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スタートライン

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「ガルフ今日から僕も戦いたい。」


「ダメだ。いくら魔力操作が出来るようになったからと言ってそんな危険なことさせられん。」


「そんなに無理はしないしガルフの近くでやるからダメ?」


「遊びじゃないんだ、最悪死ぬぞ?」


「死なないように今から戦って強くなりたい。」


 予想していたがやはり認めてくれないらしい。が、早い段階から先頭の経験を積んでおきたいため意地でも食い下がる。この後もずっと森の外側で狩りをし続けるかは分からないしもしかしたら深くまで行くように命令されるかもしれない。


 そうなった場合自分で戦う術が無いとガルフがやられたとき確実に俺も死ぬ。それにガルフには死んでほしくないしなるべく負担も減らしてあげたい。だからここで引くことは出来ない。


 ガルフは俺を見てやめさせようと説得するがその度に戦いたいと言うともう言い聞かせるのは無理だと判断したのだろうか危ないと思ったらすぐ逃げる、ガルフが勝てそうだと思った魔獣のみ戦っていいという条件のもと渋々許可してくれた。


「ありがと、ガルフ。僕頑張る。」


「ホントはさせたくないんだけどな。無理だけはすんな、やばいと思ったらすぐ逃げろ。いいな?」


「分かってる。」


「ならいい、それじゃ俺らも行くか。」


 森に入りガルフの後ろをついていく。昨日とは違う種類の緊張感で心臓が破裂しそうだ。一応魔獣を殺したがあれは偶然身動きが取れないやつを一方的に刺しただけ。今日から相手にするのは全力でこちらを倒しに来るし、こちらの攻撃を避けたり命の危険を感じたら逃げたりする。


 ガルフや他の大人なら狩りとして扱うだろうが今の俺からしてみれば魔獣との殺し合いだ。一撃もらえば致命傷になりかねないし命を落とすかもしれない。..そう考えたらもうちょっとガルフに任せた方がよかったんじゃね?


 ほんの少しの後悔を感じたがこれも生き残るためだと心の中で言い聞かせながら歩いているとガルフが足を止めたのでそれを見て同じように立ち止まる。


「ホルノラビットだ。クロいけるか?」


 少し先にホルノラビットがいるのが見える。どうやら草を食べているところらしい。多少距離が空いているおかげかまだこちらには気づいていない様子だ。まだ恐怖は拭えないが行くしかない。大丈夫最悪ガルフに任せればいい。大きく深呼吸をしてからこちらを見るガルフを見返す。


「うん、いってくる。」


「無理はすんなよ」


「わかってる。」


 身体強化した身体でばれないよう草むらの陰に身をひそめながらゆっくりと近づく。やるなら一撃で仕留めたいな,,,ホルノラビットととの距離を詰めながらどうやって攻撃するかを考える。


 木の陰から飛び出して首か頭にナイフを刺せればベストなんだけどな..いや挑戦してみよう。なるべく音を立てないようにホルノラビットと一番近い木まで近づく。...よしいくか。


 ナイフを右手に持ち、勢いよく飛び出し頭付近めがけてナイフを突き刺そうとする。しかし俺に気づいたホルノラビットはその場を跳躍してナイフを躱す。その後俺を見てホルノラビットは逃げるという選択肢をとらずに戦うという選択肢をとったらしくこちらを向き戦闘態勢に入る。


 まぁ弱そうな子供が襲ってきたら普通にやり返そうと思いますよね。相手から目をそらさず次の行動を考えているとホルノラビットがこちらに向かって突進してくる。俺は横にステップしその攻撃を回避する。


 相手の動きが素早いせいで攻撃が当たりそうになく、下手に攻撃したら手痛い反撃を貰いかねないため防戦一方の状態になる。


 どうしようかなぁ...


 相手の攻撃を避けながら打開策を考えていると1つの考えが思いつく。今までの攻撃を見ているとホルノラビットは突進による攻撃しかしていない。であればその突進を避けると同時に相手の体を抑えて動きを封じればよいのでは?成功するかは分からないが試す価値はありそうだ。右手に持っているナイフを強く握り直す。...ここ!


 自分に向かってくるホルノラビットの攻撃を最小限の動きで避け左腕で抱えるようにして相手の動きを止めそのまま間髪入れずにナイフを首辺りにに突き刺した。すると自分の腕の中にいるホルノラビットの力が全て抜け落ち、生物からウサギの形を成している物体へと変貌した。


 俺は殺したホルノラビットを抱えるようにしその場に座り込む。昨日も殺しはしたが今日のそれは昨日のとは段違いで命を奪ったのだという実感を与え、自分が抱えているピクリとも動かない物の感触が自分の頭、体そして心全てに浸透していくの感じる。


 やはり一度の経験だけでは慣れることは出来なかったらしい。俺は目の前の死体を見て自分が一人で倒した、ホルノラビットに勝ったなどという達成感や優越感とは真逆の巨大な気持ち悪さを感じ、吐き気に襲われる。口を手で覆いなんとか吐かないように必死にこらえる。ここで吐いたらこの後も続く自らの行いに耐えられなくなりそうだから。


 しばらくすると背後から足音が聞こえてくる。その音が大きくなり俺のすぐ後ろで止まる。


「よくやったな、クロ。」


 そう短く言い残し俺の頭を乱暴に撫でる。今はその乱暴さが少し心地よかった。


「うん、やったよ。ガルフ。」


「それでだ、クロ。お前はこれからも続けられるか?」


 ガルフは俺の正面に回り真剣なまなざしで問いかける。..正直に言ってしまえばやめたいという思いが強い。自分の命を懸けて戦うのも必死に生きている命を奪うのも。


 でもガルフに全て任せて現実から逃げるのは嫌だ。一人になったとき何もできずに死んでいくのが嫌だ。自ら望んだことなのにそれから逃げるのは嫌だ。だからここで負けてなんかいられない。ここで続けない選択肢をとってしまえばこの世界を生き残ることは難しくなる。だから俺は


「続けるよ、これからも。」


 真っ直ぐにガルフを見つめ返す。お互いに目をそらさないまま沈黙が続く。過ぎた時間は数秒だがそれよりもはるかに長い時間に感じられた。そしてその沈黙を破るようにガルフがため息をつく。


「この先もっと辛くなるだろうがいいんだな?」


「もちろんだよ、ガルフ。」


「そうか…お前が腹くくったんなら俺もそうしないとな。クロ、改めてよろしくな。これからはしっかり働いてもらうから覚悟しとけよ。」


「お、お手柔らかに。」


 ガルフが俺を力のない可哀そうな子供として扱わなくなったような気がした。その期待に応えられるかどうかは分からないけどやれるだけのことはやろう。


「まずはそいつ解体すっか。手伝いはするがお前主導でやってもらうかな。」


「分かった、任せて。」


 抱えていたホルノラビットを地面に置き解体作業を始める。他の人から見たらたかだかホルノラビット如きで、なんて思うかもしれない。けれど俺にはこれからやってくる希望とそれを覆う大きな絶望が入り混じった未来に立ち向かうための大きな1歩のように感じられた。

この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。

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