理的にある訳ないので、何故森の中に一人でいたかもわからないが、たぶんというか恐らくというか、十中八九親に捨てられたんだろう。

 黒い髪のせいか、銀の目のせいか。それとも両方か。

 今まで会ったり、見かけた人の中に、俺のような真っ黒い髪の持ち主はおらず、銀の目なんて人も見かけなかった。

「悪目立ちしたくないな」

 動物に育てられて森の中にいた、という時点でかなり悪目立ちな気もしないでもないが。

「……腹が減っては戦はできぬ」

 色々考えることが多くて頭は痛い。

 しかし、どう動くにしても体力は必要だろう。少しでも食べておかないとと食べ始めたスープは、冷めていても美味しかった。

 久しぶりに調理された物を食べ、俺は懐かしさから自然と涙を流していたようだ。

 泣きながら料理を食べている姿を、様子を見に来てくれた金髪女性──メイナさんに見られてしまい、何かとても同情されてしまった。

 死んだ時の記憶があまり鮮明でないせいか、正直そこまで悲愴感は無いんだが。騙しているようで心苦しい。

 泣いていたのも死んでいった仲間の動物を想って、とかじゃないし。すっかり弱肉強食の世界に慣れたせいか、寂しくはあるが悲しみは少なく、死の恐怖だけが残っていて身を竦ませる……気がする。

「ジルぼうや、ご飯は足りたかい?」

 完全に子供扱い……いや、子供なんだから仕方ないか。

 メイナさんの名前を知っていたのは、異世界転生あるあるなステータス見れたとかではなく、俺が自己紹介したら普通に名乗ってくれた。

 この世界では名乗り合わないのがスタンダードなのかと思いかけたが、違うかもしれない。どちらが少数派なのかはまだ決められないが。

「はい……それで、あの俺を助けてくれた人は?」

 メイナさんから彼のことを聞けばいい、と思って訊ねてみたが、返ってきたのは困ったような笑顔だ。

「とてもお強い冒険者さんらしいけど、恐ろしい方だと聞いてるから、あまり近寄らないでおくんだよ? 今回は森の方が騒がしいと、たまたま近くにいたあの方が来てくれたみたいだけど、普段はこんな辺鄙な村へ呼べるような方ではないとかなんとか話してたのは聞こえたよ」

「お名前はわかりますか?」

「他の冒険者さん達には幻日(げんじつ)様とか呼ばれていたねえ」

 どうやら俺にだけでなく、他の人にもあんな感じなのかと少しホッとした自分に気付き、俺は何となく胸元に触れる。

 乙女ゲームの攻略対象とか関係なく、俺はあの青年が気になっていた。

 メイナさんが部屋の明かりを消して去っていった後、俺はベッドの中で天井を見つめて決意する。

「……頼んでみよう」

 今の俺はどうせ行き場のない身だ。なら好きに生きたって構わないということだ。

 ずっとメイナさんにお宅で世話になる訳にもいかない。

 今のこのベッドは、俺の住んでいた森の近くにある村にあるメイナさんちの客間のベッドだそうだ。

 小さな村らしく、病院とか宿屋は無いので、幻日様と呼ばれている青年と他の冒険者達は村長の家へ泊まっているそうだ。

 彼らが村を離れるのは二日後の予定。

 その間に、冒険者達と接点を持ち、連れて行ってもらえるよう交渉する。

 明日からの行動を決めた俺は、明日に備えて目を閉じるのだった。

 朝ごはんを食べ終えた俺は、お盆に空になった食器を乗せてキッチンへ向かったのだが、思いの外幼児な体は安定せず、物を持つとよたよたしてしまった。

 それでも何とか無事にキッチンへたどり着き、掃除中らしいメイナさんへ声をかける。

「メイナさん、ごちそうさまでした」

 俺に気付いたメイナさんは、あらあら、と笑いながら、俺の手からお盆を受け取って頭を撫でてくれた。

「ありがとう、ジルぼうや。おばさんが取りに行くから無理しなくてもいいんだよ?」

「これぐらいはさせてく……させてよ」

 そんなに丁寧な口調じゃなくていい、と言われたので、少し前から意識して心もち子供っぽく崩してみている。

 どうでもいいことだが、メイナさんは自分をおばさんとか言うが、前世の記憶のある俺からすればちょっと年上のお姉さんにしか見えない。

 目立つ美人ではないが、近所の男性陣のアイドルになってそう。優しい笑顔が素敵だ。

「ジルぼうやの髪は黒くて綺麗だけど、長くて邪魔だろうし、少し切るかい?」

「お願い、メイナさん」

「はいよ、これを片付けるから少し待ってな」

「俺、手伝うよ?」

「いいからいいから、すぐ終わるからね」

 座って待ってな、と言われてしまったので、俺はおとなしく示された木製の椅子へよじ登って何とか座る。

 足がぶらぶらして落ち着かない。

 足をバタバタさせていると、メイナさんがやって来て、あらまあとまた笑われる。

「こら、おとなしくなさい」

「はぁい」

 笑い声混じりにやんわりと注意されて、髪の毛が入らないようにと、首周りにタオルが巻かれる。少しゴワゴワしてて、なかなか俺好みのタオルだ。

「じっとしてるんだよ?」

 俺の耳元で鋏をジャキジャキいわせて、メイナさんが真剣な顔で俺の頭を押さえてくる。

 逃げはしないのでペットみたいな拘束は止めて欲しいが、下手に動くと耳を切られそうで怖くて動けない。

 しかも、メイナさんが使っているのは、明らかに髪切り用ではなく、裁ち鋏と呼ばれるタイプの大きめな鋏だ。

 前髪越しに顔の前でジャキジャキと動く刃を眺めていると、スッキリとした視界の中に驚いた顔をしたメイナさんが見える。

「可愛らしい子だとは思ってたけど、目を見せたらもっと可愛いくなったもんだ」

「そうかな? ありがとう、メイナさん! 前が見やすくなった!」

 後頭部の方も短くしてくれたらしく、床には結構な量の黒い髪が広がっている。

「掃除する!」

「ありがとう。なら箒とちりとりを持ってきてもらえるかい」

「はい!」

 メイナさんが目線で示してくれた方向に壁へ立て掛けられた箒とちりとりを見つけると、俺は首周りのタオルを髪を散らさないよう気を付けて外し、ぴょんっと椅子から飛び降りる。

 前世の記憶では、これは土間箒とか呼ばれてたか、とどうでもいい記憶を呼び起こしながら、今の俺の背丈より長い箒とブリキ……みたいに見える金属で出来たちりとりを何とかメイナさんの元へと運ぶ。

「メイナさん、どうぞ」

「ありがとう、ジルぼうや」

「外行ってみてもいい?」

「あまり遠くに行くんじゃないよ?」

「うん!」

 心配そうなメイナさんの声に送り出され、俺は初めて建物の外へと足を踏み出した。

 服も靴もメイナさんが用意してくれた物を着たり履いたりしてるので服装で目立たないはずだが、たまにすれ違う村人達からは探るような視線がグサグサ刺さってくる。

 村人達が着てるのも俺が着てるのも、、某有名RPGゲームの布の服に似た、まさに布の服って感じのシンプルなものだ。

 靴は革製。たぶん。鑑定とかチートあればわかるんだろうけど、わかったからなんだよ、ってなるわな、靴の素材なんて。

 町並み……ではなく村並みは、メイナさんのお宅と似たりよったりな見た目の、木と石で出来た建物が並んでいる。

 俺の向かう道の先にある小高い場所、気持ち立派なのが村長の家だろう。

 当初の予定通り、そちらへと真っ直ぐ向かう。

 たどり着いた村長宅に門番なんてセキュリティは存在せず、そもそもちゃんとした門はなんてなく、かろうじて木組みの柵があるぐらいだ。

 今の俺ぐらいの高さな柵の隙間から中を覗くと、庭には二羽ニワトリ……ではなく、あの夕陽色の髪をした青年が、他の冒険者達と一緒にいた。

 彼らの足元には、解体されたオーガらしきものが転がっている。

「幻日様、さすがですね。オーガを一撃とは」

「我々にはとても出来ない芸当です」

「幻日様がいてくださって、助かりましたわ」

 口々に青年を誉める冒険者達は、三人組パーティーなのか、男二人に女一人の俺的には揉めそうだなーと思うようなメンバー構成だ。

 茶色の髪の剣士っぽいがっしりした男の人に、弓矢を背負った金髪の細身の男の人、それとファンタジー感満載な黒いローブを着た紫髪の色っぽい女の人だ。

 これがゲームなら『回復役がいない』と論争になりそうだが、ここは現実だから回復魔法とかレアなのかもしれない。

 ゲームの時はどうだったかと思い出そうとするが、浮かんできたのは追加コンテンツだったヒロインのネタ装備のビキニアーマー姿だ。

 魅了効果とか期待して追加コンテンツを買った俺は、ただヒロインの見た目が変わって、攻略対象から特別な台詞が聞けるというだけの効果にガッカリした覚えがある。何でこんなことはすぐ思い出せるんだろう。

「あれは、いらなかった」

 思わず口に出してしまい、庭にいた四人の目が一気に俺へ集中する。

 正確には、あの『幻日様』と呼ばれる夕陽色の人以外の視線だが。

 もともと彼には気付かれていたようで、今もちらりと俺を見ただけで、視線はオーガの死体へ戻されている。

「あら、この村の子かしら?」

「いや、黒い髪……もしかしたら、オーガに襲われていた子供じゃないか?」

「銀の目とは珍しいですね」

 柵の側まで寄ってきてくれた冒険者達は、身を屈めて俺と目線を合わせてから、話しかけてくれる。いい人達だ。

「昨日は助けてくれて、ありがとう。俺は、ジルヴァラっていいます、冒険者さん」

 ちょっと人見知りだけど人懐こい子なイメージで、へらっと笑って頭を下げる。

 あくまで俺の脳内イメージなんで、実際はどう見えるのかは知らない。

 そもそもこの世界に転生してから一緒にいたの、もふもふもふだけだから。

 会話も言葉覚えたって独り言状態だった訳だし。対人間会話経験値、ほとんどゼロだ。

「無事で良かったな、ジルヴァラ」

「何故あんなところにいたんですか?」

「本当にそれよ。ビックリしたわ」

 剣士のお兄さんはソルドさん、弓使いのお兄さんはアーチェさん、魔法使いのお姉さんはソーサラさん。

 三人もきちんと名乗ってくれたので、どうやら夕陽色の人が名乗りたくないだけのようだ。または、名乗れない事情があるのかもしれない。

 また一つ気になることが増えた。それはさておき、

「えぇと、俺捨て子で、森で暮らしてて、オーガに見つかって逃げてたら、あの人に会ったんだ」

 口調に迷いながら話したら、少しぶっきらぼうな感じになったが、基本的にいい人達なソルドさん達は気にしていない。

 それどころか、三方向から全力で構われて、若干ヨレヨレだ。

「あのさ、頼みがあるんだけど」

「なんだ?」

 すぐ反応してくれたのは、リーダーだというソルドさんだ。

「俺、捨て子だって言ったろ? 森にも帰れないし、ソルドさん達みたいな冒険者になりたいんだ」

 そこまで言って、俺ははたと気付く。

 いくらなんでも、連れて行ってくれなんて、迷惑でしかないだろう。

 中身はどうであれ、今の俺はただの六歳児だ。

「……どうすればなれるのか、と思って」

 誤魔化すようにへらりと笑うと、困ったような顔をしたソルドさんからガシガシと頭を撫でられる。

「ここにいれば安全に暮らせるぞ? それでも冒険者になりたいのか?」

「なりたい……連れて行ってくれるの!?」

 子供の言葉だと馬鹿にしたりせず、俺の肩を掴んで真摯な言葉を紡ぐソルドさんに対し、メンバーであるアーチェさんは渋い表情になる。

「そんな幼い子供を連れて行く気ですか?」

「それに帰り道はあたし達だけじゃないのよ? いくら可愛くても持ち帰るのはちょっと問題があるわ」

 ソーサラさんも俺を連れて行くのは反対なのか、というかそもそもその発言が若干こわい。

 俺が落ち着かずキョロキョロしていると、夕陽色の人が宝石みたいな瞳でいつの間にかこちらを見て、相変わらずぽやぽや笑っている。

「私のことを気にしているなら、別に気にしないです。森の中を一人で生きてたのですから、自分の身ぐらいは守れるでしょう」

 穏やかで乱れない言葉は、俺を連れて行くことに援護射撃してくれているように聞こえたが、俺を見る瞳には何の興味も浮いていない。

 心配も同情も嫌悪も何も。

 それでも、俺はそこに乗っからせてもらう。

 これは世にいう一目惚れに近いものかもしれない。

 あの森の中で出会って助けられた瞬間から。

「お願いします! 足手まといにはならないよう、しますから!」

 否定される前に言い切った俺は、ペコッと大きく頭を下げた。

 アーチェさんはまだ何か言いたげだったが、リーダーの決定というか夕陽色の人には逆らえないようだ。

 ぽやぽや笑っていて底が見えないような気がするけれど、たぶんとてもわかりにくく根っこは優しい人だ。

 さっきの言い方なら、あの時オーガに追われていた俺を助けない選択だって普通に出来ただろうに。

 でも実際は助けてくれた。

 薄っすらだけど、抱き上げてくれた腕の力強さと温かさを俺は覚えている。

 それとさっき気付いたけど、この人は『幻日様』という呼び名を嫌ってる。そんな感じがした。なんとなくだけど。

「……なんて呼んだらいい?」

 だから卑怯な俺は無邪気な子供のふりをして、夕陽色の人の服の裾を引っ張って首を傾げる。

 背後でソーサラさんから何だか残念な鳴き声が聞こえた気がするのは気のせいだろう。

「お好きにどうぞ?」

 なかなか手強い相手に、俺はへらっと笑って頷くと、夕陽色の美しい人に似合う呼び方を考えるのだった。

 乙女ゲーム世界である必要性が、とか一瞬考えてしまいましたが、後々続きを書いていれば、何処かでヒロインという素晴らしいざまぁ要員が出せるな、と思って乙女ゲーム世界設定のまま行きました。

 でもヒロインは出てくる予定はありません←


 読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ